第121話

 削る、削る、削る……。


 なんで第二王子が加わってるのかは知らないけど、私とツナさんと第二王子がメインとなって、そこにプレイヤーのみんなのチクチク攻撃が加わったことによって、HPバーの減少が加速する。


 そして、上手く調整して十分後――。


 体が動かなくなった!


 ムービーの開始だ!


 ちなみに、ムービーが始まるか始まらないかのタイミングで、既にミタライくんが動き出している。ムービー終わりに【必殺技】をあてる気満々だね!


 そして、デイダラの四つ目の姿は……。


 ボンッ、ボンッ、ボンッ!


 と、全身から炎を噴き出して、炎を全身に纏い始めた!


 その姿は、泥の巨人から、もはや炎の巨人という感じで、攻撃をする方もダメージを受けそうな見た目で、凄く相手をするのが大変そうだ!


 というか、ここに来て属性変更ってこと?


 運営の嫌がらせが酷いね!


 けど、こっちにはミタライくんの【必殺技】がある!


 厄介な形態はさっさと断ち切っちゃうに限るよ!


 白熱に輝く炎の巨人が咆哮をあげたところで、ムービー解除。


 それと同時にミタライくんが突っ込むわけなんだけど、全身から煙が上がって――うわっ、炎が出て全身が燃えてる!?


「【オーラヒール】!」


 思わず、私が使える最高の回復魔術で治してあげるけど……まだ燃え続けてるよ!


「【オーラヒール】! 【オーラヒール】! 【オーラヒール】!」

「エリミネーション――……」


 そんな中でも【必殺技】を放とうとするミタライくんは凄すぎる! 根性あり過ぎだよ!


 全身火傷じゃ済まない中を、必死で自分の責務を果たそうとしてくれてるあたり、これぞプロって感じがするね!


 そんなミタライくんに、私も回復魔術の追加を惜しまないよ!


「【オーラヒール】!」

「――セイバァァァッ!」


 ミタライくんが黒焦げになりながらも放った一撃。


 だが、ミタライくんの怖さは誰よりもデイダラが知っていたのだろう。


 あからさまにミタライくんにだけ注意を向けていて、デイダラはその攻撃を躱しにかかる!


 だから、私はノーマークのままに魔術を行使するよ!


「【ロック】!」

『!?』


 デイダラが私の【空間魔術】に縫い留められる。


 そして、その【空間魔術】を認識した時にはもう遅い。

 

「――ァァァアアアッ!」


 もはや剣身が溶け爛れ、棒切れのようになった武器がカツンッと軽い音を立てて、デイダラの体にヒットする。


 その瞬間に炎の巨人となったデイダラの姿が縦横に歪んで爆発。


 残るHPバーが一本になったところで、動くことのできないムービーが始まった!


 というか、ほぼ黒焦げの炭みたいになっちゃってるミタライくんが心配過ぎて、ムービーをじっくり見てる余裕がないんだけど!? 回復してあげないと、ミタライくん本当に死んじゃうよ!?


 そんな風に焦る私の前で、炎の巨人と化したデイダラがドオン、ドオンと爆発していく。


 一瞬、激しい爆発に巻き込まれる!? とも思ったけど、ムービー中だからなのか、特にダメージはないみたい。


 ミタライくんとか目の前で爆発してるし、目がチカチカしてるんじゃないかな?


 そして、一際大きな爆発音と共に光が弾けたと思ったら、炎を纏った土だか、泥の塊だかが一斉に周囲に向かって弾け飛ぶ!


 うわ、怖っ!


 っていうか、当たってる! 当たってる!


 ムービー中は無敵のおかげか、ダメージはないけど、火山弾が迫ってくるかのようで、とにかく心臓に悪い!


 まるで、巨大な花火の中心部にいるかのような光景。もしくは火山の爆発時に火口にいるかのような大迫力。


 爆発と共に巨人の姿は粉微塵に吹き飛んでおり、その姿は既にない。


 だが、吹き飛んだ泥だか土の塊だかがゆっくりと湖面に向けて落ちていく光景に何か違和感を覚える。


 なんかあるの? って思ってたら、吹き飛んだ、あるいは巨人から切り離された炎を纏った無数の泥の塊――それらが、一斉に蠢き始め、私たちの目の前で人の形を象っていく。


 こらこらこらっ!


