第148話

 自分の部屋に戻って、早速授業の取り方について説明した資料とやらに目を通す。


 なるほど……。


「わからん」


 いや、わかるよ?


 わかるけど、わからないというか……。


 これね。


 基本は選択式。


 一日最大5コマ。


 それが5日間あって、一週間で最大25コマの授業が取れるんだ。


 ちなみに、このLIAの世界も週休二日制らしく週の頭と終わりは休みみたい。


 で、その25コマの時間割の中には、必修って授業があって、それはクラス全員が一緒になって受けるんだって。


 でも、その必修授業はクラスのランクによって、違ってくるみたい。


 例えば、Gクラスでは『やさしい世界地理』って書いてあるけど、同じ時間にAクラスでは『高度世界地理』という授業をやるらしい。


 つまり、クラスのランクが高いほど、より高度な授業が必修で受けられるというわけだ。


 勿論、その高度な授業が受けたいなら、選択して取ることもできる。


 その場合には、届け出を書いて提出することが必要なので若干手間がかかるわけだけど……。


「なんでヴァッキー先生は、私が感謝するみたいなことを言ったのかな? もしかして、私が全ての座学を一番簡単なレベルで受けるとでも思ってるの?」


 それだと、履修変更届の紙を書いて出す手間が減るからね。


 だから、感謝することになる……と、そうヴァッキー先生は言いたかったに違いない。


「ふっ、なめられたものね……」


 私は履修変更届の紙を資料の中から探し出すと――。


 外国語と古代文学だけ中級に変更することにする!


「スキルを持ってるこの二つだけは、普通難易度を選択するよ!」


 え?


 他の授業の難易度は上げないのかって?


 ははは。


 感謝してます! ヴァッキー先生!


 ■□■


 学園生活1日目。


 プリントの間に挟まってた地図を片手に、まずはGクラスの教室を目指す。


 今日は、そこでホームルームをやってから、必修の授業を受けつつ、興味のある選択授業に顔を出すって感じでやっていきたいと思ってる。


 なお、現在の私の授業プランはこんな感じだ。


【月曜】

 ①古代文学(必修)

 ②やさしい魔術理論(必修)

 ③外国語(必修)

 ④

 ⑤


【火曜】

 ①やさしいモンスター学(必修)

 ②やさしい数術(必修)

 ③

 ④やさしい国際経済学(必修)

 ⑤


【水曜】

 ①やさしい魔物族の歴史(必修)

 ②やさしい魔王国地理(必修)

 ③

 ④

 ⑤


【木曜】

 ①やさしい世界地理(必修)

 ②初級魔術訓練(必修)

 ③初級魔術訓練(必修)

 ④

 ⑤


【金曜】

 ①初級武術訓練(必修)

 ②初級武術訓練(必修)

 ③

 ④

 ⑤


 空いてるところは、選択授業ね。


 選択授業は取っても取らなくてもいいらしいよ?


 まぁ、何を取るかは、ある程度目星はつけてるけど、火曜日の二限目と四限目は必修なだけに、火曜の三限目には確実に授業を入れたいかな?


 だって、なんかいちいち一時間も空き時間ができてもねぇ。手持ち無沙汰というか……。


「お、俺! エギルさんと魔道写真が撮れて感動です! これ、一生ものの家宝にします!」

「わ、私も! これからも頑張って下さい!」


 私が考えながら歩いてたら、廊下の中央にわりと人が集まってる。


 どうやら、新しくできた観光スポットも盛況みたいだ。


 …………。


 なんか、ものすごい殺気を浴びてる気がするんだけど、気のせいかな?


 そんなことを考えながら、私はGクラスの教室へと急ぐのであった。


 ■□■


「ここだ」


 ――Gクラスの教室に辿り着いた。


 そして、ガラリと扉を開け放ってから、あっ、と思う。


 あれ? これ、先生と一緒に教室に入って、転校生として紹介される流れを完全にすっ飛ばしてない?


