第131話

 司祭さんに案内されてやってきた進化の間。


 進化の間といっても、荘厳華麗ってわけでもなく、狭い石造りの個室の真ん中に、途中で斜めに断ち切られたような石柱が立ってるだけで、他には何もないみたい。


 これ、どうするんだろって思ってたら、司祭さんが説明してくれたよ。


「進化をする方法は簡単です。そこの石柱の上に片手を置いて下さい。そうすれば、大いなる神の声が聞こえてくるでしょうから、後は希望する進化先を選べば大丈夫ですよ」

「わかりました」


 その大いなる神って、絶対に邪神の類でしょ? 知ってる知ってる。


 というわけで、進み出て片手を柱の上に置いてみる。


 すると、目の前に進化先を選ぶためのコンソールウインドウが現れた。


 改めて確認してみるけど、この短時間で進化先が増えてるってこともなく、先程の一覧の中から選ぶことになりそうだ。


 まぁ、色々と考えたけど……。


 やっぱり未開の地を開発するって考えたら、アスタルト一択かなぁって思うんだよね。


 しかも、レイドボス報酬も消費するし……え? 消費するよね? それとも、素養だから消費しなかったりする? まぁ、よくわかんないけど、弱いはずがないと思うんだよ。多分。


 逆に、豊穣の効果が強すぎて、暗黒の森が活性化するかもという不安はあるけど……。


 まぁ、それはそれで珍しい素材も手に入りそうだから、いいんじゃない? と思ってる私が居たりする。


 というわけで、進化先はアスタルト。


 私は目の前のコンソールに意識を集中させて、アスタルトを選択する。


 ▶覚醒亜神デイダラの素養を消費します。

  よろしいですか?


  ▶はい/いいえ


 あ、やっぱり消費するんだね。素養と言いつつ、そういうアイテムなんだ。しん○るこころと一緒だね。


 というわけで、躊躇なく『はい』を選択。


 その瞬間、私の体から黄金色の光が溢れてきて――、


 ▶【バランス】が発動しました。

  今までの実績とのバランスを取って進化先を調整します。

  進化先【アスタルト】が【シュブ=ニグラス】に変更されます。


 ▶進化が完了しました。


 ▶馬車の中の収容物は全て一時ストレージへと移行されました。

 一時ストレージからアイテムを取り出して下さい。

 一時ストレージ内のアイテムは一週間以内に取り出さないと全て消滅します。


<全プレイヤーの中で初めて神へと至る者が現れました。>


 ▶全プレイヤーの中で初めて神へと至った偉業を讃えてSP10が授与されます。


 ▶今後ともLIAをお楽しみ下さい。


 わー。ワールドアナウンスだー。


 これ、私がやらかしたであろうことが一部に知れ渡っちゃう奴だー。ここで来るかー。

 

 …………。


 っていうか、おかしくない?


 何か進化したと思ったら、勝手に進化先が変更されたように見えたんだけど……?


 ははは、まさかね。


 心の中でステータスオープンと念じてみると……。


 名前 ヤマモト

 種族 シュブ=ニグラス

 性別 ♀

 年齢 0歳

 LV 1

 HP 4430/4430

 MP 4430/4430

 SP 116


 物攻 5372(+4929)

 魔攻 1313(+870)

 物防 458(+15)

 魔防 456(+13)

 体力 443

 敏捷 553(×1.25)

 直感 553(×1.25)

 精神 443

 運命 443


 ユニークスキル 【バランス】

 種族スキル 【地母邪神】

 コモンスキル 【鍛冶】LvMAX/ 【錬金術】LvMAX/ 【調合】LvMAX/【鑑定】LvMAX/ 【収納】LvMAX/【火魔術】LvMAX/【水魔術】LvMAX/【風魔術】LvMAX/【土魔術】LvMAX/ 【光魔術】LvMAX/ 【闇魔術】LvMAX/ 【料理】LvMAX/ 【ヤマモト流】LvMAX/ 【採掘】LvMAX/ 【採取】LvMAX/ 【細工】LvMAX/ 【革細工】LvMAX/ 【木工細工】LvMAX/ 【彫金】LvMAX/ 【彫刻】LvMAX/ 【釣り】LvMAX/ 【追跡】LvMAX/ 【逃亡】LvMAX/ 【魔鋼精製】LvMAX/ 【魔神器創造】LvMAX/ 【隠形】LvMAX/ 【隠蔽】LvMAX/ 【魔力操作】LvMAX/ 【魔甲】LvMAX/ 【状態異常耐性】LvMAX/ 【思考加速】LvMAX/【並列思考】LvMAX/【観察眼】LvMAX/【先読み】LvMAX/ 【中級鍛冶】Lv5/【中級錬金術】Lv5/【中級調合】Lv5/【火魔法】Lv5/【水魔法】Lv5/【風魔法】Lv5/【土魔法】Lv5/【光魔法】Lv5/【闇魔法】Lv5/【空間魔術】Lv5/【動作加速】Lv5/【状態異常無効】Lv5/【魔鎧】Lv5/【魔力感知】Lv5/【偽装】Lv5/【全体化】Lv5/【追駆】Lv5/【遁走】Lv5/【畏怖】Lv5


 うん、説明の通り、軒並みステータスが下がってるね――って、そうじゃない!


 やっぱり進化先が変わってるじゃん!


 しかも、【地母】ってどういうこと!? 私、そんなに悪いことしてないはずなのに、とんだ濡れ衣だよ!