 巨人だと思ってたら、最後は群体になって襲いかかってくるわけ!?


 リジェネが酷い巨人を単体パワー型のビルドで追い詰めたとしても、今度は範囲攻撃とスピードがないと対応できないとか、初見殺しもいいとこじゃない!?


 いや、それだけじゃない。


 弾け飛んだデイダラの中心部に、何かが


 それは、先程までの泥の巨人とも違い、炎の巨人とも違う、全く異質な存在。


 泥とは違う乾いた茶色の肌に、頭デッカチなデッサン人形のような姿。サイズ自体も縮み、背丈でいうなら私と同程度ぐらいしかないだろう。


 デイダラがいきなりミニマム化した……?


 普通なら侮るところだけど、そいつから放たれる威圧感が半端じゃない。


 まるで、心臓をそのまま掴まれて、圧迫されてるかのような息苦しさを感じる。


 その異様な気配だけでわかる。


 これが、デイダラの最終形態なのだと――。


 パァン。


 ムービー終わりと同時に、まずはミタライくんがポリゴンになって散る。


 それを行ったのは、空中を自在に動いてミタライくんに拳を叩き込んだボスデイダラ。


 今、【蘇生薬】を使っても、もう一回死ぬだけになる? タイミングを見計らって生き返らせたいけど……。


 それには、あの異様な気配のデイダラが邪魔だね!


「【鑑定】!」


 多分、これ、絶対に能力が上がってるよ! と思って【鑑定】を仕掛けたものの……。


 ▶????デイダラを【鑑定】します。

 ▶【鑑定】に失敗しました。


 モンスターの名前からして変わってるんじゃないの、これ? しかも、空中も自在に動いてるし、スキルも沢山増えてるんじゃないの!?


 私がヤダーとダダをコネてる間にも、第二王子がデイダラに殴りかかる。


 だが、デイダラはそれを素早く躱すと、逆に第二王子を蹴り飛ばして、その巨体に尻もちをつかせていた。


 尻もち、というかピクリとも動かないところを見ると気絶してる?


 え、もしかして、攻撃力も上がってる?


 これ、どう見てもヤバい奴じゃん!


「ツナさんは周りのデイダラもどきをお願い! これ、多分、かなりヤバい奴だ!」

「ゴッドがそう言うなら相当だな……。わかった、そっちは任せる」


 というか、周りも阿鼻叫喚の地獄絵図なんだよ!


 弾け飛んだ泥が、全部ミニデイダラとなって周辺のプレイヤーに襲いかかってるからね!


 遠くからチマチマ削るために集まってた遠距離部隊なんて、張り付かれちゃって物凄い被害が出てるっぽいし!


 しかも、ボスデイダラが私を指さしただけで、炎を纏ったミニデイダラが、鉄腕ア○ムか、アイ○ンマンみたいに炎を足元から噴き出しつつ、私の方に何体も飛んでくるし!


 それに慌てる私の姿を見て、デッサン人形みたいだったデイダラの顔に白い物が表示された。あれは何? 歯? 私の慌てる姿を見て笑ってるの?


 ムカー!


 というか、そんな量産型の木っ端デイダラにやられるもんか! これでも喰らえっ!


「【木っ端ミジンコ】!」


 どんっ!


 あ、発動した!


 発動したっていっても、一部だけ?


 湖周辺に居た炎を纏っていたデイダラがポリゴンとなって全て消し飛んだように見える。


 ポリゴンが雨のように降る中で、私は冷静にその他のミニデイダラを観察する。


 もしかして、デイダラの各形態に対応した四種類のミニデイダラがいたりする……?


