第127話

 ■□■


 日が暮れる前にようやく辿り着いたよ!


 魔王国王都! その名も、ディザーガンド!


 うん。シュバルツェンさんに教えてもらうまで名前すら知らなかったよ……。


 そういうとこが、六公につけいる隙を与えちゃうってことなのかな?


 うん、こっちの世界での常識が著しく欠如してる自覚はあるよ?


 でも、ゲームの1プレイヤーとしては、ゲーム内の設定なんていちいち真面目に全て把握なんてしないでしょ! って感じだ。


 凝る人は凝るだろうけど、私は楽しければそれでいい派だからね! 深い設定とか全然気にしたりしないよ! 楽しければそれで全てよしだよ!


 というわけで、ディザーガンドに着いた――と思ったら、そのまま魔王城にまで一直線で、魔王城の竜の発着場? みたいな場所で下ろされたと思ったら、そのまま魔王城の地下牢に連行……って、私は罪人じゃないんですけど!?


 シルヴァさんたちが慌てて、とりなしてくれたのでセーフだったけど、危うく牢屋にぶち込まれそうになったよ!


 恐るべし、魔王城!


 恐るべし、魔王軍!


 というわけで、シュバルツェンさんとはここでサヨナラ。今度会う時は、枯れ木のように痩せ細って死にかけてないといいね。


 ほら、魔王城勤めって恐ろしくブラックっぽいからさ……。


 そして、エンヴィーちゃんと共に案内されたのが、部屋全体が真っ黒に塗られた、なんか髑髏だとか黒山羊の頭だとか蛇の剥製だとかが飾られたおどろおどろしい部屋だ。


 正直、趣味が悪いと思っていたら、エンヴィーちゃん曰く、良く来たりする六公とかの権力者を待機させて威圧するために、あえて趣味の悪い部屋にしてるんだってさ。


 つまり、私も威圧されてる?


 エンヴィーちゃんに確認してみたら、魔王と面会する人はもれなく威圧されるそうなので、私だけが特別ってわけじゃないみたい。


 なお、威圧をされない部屋もあるようだけど、そっちは本当に何もないがらんどうとした部屋だけに、客人を待機させるには不向きなんだって。


「魔王城というと、訪問者も魔王城を求める人が多いんですよ。その辺は、城専属のコーディネーターといつも入念に話し合って、らしさを出そうと苦労してるところなんです」


 だから、なんというかこの魔王城は黒を基調として、おどろおどろしい雰囲気を出してるっぽいよ?


 そんなことをエンヴィーちゃんと話すこと一時間。


 ようやく魔王との面会の許可がおりたらしく、私たちは魔王城の謁見の間に向かう。


 案内役の兵士さんに先導されながら、魔王城のデザインを確認するんだけど、基本的には黒い壁に赤の絨毯の組み合わせで、ところどころに金で模様が描かれていたりして、はっきりと言って渋いデザインだったりする。


 ただ、黒地には赤が合うってのは確かで、そこに壁の一部とかに金で文様のようなものが描かれていると、何となく広大な空間を赤い絨毯の道を歩きながら、旅してる気分になってしまうんだよね。


 よくわかんないんだけど、緻密とか繊細とかそういうのじゃなくて、体感して凄いと感じる類のデザインだ。


 なので、私とはちょっとレベルが違うと感じるね。素直にすごいって思うよ。


「こちらの扉を開けてお進み下さい」


 というわけで、如何にも魔王がいますって言わんばかりの豪華で巨大な扉の前に案内された私たち。


 こういうのって、普通、兵士が開けるものじゃないの? とか思いながらも、軽々と開ける私。


「調べの扉を、こうもあっさり……四天王ポイントプラス1」


 いや、なに? その調べの扉って?


 なんか試されてた?


 改めてエンヴィーちゃんに聞いてみると、なんか、物攻や魔攻の高さによって、扉の重さが変わる扉らしくって、力のない人が開けようとすると、滑稽な姿を見せることになるらしい。


 普段は開けっ放しになってるんだけど、今回は新四天王の就任ってことで、その実力を見るためにも閉ざされてたっぽい?


 まぁ、魔王を前にして、ベラベラと喋ってるのも何なので、「やぁやぁ、おまたせ、おまたせ」とか言いながら、謁見の間に入ったんだけど……なんか場の空気が重い?


 あれ? 対応間違えた?


「公の場で無礼な! これだから、田舎者というのは!」

「この者が四天王に相応しいとは、とても思えませんな!」

「何より、我らを! 魔王様を! 軽んじ過ぎておるでしょう! こんな者が四天王などとは論外ですぞ!」


 あれ?


 魔王だけが待ち構えてるかと思ったら、なんか他にも人がいるね?


 あ、就任式だから、顔見せの意味合いとかもあるのかな?


 私はとりあえず、キョロキョロと辺りを見回す。


 目の前のデカ椅子に悠然と座って笑いを噛み殺してるのが魔王でしょ?


 左の壁際に並んで青筋浮かべてる三人が……豪華な、趣味悪めの服着てるし、多分、大臣とか官僚とかそういう人たちかな?


 右側の壁際で欠伸をしてる桃色の着物を着た紫髪の素敵なお姉さんは……この就任式に興味ないですって感じが凄くする。


 この人は誰だろう?


 エンヴィーちゃんと同じ秘書の人かな?


「魔王様! やはり、我々は反対です! こんなどこぞの馬の骨ともわからぬ者を急遽四天王に据えるなど!」

「そうですぞ! こんな礼儀も知らぬような田舎の野蛮人などに魔王軍四天王が務まりましょうか!」

「やはり、我らが推薦する者たちこそ、魔王軍四天王に相応しいと思いますが、如何か!」


 あ。


 この文句でわかった。


 この人たち、多分、六公の人たちだ。


 イコさんが引退したと聞いて、自分たちが推薦する四天王候補でも売り込みに魔王城に来たんじゃないかな?


