第124話

 ■□■


 港町セカンに辿り着き、そこから船に揺られること三日……。


 ついに、私は魔王国へと帰ってきたぞー! おー! 


 というわけで、フォーザインの港に着いたわけなんだけど、そこでいきなり厳つい鎧を着た兵士の集団に囲まれてしまう私。


 え? なんか悪いことしたっけ?


 そんなことを思っていたら、先頭の兵士が深々と頭を下げてきた。


 どうやら、タイーホというわけではないらしい。


「ヤマモト様ですね? 初めまして。私は魔王軍飛竜部隊隊長のシルヴァと申します。魔王様より、シュバルツェン殿の身柄を王都まで護送する命を受けて参じました。以後、よろしくお願いします」

「あー、どもども。四天王のヤマモトです。魔王様からの命令で護送ってことは、ここでシュバルツェンさんを引き渡せばいいのかな?」

「魔王様は、ヤマモト様との面会も希望されておりましたので、出来れば御一緒に同行願いたいのですが……。あと、エンヴィー様にも帰還命令が下っていますので、ご同行をお願いできますか?」


 どうしよっかなー。


 私、クライアントとはリアルでは会わないタイプなんだよねー。仕事のやり取りとかは全部ネット上で済ませちゃうタイプなんだ。


 でも、魔王国の王都ってのも、一度行ってみたくはあるんだよねー。


 確か、昔、ガガさんが駆け出しの頃にそこで仕事してたみたいなことを言ってたから、ちょっと見てみたい気持ちはあるんだよね。


 うーん、どうしよ……。


 行ってみよっかなー?


「そんなに長い時間、拘束されないよね?」

「魔王様は、顔合わせと正式な任命書類の授与、そして報酬についての話し合いと言っておりましたので、一日もあれば終わるかと思います。まぁ、移動に二日必要ですが」

「そうなんだ」


 こっちに帰ってきたら、タツさんと連絡取る約束もしてたんだけど、わざわざ護衛付きで送ってくれるっていうんなら、送ってもらった方がいいのかも?


 タツさんには、一週間後に落ち合う旨を連絡しておけばいいでしょ。


 装備の新調くらいなら急ぐ話でもないでしょうし。


「送ってくれるって言うのなら、私は行ってみるよ。ツナさんはどうする?」

「俺は久し振りに海の幸を補充したいから、しばらくフォーザインにいることにする。どうせ、すぐに戻ってくるんだろう? 戻ってきたら連絡くれ」

「わかった」


 自ら魔境に足を突っ込んでいくツナさん。


 これ、またパワーアップするんじゃないの?


 というわけで、ツナさんとはここでお別れ。


 まぁ、五日後には合流すると思うけどね。


 で、シルヴァさんに連れられて、街から離れて、フォーザインの外れにある崖の近くにまで進んでいくんだけど……。


 魔物族のプレイヤーは私の姿を見ても特に驚いたりだとか、指をさしたりだとか、そういったリアクションを見せることはないみたい。


 ちなみに、セカンからの船に乗った時は、人族のプレイヤーから声をかけられたり、アドバイス下さいとか、握手して下さいとか、色々あったんだけどねー。


 まだ、こっちの方ではそんなに有名人として浸透してないっぽいね。


 まぁ、そっちの方が動きやすくていいんだけど……。


 でも、ちょっと寂しかったりするのは何だろうね? 承認欲求の賜物かな?


 あと、余談として、レイドチャットを通してなのか、人族プレイヤーからのフレンド申請のDMがめちゃめちゃ来たんだよねー。


 でも、知らない人とフレンドになるのは怖かったので、アイルちゃんとミタライくんとだけフレンドになることにしたよ。


 よろしくねーって書いてDM送ったら、ミタライくんからは丁寧な感じで、ありがとう、これからもよろしくみたいな爽やかな返事が返ってきたんだけど、アイルちゃんからはすっごい長文の返信が返ってきたので、頭の三行くらい読んでそっ閉じしたよ。


 何だろう、凄い熱量だったよ。


 よくわからないけど……。


 うん、まぁ、でも、ちょっとずつでもお友達が増えてるのはイイコトだよね!