 確認すると、プロレスラー、マッチョ、細マッチョ、炎の四種類のミニデイダラがいるようだ。


 それを指揮するのが、茶色の……あれはもしかして、陶器と化してるってことなの? 泥を高温で焼き固めて、陶器になっちゃったデイダラっぽいのが、ボスデイダラってことみたい。


 あー! そういうことだったら、私も泥を回収しておけば良かったよ! 陶芸もしてみたかったんだもん! ろくろに乗せて、こう絞るようにすーっとね……。


 【解体】でコレが残るよりは、ドロップになってくれると嬉しいなぁ……。


「【木っ端ミジンコ】! 【木っ端ミジンコ】! 【木っ端ミジンコ】!」


 考えながらも、口は動く。


 これで、デイダラの部下はいなくなったはず。


 と思ったら、普通に湖の底から泥が浮き上がってきて、それがミニデイダラになっていく!


 本体を倒さない限り無限湧きですか!? そうですか!


 ボスデイダラの顔に、赤い三白眼が表示され、それが私をロックオンしたかと思うと、一気に距離を詰めてくる。


 けど、【わりと雷帝】を使って、下半身が雷になった私は【縮地】が使えるからね。


 スプリント勝負はそこまで苦じゃないよ!


 というか、敏捷も上がってるよね? ボスデイダラの動きがわりと早く感じるんだけど!


「てりゃ!」


 【縮地】でデイダラの背後をとって、その背中を斬りつける。


 キィン!


 傷は付いたし、燃えもしたんだけど……硬い!


 陶器ってもっと柔らかくて脆いイメージでいたんだけど、この陶器は硬いのね!


 むしろ、磁器?


 何度も斬りつけるけど、硬すぎてガガさんの魔剣がまた刃こぼれしそうで、嫌になっちゃうよ! これ終わったら、絶対お手入れしようっと!


 あー。


 こういう時の為にコグワンを直しておくべきだったかなーと、ふと思う。


 もっと落ち着いてから作り直そうとか思ってたけど、裏目に出ちゃってる気がするよ……。


『…………』


 そして、相変わらず、指さしひとつで配下を使って、私を襲わせるボスデイダラ!


 まぁ、本人も私目掛けて殴りにくるんだけどね! うわっ、怖っ! そんなブンブン拳を振り回さないで! 危ないじゃん!?


「【木っ端ミジンコ】!」


 それにしても、ズルくない?


 湖の底から無限にミニデイダラを呼び寄せるなんてさぁ……。


 そんなの水と土さえあれば、私の配下は無限ですって言ってるようなものじゃない?


 せめて、最初の自分の体から分離した泥だけがミニデイダラになるとかさぁ! 


 配下のデイダラとして扱える範囲が広過ぎじゃないかな!?


「――――」


 その時、何かが聞こえた気がして、私は思わず陶器デイダラとの戦いの最中だというのに耳を傾けてしまう。


 やかましい戦闘音や怒声、罵声が響く中、その声は不思議と良く通って――私の耳元にまで届く。


「お姉様、頑張れー!」


 え? アイルちゃん?


 応援してくれてるの?


 私よりも、そっちの方が大変でしょうに……。


 というか、私がコイツを倒さないと、みんなの戦闘も終わらないのか……。


 よーし! いっちょ、気合いを入れてやりますか!


 ▶【バランス】が発動しました。

  配下の定義のバランスを取ります。


 ん?


 んん?


 ▶【少しだけ衆中一括】が発動します。


 アイルちゃんの体が光り、そこから出た光が私めがけて飛んでくる。


 そして、少しだけど力が湧いてきたような……気がする。


 いや、アイルちゃんだけじゃない……。


「やれ、ゴッド! ソイツをさっさと倒せ!」


 ツナさんからも光が飛んできたし、


「EOD殺しー! レイドボスなんてけちょんけちょんにしてやれー!」

「ヤマモトー! 早くなんとかしてくれー! こっちはもうもたないぞー!」

「神様、仏様、ヤマモト様ー!」


 あっちこっちから、光が飛んできては私の体に吸収される。


 その度に、私の中に力が湧いてくる……。


 中には、「おい、何か光が飛んでったけど大丈夫なのか?」なんて人もいるけど。


「みんなぁ! もっと私を盛り上げて! 応援して! そしたら倒せるかもー!」


 私がそう声にも出して、レイドチャットにも書き込んで煽ったら、「倒せるなら早くやれ!」「ヒーローショーじゃねぇんだぞ!」「そういうスキルがあるんだったら早く言え!」などという罵声と共に、一斉に光が飛んでくる。


 あははは、みんな口は悪いけどいい人たちばっかりだ! ツンデレだね!


