第141話
■□■
「ワイな、クラン作ろう思うてんねん」
ブレくんとミサキちゃんに案内された宿のラウンジに、果たしてタツさんはいた。
というか、一見してタツさんだとわからない。
だって、大きさが三メートルくらいある蛇みたいな龍……龍みたいな蛇? わかんないけど、なんかそんな見た目になってたからだ。
まるで別人、もとい別龍(竜?)である。
ぶっちゃけ、ブレくんとミサキちゃんに案内してもらえなかったら、タツさんだとわからなかったかもしれないよ。
まぁ、向こうも私だとわかってなかったみたいだし、進化って姿形が変わったりするケースもあるから、そういう所が不便だったりするのかもね。
人族は確か
で、えーと、なんだったけ?
あー。クラン。
クラン作るよって宣言だったっけ?
挨拶と見た目イジリもそこそこに、真面目な顔した蛇がいきなりそんなこと言うものだから、内容があんまり入ってこなかったんだよね。
というか、タツさんはちっちゃいドラゴンなイメージだったから、おっきな蛇になっちゃったから、まだ違和感があるというか……ちょっと頭の混乱がまだ収まらないんだよ。
「え、いいんじゃない? 作れば?」
「いや、なんで他人事やねん!?」
「?」
「口を
認識阻害してるはずなのに、なぜバレたし。
そして、改めてタツさんに誘われる。
「ワイは、ヤマちゃんを誘ってるんやで?」
「まさか……唐突なモテ期到来?」
「クランに勧誘しとるだけで、随分、気ぃ大きうなっとるやんけ……」
タツさんが呆れた表情……蛇フェイスだからわかりにくいんだけど……のまま、コーヒーを長い舌でチロチロと飲む。そういう姿は相変わらず可愛いんだけどねー。
ちなみに、この辺は標高が高いのも手伝って、お茶よりもコーヒーの方が多く栽培されてるらしい。
ウチの暗黒の森にも、何か名物になる特産品とかを作らないとダメだよねー。古代文明都市の力を借りて、バイオな改造を施した植物とか名物にできないかな?
まぁ、それはともかく、クランだ。
クランねぇ……。
「既に、リリちゃんやTakeの許可は取っとんねん。ブレやミサキちゃんのもな」
「私の知ってる知り合いばっかり」
「知らん奴が幅効かせとるよりマシやろ?」
「まぁ、そりゃそうだけど」
「あと、我関せずって感じでケーキ食っとるけど、ツナやんも誘っとるからな?」
「俺もか?」
コーヒーを優雅に味わいながら、ケーキにも舌鼓を打つ天狗面。
うん、なかなかな歌舞伎っぷりだね。
ちなみに、この場にブレくんとミサキちゃんはいない。
二人は私たちを案内した後は、冒険者ギルドの訓練所へと向かっていった。
なんでも、そこでリリちゃんとTakeくんと待ち合わせらしい。
ダブルデート? って聞いたら、ミサキちゃんはグッて親指を立てたけど、ブレくんは「連携の練習です!」って必死に言い訳をしてたね。照れなくてもいいのにねー。
で、現在、宿のラウンジでは私とツナさんとタツさんでクラン云々について話し中だ。
それにしても、クランに入ることで得られるメリットってなんだろね? そもそも、何でタツさんはクランを作ろうと思ったのかな?
「タツさんはなんでわざわざクランを作ろうと思ったの?」
「まぁ、ヤマちゃんにはわからんかもしれへんけど……」
そう切り出したタツさんの愚痴混じりの話を簡単にまとめるとこうだ。
エリア3までくると、ほとんどパーティーは固定されており、野良参加できる余地があまりない。
あと、デスゲームということもあり、野良でパーティーに参加すると、PKを疑われたり、逆にPKされる恐れもある。
デスゲームでミスされたくないからと高いプレイングスキルを求められたり、デスゲームの関係上、人との関係をギクシャクさせて恨みを買いたくないので、人間関係を円滑にするために散々気を使ったりだとかで……とにかく、タツさんは疲れてしまったらしい。
「ワイはもっと気のおけない仲間でワイワイLIAやりたいねん。せやのに、気疲れするっておかしいやろ? せやから、気心知れた連中と気の向いた時に冒険できるような内輪クランが作りたかったんや」
「俺はその括りから外れてる気がするが?」
「なに言うてんねん! 一緒にEODを倒した仲やろ! そんなん、もう家族みたいなもんや!」
そうかなぁ……?
まぁ、食だけで繋がってる絆もあるし、そういうものもあるのかも?
