第125話

 クラウドホエール。


 巨大な雲の体を持つ、空飛ぶ鯨ということらしい。


 シュバルツェンさん曰く、クラウドホエールの背には大地が乗っかっていて、その大地の上には街があるんだそうだ。


 で、そこには天空人という背中に翼の生えた種族が暮らしてるんだって。


 クラウドホエールは、そんな天空人のペットであり、守護者らしくって、許可のない者が天空人の街を訪れようとした場合に、パクリと相手をひと飲みにしてしまうらしい。


 で、今回、私の膨大な魔力に気がついて、警戒のために目を開けたらしい。


 おかしいなぁ。


 【偽装】のレベルも5に上がってるはずなんだけど……。


 向こうの看破系スキルがそれよりも上ってことかな?


「だからまぁ、こっちから手出しせん限り、向こうから手を出してくることはありえんよ」

「そうなんだ。よかった」


 クラウドホエールの目が開いたのも束の間のことで、今はドラゴンさんたちの様子も落ち着いてるみたい。


 私が無害だって、クラウドホエールさんにもわかってもらえたってことだね。よかったよかった。


 それにしても、一瞬ヒヤリとしたよ。


 サイズだけで言えば、デイダラよりも圧倒的に大きかったからね。戦うとなったら無事に済むか分かんなかったし……何事も起こらなくてよかったよ。


 というか、私、四天王になってちょっと強くなった気でいたけども、まだまだLIAの世界は危険でいっぱいだね!


 調子に乗って足元掬われないように、もっと知識だとか、力だとかを付けなきゃいけないなぁ……。


「それにしても、下、ずーっと森ですね?」

「なんだ、暗黒の森を知らんのか?」

「暗黒の森?」


 なんだろう、その全然動物が住んでなさそうな森の名前は……。


 それとも酸性雨にイカれちゃった森なのかな?


 見た目が黒いから、暗黒の森って……だけじゃないよね。多分。


「ヤマモト殿は、千年程前に初代魔王がこの大陸の魔物族を統一し、魔王国という国を興したことは知っているな?」

「まぁ、それぐらいは」

「だが、それは正確ではない」

「んん?」

「魔王が統一したのは、大陸の外側。峻険な山脈に隔てられた海へと続く土地のみの話だ。大陸の中央部――この暗黒の森には一切関わろうとはしなかった」


 それって、大陸統一って言えないんじゃ?


 私の考えが顔に出てたのだろう。


 フッ、とシュバルツェンさんは息を漏らす。


「魔王が暗黒の森に手を付けなかったのは、現魔王の入れ知恵だと言われているがな。それは恐らく正解だったのだろう」

「と言いますと?」

「暗黒の森は生きている」


 植物にも命はあるんだーとか、そういうこと?


「ふむ、ヤマモト殿にも分かりやすく言うなれば、暗黒の森の植物は刈ったとしても、一日もせずに生えてくる。それに、火を放ったとしても森自体が生き物のように動き、自ら消火する。森そのものに生命があるかのようにな」


 なにそれ? 集団トレントの森か何か?


「しかも、暗黒の森に生息するモンスターたちは軒並み手強い。見たこともないようなバケモノがウヨウヨいると評判だ。腕自慢の者が暗黒の森に挑戦しようとして、三日ももたずに逃げ帰ってきたなんて話もよく聞く」

「なるほど。なんとなくの意味合いがわかってきました」


 暗黒っていうか、混沌?


 闇鍋的な意味合いだよね?


「ふむ、察しの通りだ。そして、この地には、特定種のモンスターが寄り集まり、魔物族へと進化して国を興している……などといった話もちらほらと聞こえてくる」

「あれ? じゃあ、この国には魔王国以外にも国があるんですね?」

「まぁ、実際に存在しているのか、滅びているのか、それともまた興っているのか、誰にも分からんがな。そのため、この大陸を魔物族の国と呼称することも多い。国が複数あるのか無いのかはわからないが、魔物族が治めていることには変わりはないからな」

「なるほど」


 魔物族の国や魔王国って呼称はあんまり気にしないで使ってたけど、明確に違いがあるんだね。勉強になったよ。


「それにしても、その様子だと少々マズイかもしれんな」

「? 何がです?」

「魔王軍の六公に、つけいる隙を与えるかもしれん」


 シュバルツェンさんの話では、魔王軍というのは魔王がトップで、その下に四天王というのがいて、更にその下に六公っていう魔王国の有力貴族がいるんだってさ。


 で、その六公っていうのが、とにかく権力欲が強かったり、お金が大好きだったり、戦争やらせろって言ったり、とにかく魔王にワガママを言っては困らせてるらしいよ?


