第133話
幽霊少女は、私が見えてるとわかるなり、山羊くんを気にしながらも何やら悲痛な訴えを始めた。
うん。
訴えかけてるのはわかる。
表情が必死だし、本人が泣きそうな顔で喋ってるんだもん。何かを伝えたいというのはわかる。
『△▲■◁、■○◆★★■◆○!』
けど、何を言ってるのかがわからない!
たまに聞き取れる言葉もあるんだけど、それがまた『殺ス』とか『テメェ』とかいう、可憐な幽霊少女には似つかわしくもない乱暴な言葉なのである。
いや、なんでそんな言葉遣い?
もしかして、言語が違うのかな?
そう思い、スキル一覧から【言語理解】を取得してみる。
▶【言語理解】スキルLv1を取得しました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのバランスを調整します。
▶【象形文字理解】スキルLv1を取得しました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのレベルバランスを調整します。
▶【言語理解】スキルがLv10になりました。
▶【象形文字理解】スキルがLv10になりました。
▶中級スキル取得条件を満たしました。
【古代語理解】がアンロックされます。
【竜語理解】がアンロックされます。
【精霊語理解】がアンロックされます。
うん、取ってはみたものの、相変わらず幽霊少女の言葉はわからない。
これは、中級スキルまで取らないと駄目かな?
でも、スキルが三つも出てるんだよね。
中級スキルは取得にSP4もかかるし、全部取ったりするとSP12も掛かるんだけど……全部言語関連だから、ひとつ取れば【バランス】を取って全部取れたりするかな?
【心霊術】の方は、多分、中級スキルで各々のスキルのカテゴリーが変わっちゃったから、全て取れなかっただけだろうし……。
えぇい! いけると信じて、【古代語理解】を取得だ!
▶【古代語理解】スキルLv1を取得しました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのバランスを調整します。
▶【竜語理解】スキルLv1を取得しました。
▶【精霊語理解】スキルLv1を取得しました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのレベルバランスを調整します。
▶【古代語理解】スキルがLv5になりました。
▶【竜語理解】スキルがLv5になりました。
▶【精霊語理解】スキルがLv5になりました。
よし! 賭けに勝った!
私がひっそりとガッツポーズをしてると、
『ヤハリ、コトバ、ツジナイ……。ハナシ、デキナイ……』
おぉー! 幽霊少女の言葉が少しわかるようになってる!
どのスキルが作用してるのかまではわからないけど、これでコミュニケーションが取れそうだよ!
「大丈夫、今わかるようになったよ」
『コトバツジル!? スゴイ! テンサイ!』
フッフッフ、もっと褒めてくれてもいいよ! SP使った分くらいは褒めそやしてもいいからね!
「それで? 貴女はここで何を訴えかけてたの?」
『ソレハ……』
幽霊少女はそう言うと、ゆっくりと話し始めた――。
■□■
暗黒の森を幽霊少女に案内されながらついていく。
暗黒の森は基本的には森を傷つけた相手に対して、過剰な防衛行動を取るらしく、こちらから攻撃を仕掛けない限りは何もしてこないらしい。
とはいえ――。
『ミギ、キノウエ、ヒル』
ギザギザの歯が生えた口を大きく広げて、木の枝くらいの巨大な山蛭が飛び掛かってくる。
それを素早く躱す私は反撃することもなく、その場をやり過ごして通り抜けていく。
こうやって、モンスターはお構いなしに攻撃してくるから、反撃しようとして剣を引っ掛けたりすることで木を傷付けることも多いのだろう。
暗黒の森に飲み込まれた人たちは、そこを理解出来てなかったんじゃないのかな?
