第135話

 増えた私は、本体の私とほぼ性能が変わらない。


 つまり、私が使えるスキルはほとんど分身体も使えるということだ。


「ヒャッハー! どうした、どうした! おっそいぞー!」

「私はそんなこと言わない」

「私もそんなことを言わないかな? 【ファイアーブラスト】」

「私が沢山いるとウザくない? 【レイ】」


 全員が【わりと雷帝】で素早く動き回り、ザーヴァに攻撃を加えていく。


 ザーヴァも防御をしようとするんだけど、物理バリアも魔力バリアも、機械神剣を当てるだけで簡単に割れる。


 魔力を動力源とする古代兵器が機械なのかどうなのかは、ちょっと自信がなかったけど、ちゃんと機械判定ということらしい。


 防御を許さずに手数勝負に持ち込むよ!


 けど、ザーヴァも古代文明の叡智を結集させて作られた防衛の要ということもあり、なかなかしつこい。


 体中の表面の外装がくるりと回ったかと思うと機銃が現れて、それを一斉掃射して私たちを追い払う。そして、パカッとお腹の部分が開いたかと思ったら、白い光が溢れて――。


「本体っ! 危ない!」


 私は【縮地】で避けるつもりだったんだけど、【未来予知】が働いたのか、分身体の一人が私を思い切り突き飛ばす。


 それと同時に、分身体の一人が拡散する白い光の攻撃を受けて、耐えることもできずに消滅した!


 というか、ゲロビじゃなくて拡散ビームも撃つの!?


 そして、あの白い対消滅攻撃がとにかく強いんですけど!?


 消えた分身体を補充するために、左腕を【肉雲化】させて切り落とす。


 これで、補充完了。


 なかなか厳しい戦いだね。


『マチ、ヒガイ、ジンダイ……』


 ミリーちゃんの嘆く声が聞こえる。


 というか、都市を防衛するシステムが逆に都市を破壊するってどうなのよ?


 ――びしゅっ!


