第122話
目の前にレイドボス討伐のシステムウインドウが出たと思った瞬間に、そこら中にいたデイダラの配下たちが泥となって、湖底へと沈んでいく。
それと共に上がるのはプレイヤーたちの歓喜の声だ。
よっぽど辛かったんだろうねぇ……。
いや、私も結構苦戦したんだけども!
けど、どうせなら、喜びはみんなで分かち合いたいものだ。
私は【収納】から【蘇生薬】を取り出すと、ミタライくんが死んだ地点にカーソルが出ていたのでそこへ向けて、ポイっと投擲する。
すると、カーソルの場所で【蘇生薬】が割れてポリゴンが寄り集まると、ミタライくんの姿を成したね。
うん、そして、もの凄く辛そうな顔。
まぁ、私の【全体化】が発動すると【蘇生薬】でもHPが半分しか回復しないからね。
もの凄く苦しそうなのはデフォルトだよ!
しかも、ひゅーんと落ちてくし。
仕方ないので先回りして、ミタライくんの手を掴む。
「はい、【オーラヒール】」
「す、すまない」
もちろん、私の行動は【全体化】し、その場にいたであろう味方全員に効果が及ぶ。
そこかしこで、死んだと思われていたプレイヤーが蘇り、即座にHPが全快になって怪我が治ったものだから、そこら中で狂喜乱舞の大騒ぎだ。
うんうん。素晴らしい光景だね。
それを見ていたミタライくんは口をあんぐりとさせて驚いてるけど……まぁ、ほとんど正体バレもしてきてるし、ここで自重する意味もないでしょ。
「橋の上に下ろせばいい?」
「え? あぁ、お願いするよ……」
というわけで、ミタライくんを橋の上に送り届けて、SUCCEEDのメンバーと会わせる。
そういえば、第二王子も傷が癒えたのか、いつの間にか姿を消してるね。
というか、私はまだ色々とやらなきゃいけないことが多いんだよ!
マリスの件もそうだし! シュバルツェンさんの件もそうだし! あとエンヴィーちゃんはどこ行っちゃったのかって件もそうだしね!
とりあえず、エンヴィーちゃんのことはツナさんに聞けば分かるかな?
「ヤマモトさん!」
「ん?」
あ、ミタライくんの呼び掛けに普通に反応しちゃったよ。
まぁ、もういいかなー。
「ありがとう。君がいなかったら、多分クリアできていなかった。本当に……本当にありがとう!」
「なに、いいってことよー」
鼻の下を擦りながら言ってみる。
まぁ、私がレイドボス戦に参加したのは、ほとんど巻き込まれたようなものだから、偉そうなことは言えないんだけどね。
みんなが歓喜の渦に湧いてる中、ツナさんはどこにいるのかなーと空中から捜索する私。
そしたら、湖にぷかりと浮いてるラプーに乗ってるツナさんを見つけた。
まぁ、誰とも喜びを分かち合ってないあたりがツナさんらしいといえば、ツナさんらしいよね。
「ツナさんー」
「どうした、ゴッド?」
「聞きたいことがあって……ん?」
私がツナさんにコンタクトを取ったところで、目の前のシステムメッセージの表示が切り替わる。
え、何? なんかいつものモンスター退治とは違う感じ? ちょっと見慣れない表示が現れたよ。
▶レイドボス戦の集計が完了しました。
▶リザルトを発表します。
討伐時間:SS (01:46:27)
参加人数:B (897人)
死亡人数:A (324人)
総合評価:S
Sランク評価のため、特別報酬が参加者全員に配布されます。
▶選べるレイドボスギフト引き換え券(上級)を3枚入手致しました。
おー。なんかアイテムがもらえたね。
選べるってことは、複数の種類から欲しい物が選べたりするのかな?
「なんかもらえたな」
「もらって嬉しい物だとありがたいね!」
「あぁ、食べ物だと、なお良しだな」
ツナさんならそう言うと思ってたよ!