 でも、もう四天王が決まってると聞いて、今度は新四天王に就任した私の粗探しをして引き摺り下ろそうとしてる感じ?


 うわー。


 すごいねぇ。地位や権力を手に入れようとする執念には、私もタジタジになっちゃうよ。


「あらあら。陛下が決めた事に口答えするなんて、どんな悪いお口なのかしら? そんな悪いお口なら要らないわよね?」


 綺麗な紫髪のお姉さんがそう言ったら、六公(仮)たちは即座に黙った。


 うん。六公が怯えてる。


 ということは、この人は秘書じゃなくて四天王どうりょうかな?


 とりあえず、ペコっと頭を下げたら、「いいのよー」と言いながら手を振ってくれたお姉さん。優しい。


「で、えーっと、魔王様? 私はどうすればいいのかな?」

「本当は就任の儀を段取り通りに進めないといけないんだけど、既に就任させてるからね。そういった儀式はやらないよ。はい、これ。就任しましたって証拠の書類。失くさないようにね?」


 というわけで、どういう原理なのか、書類が浮かんで目の前にまで飛んでくる。


 私はそれを受け取ると、そのまま【収納】の中へとしまい込んだ。


「読まないの?」

「確かめなきゃいけないようなことが書いてあるの?」

「別に書いてないからいっか」


 魔王も魔王でわりと適当である。


 で、就任自体は書類を渡して終わり。


 次は私に対する御褒美の件に移るんだけど……。


「なんだっけ? 土地とそこの自治権が欲しいんだっけ?」

「うん」


 適当な感じの私の返事に六公の苛々が募っていくのを感じる。


 でも、お姉さんが怖くて動けないみたい。


 そんなお姉さんは、さっきまで眠そうだったのに、急に楽しそうだ。六公をからかって遊んでるのかな?


「なんか希望する土地も言ってたよね? 静かな湖畔でのんびりと畑いじりがしたいんだっけ?」

「あ、それなんですけど。欲しい土地っていうか、場所があります」

「へぇ、心変わりしたんだ。どこかしら?」

「暗黒の森の中継地点ありますよね? あそこください」

「へ?」


 その場所は予想外だったのか、魔王が間の抜けた声をあげる。


 そして、それと同時に三人の六公が腹を抱えて笑い出した。


 え? そんなに笑うとこ?


「ひーひっひっ! これは腹が痛い! 暗黒の森の恐ろしさを知らぬから、そんな戯けたことが言えるのだ!」

「ブハハハッ! 暗黒の森は誰にも切り拓けぬことを知らんのか! 無知とはこれだから恐ろしい!」

「あんな狭い土地をもらってどうする! これでは、まるで萎れた老人の隠居暮らしではないか! クククッ……!」


 うーん。


 私は、あの女幽霊さんが気になってるんだよね。


 醜態を晒したってこともあるんだけど、絶対にあそこの地下には何かあると思うんだよ。


 けど、魔王軍で使っている土地は気軽に調べられないから、じゃあ土地ごともらっちゃえって思ったんだけど、ダメだったかな?


 魔王は六公みたいに爆笑してないけど悩んでるみたい。あまり芳しくない?


「あそこは飛竜部隊の中継地点として、重要な施設なのよねー。他の場所じゃダメ?」

「別に魔王軍の飛竜部隊が利用してもらっても構いませんよ。その他の所属の相手が来たら、馬鹿高い通行税を取るかもしれませんけど」

「なんだと!」

「それでは、魔王城に気軽に来れなくなるではないか!」

「それが狙いか!」


 六公は怒ってるけど、魔王は「それいいわね」と乗り気だ。


 けど、魔物族主導の他国のクーデターを収めたというわりには、褒賞が少し少な過ぎるってことなので、ならばと私はついでに条件を追加する。


「じゃ、暗黒の森と呼ばれる土地で、私の手が入った部分に関しては私の領地にする権利をください」

「まぁ、いいけど……。暗黒の森を切り拓くって凄く難しいんだけど、大丈夫?」

「えぇ、大丈夫です」


 これで、地下に切り拓いていっても私の領地になるね! やったー! 森が切り拓けないなら、地下施設を作っちゃえばいいじゃないの精神です!


 私がそんなことを思ってニヤニヤしてたら、また六公が爆笑してる。


 魔王もちょっと呆れ気味だ。


 でも、お姉さんだけは面白そうに……私を観察してる?


「やはり、凡庸な田舎猿! ここまで愚かとは! 腹が痛い! ヒー、ヒー、ヒー……!」

「過去、数千年に渡って誰も開拓できなかった歴史を知らんのか! 馬鹿もここまでいくと痛快だな! ブハハハっ!」

「こんな愚か者が四天王とは……四天王の名も地に落ちたものよ。ククク、いや失礼……!」


 いやぁ楽しそうだなー、六公の人たち。


 散々馬鹿にされてるけど、私は特に何とも思ってないよ?


 というか、あそこの地下に何かあるってほぼ確信してるし。


 リアルだったらこうはいかないけど、ゲームだからね!


 イベントがあった以上は何かあるって考えるのは当然だよ!


「それでは、これで魔王軍新四天王であるヤマモトの就任式を終わりとします。……あー、アトラとヤマモトはこの後、執務室まで来てもらえる? 四天王同士での顔合わせというか、お茶会でもしましょ」


 というわけで、六公には先に退室願って、私とアトラと呼ばれた紫髪のお姉さんは案内の兵士に従って魔王の執務室へと案内されるのであった。

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