第146話
■□■
「で? 魔王軍飛竜部隊がドラゴン含めて全員気を失ったと? 言い訳は?」
「悪気はなかったよ?」
「あったら、なおさら悪いでしょうが!」
到着した飛竜部隊に言い訳しよう作戦は、途中まで上手くいってたのだ。
メイド衣装の私がクイーンを名乗り、「ヤマモト様にこの屋敷の留守を任された」ことを説明し、飛竜部隊のみなさんが「へぇ、そうなんですかー」と納得し、「ところでこの屋敷の姿は一体?」となったところまでは完全に読み通りだった。
問題は、「暗黒の森で未知の生物と仲良くなって、直してもらったんですよー」からの山羊くん紹介で、全員が
おかしい……。
ツナさんが気絶したことは知ってたけど、ドラゴンまで気絶する、普通?
ファンタジーで言うところの百獣の王でしょ、ドラゴンって?
そんなに簡単に気絶するはずが……。
…………。
もしかして、二匹同時に紹介したことがまずかったのかな……?
とりあえず、気絶した人たちは屋敷の中に寝かせておいて……。
ドラゴンは触ると何か嫌な予感がしたので、触らずに放置して……。
だからといって、これから山羊くんたちと何らかの作業をやるわけにもいかずに、こうして散歩がてら古代都市の方にまでやって来たんだけど……。
そこで、
ちなみに、本体は何でか舞踏会で着るような綺麗なドレスを着てる。
いや、なにその格好?
「昼からパーティー気分?」
「私だって着たくて着てるわけじゃないし!」
だんっと机を叩かれる。
なお、この生産施設の作業場には、金属を加工するための沢山の機械が置いてあり、机も沢山並んでるため、その内のいくつかを私たちで占拠して使っている感じである。
なお、私と本体はひとつの机に向かい合って座り、まさに気分は刑事ドラマの刑事役と犯人役である。うん、カツ丼食べたい。
「
机の上にドサドサドサーと沢山の本を並べて、それに目を通し始めたのはパンダさんパジャマを着込んだ
古代語はあんまり読めないが、なにやら難しそうな内容の本を読んでいそうというのはわかる。
雰囲気づくりってだけじゃないよね?
それなら笑うけど。
「帝王学?」
「ミリーちゃんが、古代都市を支配するなら、それに相応しい教養を身につけなくちゃいけないって張り切ってるの」
「本体がドレス姿をしてるのは、ダンスレッスンから逃げ出してきたからだよ」
【収納】から鍛冶道具を取り出して、なにやら巨大な物の製作に取り掛かっているのは、グレーの上下のツナギを身に着け、首にゴーグルを引っ掛けた
彼女は巨大な鉄の箱? のような物を【収納】から取り出すと、カンカンとやってるんだけど……何を作ってるんだろ?
「それ、何作ってるの?」
「この間の定例報告会で、
「それにしたって、大きくない?」
「居住スペース込みで作ってるからね。いわゆるキャンピングカー?」
「そんなに大きくしたら、馬が引けないんじゃん。それとも、前の馬車みたいに内蔵にするの?」
「山羊くんに引かせようと思って」
「それ、見た人全員気絶するんじゃないかな?」
もしくは発狂。
少なくとも私はそうでした。
ちなみに山羊くんを見た人が色々と厄介なことになってないのは、私の運のステータスがクソ高いからだと考えてます。えっへん。
「【偽装】LvMAX付ければ大丈夫でしょ。なにより、暗黒の森の中でしか生活できないなんて可哀想だよ」
そ、そうかなぁ……?
丁度、【バランス】取れてると思うけど……。
「そんなことよりもっ! 三人とも、ミリーちゃんの暴走を止めてよ〜! これ、結局、私が学園に行ってなくても、学園に行ってるかのように常識が叩き込まれるパターンじゃない!」
「というか、ミリーちゃんはどうしたの?」
普通追っかけてくるでしょ。
「山羊くんに追い回してもらってる」
「鬼か」
最初の発狂犠牲者はミリーちゃんになるかも?
あ、彼女もある意味普通人じゃないから、平気なのかな?
ゴチャゴチャ考えてたら、
「ミリーちゃんが厳しくやってくれてるおかげで、マナーとかダンスとかのスキルが生えたんでしょ? だったら、なにも問題ないでしょ」
それに乗る
「そうだね。本体も少しは苦労した方がいいよ。なんでもかんでも【バランス】さん頼りでラクし過ぎだしね。そもそも、生えたそばから一気にスキルレベルが上がって、それなりにこなせるようになるんだから、何も問題はないでしょ?」
「それはそうなんだけど……。努力自体がしたくないというか……」
「「「ダメ人間かよ」」」
まぁ、本体の考えも少しわかるけどねー。
好きなことは意識せずとも、延々と続けられるもんだし、それを本人が努力と認識することはないって話でしょ?
だから、努力をしたくなくて、好きなこと、興味あることを延々とやってたいってことを言ってるんだと思う。
でも、一都市の責任者となった以上、肩書きにあったスキルを身につけて欲しいというミリーちゃんの気持ちもわからないでもない。
とはいえ、長年の生活で作られた趣味嗜好の感覚をそう簡単に何とかできるものでもないから、努力が必要なんだよね。
本体はその努力が嫌ってことらしいけど。
まぁ、少しくらいは苦労した方がいいと思うよ?
