第147話
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【
転入試験が終わり、職員の人に案内されたのは個室の部屋であった。
私以外の三人も個室の部屋を割り当てられていたので、この学園は生徒一人一人に個室が割り当てられてるのかもしれないね。
ちなみに、その個室があるのは学生寮みたいな施設ではなく、普通に学園塔の一部であり、そこの空き部屋のひとつを割り当てられたということらしい。
中は3LDKの間取りで、なんか妙に広い。
そして、家具も何もなくて殺風景だ。
とりあえず、寝袋は【収納】に入っているので、寝具を慌てて買いに行く必要はないかな?
さて、あまりにも何もなさすぎて、何から取り揃えっていったものか悩んでたら、廊下が妙に騒がしい。
なにごと?
と思って部屋から顔を出したら……うわっ。
高級そうな家具を持った屈強な男たちが、廊下で大名行列を作ってるよ!
そして、その運び先は、さっきまで一緒だった転入生たちの部屋みたい。
あー。なるほど。
普通は転入に備えて、必要な物はあらかじめ用意しといて、こんな感じで運び込むんだね。
いや、でも、【収納】にしまって運び込んだ方が効率的じゃない? なんで、こんな見せびらかすような運び方をしてるんだろ?
そう思ってたら、廊下の真ん中で例の三人が顔を突き合わせていた。
運んでる人の邪魔じゃない?
「へぇ、ツルヒ様は家具は黒壇のもので取り揃えておられるのですね。ですが、それだと内装が少々地味では?」
「黒壇の家具や調度品はノワール領の特産品だ。茶会に招待した際に目につくところに良い物を配置するのは当然の配慮だろう」
「そりゃわかるがよー! 黒ばっかじゃ地味だっつってんだ! 俺様の運び入れた家具を見てみろや! クリムゾン社製の最新家具一式だぜ! 中でも、この黄金のベッドなんか寝心地も見た目も最高だろうが!」
「ヴァーミリオン家の小倅の言う事にも一理ありますが、あなたが持ち込んだ調度品には総じて品がない。ピカピカ、ピカピカ光ってばかりで、目によろしくありませんよ……」
「ワハハハ! なんじゃそりゃ! 負け惜しみかぁ!」
「フッ、これだから物事の価値を金にしか見出だせない者は……」
「なんだとっ!」
「私の運び入れてる家具や調度品は全てが一流の職人に作らせたオーダーメイド品。そのへんの市販の成金趣味の家具や調度品とは値段の桁が違うんですよ! どうです、この仕上がり、最高でしょう?」
「ぐっ! 確かに良い品だ……!」
うわー。
なんか、家具や調度品の価値を自慢しあっちゃってるよー……。
あれでしょ? トゥルー○リーパーは寝心地がどうとかでー、マニ○レックスは体に負担をかけないとかでー、みたいな自慢合戦でしょ?
私、そういうの全然興味ないんだよねー。
そして、三人の背後に何人かの執事さんやらメイドさんやらが、いつの間にか付き従ってる……。
あ。
部屋が広くて個室があるのって、そういうこと?
住み込みでメイドを雇えと?
そんなことを考えてたら、三人で話していたはずの彼らに見つかってしまった。
ツンツン頭の少年が話しかけてくる。
「よぉ! テメェは荷物を運び込まねぇのかよ!」
「え? 運び込む荷物なんてないし……」
「ハッ! 聞いたかよ、オイ! 家具も調度品も運び込めねぇぐらいに貧乏ときたもんだぜ!」
わざわざ用意してた物なんてないし、無いものに関しては後で作るなり、買い足そうなりしようと思ってるから、そう答えたんだけど……意味を曲解してる?
いや、むしろ、わざとやってるのかな?
え、なんで?
「この階層は貴族しか住むことを許されねぇ階層なんだわ! そこにお供も運び込む荷物も持ってこれねぇだなんて、どんだけショボい貴族なんだ、テメェは! どうせ、テメェの領地もショボいんだろうな! どこの土地を治めてるか、言ってみろよ!」
「え? 暗黒の森だけど?」
ざわ、と廊下を通っていた生徒ですら、ざわめいた気がした。
あれ? これって、暗黒の森の名前を出すのはマズい系?
そういえば、暗黒の森って長い間、誰も開拓できない土地として有名なんだっけ……。
そんな土地を拝領させられたってことは、貴族的には窓際に追いやられてるのと同義ってこと……?