 …………。


 まぁ、いいや。


 中はまだホームルームには早い時間なのか、ほとんど人がいない。


 教室の中は正面に黒板があり、奥にいくほどに高くなってる大学の講義室みたいな構造をしている。


 ……いや、大学行ったことないけど。


 まぁ、漫画とかでは見たことあるから、多分合ってるとは思うよ。


 ……で、だ。


 この講義室!


 適当に座っていいのか、それとも席が決められてるのか、よくわからない!


 うん。


 わからないので、一番前の席にいたツインテールの女の子に話しかけてみることにするよ。


「すみません」

「ひゃ、ひゃい!」


 飛びあがるほどにびっくりして、顔を見る間に紅潮させていく少女。


 見てるこっちが緊張するぐらいに、わかりやすくアガッてらっしゃる。


「ヘイ! リラ~ックス、リラ~ックス!」

「ひゃ、ひゃい!」


 アカン。


 少女がリラックスする気配がまるでない。


 とりあえず、声色だけでも優しくしつつ尋ねてみようかな?


「ここの席って、自由に座っていいの?」

「は、はひ! そのはず……です」


 でも、なんか目がめちゃくちゃ泳いでる。


 というか、はずって何?


 何かあるのかな?


「もしかして、大体座るとこが決まってたりする?」


 コクコクコク!


 ものすごい早さで首を上下に振られた。


 なるほど。


 基本は自由なんだけど、どうも縄張りみたいなのがあるのかな?


 別に学園にまできて、わざわざ波風立てようとも思ってないし、目立たないように過ごしたいし、その縄張りへ土足でずかずか入り込む気はないんだよね。


 どこか適当な席とかあったりしないかな?


「どこなら座っていいとかある?」

「えとえと……」


 少女は教室の中を慌てて見回すが、すぐに涙目になる。


「いつも前に座ってるので、よくわからないです……」

「一人で?」


 コクコクコク!


 ものすごい早さで首を上下に振られる。


 友達いないのかな?


「じゃあ、私が隣に座ってもいい?」

「ら、らめれすぅ……」


 拒否られた。


 そんなこと言われると思ってなかっただけに、軽くショックだ。


「いや、ちがっ、その、そうじゃなくて……」

「?」

「わた、私、あが、あがり症で、そのっ、近くに人いますとぅ……、そのぅ……」


 うん、わかった。


「じゃあ、横に座るね」

「ふぇぇぇっ!?」

「そのあがり症、治したくないわけじゃないんでしょ?」

「そ、そ、そ、そうれすけろぉ……」

「だったら、まずは隣に人がいるところから慣れていけばいいんじゃない?」

「ふにゃぁ……」


 それは、オッケーって意味の言葉かな?


 うん、オッケーって意味の言葉にしちゃおう。


 というわけで、女の子の隣に座る。


「私は、ヤマモトっていうんだけど、あなたは?」

「にゃ、にゃまえ!? は、ハードルが、た、高すぎますぅ……!」


 うん。膝下よりも低いハードルを高いとは言わないと思うんだ。


 ニコニコ笑って……私が笑ってるのは彼女には知覚できないかもしれないけど……彼女の言葉を待つ。


「ゅ、ユフィでしゅぅ……」

「ユフィちゃんだね。よろしく」

「ょろしぃくぅ……」


 さっきから会話してるだけなのに、頭から煙を出してまでアガッてるのは……これ、ホントに治るのかな?


 うーん。慣れてくれたらいいなぁ。


「おい、愚図! なに仲良く喋ってやがるんだぁ!」

「ひっ!? あ、アルバ……くん……」

「アルバレート様だろぉがよぉ!」

「ひぃぃいっ!?」


 私がユフィちゃんとコミュニケーションをとってたら、教室の扉を開けてズカズカと入ってきたターバンを巻いた男の子がユフィちゃんの前に来て立ち止まる。


 友達……って感じじゃないね?


 御主人様と奴隷って感じ?