 私の分身体の一人が触手……【肉雲化】した腕を伸ばして、ザーヴァの脚を捉える。それを受けて、ザーヴァの挙動が一瞬止まり――。


「「「今だ!」」」


 以心伝心というか、私たちは呼吸を合わせて、一斉に攻撃する。


 まぁ、元はひとつだから、その辺は余裕だよね。私たちは刹那で片腕を【肉雲化】して、ザーヴァに絡みつけていく。


 ザーヴァはザーヴァで、私たちの攻撃を身をよじって躱そうとするけど、脚に絡みついた【肉雲化】した腕がそれを許さない。


 気づいた時には、ザーヴァの体は四方八方から大質量の肉塊に取り込まれて、巨大な肉の繭といった状態になっていた。


 それでも、ザーヴァは暴れているのか、肉の繭の中からドッカン、ドッカンと音がしてくるし、時折肉の繭を突き破って白い光が漏れてくる。


 それを上回る速度で肉の塊が生成されていき、私たちはそれに合わせるようにして、徐々に中を圧縮していく。


「ちょっと硬い? アレぶっ刺して、本体」

「機械神剣ね、はいはい」


 私の要求に私が応える。


 機械神剣の切っ先を伸ばして、私自身の左腕を貫きながら……ちょっと、ちくっとしたけど……こんっと剣先が中のザーヴァに当たる。


 その瞬間に抵抗力が消えた。


 それと同時にめしっと締め付ける力が一気に強まる。ザーヴァが動きを止め、中からメシメシッと亀裂が走る音がする。


「このまま、力を加え続けて動きを止めるよ!」

「でも、大丈夫?」

「こういうののお約束ってアレでしょ?」

『ザーヴァ、ピンチ、ジバク、スル!』


 ですよねー。


 けど、まぁ、こっちには機械ギミック無効があるし。


 肉の繭が一瞬で膨れ上がる。


 みちみちっと悲鳴を上げる肉の繭の隙間から白い光が溢れ出し始めてるけど、それを遮って、私が機械神剣の切っ先を突き入れると、ピタリとその動きが止まった。


 そして、静寂が訪れる。


<匿名のプレイヤーの手によって、ネームド『暴走する防衛システム、ザーヴァ』が停止させられました。>


<一部地域での都市の機能が回復しました。>


 ▶ネームド『暴走する防衛システム、ザーヴァ』を初討伐しました。

  SP10が追加されます。


 ▶ネームド『暴走する防衛システム、ザーヴァ』をソロ討伐しました。

  SP5が追加されます。


 ▶称号、【機械キラー】を獲得しました。

  SP5が追加されます。


 ▶称号、【超古代文明の開放者】を獲得しました。

  SP5が追加されます。


 ▶経験値108056を獲得。

 ▶褒賞石1024を獲得。

 ▶ヤマモトはレベルが22上がりました。


 ▶【バランス】が発動しました。

  取得物のバランスを調整します。


 ▶褒賞石107032を追加獲得。


「終わった?」


 自走砲たちの動きが止まる。


 警備システムが完全にダウンしたってことでいいと思うけど、一応、気は抜かないでおこう。


 何が起こるかわからないからね。


「終わったみたいだね?」

「というか、ザーヴァがポリゴンになってないんだけど?」

「全損させてないからね。圧縮して機能不全にしてダウンさせただけだから。言うなれば、気絶状態?」

「それどうするの? っていうか、私たちもどうするの?」

「改造してガードロボとして、再利用できないかなぁって。あと、私たちはどうする? 本体が吸収する?」

「「「いやいやいや」」」


 六人の私が一斉に目の前で手を横に振り始める。そもそも、分身した私を吸収とかできるの? って話だしねぇ。


 スキルの説明には吸収できるとはひとつも書いてなかったし、普通に死んで【多重思考】が本体の私に戻ってくるぐらいなのかな?


 それはそれで、【多重思考】の私が痛みを感じて可哀想かも。


「とりあえず、なんか学園とかにも通わないといけないし、上の土地の開拓もあるし、この古代都市での生産活動とかもあるし、マリスたちの捜索とかもあるし、体が複数あってもいいんじゃない?」

「「「異議なし!」」」


 というわけで、これからは七人の私で活動していくよ!


 【多重思考】のスキルレベルが上がれば、更に私が増えるかもね!


 ▶[重要]第二陣スタートダッシュキャンペーン開催のお知らせが届いています。


 ん……?


 なんか、ちょっと意味の分からないメッセージが届いたような?


 私がそのことを深く考えるよりも前に、


『スゴイ! スゴイ! ザーヴァ、タオス! ホンモノ、エイユウ!』


 興奮した様子のミリーちゃんが近づいてきて、私たちの周りを回り始める。


 それを契機に、ミリーちゃんみたいな半透明の幽霊が沢山集まってきて、なんかお祭り騒ぎみたいになってきたんだけど?


 というか、これだけの人数がいたなら手伝ってよ!


『マリョクダン、ワタシタチ、アタル、シヌ!』

『テツダエナカタ、ゴメン!』

『スゴイ! スゴイ! エイユウ! タンジョウ!』


 むしろ、あれだけ魔力弾が飛び交ってた中、私たちについて回ってたミリーちゃんが凄いらしい。


 いや、オワタ式に挑む都市管理者って何者よ……。


「で、これからどうする? 本体?」

「私は魔石に魔力を入れてくるよ。他の面子はこれからやることを相談しといて」

「わかったー」


 会話がゆるゆるで済むのは、多分、相手が私自身だからなんだろうね。


 本人の性格がゆるゆるだから、大して衝突が起こることもないというか……。


 幽霊さんたちが、お祭り騒ぎでその辺を駆け回っている中、私はミリーちゃんを捕まえて、例のバリア用の巨大魔石があるという施設にまで案内してもらうことにするのであった――。


 ■□■


〘LIA第二陣、スタートダッシュキャンペーン!〙


 うん。


 バリア発生装置の場所にまで案内してもらって、目の前に横たえられている超巨大魔石を確認した私はびっくりすると同時に、これはなかなか時間がかかりそうだと思ったわけだ。