 一応、種族欄を【鑑定】してみたら、シュブ=ニグラスとかいう種族の説明が出たね。説明によるとこんな感じ。


====================

シュブ=ニグラス

外なる神の一柱。

豊穣多産の女神ではあるが、その本質は闇であり、邪神信仰の崇拝対象でもある。

邪神と呼ばれる者の中では比較的話が通じ、人族には友好的である。

====================


 うん。


 とりあえず、豊穣多産の神になるという当初の目的は果たせたからいいのかな……?


 邪神信仰の崇拝対象というのが、ちょっと引っ掛かるけど……。


 それより、種族スキルの【地母邪神】って何なんだろう……。


 嫌な予感しかしないけど、【鑑定】してみるよ。


====================

【地母邪神】

・神は生物としての格が違うため、レベルアップ時に上昇するステータス値と、SPをステータスに振り分けた場合の上昇値が2→4へと上昇する。

・【地母邪神】は自身の体を自由に【肉雲化】させることが可能。

・【地母邪神】はMPを消費することで眷属である黒い仔山羊を召喚することが可能。

・望む者には最大HPを削ることによって恩恵を与えて不老にすることが可能。

====================


 ……なにこれ?


 いや、待って。


 急に見たことのない情報が沢山出てきて、普通に混乱してるんですけど?


「進化は上手くいきましたかな?」

「え? あ、はい」


 そして、司祭さんに急に話しかけられて驚くというね。


 というか、このまま進化の間を専有してるのもマズイかな?


 私は司祭さんにお礼を言って教会を後にすると、早速、【レビテーション】と【エアウィング】を使って、空へと浮かび上がる。


 で、誰もいないことを確認すると、そこで腕組みをしながら考え始めた。


 というか、なんなのアレ?


 アレが種族スキル?


 ユニークスキル並みに意味わかんないんだけど?


 まずは、レベルアップ時のステータス上昇値が2から4に増えたってことだけど、これは単純に嬉しい。


 私の場合、1レベルが上がるごとに全ステータスがバランスよく軒並み上がるからね。その上がる数値が普通に二倍になったんだから、単純な強化だよね。


 あとは、SP消費してステを上げた場合も、4上がりっていうのは、ステにいつもSPを振りがちな私にとってはオイシイかな?


 あと、よくわからないのが、自分の体を【肉雲化】させることが可能って点。


 わからない以上は、やってみようかな?


 そう思って、軽く左手の人差し指を【肉雲化】させてみたら……。


 うぁ!?


 指が一瞬で、ピンク色の肉の塊になったかと思ったら、あっという間に入道雲のように膨張し始めて、巨大な触手のように伸びていくんだけど!?


 昼間の王都に巨大な影を落とし始めたので、慌てて終了!


 戻る時は一瞬だった。


 ちょっとだけ「戻らなかったらどうしよう?」とか考えてたので、簡単に戻れるのは朗報だ。


 というか、何か本格的に邪神感出てきたね……。


 そんな風に呑気に考えていたら、遠くの魔王城から飛竜隊が飛び出してくるのが見えた!


 あれ、王都で平和を脅かし過ぎた……?


 うーん、こっちから近づくとドラゴンさんたちが怖がるかもしれないから、大人しく待ってようか。


 そうやって待ってるんだけど、ドラゴンさんたちは遠巻きにしてるばかりで、一向に近づいてくる気配がない。


 そんなに嫌わないでもいいじゃん……。


 とりあえず、私がここにいると事態が何も解決しなそうなので、さっさとおさらばすることにしよう。


 ここで、ずっとドラゴンさんたちと睨み合いを続けてても不毛だしね……。


 後で魔王には【遠話】で謝っておこうかな? そうすれば許してくれるでしょ、多分。


 というわけで、私は【エアウィング】を使って、一気に王都ディザーガンドを後にするよ。


 ちなみに、私が去っていった後の王都で、ちょっとした歓声が上がってたみたいだけど、気にしないことにする。


 うん。


 邪神が飛竜部隊に恐れをなして逃げていったって噂が立たないといいなぁ……。


 ■□■


 ドラゴンさんが頑張って片道二日を掛けた空の旅を、私は【エアウィング】でかっ飛ばしながらグングンと進んでいく。


 視界の片隅に表示されるマップの表示は、黒地に一直線に線が引かれただけといった状態なので、それを辿っていけば、まず迷うことはない。


 で、空を飛びながらも、私は自分の種族スキルについて悩んでいた。


 あと、残る特性はMPを消費して、黒い仔山羊を召喚することと、希望者に最大HPを削って不老を授けることの二つ。


 多分、邪神にも関わらず崇拝されてるのは、この不老を与えるって部分が大きいんじゃないのかな?


 というか、これを餌に人族の権力者とかを簡単に動かせそうなのがなんとも……。


『ふっふっふ、お前に永遠の命をくれてやろう。その代わりに、美味しいパフェを沢山貢ぐのだ!』

『ははーっ!』


 ――みたいな?


 え? なんでパフェなのかって?


 考えすぎて、甘いものが食べたくなってきたからだよ!


 後は、黒い仔山羊を召喚することだけど、山羊の子供でも召喚できるのかな?


 だとしたら、癒やし系だね!


 こんな空の上でやったら、大惨事になるだろうから試さないけども!


 それにしても、暗黒の森の上空は平和だ。


 こんな平和な森が、暗黒の森なんて呼ばれてるのが信じられないくらいには平和だよ。


 平和っていうか、落ちたらヤバイって空を飛ぶモンスターたちもわかってるんだろうね。


 だから、近づいてこないんだと思う。


 それだけ危ない森なんだけど、気にせず一人で空を飛んでる私。


 多分、こういうところが常識がないってことなんだろうねー。


 やっぱり、学園に行くのは必要なことなんだって思えてきたよ!

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