「じゃあ、私を誘ったのは?」
「ウマが合うからやな」
「それだけ?」
「十分やろ」
「まぁ、そうだね」
うん。タツさんの切実な思いはわかった。
けど、それだけじゃダメだと思うんだ。
「タツさん」
「なんや? 入る気になってくれたんか?」
「それじゃ、ダメだよ」
「なんやて?」
内輪クランは凄く魅力的だし、あんまり目立ちたくない私の性格的にも合うんだけど……。
将来を考えると、あんまりよろしくないと思うんだよね。
「私が今聞いた限りだと、タツさんが目指してるのって、仲良しこよしの弱小クランでぬくぬくしたいってことだよね?」
「えげつない言い方やけど……せやな」
「コレが普通のゲームだったら、私もそれでいいとは思うよ? でも、このゲームって、デスゲームでしょ? しかも、運営は雲隠れ中で準備万端整えてる最中ときた」
「まぁ、せやな」
「で、運営は準備が整ったら、多分、姿を現すと思うんだよね。
「その可能性は高いやろな」
「そうなったら、多分、プレイヤー側は一致団結するでしょ? その時に、弱小クランだと大規模だったり、名のあるクランにいいように手駒として扱われちゃわない? 私、人数だけで大して強くもない大規模クランに顎で使われるのなんてヤだよ?」
「それは……まぁ……せやな……」
精神的に参ってたのか、タツさんはそこまで考えてなかったようだ。返す声が小さい。
でも、ここは容赦なく言いたいことは言わせてもらうよ!
「だから、クランを作るって言うなら、お友達内閣でも何でもいいけど、少数精鋭のLIAナンバーワンのクランにしないと。そんで、他のクランからの指図を一切受けないアンタッチャブルな組織にまで育て上げる覚悟がないとダメだよ」
「うむ。俺も口だけの奴に偉そうに指図されて従うなんて真っ平ゴメンだ」
「ワイはそこまでワイドな視点で考えとらんかった……。あかん。クランリーダー失格や……」
ツナさんがうんうんと頷き、タツさんがしょげ返る。
その時、二人の視線が交錯した。
「「…………」」
なに? 二人共見つめ合ったりしちゃって?
なんか運命感じた系?
「ちゃんとした活動方針と、それを実現するだけの実力か……」
「中長期的なビジョンを持ちつつ、カリスマ性もあるやんな……?」
「なに? 二人してコソコソと?」
ツナさんとタツさんは二人でタイミングを合わせたようにして、ぱっとこっちを見ると――。
「お前がリーダーやれ」
「ヤマちゃん、リーダーやってみぃへん?」
えぇ?
「私、そういう面倒なのはちょっと……」
「あれだけ言うといて、そないなこと言うか……?」
その後も、タツさんのしつこい勧誘を躱し続けてたんだけど――。
■□■
『――結局、受けちゃったの?』
「だって、こっちから提案しといて、あと知らなーいって、なかなか言い辛くて……」
【遠話】の魔法陣の向こうで呆れたような嘆息が吐き出される。
多分、嘆息したのは
『でも、それは有りなんじゃない?』
肯定してくれたのは、
今頃は暗黒の森で屋敷の補修をしながら、ちょっとだけ広げたバリアの空間で何作ろうか悩んでるとか報告してたっけ。
ここはチェチェックの宿の一室。
泊まり客となった私は【遠話】の魔法陣を使って、集まれる私たちだけで定例会議を行っていた。
なお、まだ落ち着ける場所にまで移動できてない
『私たち、裏で動く役割ばっかりだから、表で顔を売っといて、表での影響力も持っといた方がいいよ。運営が何か仕掛けてきた時に、孤立無援になったらシンドイだろうし』
『じゃあ、
「わかったよー」
最強のクラン……。
最強のクランを作るって何したらいいんだろうか……?
とりあえず、クラン設立のためにはクランハウス(賃貸可)と登録金が必要みたいだから、そこから始めて、メンバーをビシバシ鍛えていけばいいのかな?
『次は、
『魔王と通信して、チェチェックの学園に入ることを告げたよ。そしたら、魔王がチェチェックの学園長に連絡して、明日、転入試験を受けることになったよ』
『転入試験? 試験に合格しないと入れてくれないの?』
『そうじゃなくて、クラス分けのためだってさ。実力に応じたクラスに編入させるから、受けて欲しいって』
『あれ、やっちゃうやつ?』
『私、また何かやっちゃいました? 的な奴ね。……やるの?』
『やっていいのか、悪いのか……』
『マナーと常識を学ぶだけなんだから、目立つのは御法度じゃない?』
「でも、魔王軍四天王がこんなものかってナメられるのはどうなの?」
『六公につけ入る隙を与えかねないかなぁ』
『じゃあ、バランスの良い感じで立ち回ればよくない?』
『
『大丈夫、大丈夫。私たちには【バランス】さんがついてるから』
『『「それもそうか」』』
バランスさんなら……バランスさんなら、きっと試験成績のバランスも何とかしてくれる! ……はず。
『でも、試験って私たちの能力を客観的に測るものだから、バランスさんの介入する余地はなくない?』
『『「うーん」』』
それでも、なんだかんだ【バランス】さんは、【バランス】を取ってきてくれたしねぇ……。
…………。
あれ? 取れてたかな? 【バランス】?
まぁ、そこは深く気にしないことにしておこう……。
『それにしても、
『「な、何のことでしょう……?」』
学園担当と一緒になってどもったせいで、私たちがちょっと一緒に行動したことはすぐにバレたよ。とほほ……。
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