 なので、魔石に魔力を充填してる時間を使って、さっき届いたばかりのメッセージを見てたんだけど、どうやらLIAに第二陣が入ってくるらしいんだよね……。


 いや、どうやってって疑問がまず一点目。


 そして、外ではこのLIAがデスゲームだって分かってないの? って疑問が二点目。


 でも、そんな疑問に全く答えない形で、メッセージにはキャンペーンの内容だけが記載されてる。


 相変わらず、ふざけた運営だよね。


 ちなみに、記載内容としては――。


 第二陣は、開始時に10万褒賞石と【蘇生薬】5個が最初から配られた状態でスタート。


 尚且つ、第二陣のプレイヤーは開始から一ヶ月間(ゲーム内時間)、取得経験値が二倍になるキャンペーンが行われるらしい。


 しかも、既存のプレイヤーにもメリットがあって、第二陣のプレイヤーとパーティーを組んで冒険した場合には、取得できる経験値が1.3倍になるとか。


 基本的にデメリットなしの良い企画ではあるんだけど……。


 問題は、メッセージの最後に付けられた、ふざけた動画の存在だ。


 私は今、それを再生しながら、眉間に皺を寄せてるよ。


『やぁ、既存プレイヤーのみんな。そして、新たにLIAの世界に飛び込んできた第二陣のみんな、ようこそ。音声だけですまないが、私がチーフプロデューサーの佐々木幸一だ』


 まさかのデスゲームの黒幕からのボイスメッセージが付いてるって誰得なの? これ?


『既に現実世界では知られていることだろうが、このLIAはデスゲームの世界と化している。デスゲームを理解できないという者には、このゲームでの死は現実での死と同義であると考えてもらえば良いだろう。とにかく、現実同様、この世界でも懸命になって生き抜かなければ死ぬということだ。是非とも本気になってゲームをプレイして欲しいと願うよ』


 佐々木の発言で、一応、現実でもLIAがデスゲームとなっていることが認識されてるということを知る。


 けど、なんでそんなゲームに第二陣が飛び込んで来たんだろう?


 あ。もしかして救出チームとかかな?


 でも、命がかかってるゲームに飛び込んでくる人たちなんているの?


 甚だ疑問なんだけど、どうなんだろ?


 私が疑問に思っている間にも、佐々木からのメッセージは進んでいく。


『このデスゲームの中では、痛みがリアルなものとなるからね。普通のゲームの感覚で遊ぼうとするのは止めておいた方がいい。特に、第二陣のメンバーでゲーム感覚で来ている者にはナメてかからない方がいいと強く警告する』


 そうなんだよねー。


 このゲームはそこがネックなんだよね。


 でも、なんか【肉雲化】を覚えたせいなのか、邪神になったせいなのかは分からないけど、さっきの戦いではそこまで痛みを感じなかったかな?


 これをありがたいと取るか、危機感が薄れそうだと取るかは微妙なところだけど……。


 とりあえず、プラスに考えることにするよ。


『そして、ゲーム開始から既に二ヶ月が経とうとしているが、このデスゲームのクリア条件を話していなかったことを、今思い出したよ』


 ……は?


 え? それ、話してくれるの?


 というか、わざと隠してたんじゃないの?


 今、思い出したとか絶対嘘じゃん。


 というか、ここで発表するってこと?


 え、本当に?


『このデスゲームのクリア条件は簡単だ。CGチーフデザイナーの楠木麗くすのきれい、メインプログラマーの日野優ひのまさる、チーフディレクターの宮本正樹みやもとまさき、そして、この私、チーフプロデューサーの佐々木幸一ささきこういち……この四人は今、LIAを楽しんでいる。そして、君たちと同じプレイヤーとして、デスゲームの真っ最中なんだ。そんな私たち四人をLIA内で全てキルする――それができたら、このデスゲームは終わる。それがデスゲームのクリア条件だ。……とても簡単だろう?』


 それって……。


「私たちに、人殺しをしろって……、言ってるの……?」


 私は心の深い部分がズシリと重くなるのを感じたのであった。

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