『モスコシ』
幽霊少女のカタコトの言葉……多分、まだスキルレベルが足りてないんだと思う……を信じて進んだ先――。
館から凡そ十五分ほどの距離に、森が開けている空間があった。
「おー、滝だ」
そこには、大瀑布が流れ込む滝壺が存在していた。水が跳ね、日も落ちた景色の中では寒々しく感じる光景だけど、その大音量と雄大さは見惚れてしまう程には素晴らしい。
じっと見てたいところだけど、幽霊少女は急かすように私の目の前に現れては、手を振ってくる。
『タキウラ、コッチ』
どうやら、滝の裏に入口があるようだ。
ちょっと見ただけではわからないような苔
すると、滝の裏には灯りひとつない、真っ暗な空洞が口を開けてるではないか!
洞窟の入口ってことかな?
『ココカラ、チカ、イク』
「なるほどね。館の中をいくら探しても見つからないわけだ」
そう。
私が、幽霊少女のカタコト言葉を根気強く聞き出した結果、どうやらあの館の地下室よりも、更に地下に地下都市のようなものがあるらしいのだ。
で、幽霊少女はその都市の責任者なんだって。
名前はミリー……なんたらかんたらって言うんだけど、覚えきれなかったから、幽霊少女のことはミリーって呼ぶことにした。
そのミリーちゃんが言うには……。
『ワタシノマチ、スクウ、タスケテ』
「わかってるって」
――ということらしい。
ミリーちゃんの言葉を信じるならば、彼女の出身は天空都市。
あのクラウドホエールの背中に乗ってる街が、彼女の元々の出身地らしい。
その天空都市で意見の相違から内部分裂が起こったのが数千年前。
ミリーちゃんたちは天空都市を捨てて、地下に巨大都市を建設。そこに移り住むようになったらしい。
まぁ、私は地下都市とは言ったけど、実際には古代都市ってことだよね?
数千年前の話だから、そういうことになるかとは思うんだけど……。
そんな古代都市。
どうも、ミリーちゃんの話を聞く限りでは、行くところまで行き着いちゃった魔法技術文明の……まぁ、よくありがちな超文明の都市らしいよ?
ミリーちゃんが幽霊なのも、無念とか、憎悪とかでゴーストに変貌したわけではなく、魔法で肉体を捨て去り、永遠の命と美貌を手に入れた結果なんだってさ。
いわゆる、肉の衣を脱ぎ捨てて、
あとは、この暗黒の森の変な動植物たちを作ったのもミリーちゃんたちらしいし、モンスターのルーツを作っちゃったのもミリーちゃんたちらしいよ。
魔法生物や動物の品種改良を行って、失敗作を廃棄がてらに外に放ってたら、いつの間にか暗黒の森ができてたり、モンスターやらができてたりして、勝手に自立してたみたいなことを本人が言ってたもん。
うん。
言っちゃうと、魔法版、
そりゃ、天空都市と意見が合わなくなって、放逐されるはずだよ!
どうせ、天空都市の方は自然との共存とかを選んだんでしょ?
逆に、ミリーちゃんたちは魔法技術をとことんまで極めてやろうとしてたとか、そういう感じなんでしょ?
わかるわかる。
で、そんな突き詰めるとこまで突き詰めまくった超魔法文明の古代都市なわけなんだけど、現在絶賛ピンチ中ってことらしい。
何がピンチかというと、都市の経年劣化とか敵意ある外敵の侵入とかを阻んでいた超巨大魔法バリア(?)が古代都市を囲うようにして、球形に展開されてるらしいんだよね。
けど、そのバリアを維持する魔道具に設置されてる超巨大魔石の魔力残量が、もうほんの僅かしか残ってないんだってさ。
言っちゃうと、暗黒の森の侵食を防いでいた防波堤が風前の灯です、といった感じ?
なので、ミリーちゃんは夜な夜な魔力の高い存在の枕元に立っては窮状を訴えてたらしいよ。
ちなみに、その魔力バリアの先端部分が地上にちょっとはみ出していて、そこが例の洋館の建ってる土地みたい。
そのおかげで暗黒の森の侵食を防げているらしいんだけど……それはまぁ、別にどうでもいいかな?