 で、その六公というのが、どうも空席になりそうな四天王の椅子を狙ってたんじゃないかってシュバルツェンさんは言うんだよ。


「四天王は、肩書き的には魔王軍の二番目の地位になるからな。同じ六公たちに先んずるために、六公たちは誰もが四天王の地位を狙っていたはずだ」

「四天王って強くないと就任できないって聞いたけど、六公ってそんなに強いの?」

「別に六公本人が四天王にならなくてもいい。六公の息の掛かった者が就けば、問題はなかろう」

「なるほど。その席を私が横から掻っ攫っちゃったかー」

「六公はヤマモト殿から四天王の席を奪い返そうと、あらゆる手段を尽くして貶めようとしてくるだろう。その状況の中で、ヤマモト殿自身が無知であるのはあまりに危うい」


 え? 折角、四天王に就任したのに、いきなり解雇のピンチなの私?


「直接的な暴力でなんとかならない?」

「それは、逆に四天王の席を剥奪されても文句は言えないだろうな」

「ダメかー」

「まぁ、魔王様もヤマモト殿の現状をこれで良しとは思うまい。何らかの手は打つはずだ」

「じゃ、期待しないで待つことにするかなー」


 それにしても、魔王軍四天王……意外と厄介な立場なのかもしれないね。


 ■□■


 山際がオレンジ色に照らされ始めた頃、ようやくドラゴン部隊が高度を落とし始めた。


 どうやら一日目の野営地点へと到着したらしい。ここで一泊して、また明日長距離フライトを行えば、明日には魔王国の王都に着くそうだ。


 そんな話をシュバルツェンさんと話しながらも、私はずーっと【まねっこ動物】で手に入れた他人のユニークスキルと、自分の手持ちを見比べて、何を入れ替えるかずっと悩んでいたわけなんだけど……結局、こんな感じになったよ。


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【まねっこ動物】

 見た感じのなんとなくで技を再現する。

 だが、技の根本を理解していないため、覚えた技は本来の力の半分程度しか出せない。


 ①【魔力浸透激圧掌(カッコだけwww)】

 ②【見た感じ魔道王】

 ③【半狂神降臨】

 ④【魔剣融合っぽいもの】

 ⑤【わりと雷帝】

 ⑥【灰棺】

 ⑦【そこそこ巨大化】←New!

 ⑧【半我の境地】←New!

 ⑨【半殺技】

 ⑩【少しだけ衆中一括】

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 入れ替えして新しくラインナップに加わったのが、【そこそこ巨大化】と【半我の境地】の二つ。


 そのスキル説明は以下。


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【そこそこ巨大化】

 スキル使用者が触れているもの、もしくは使用者自身を巨大化できる。巨大化されたものは相応の質量にまで増大する。最大倍率は、(物攻÷20)倍まで。

 また自身を巨大化した場合は、スキル解除するまで他のスキルを発動することができなくなる。

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【半我の境地】

 10分間、ぼーっとし続けることで最大HPと最大MPの5割を回復することができる。

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 【そこそこ巨大化】は、これ、戦闘だけじゃなくて、食料の巨大化とか希少な鉱石素材の巨大化とかにも使えるんじゃない? と思って取ったよ。汎用性ありそうなのは、わりとありがたいよね。


 そして、【半我の境地】はデイダラ戦の反省を活かしてね……。


 10分間ぼーっとしてるだけでMPが五割も回復するとか、【魔神器創造】を使うのにも便利だし、使い勝手が良さそうだからね。つい取得しちゃったよ。


 私の【まねっこ動物】のレパートリーとしては、これで大体完成かなーとは思ってるんだけど、また強力そうなスキルを見ちゃったら入れ替えもあるかもしれない。


 でも、なんでもかんでも取得しようとするのは邪魔くさいので、一応、オプションで通知はオフにしておこう。ログには残るから、後で欲しくなったら取得はできるけどね。


 と、ずしんと揺れて地面に到着〜。


 何にもない、森のど真ん中で野営するのかなぁと思っていたら、何か眼前に立派な洋館……といっても半分くらい破壊されてる……があるね。


 どういうこと?


 檻の鍵を開けにきたシルヴァさんに聞いてみたら、その昔、ここに少しだけ開けた空き地があったから、魔王軍の中継基地を作ろうとして街を築いたことがあるんだってさ。


 けど、森に棲むモンスターやら、植物の攻勢やら、森に潜む謎の勢力やら(?)に襲われたりして、作った外壁やら街並みが尽く破壊されちゃったらしい。


 で、魔王軍はこの場所の放棄を決めたんだけど、何故かこの屋敷だけはモンスターにも襲われず、森にも侵食されずに残ってるんだってさ。


 だから、竜で暗黒の森を横断する場合には、この屋敷を中継地として、一泊休んでから出立するようにしてるらしいよ。


 なんだろうね? なんで、この屋敷だけ襲われないんだろうね?


「何でも元々の小さな空き地があったのが、この屋敷の建っていた場所だったとか……。それと、何の因果関係があるのかはわかりませんが、森もこの森のモンスターたちもこの屋敷だけには手出しをできないようです」

「不思議なこともあるもんだねぇ」

「毎回、暗黒の森の上空を通る時に、この館に寄るのは設備の点検や巡回を兼ねていたりもするんですけどね。……開きました。それでは行きましょう」


 というわけで、シルヴァさんたちに案内されながら、私たちは半分朽ちた洋館へと足を踏み入れるのであった。

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