 恐らくは、【バランス】さんが、私の配下の定義とデイダラの配下の定義に差があり過ぎると思って、【バランス】をとってくれたんだろう。


 そのおかげで、本物の上司と部下じゃなくても、その場のリーダー的存在であるというだけで【少しだけ衆中一括】が発動するようになったんじゃないかな?


 【少しだけ衆中一括】は配下の0.5%の力を私にどんどんと加算していくスキル。


 ここにいるメンバーがどれぐらい残ってるのかは知らないけど、ステータスの平均値が50で500人も生き残ってれば、私のステータスは125も加算される。


 それは、低く見積もった場合の試算だし、ツナさんや黒棺の人なんかが応援してくれれば、もっと上がることだろう。


 そして、125もステータスが上がれば、私のステータスは全ステータスが600を越え、一部に至っては700を超えることになる。


 そして、そのおかげか、デイダラの動きが目に見えて遅く感じられる!


 恐らくは、高速で殴りかかってきているであろうデイダラの一撃を私は苦もなく避けて、その脇腹にそっと手をあてがう。


「弱点はどこ?」


 そして、これだけの心理的余裕があるのなら、物防を無視しての攻撃も当てられる。


 囁くようにデイダラに告げながら、膨大な魔力を掌から流し、それを操作してデイダラの体内にあるはずの核を探る。


 ふんふん。なるほど、胸の中心ね。

 

「【魔力浸透激圧掌】!」


 どんっ!


 衝撃にデイダラの体が大きく揺れ、弱点であるはずの核にダメージが通る。


 イコさんの本家本元だったら、即死させられたんだけど、私の方はまねっこだからね。そうもいかない。


 HPバーも一気に半分くらい削れたはずだとは思うけど、確認してる暇がないねー。


 デイダラは痛みというものを感じないのか、特に何事もなかったかのように動き、私に向かって回し蹴りを繰り出してくる。


 それを、ガガさんの魔剣を使ってなんとか防ぐも、弾き飛ばされる。


 けど、その離れた距離があるからこそ、ここでもう一つの技を準備できる。


「行くぞぉ、半殺――……」


 ここで、ぶっつけ本番でスキルを使ってみるのが私クオリティー!


 えーと、確か、半殺技に相応しいモーションと、半殺技に相応しい技名を叫ばなきゃいけないんだっけ?


 けど、半殺技に相応しい技名ってなんだろ?


 半殺っていうぐらいだから、あまりに強い技名じゃ駄目なんだよね? こう、半分死にかけちゃうぐらいの技名が丁度いいはず。


 でも、普通に生活してれば、そんな半分死にかけになるような経験なんてしないし、なかなか思いつか――あ、思いついた。


 デイダラが向かってくる。


 私はその動きを受けて、【縮地】で瞬時にデイダラの横手に回るとマルセイユルーレットのように回転しながら、ガガさんの魔剣をデイダラの背中に向けて叩きつける!


「インフルエンザン(41℃フォーティワン)!」


 私の一撃を食らって、デイダラの姿がぐにゃりと歪む!


 よし、発動した!


 うんうん、インフルエンザの高熱って超辛いもんね! 罹るとほぼ死にそうになるから、半殺技名に相応しいと思ったよ!


 そして、デイダラが爆発!


 けど、まだHPバーが残っているのか、ポリゴンにならない!


 技の繋ぎの間に、リジェネが働いた!?


 私は慌てて、ガガさんの魔剣を構えようとして――。


 ――ボボボボンッ!


 なんか紫色をした光弾が五発ぐらい飛んできて、デイダラにヒット。


 そのまま、デイダラがポリゴンになっちゃったんですけど……?


 あれ? ラストアタック取られた?


<ゴードンたちの手によって、レイドボス『太古の神デイダラ』が退治されました。>


 ま、まぁ、倒したならいっか……。

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