「ユフィちゃん、彼はどなた? なんかエラそうなんだけど?」

「あぁ!? テメェこそナニモンだよ! 俺をフィザの領主の息子だとわかって口きいてんのかよ! アァ!?」

「私は……」


 四天王のヤマモトだけど、そっちこそ何様? と言いかけて、思わず口を噤む。


「ぁわわわ……」


 ここで、四天王の身分を明かしちゃうと、多分、ユフィちゃんが今以上に萎縮しちゃって、口も聞いてもらえなくなりそう……。


 それは、困る。


 なにが困るって、さっき教室に入った時にちらっと見えたんだけど、ユフィちゃんの教材にびっしりと書き込みがしてあったんだよね。


 ほら、教科書に落書きじゃない書き込みをしっかりしてる人って、何か頭の良いイメージがあるじゃない?(偏見)


 だから、私がわからないところとかがあったら、教えてもらえないかなーと思って、ユフィちゃんに声をかけたんだ。


 けど、ここで身分を明かしたら、一瞬で計画が御破算になる可能性があるんだよね……。


 だから、ここは怖い人、危ない人じゃないことをアピールしないと!


「ヤマモトだよ。今日からこのクラスに転入してきたんだ。よろしくねー」

「チッ、領地持ちでもねぇのかよ……」

「アルバレートくん、ちょっと……」


 アルバレートと一緒に教室に入ってきた取り巻きの一人が、ゴニョゴニョとなにやら耳打ちをしてるね。


 そして、その耳打ちが終わるなり、アルバレートくんが薄気味悪い笑いを浮かべる。


 ……なんだろ?


「なるほどぉ、そうかぁ……。テメェが例の残念貴族か!」


 残念貴族?


 まぁ、魔王国に全く貢献する気がないから、魔王からすれば残念な貴族かもしれないね。


「誰もが開拓できない悪魔の土地、暗黒の森を拝領されたってことは、つまりそういうことだろ? 魔王様に全く期待されてない……残念な貴族だってことだ!」


 うん。


 あの土地をわざわざ希望したのは、私だからね。


 魔王はむしろ「そこでいいの?」って立場だったかな?


 だから、魔王の期待とかそういうのとは全くの無関係なんだけど……。


 私が暗黒の森を領地としてるという情報が、いつの間にか拡散された結果、私は残念貴族という烙印を押されてしまったようだ。


 まぁ、実際、違う意味で残念な貴族なんだけどね!


「はっはっはっ! 愚図に残念とはお似合いのコンビじゃねぇか!」

「え? ありがとう?」

「褒めてねぇよ! ……調子狂うな。とにかく、雑魚は雑魚らしく大人しくしてろよ! 俺らはさっさと上に行くんだからよぉ!」


 そう言って、アルバレートくんと取り巻きの人たちは教室の後ろの席へと行ってしまった。


 上へ行く? 


 どういうこと?


 物理的には上に行ったけど、そういうことじゃないよね?


「ねぇねぇ、ユフィちゃん」

「ひゃ、ひゃい!?」


 うん、まだ慣れないみたいだね。


 道程は遠そうだぁ。


「上に行くって何?」

「えっと、それは、その、でしゅね、が、学期末に……あるんでしゅ……」

「クラス替えのテストみたいのがあったりするってこと?」


 コクコクコク!


 なるほど。下剋上みたいなものもあるんだね。


 必要事項には、さっと目を通しただけなんだけど、確かにそんな記述があったような気がする……。


 別に上がるつもりがなかったから、普通にスルーしてたけど、普通はそれを目指すものなのかな?


 ついでにユフィちゃんと仲良くなるために、学園のことを色々と質問してみる。


 ユフィちゃんは、つっかえながらだけど律儀に答えてくれたよ。


 学園での学習期間は全部で一年間で、夏季休暇と冬季休暇を挟んで三学期があり、学期末のテストでクラス替えされるんだってさ。


 で、現在は一学期目の中盤くらいなんだって。


 ここから、授業に追いつくのは難しいかもしれないけど頑張って、ってユフィちゃんに励まされちゃったよ。


 でも、話してみてわかった。


 ユフィちゃんは極度のあがり症だけど、決して頭が悪いわけじゃない。


 むしろ、良い方だと思う。


 なのに、なんで、こんな落ちこぼれクラスにいるのかな? 結構謎だ。

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