さっと周囲を見回すと、目を逸らす生徒が多数。
あー。
やっちゃったかなー、これ……。
「暗黒の森を拝領するとは、こりゃまた大した期待の表れだなぁ! むしろ期待されてねぇのかもしれねぇけどよ! クックック、せいぜい頑張りな!」
ツンツン頭が私に近づいてきて、気安く肩に触れようとしてきたので……。
「【ロック】」
「あがっ!?」
思い切り魔力を込めて【ロック】をしておいたよ。
「女の子に許可なく触れようとするのは、セクハラだよ? 少しそこで反省した方がいいよ」
そう言い残して、私は学園の購買部を探して、その場を去っていく。
なんか後ろで、「おい! エギル様を助けろ!」だとか、「なんだこれ! 動かないぞ!」だとか、「私が解除してあげますよ。これは貸しですからね……な、なにっ!?」だとか、そんな声が聞こえてくる気がしたが気にしないでおく。
それにしても、家具や調度品や侍女や執事かぁ。
更にいえば、馬車も?
学園生活ってお金が掛かるんだね……。
■□■
一時間ほど学園内を見回って帰ってきたら、私の部屋の前に見たことのあるシュモクザメ頭が……。
えっと、転入試験の試験官をしてくれた先生だよね。名前は確か……。
「罰金先生……?」
「ヴァッキーだよ! ヴァッキー! 一応、テストの結果を伝えに来たのと教材を持ってきたんだけど……どうも入れ違いになっちゃったみたいだね! 待たされたよ! ははは!」
ということは、一時間近くも私の部屋の前で待たせちゃったのかな?
それは、悪いことしたかも。
「あのー。お待たせしちゃったお詫びに部屋の中に寄っていきます? 焼肉くらいなら出せると思うんですけど」
「普通にチョイスがおかしいなぁ、君!」
いや、バーベキューを良くやる機会があったから、こう【収納】にチョイチョイと入ってるんだよね。焼き立てが。
だから、すぐにでも出せると思うんだけど。
「ありがたいけど! 私の立場的には、あまり生徒から贈り物とかはもらえないんだよ! だから、気持ちだけでも、もらっておこうかな! あと、君の方にも荷物があるようだしね!」
「あ、これですか?」
学園をあてもなくさまってたんだけど、何とか購買部に辿り着けたんだよねー。
そこで、家具とか売ってたら買おうかなーと思ったんだけど、なかったんだ。
だから、購買部で筆記用具と板と紐を買って帰ってきた。
行ったにも関わらず、何も買わずに出ていくのが憚られて、こんなの買っちゃったんだけど……。
あるよね?
コンビニでトイレ借りたら、何か買わないとちょっと出辛いやつ。
あの現象だよ!
「ちょっと待ってて下さい」
私は、買ってきた板に油性のマジックペンのような筆記具で、デカデカと文字を書く。
『新・観光スポット! 写真撮影☆自由!』
よし、できた。
この板に穴を開けて、紐を通して……。
未だ空間に固定されてる赤髪ツンツン頭の首に掛けたら完成だ!
「とりあえず、一週間観光スポットとして頑張ってみようか?」
赤髪ツンツン頭が声もなく泣く。
器用だねぇ。
「君! 友達に結構引かれることが多くないかな!」
「さぁ? 友達が少ないんでわかりませんね」
「なるほど! 察したよ!」
ヴァッキー先生は何かを察してくれたようだ。
……いや、何を察してくれたんだろ?
そして、ヴァッキー先生としては、これ以上関わるつもりもないらしい。
というか、仕事中に一時間近くも油を売っていたのだ。普通にこちらと関わってる時間もないのだろう。
ノルマあったりしたら、焦るよねー。
わかるよ、その気持ち……。
「君の今回の試験成績は、400点中、見事に200点丁度だった! 実技は飛び抜けてたけど、筆記がねぇ! ほぼ壊滅だったよ! ははは、ドンマイ!」
「それを補いに来たんで、問題ないですね」
「そうかい! それで、今回の点数を受けて、君の所属するクラスは通常ならDクラスとなるところなんだけど! 筆記の壊滅具合からみて、Gクラスが妥当だと考えて、Gクラスにしといたよ! ははは!」
なんか勝手にグレードが下げられてるぅ!
「不満かもしれないが、多分、君は私に感謝することになると思うよ! あぁ、授業の取り方なんかは全部この資料にまとめて書いてある! だから、後で絶対に資料を読むんだよ! いいね!」
「はーい」
そう言って、爽やかに笑うヴァッキー先生に資料を渡され、教材を渡され……。
更に【収納】から分厚い紙束が取り出されて、渡されたんですけど?
「ヤマモトくんのあの学業成績の酷さじゃ、普通にやってたら授業に追いつけないからね! 補講用のプリントだ! これも並行してやることで早く授業レベルにまで追いつけるぞ! 頑張れ!」
「早くも挫けそうです……」
「人生挫けなければ、何かイイコトもあるさ! ファイトだ!」
どうも、よっぽど筆記試験の結果がボロボロだったらしい。
ヴァッキー先生の目の奥が笑ってない。
というわけで、大量の教材と資料を渡された私は、それを抱えながら部屋へとさっさと引き上げる。
…………。
なんか、廊下ですすり泣く声が聞こえたような気がしたけど……。
気のせいかな?
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