▶レイドボス戦個人賞を発表します。
・一撃必殺にも程があるで賞
ミタライ
・手数が多かったで賞
匿名希望
・みんなの役に立ったで賞
さゆりん
・おいしいとこ取ってったで賞
ゴードン
・ふざけた奴で賞
マリス
▶レイドボス個人賞を獲得しました。
SP15が追加されます。
お、SPが15ももらえた。ありがたいねー。
しかし、ふざけた奴で賞って……昔のゲームのオマージュかな?
ちなみに、一撃必殺にも程があるで賞は最大ダメージで、手数が多かったで賞はトータルダメージかな? で、みんなの役に立ったで賞はサポート評価? おいしいとこを取ってったで賞はラストアタックボーナスってところだろうけど……。
ふざけた奴で賞はなんなんだろうね?
戦わずに逃げたとかかな?
▶総合個人ランキングを発表します。
1位:匿名希望 910,153pt
2位:ミタライ 472,216pt
3位:匿名希望 49,374pt
4位:ゴードン 22,765pt
5位:ささら 20,863pt
:
:
▶総合個人ランキング1位を獲得しました。
SP30が追加されます。
覚醒亜神デイダラの素養を獲得しました。
覚醒亜神デイダラの素養?
なんだろう? なんか素材的か何かかな?
まぁ、貰えるならもらっとこうっと。
「途中参加だったが、三位に滑り込んだか」
あ、三位の匿名希望ってツナさんだったんだ。
まぁ、他の人たちはまともにダメージも通ってなかった人たちも多かったし、そういう意味でいえば、プレイヤーの中でまともに削れてたのはミタライくんとツナさんだけだったので、順当といえば順当なのかもしれない。
というか、ツナさんが普通に強いんだよね。
そんなに海の底というのは魔境なんだろうか……。
「おめでとー。あ、聞きたかったんだけど、エンヴィーちゃんはどうしたの? 村に置いてきた?」
「王城に置いてきた」
「え? なんで?」
「足手まといだったからな」
「そっかー。よくわかんないやー」
まぁ、王城には私も用があるし、一緒に探しに行けばいっか。
▶レイドボス『太古の亜神デイダラ』を初討伐しました。
SP10が追加されます。
▶称号、【亜神殺し】を獲得しました。
SP5が追加されます。
▶称号、【伝説の勇者】を獲得しました。
SP5が追加されます。
▶称号、【巨人族殺し】を獲得しました。
SP5が追加されます。
▶経験値1245791を獲得。
▶褒賞石575026を獲得。
▶全部で3047の素材を獲得。
▶ヤマモトはレベルが7上がりました。
▶【バランス】が発動しました。
取得物のバランスを調整します。
▶褒賞石670765を追加獲得。
▶全部で1731の素材を追加獲得。
▶【火魔法】スキルがLv5になりました。
▶【風魔法】スキルがLv4になりました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのレベルバランスを調整します。
全ての中級スキルがLv5になりました。
うわぁ……。
苦戦しただけあって、また派手にレベルやスキルレベルが上がったねぇ。
この戦闘に参加してたプレイヤーのみんなも軒並み能力が上がったのか、そこら中で嬉しい悲鳴が聞こえてくる。
これで、ゲームの攻略も、デスゲームの攻略も進んでくれるとありがたいんだけど……どうなることやら。
「じゃあ、とりあえず、エンヴィーちゃんとシュバルツェンさんを迎えに王城に行こうか」
「シュバルツェン?」
「今回のクーデターを起こした張本人かな? その人を魔王に引き渡さないといけないの」
「ふむ、悪い奴だな」
悪い奴なのかな?
まぁ、元凶であることには違いないかも?
あぁ、あと言い忘れてた。
「それと、ツナさん」
「なんだ?」
「私、魔王軍四天王になったから」
「そうか」
「……あんまり驚かないんだね?」
「むしろ、俺はゴッドはゴッドになると思っているからな。魔王軍四天王というのも束の間のものだろう」
ゴメン、ちょっと何言ってるのかわからない。
まぁ、ツナさんと私の仲だし、細かいところを聞いても仕方ないでしょ。
とりあえず、未だに盛り上がり続けているプレイヤーたちに気づかれないように、こっそりと王城内に侵入しようとする。
――が、どうやら、黒棺の人にはバレてたらしく、普通に王城前の城門で道を塞がれちゃったよ。
うーん。もう一度シャンプーとかで懐柔できないかな?