「こちらです」

「おぉー! 竜だー!」


 連れてこられた場所は崖下の広い草原。


 そこに巨大な竜が何頭も寝っ転がってる!


 凄い! 竜だよ! 初めて見たよ!


 ちなみに、恐竜は見たことがあるけど、ファンタジーな竜は初めてなんだよね!


 クリスタルドラゴンさんはドラゴンっていうより素材や美術品って感じだったし……ちゃんとした竜って感じのは初めてだよ!


 思わず興奮してスクショを何枚も撮っちゃう私! ちょっとミーハーです!


 私がはしゃいでいたからなのか、なんなのか。


 眠っていた竜たちがもぞもぞと動き出す。


 口からグルルル……なんて低い声を出しちゃうあたりも本格的(?)だねぇ。


 そんな風にしげしげと観察してたら、起き抜けの竜の一頭と目があった。


「…………。ギュ……、ギュゥゥゥンン……、ギュゥゥゥンン……」


 あれ?


 私と目が合った瞬間に腹を上にしてひっくり返り、甘えたような声を上げてくる一頭の竜。


 それに気づいたのか、他の竜も次々にお腹を見せ始めるんだけど……あぁ、そっか!


 この竜たちは魔王軍でしっかりと調教されてる竜なんだね! だから、人間に慣れてて、こうやって甘えてくるみたい!


 よーし、よしよし!


 私はム○ゴロウさんばりに、竜たちとスキンシップを取ることにするよ!


 こうやって、お腹とか首元とかを撫でて上げると喜ぶんでしょ?


 私が丹念に竜とスキンシップを取っていると、シルヴァさんたちが集まってコソコソと相談する声が聞こえてくる。


「速度特化型のスカイドラゴンとはいえ、プライドの高い竜種がいきなり恭順の意を示したぞ……」

「俺たちが餌をやる時でさえ、あんな態度は示さないのに……」

「何が恐ろしいって、普通に逆鱗を撫でてるのにドラゴンがキレないことだ……」

「普通、怒り狂って村や森を焼くまで気が収まらないはずなのに……」

「それどころか、無理して楽しそうに振る舞ってるのが辛そうだ……」

「それだけ、相手が恐ろしいと野生の本能で感じ取ったんだろう……」

「流石、魔王軍四天王……。恐るべし……」


 いや、知らなかったんだよ!


 お腹見せてるのって、甘えてるんじゃなくて、降伏って意味だったの!?


 あと、いつの間にか、私って逆鱗を撫でてたんだ!? それって、竜にめっちゃストレス与えてるってことじゃない!?


 もしかして、このスキンシップの方法が根本的に間違ってるのだろうか……?


 あれは、ム○ゴロウさんにしか許されないスキンシップ方法ということだったりするのだろうか? ……謎だ。


「ご、ごめんね? わざとじゃないんだよ? わざとじゃ?」


 スキンシップをしていた竜から私が離れると、遠巻きに見ていた竜たちが私がスキンシップを取っていた竜のもとにまで集まってくる。


 そして、竜同士でクルル、クルルと語り合っては私の方をチラチラと見ては、また竜同士で語り合いを始めてるんですけど……。


 いや、なんか、私が竜をイジメたみたいになってない?


 そんなつもり全くなかったのに!


「ドラゴンすらも涙目……四天王ポイントプラス1」


 エンヴィーちゃん、それは誤解だよ!


 ドラゴンさんたちも、なんか、ほら、私の力を誤解したとか!


 勘違いしたとか!


 きっとそんな感じで怯えてるだけなんだよ!


 決して、私が原因で怯えてるわけじゃないんだよ!


「ちなみに、お前たち。この人を背中に乗せる必要があるんだが……誰か乗せてもいいという奴はいるか?」


 シルヴァさんがそう聞いたら、ドラゴン同士がガチ喧嘩を始めたよ!


