第132話
山際にもう少しで日が落ちそうという状態になって、ようやく例の洋館にまで辿り着いた。
今日から、ここが私の家だ!
……あれ、違うかな?
私の土地だから、その上に建ってる建物も接収する感じだよね?
だから、私の家でいいんじゃないかな?
でも、魔王には「魔王軍所属の飛竜隊の人たちに使ってもらってもいい」って言っちゃってるし、誰かがいる可能性もある。
なので、こっそりと洋館の扉を開けて、中を覗く。
「こんばんはー。誰かいませんかー?」
…………。
誰もいなそう。
それはそれで、例の幽霊が出てきそうで怖い。
私はパタンと洋館の扉を閉める。
いや、邪神になった私が幽霊を怖がってどうするのさ!?
ちょっと奮起して、頬をバシバシと叩く。
でも、やっぱり辿り着くなら、もう少し明るい内が良かったなぁ!
「そうだ! 一人だから怖いんだ! 眷属を呼んで賑やかにすれば、怖い雰囲気もなくなるはず!」
可愛い山羊を呼べば、きっと心が和んで、そんなに怖くなくなって洋館に入る決心もつくはずだよ!
そうとなれば、早速呼んでみよう。
「黒い仔山羊、召喚!」
私のMPが100ぐらい減って、地面に魔法陣のようなものが描かれたかと思ったら、そこからニュニュニュっと何かが出てくる。
天を衝くように多数に分かれた枝、悍ましさを表すかのように捻じくれ、より合わさった黒い幹、そして、その幹の下には自分の巨体を支えるためにぶっとい四本の脚が付いている。
うん。
歩く黒い枯れ木。
それが、黒い仔山羊を見た、私の率直な感想だ。
「仔山羊?」
「うご」
あ、喋るんだ。
そして、幹の中央部にでっかい口があるね。
閉じてると、ほとんど枯れ木だけどね。
そして、体を折って頭を下げてくれる。
さっ。
うん、枝がびゅーんって下りてきて危ないから、気をつけようね? 枝っていうか、触手?
「仔山羊って書いてあったから、てっきり山羊が生まれてくるもんだと思ってたんだけど……?」
「うご?」
足つきの枯れ木がクネクネしてる。
「これはこれで、可愛い……のかな?」
見ようによっては、フラワー○ックに見えなくもないよね?
…………。
……いや、無理だわ。
「――はっ!?」
そこで、私は気づいてしまった。
私がMPを消費すると黒の仔山羊という木(?)を呼び出せる。
それはつまり、MPの続く限り、何体でも召喚可能であり、別の言い方をすればどんな土地であろうとも自然を増やせるってことだ!
つまり、豊穣と多産!
…………。
私の思ってた豊穣多産と違う……。
こんなワケのわからない怪物を増やす豊穣の女神なんて、そりゃ邪神扱いされるよ……。
「ちなみに、山羊くん」
「うご?」
「君は何ができるのかな?」
「うご!」
私がそう疑問を発したら、山羊くん……木だけど……がバタバタと駆けていく。
あ、足に蹄がついてる。
……え、山羊要素、そこ!?
そして、洋館の外に向かって駆けていった山羊くんは、いきなりそこら中の木を傷つけ始めた!
え!? 自然が自然を破壊し始めた!?
そう思っていたら、今度は暗黒の森が動き出して、そこかしこから枝やら根っこやらが伸びてきて、山羊くんがボコボコにされてる。でも、山羊くんも負けずに頑張って破壊を続けてる?
なんか、思った以上に頑丈ってこと? それとも、もしくは結構戦えますアピール?
そして、倒した木とかを食べて回復して、また殴り殴られての泥仕合……。
結局、何ができるのかよく分からないんだけど……。
そんなことを思う私の目の前で、山羊くんはずっと戦い続けてる。
一方の暗黒の森は再生と数で抵抗し続けてる。
うーん。
「山羊くん、山羊くん」
「うご」
私が呼んだら帰ってきた。
なんか聞き分けのよいワンちゃんみたいで可愛いかも?
「ごめん、何ができるのかよくわからない」
「うご!」
またクネクネしてる。
いや、褒めてないからね? 照れてるの、それ?
「とりあえず、洋館に入るのが怖いから、ついてきて欲しいんだけど、ついてきてくれない?」
「うご!」
そしたら、山羊くんが枝のひとつで敬礼してくれた。
というか、それ本当に枝? すごく曲がるよね?
でも、この意味はわかるよ。『了解!』だ。
「それにしても、山羊くん、ちょっとおっきいね……」
サイズがね。ちょっと館に入るには大きいんだよね。そう思ってたら、山羊くんが私の言葉を理解したのか、グングンと縮んでいって小さな盆栽サイズの山羊くんになっちゃったよ。
なんでもありなのかな? この黒い仔山羊って?
「うご」
でも、これで一緒に入れるようになった。
私と山羊くんは、ひっそりと扉を開けながら館の中に入る。
もう、日も落ちかけてるから、室内は相応に暗い。確か、シルヴァさんは魔道具に魔石を嵌めてたっけ? 私もまずはそこから始めてみようかな?