「許可のないものを、これ以上先に通すことはできん」
「えーと、知り合いが中にいるんで、どうにかなりませんかね? シャンプーもオマケで付けますし……」
「どうにもならん」
にべもないね!
「えーと、初代勇者が倒し損ねたバケモノを倒した救国の英雄の頼みなんですけど? ダメですかね?」
「そう言われると断りづらいが……駄目だ」
断りづらく言ってるからね!
けど、ウンとは言ってくれないね!
私と黒い人が城門前で押し問答を繰り広げていたら、どこかで見た顔が出てきたよ。
あ、第二王子だ。やっほー。
「とっととコイツらを連れて行け。そして、貴様は二度と王国にやってくるな」
「あ、ヤマ様! よかった、無事だったんですね!」
「…………」
そう言って、王城から追い出されたのはエンヴィーちゃんとシュバルツェンさんだ。
良かった。二人共無事っぽいね。
シュバルツェンさんは頬が腫れてるけど、本当に第二王子に殴られたのかな? まーた、青春映画みたいなことしちゃってー。
青いねー。
ま、五百年以上生きてる人に言う言葉じゃないのかもしれないけど。
「ま、気が向かない内は、やってこないと思うから安心して」
「ふん、一生来るな! お前は俺にとっての疫病神だ! 貴様の面なんぞ二度と見たくない! さっさと去れ! おい、ツヴァイ。今回の国内での混乱の件でエリック兄上より話がある。ついてこい」
「……わかった」
なんか、こっちをチラチラと見て気にしてたようだけど、ツヴァイと呼ばれた黒いオールバックの人は、素直に第二王子に従って王城の中へ入っていく。
ここで、試しに王城の中に潜入したら面白いことになるかもしれないけど、あんまりアホなことやってるとエンヴィーちゃんから魔王に報告されちゃうかもしれないからねー。自粛しよっと。
「事実上の国外追放か」
「そうなるのかな?」
そう言われると、そうなのかもしれない。
私、そんなに悪いことしたかなぁ?
まぁ、いっか。
素材も散々取ったし、身バレもしちゃったし、今は魔物族の住む大陸に戻りますかねー。
「あっさり他国の王族から国外追放処分を受ける。四天王ポイントプラス1、と」
そういえば、これもエンヴィーちゃんに伝えないといけないね。
「あ、エンヴィーちゃん。私、さっき魔王から任命されて、正式に魔王軍四天王になったからよろしくね。エンヴィーパイセンって呼んだ方がいい?」
「ふえぇぇ!?」
ちょっと驚いて、そして小さく「私の努力って一体……」とか言い始めるエンヴィーちゃん。
第二のシュバルツェンになったりしないといいけど……。
あぁ、それと、彼女たちの様子も見に行かないといけないね。
「ちょっと寄りたいところがあるんだけどいい?」
「構わんぞ」
「私も別に構いません」
「私に何かを意見する権利があるのかね」
「無いね。じゃあ、行こうか」
誰も反対しなかったので、【レビテーション】と【エアウィング】を重ねがけして、全員で空に浮かび上がる。
実際に空を飛ぶ体験をしたツナさんが、少しだけ呆れたような声を出す。
「ゴッドは、もうなんでもありだな……」
「これ、【風魔法】レベル1と2だから、その内使える人も沢山増えると思うよ?」
「足元がフワフワして、なんだか怖いですね」
「賑やかな連中だ……」
というわけで、森の中のマリスたちがいた場所に到着したんだけど……。
「あれ? 誰もいない?」
そう、私たちが到着した時には、その場に小屍姫はおろか、マリスたちの姿も誰一人として見当たらなかったのであった。
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