 よっぽど私を乗せたくないらしいね!


 いや、なんでそこまで嫌われるの?


 泣いちゃうよ、私?


「まぁ、誰も背中に爆弾乗せて、空飛びたくなんてないですよね……」


 エンヴィーちゃん、それはそうかもしれないけど、もっとオブラートに包んで言って欲しいかな!?


 ■□■


 結局、どの竜もガチのマジで一歩も譲らず、本気の殺し合いに発展しそうになったため、私は竜の背中に乗ることを諦めざるを得なかった。


 仕方ないので、【わりと雷帝】で竜と並走して空を飛ぼうかなーとも思ったんだけど……。


 それはそれで、「竜が怖がるのでやめて下さい!」とシルヴァさんに泣いて懇願されたので、諦めざるを得なかった状況だ。


 結果、私は何故かシュバルツェンさんと一緒に檻の中に入りながら、空の散歩を楽しんでいる。


 ちなみに、魔王軍では、罪人を遠方まで輸送するのに特殊な金属でできた檻に放り込み、その檻の四方に伸びた鎖を竜に持たせて、編隊飛行を組みながら運んでいくんだってさー。


 つまり、現状の私の扱いは罪人と同じレベルってことだね。


 いや、タイーホと同じじゃん!?


 失礼しちゃうよ! プンプン!


「ふむ、御機嫌斜めのようだが、私は君と一緒で非常にラッキーだったと感謝しているところだよ」


 そう言って、シュバルツェンさんは微笑む。


 まぁ、この檻――足元の床以外は全部格子で出来てるからね。


 高速で空を飛んでいると、吹きさらしというか、風が冷たいのなんのって……ねぇ?


 まぁ、罪人に対する人権とか全然考えてない造りなんだから、当然といえば当然なんだけど、あまりに横風が酷いもんだから、【風魔術】レベル2の【エアボール】を使って、風の影響を緩和したら、シュバルツェンさんにやたらと感謝されちゃったよ。


 ちなみに、ドラゴンに乗ってるエンヴィーちゃんの方は、ドラゴンが勝手に【風魔術】を使うから、そんなに激しい気流の流れとかは感じないらしいよ。


 なんか不公平感が半端ないね!


「ちなみに、温かいお茶でも飲みます?」

「用意できるのか? なら、いただこう」


 というわけで、何故か檻の中でほっとひと息ティータイム。


 今回はドリンクボックスを【収納】から取り出して、煎茶を振る舞うことにするよ。


 というか、私が飲みたかっただけなんだけどね。


 はー。ほっとするー。あったまるー。


「これは……なんというか、気の休まる味だな……」

「そうですねぇ。よくよく周りを見てみれば、澄んだ青空に巨大な入道雲を見ながら、一服できるっていうのもなかなか乙なもんですよねー」


 檻を運ぶ竜の編隊はぐんぐんと力強く空を飛んでいる。


 下には、真っ黒に見える生い茂った緑がずーっと続く光景が見えるけど、文明らしき姿というものが全く見えない。


 どうやら、王都はまだまだ遠いようだ。


 私がそんな景色を堪能していたら――。


 ずっ……。


 と、入道雲に大きな切れ目が横に走り、ゆっくりと縦に開いていく。


 そして、その切れ目から現れたのは、だ。


 ぞわわわっと、私の背に悪寒が走ると同時に、私は思わず檻の隅にまでカサカサカサと退避するよ! ナニアレ! 気持ち悪い!


「バッ○ベアード!?」

「クラウドホエールの目だな。開くことは滅多にないと言われているが……珍しい。ヤマモト殿に挨拶でもしているのか?」


 いやいやいや、シュバルツェンさんは、何でそんなに冷静なの!?


 というか、私だけじゃなくて、ドラゴンたちも恐慌を起こしてるじゃない!?


 頼むから落ちないでよね!?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る