まぁ、魔物族だから、それなりに夜目は効くけど……灯りが点いてないと怖いからね!
山羊くんと一緒に灯りの魔道具を探して歩く。どこにあるのかなー?
「うごうご」
こっちかなー?
「うごうご」
あれ? ないな? こっちか?
「うごうご」
凄い! 山羊くんのおかげで全然怖くない!
というか、むしろ癒やされてる!
私もうごうごしてみようかな?
「うごうご」
「うご?」
私が変な踊りを始めたんで、山羊くんが戸惑っちゃったみたい。ごめんね〜。
そして、ようやく灯りの魔道具らしきものを見つけたので、そこに魔石を放り込む。それだけで、徐々に館内が明るくなってきたね!
「よし、ここからが本番だよ! この屋敷のどこかに地下におりる階段か、隠し通路みたいなものがあると思うんだ! それを一緒に探すよ!」
「うご?」
「別々には探さないよ! そんなの怖いからダメだからね!」
というわけで、山羊くんと一緒に館の隅々まで調べてみる。
でも、やはり地下と言えるのは、小さなワインセラーだけ。
おかしいなぁ。そんなはずはないんだけど……。
「こうなったら、本人に聞いてみるしかないかー」
というわけで、幽霊ちゃんと出会った部屋へと赴く。
「うごうご」
うん、山羊くんが一緒だと緊張感が薄れていいね!
で、例の部屋までやってきたんだけど、そう都合良く幽霊ちゃんが居たりはしないみたい。
「少し待ってみようか?」
「うご」
ベッドの上に座して待つ。
山羊くんは部屋の中をうごうご言いながら、ウロついてるね。なんか、じっと見てたら、そういう踊る木って感じで見てて面白い。
「うご?」
「あ、何でもない、何でもない」
けど、この珍妙さは私の前だけなのかも?
さっきの山羊くんは、周囲に攻撃的に振る舞ってたしね。ただの変な生き物ってだけじゃなさそうかな?
しばらく、ぼーっと待ってみるけど、幽霊ちゃんは出てこない。
なんだろう? 何か条件がある感じかな?
というか、向こうから出てくるのを待つって非効率的だよね。
なんか、こっちからコンタクトを取れるスキルとかないかな?
スキル一覧でそれらしきものがないかと検索を使って調べてみたら、【霊感】ってスキルを見つけた。
これがあれば、ゴースト系のモンスターの姿をはっきりと捉えられたり、ゴースト系のモンスターが近くにいたら、知覚できたりするらしい。
なので、早速取得してみる。
▶【霊感】スキルLv1を取得しました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのバランスを調整します。
▶【野生の勘】スキルLv1を取得しました。
▶【虫の知らせ】スキルLv1を取得しました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのレベルバランスを調整します。
▶【霊感】スキルがLv10になりました。
▶【野生の勘】スキルがLv10になりました。
▶【虫の知らせ】スキルがLv10になりました。
▶中級スキル取得条件を満たしました。
【心霊術】がアンロックされます。
【天啓】がアンロックされます。
【操蟲術】がアンロックされます。
なんか、急にスキルが増えた上に新しいスキルが取れるようになったみたいだけど……。
ん? 【心霊術】?
引っ掛かったので確認してみたら、心霊現象を任意で起こしたり、霊との関わり合いが持てるスキルということがフレーバーテキストに書いてあった。
ラップ音とか、ポルターガイストを任意で起こしてどうするんだろうとは思ったけど、見ようによってはテレパシーとか念力のように使えるのだから、あっても悪くはないのだろう。
何より、【心霊術】があれば、霊と交流ができるようなのだ!
「よし、取ってみよう」
というか、さっきから【霊感】がレベル10になったせいか、ものすごく背筋がぞくぞくするんだよね。
山羊くんがここにいなければ、普通に逃げ出したいレベルである。
うん、山羊くんは偉大だね。
幽霊ちゃん、絶対、今室内にいるでしょ?
わかってるんだからね!
▶【心霊術】スキルLv1を取得しました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのレベルバランスを調整します。
▶【心霊術】スキルがLv5になりました。
おー。
見える、見えるよ!
山羊くんの動きに怯えて、部屋の隅で出るに出られない感じで縮こまってる幽霊ちゃんの姿が見える!
そして、【霊感】と【心霊術】を取ったからなのか、この間見た幽霊と本当に同一人物かってぐらいに、幽霊ちゃんが可愛い見た目に変わってるんだけど!?
水髪紅眼の白いドレス姿の小柄な女の子。
それが、山羊くんの動きにいちいちビクビクしてるのが、ちょっと可愛い。
「山羊くん、こっち、こっち」
幽霊もビビらせる山羊くんをベッドの近くに呼び寄せながら、私は「さぁて」と気合を入れる。
「この家の地下室も調べたけど、何も出てこなかったんだけど? あの指差しは一体何だったのか、教えてもらえるかな?」
これで、私がもらった領地に何もなかったら、どうしたらいいんだろう?
うーん。山羊くんたちを沢山呼んで、テーマパークでも作っちゃえばいいかな?
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