「ちなみに、
「……パンダ言うなし。私が読んでるのは、この街の最大の発明についてだよ。例のプロジェクトのヒントになりそうだから、つっかえつっかえでも頑張って読み進めてるの」
「そんなに難しい内容なら、古代人に聞けばいいのに」
「彼らの仕事に対する報酬の感覚がちょっとおかしいからね。対価に何を要求されるかわかったものじゃないから、迂闊に物事を頼めないんだよ」
「あー。それ、分かるわー」
この間なんか、家の中の魔石に少し魔力をこめてくれって頼まれたから、やってあげたら古代都市で使ってたらしい見たこともないようなピカピカな金貨を渡されちゃったからね……。
褒賞石以外の貨幣制度があったんだーって、びっくりしてたら、「なんか恐ろしいくらいの経験値が入ったんだけど……」と本体が若干引き気味に報告してたぐらいだしね。
相当な価値のものを気軽にポンポンくれたりするから、逆にこっちが頼み事をした際に、かなり価値のあるものを取られるんじゃないかと思って戦々恐々としちゃうんだよね。
だから、古代人にはあまり物事を頼みたくないというか……ちょっとビビってる私たちがいる。
でも、このプロジェクトはかなり重要だし、ミスなく迅速に進めて欲しいので、なかなか悩むところだ。
「というか、プロジェクトの方は急いだ方がいいんじゃないの? こっちの都合に相手は合わせてくれないよ?」
「そりゃ、わかってるけど……」
本体の歯切れが悪い。
先程からプロジェクトと呼んでいるのは、デスゲームを終わらせる方法についてだ。
これは、頭のおかしい運営に対抗するためにやろうとしてる、頭のおかしい計画なんだけど……。
それの進捗が全く進んでないらしい。
まぁ、アイデアだけで簡単に実現できるようなら、誰も苦労しないよね!
「それよりも、
「デスゲーム終了の手立てが『それよりも』なんだ」
「それよりも、
「言い直した」
「上の敷地が広くなったから、何か野菜でも作ろうかと言ってたけど、先に魔王軍の飛竜部隊が泊まれるような別棟みたいなものを作った方がよくない? 毎回、お客さんの相手をするのって大変でしょ?」
「お客様をもてなすのが、メイドの仕事ですので」
「本音は?」
「クソメンドイから、飛竜部隊用の専用宿舎を作りたい」
「だよねー」
今回なんて八人で来たんだよ?
気絶した大の大人八人を館の中に運び込むの大変だったんだから!
特に、足持って引きずって屋敷の中に連れ込んでいった時は、地獄の館ってフレーズが思い浮かんで、ちょっと泣きそうになっちゃったよ!
そもそも、あのお屋敷が魔王軍飛竜部隊の中継基地として使われてる以上、ずっとこんな感じでもてなさないと(?)いけないのかと考えるとなかなか憂鬱だ。
館をリフォームするのは好きだけど、特に老舗旅館の若女将を目指してるわけじゃないからね!
なので、本体は私が負担を感じてるのなら、別棟を建てて、そこに飛竜部隊を詰め込んじゃえばいいんじゃない? といってるのだ。
ただ、それをやるには問題がひとつ。
「それができればいいんだけど……私に建築の知識がないのがなー。別棟を建てるなんて無理だし」
「丸太を組んだログハウスみたいなものなら作れるんじゃない?」
「もしくは、レ○ブロックでなら作れるんじゃない?」
「選択肢が両極端!」
マクロとミクロか!
とりあえず、畑いじりよりも先に建物を作った方がいいのかなー……。
でも、犬小屋みたいなものになったら、宿泊拒否されない? それはそれでショックなんだけど?
うーん。
そんなことを考えてたら、本体が……。
「本格的で立派な建物を作ることを考えてるなら、
「「「…………」」」
目から鱗というか、領地管理を任されてるんだから、領民を増やすというのも真っ当な手段として残されてるわけで……。
「流石、帝王学を学んでる奴の意見は違うわー」
「というか、ここまで人が辿り着くことがないから、私たち以外の人材に頼るって発想がなかったよねー」
「あわよくば、この暗黒の森の良さをアピールして、領民として住み着いてもらえれば、なおいいよねー」
「「「暗黒の森の良さ……?」」」
「あるよ! 多分! 探せばきっと!」
むしろ、あって欲しいと思ってるよ!
「まぁ、問題はわざわざ暗黒の森にまで来てくれる頭のおかしな大工がいるかって話なんだけど」
「「「あー……」」」
一般人にとっては、暗黒の森って禁忌に近いもんねー。
そんなとこまで来て、家を作ってくれる人がいるかって話なんだけど……。
いないかなぁ……?
「とりあえず、今度の定例会で
「それで駄目なら魔王に泣きつくとかね」
「むしろ、【魔神器創造】で作るとかね」
「アレで家って作れるの……?」
「さぁ? でも、この馬車は作れたから、素材さえあればなんでもいけるんじゃない?」
「……あ」
「「「あ?」」」
「プロジェクトの方も【魔神器創造】でゴリ押せないかな?」
本体の言葉に、私達は全員腕を組んで、うーんと唸るのであった。
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