で、魔力の強い人たちの枕元に立つのはいいんだけど、そういう人たちは大体腕っぷしにも自信がある人たちが多いからなのか、『なんだ!』『テメェ!』『殺す!』なんかを何度も言われるはめになったらしい。
見た目と言葉がチグハグだったのは、そこで覚えた現代語がそれぐらいだったから、ということみたい。
で、今度はそれらの単語でコミュニケーションを取ろうと頑張ってたんだけど、結果は……まぁ、私の失態で察せるよねって感じ。
もうどうしようもない、これは詰んだ、とか思いかけてたんだけど、そこに何とか言葉が理解できる私が登場。
事態は急転したというわけ。
で、現在はミリーちゃんに案内を頼んで、地下都市に通じる道を急いでる。
なお、ミニ山羊くんは置いてきた。
だって、足遅いんだもん……。
『ココ、オリル』
ダイヤモンド採掘場かってぐらいの巨大な螺旋階段をぐるぐる降りてくんだけど、途中で飽きて【レビテーション】で落ちていったら、『ソレ、デキル、サイショ、イッテ!』ってミリーちゃんに怒られた。
いや、先頭切って螺旋階段を降り始めたの、ミリーちゃんの方だからね?
私、それについてっただけだし。
で、なんだかんだ5分くらい落ちたら、穴の底に着いたので、そこからまた横穴を移動。
歩いてる間は暇なので、ミリーちゃんにも話しかけてみる。
「ちなみに、その巨大な魔石に魔力を補充するだけでいいんだよね?」
『ソウ、キケン、ナイ』
「で、魔力を充填できたら、地下都市にある施設は使いたい放題と?」
『トシ、スクウ、エイユウ、カンタイ』
うんうん。
ぼーっとしながら、魔石に魔力を充填するだけで、超文明の施設が使いたい放題というのはいいね。ダメ元で交渉してみたかいがあったってもんだよね。
なんなら、地上に出てる部分のバリアを大きくして、私の領地をちょっと広めたりもできたりして……むふふ、夢が広がるなぁ。
『ツイタ!』
うん。
私の目の前にはSFで見るような、銀色に光るスライド式のドアが存在してる。
ここまでが土剥き出しの洞窟だっただけに、ものすごい違和感だ。
とりあえず、近づいてみるけど開かない。
『マリョク、ハチョウ、トウゴウパターン、ナイ』
「じゃあ、どうすればいいの?」
『ジツリョク、コウシ?』
「なるほど」
私は【収納】からガガさんの魔剣を取り出すと、スパスパとその銀色の扉を細切れにして、その場に銀の瓦礫の山を築き上げる。
それと同時に、なんかブザー音のようなものが鳴り始めて、周囲から赤色灯がせり出してくるなり、回り始めたんだけど?
あれ? これ、マズくない?
『シンニュウシャ、ゲキタイシステム、ダウン、ワスレテタ』
「こらこらこら!」
キュラキュラキュラキュラ……。
古代都市の奥から、なんか自走砲を進化させたような警備ロボみたいなのが、わんさか出てきたんだけど!?
『ジツリョク、コウシ!』
「いいの!?」
『アトデ、ツクル、ナオス!』
タタタタタタッ!
うわ! 撃ってきた!
【野生の勘】のおかげか、すごく躱しやすいんだけど……危険性はないって言ってたのに! とはちょっと思うね……。
幽体になっても、凡ミスってするものはするもんなんだね。
『マセキ、マリョク、タメル、コッチ』
「というか、まずはこの侵入者撃退システムを止める方法を教えてよ!」
『ソレナラ、コッチ』
魔力でできた銃弾の雨に晒されながらも、私は道を塞ぐようにして集まってくる警備ロボを蹴散らしつつ、ただひたすらにミリーちゃんの後を追いかけるのであった。
====================
新年あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願い致します。
====================
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます