第126話

 うん。ありていに言ってしまうと、これなんてバ○オなハザードの1の洋館ですか?


 暗い、怖い、雰囲気あるの三拍子揃いまくりじゃん! 勘弁してよ!


 しかも、微妙に調度品とかも豪華なのが、雰囲気に拍車をかけてる気がする! 嫌すぎる!


 私、ホラーはそんなに得意じゃないんだからね……? 本当、やめてほしい。


「少々お待ち下さい。今、魔道具に魔石を入れますので……」


 そう言われて待ってたら、徐々に館内に明かりが灯って明るくなってきた。


 こうして見ると、それなりに豪華な造りの屋敷なんだとわかるね。なんか権威ある偉い人とかが住んでそうな雰囲気だよ。


「放棄を決めた施設の割には、調度品や内装が豪華ですね」


 エンヴィーちゃんが事細かに施設内を調べながら、そんな事を言う。


 普段使いされてないのに、やけに豪華なのが気になってるみたい。無用な贅沢は切り詰めようとか、そんなことを考えてるのかな?


「暗黒の森が侵食してこない理由がよくわかっておりませんので、館の現状を保持せよというのが魔王様のめいになります」

「なるほど」


 この館の家具の配置とかが、たまたま暗黒の森の侵食を防ぐ防御魔法陣とかになってたりとか、そういうこともあったりするかもしれないから、内装自体に手を加えてはいけないってことらしいよ。


 一応、食堂とか客間は使っても問題ないことはわかってるから、その辺は自由に使ってもらってもいいらしいんだけど、なるべく使った後は、元の位置に戻して欲しいとはシルヴァさんに言われたね。


 というわけで、本日の晩御飯。


 ちなみにエンヴィーちゃんたちは、お昼は竜の背でレーションをモグモグしてたらしい。


 でも、食べかすを落とすと竜が怒るっていうんで、とても心休まらない昼食を摂ってたらしいね。


 私?


 私は【収納】に収めていた非常食用のバーベキュー串(ホカホカ)をシュバルツェンさんと一緒に満足するまで堪能してましたが、何か?


「すみません、ヤマモト様。男料理になってしまうのですが、こちらをお召し上がり下さい」


 厨房が使えるって言うんで、私が何か作ろうかー? って聞いたら、私の臭いが食材に移ってドラゴンたちに食べさせられなくなると困る……という謎の断わり方をされたんだよね。そのため、今回の料理に私は関わってなかったりする。


 で、大人しく食堂で待ってたら、出てきたのがまた具がゴロゴロと豪快に入ったスープと黒パンっていう簡単な組み合わせだった!


 それでも、レーションよりはありがたいってことなのか、兵士の皆さんは貪るように食べてるね。


 日本の自衛隊のレーションは美味しいって聞くんだけどねー。魔王軍のはそうでもないのかな?


 私は黒パンにスープをたっぷりと浸しながら柔らかくして食べるよ。まぁ、味は可もなく不可もなくってところかな?


 ちょっと、シュバルツェンさんとエンヴィーちゃんが残念そうな顔をしてこっちを見てるのは見ないことにする。


 そんな目で見られても困るってー。


 というか、このごった煮スープ。


 私たちのために作った、というよりはドラゴンさんたち用の食材の端材を使ってありあわせで作ったって感じが正しいのかも?


 だから、私に厨房に立たれるわけにはいかなかったんじゃないのかな。


 というか、ドラゴンさんたちは好きに食事をさせるために森に解き放ったらいいと思うんだけど……過去にそれをやったら、骨だけになっちゃったドラゴンさんが見つかって大問題になったんだってさ。


 だから、暗黒の森ではドラゴンを放すのは禁止なんだって。


 ドラゴンすらも食べちゃう暗黒の森!


 文字通り、何が潜んでるかわからない暗黒の世界っぽいね!


「それでは、ヤマモト様はこちらの寝室をお使い下さい。……重ねて申し上げますが、絶対に屋敷の外には出ないで下さいね?」


 というわけで、晩御飯の後に客間のひとつをあてがわれて、私はそこに押し込められてしまいましたとさ。


 なんというか、わりと腕自慢な魔物族がこの屋敷に来たりすると、遊び半分で森に出向いたりして、帰ってこない場合が多々あるらしいよ?


 しかも、それだけならいいんだけど、それが立場ある人だったりする場合には、探さないわけにもいかず、兵士たちに二次被害まで出るっていうオマケ付き。


 だから、絶対に森の中に行くなって、念を押してシルヴァさんは言ってたんだろうけど……。


 そんなこと言われちゃうと、天邪鬼な人は心理的に行きたくなっちゃうんじゃないかな?


 まぁ、私はシルヴァさんたちに迷惑がかかるってわかった時点で行く気はないんだけど……。


 うん、人に迷惑かけるのは良くないことだよね。うんうん。


 というわけで、あてがわれた寝室を確認。


 うん、ベッドは埃を被ってるってこともなく、それなりに新しい。


 ドラゴン部隊の人たちは、わりとこの洋館を頻繁に使ってたりするのかな?


 ちょっと他人が使った後のベッドって考えると気後れするけど……。


 とりあえず、匂いを嗅いでみよう。


 無臭……。


 というか、天日干しした後の香り?


 そういう、なんか、清掃用の魔道具? みたいな物で掃除した後だったりするのかな?


 それなら清潔なのかも……?


 まぁ、アバターだから、そこまで気にする必要はないのかもしれないけど……。


 ゴソゴソとベッドに潜り込む。


 うん、寝心地は良し。


 これなら、よく眠れそうだ。


 あ、そういえば、タツさんに連絡入れるの忘れてたから、一週間後にフォーザインで会おうってメッセージを入れておいてっと。


 …………。


 それにしても、まだ遅い時間じゃないから眠くないね。


 旅の疲れを取るためには、早めに寝なきゃいけないってわかってるんだけどなー。


 今日も色々ありすぎて、なかなか興奮して寝付けないよ。


 そんな感じで、ベッドの上でぼーっとしてたら、なんか急にぶるりと悪寒を覚えて、部屋の中に視線を巡らす。


 すると……。


『…………』


 なんかいるーっ!?


 見た目、半透明な女の幽霊みたいなのが、こうべを垂れた状態で部屋の片隅に立ってるんだけどぉ!?


 私はあまりの怖さにバサァッと布団を被って縮こまる。


 見間違えでありますように!


 見間違えでありますように!


 見間違えでありますように!


 三度、心の中で唱えて、掛け布団からちらりと頭を出してみたら……。


 部屋の真ん中にまで移動してるー!


 やだもー! やだー! そういう怖いのは無しって言ったじゃーん!


 女の幽霊さんが、じーっとこっちを見てくる中……長い前髪のせいでこっちを見てきてるかわかんないけど……私はまたもガバチョと掛け布団を被って身を隠す。


 なんか、そういう感じの雰囲気のある屋敷だとは思ったけどさー!


 ここで幽霊イベントはないんじゃない!?


 少し涙目になりながらも、私は掛け布団をそーっとずらしながら、外を確認する。すると……。


 ……いない。


 いなくなってた。


 ホッとしながら、掛け布団を跳ね飛ばして上半身を起こしたところで、部屋の中央じゃなくて、窓際の方から冷気を感じて、私は思わず振り返る。


 ぎょえわわわぁぁぁぁーーーッ!?


 いた! 背後にいた!


 ワープするとかダメじゃん!


 私はガチ泣きしながら、部屋の中央にまで転げるようにして逃げる!


 ダメだ! 驚き過ぎて、喉が張り付いたみたいになって、上手く声が出せない!


 私が泣きながらジタバタしてると、その半透明な幽霊は静かに指先を下へと向ける。


 なに? なにが言いたいの?


 下になんかあるの?


 掘れってこと?


 なんか言いたいってことは分かるんだけど……声が……あ、無理すれば少しだけ出そう?


「掘れってこと?」


 幽霊……よくよく見れば小柄な少女にも見えるそれは、私の言葉に小さく首を横に振る。


 掘れってことじゃない?


 でも、何かを伝えたいんだということはわかる。


 だって、さっきからずっと指で下をさしてるんだもん!


 そして、ベッドの上で立ち止まらないでよ!


 布団まで戻れないじゃん!?


「えーと、地下……?」

『…………』


 ぎゃあああぁぁぁーーーっ!?


 幽霊の少女が血走った目でこっちを見つめてきたよ! 怖い怖い怖い!


 でも、下を指さしていた動作をやめたってことは正解? なに? 地下室? 地下室がこの屋敷にあるの? そこを見つけてどうしろと?


 わかんない! わかんないけど、少女の幽霊が私の頭の中に何か強い念のようなものを送りつけてきて―ー……。


 殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス、殺ス――……。


 ぎゃばばばばぁぁぁあーーーっ!?


 血走った目で私にそれだけを告げると、ふっと消えるようにしていなくなったよ……。


 それと共に、自分の荒くなった呼吸音が聞こえてきて、私は少しだけ冷静になる。


「あ……」


 床が湿ってる……。


 いや、無理だよ! 何の心構えもなしに、急にあんなのに出てこられたら、なるでしょ! そんなの! 普通に心臓止まりかけたよ! 馬鹿じゃないの! このゲーム!


「くそぅ……」


 深夜にひっそりと床掃除を行うという屈辱……。こんなに情けない思いするなんて思ってなかったよ。そして、この機能付けた運営は絶許だからね!


 超泣きながら、床掃除をしてベッドに戻る私。


 布団の上でやらなかっただけマシだったかもしれないと、ちょっとだけ思ったのはナイショだ。


 ■□■


 翌日、シルヴァさんに聞いて、館の地下室に案内してもらったんだけど……。


 何の変哲もない小さなワインセラーだった。


 むむっ、そんなはずはない!


 あれだけの目にあって、こんな小さなワインセラーだけであるはずがないのだ!


 というか、それしかないというのは許されない! 私のプライドにかけて!


 ここに何かあるのかな……?


 調べようとも思ったけど、時間が足りない!


 というか、何かそういうオバケみたいなものが出ないのかって話をシルヴァさんに振ったら、思い切り表情が歪んだね。


 それ、絶対に心当たりがある奴だよね?


 なんで言わなかったの? ねぇ?


「いえ、相手はゴーストですから、四天王であるヤマモト様でしたら、一瞬で滅せられるかと思いまして……」


 そういえば、このゲームでは幽霊はモンスターだから討伐できるよって世界観だった。


 怖すぎて忘れてたけど……。


 というか、あの幽霊は何かを訴えかけてきたんだよね。襲おうって感じじゃなかったのはわかる。


 ものすごく怖かったけど……。


 ものすごく怖かったけどもっ!


 だから、単純に討伐していいような存在でもないんじゃないの……?


 これは、ゲーマーとしての勘だけど、なんかイベントが動いたような気がするんだよねー。

 

 もう少し、この屋敷を調べてみたいんだけど、それをするには時間がない。


 というわけで、私はちょっとだけ心にモヤモヤしたものを抱えながらも、檻の中に入って再び暗黒の森の上空を輸送されるのでしたとさ。

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