第123話
「いや? え? なんで誰もいないの?」
私が当然の疑問を口に出す。
すると、ツナさんが何かに気づいたように、折れた木々や大きく地面に空いた穴を指し示す。
「激しい戦闘痕があるな」
「あ、それは大体私がつけたものだから、気にしないで」
「そうか……」
「サラリと恐ろしいことを言う……四天王ポイントプラス1」
その四天王ポイントって、四天王になった後でも続けるんだ?
あぁ、魔王に提出するまで続けるのね?
お疲れ様です。
それにしても、小屍姫に抵抗もさせずにドロンと消えるなんて、相手は相当な凄腕だったってこと? そんな風には思えなかったけどなぁ……。
「何がどうなってたのか分からん。説明してくれ」
「えーと、スキルで召喚したモンスターに怪しい人間を見張らせてたんだけど、戦闘の形跡もなく、煙のように姿が消えちゃったんだよね。うーん、どうしよう……」
「もしかして、その場に金髪巻毛の優男が居たりしなかったかね?」
「え? ……あぁ、いたねぇ」
シュバルツェンさんの発言に、私は慌てて記憶を掘り返す。そういえば、魔剣を二本もくれた人は、そんな感じの人だったような気がするかな?
「それは、恐らく元・王国第一騎士団団長のアインズだな。奴には、他人のスキルを無効化するとかいうユニークスキルがあったはずだ。恐らく、それで逃れたのだろう」
他人のスキルを無効化するって、それってなんてそげぶ?
でも、言われてみれば、あのアインズって人は「素のステータスが云々かんぬん……」って言ってたような?
もしかしたら、スキルで底上げされたステータスじゃ、俺には勝てねーぜ、へへん〜! とか言いたかったのかもしれない。
まぁ、私のステータスは普通に高いから、そのアインズとかいう人にとっては致命的に相性が悪かったのかもね。
うーん、残念!
というか、何でもかんでもスキルをキャンセルできるわけじゃないのかな?
というか、範囲が狭い?
だって、私、普通に【灰棺】は発動できてたし。
やっぱり、範囲が狭いとかいうのが、一番ありそうな気がする。
そもそも、そんな強力なスキルで範囲が広かったら、近隣住民大迷惑以外のなにものでもないもんね。
そういえば、アインズに近づいた時に速度が落ちたような違和感があったし、多分、あれくらいの距離の範囲で勝手に発動するパッシブスキルと見た。
パッシブだと動作がないから、【まねっこ動物】が発動しないからね。その辺は辻褄が合うかな。
「【追駆】……ダメかぁ」
一応、【追駆】も発動してみるけど、痕跡も何も見えない。
これは、完全にお手上げかな?
今から森の中を探し回るっていうのもなー。
小屍姫に命じて、一時間だけでも探させる?
でも、見つけた瞬間にスキルキャンセルされていなくなっちゃいそうだし、それだと私まで情報が伝達されないし……。
やるなら、私自らが追わないといけないのかな。
でもなー。
護送中だし、これ以上、厄介事に首を突っ込むっていうのも……。
「うーん」
「どうした、ゴッド?」
「さっきまでここに、デスゲームのラスボスに繋がるかもしれない情報を持ってる人がいたんだよ」
「何……」
「けど、逃げられちゃって、どうしようかなーって」
「この森の中をか?」
「この森の中を」
ツナさんの表情は天狗面で見えないんだけど、うん、分かるよ。あからさまに面倒くさそうな顔してるよね?
私もヴェールの下はそんな顔してるんで、よくわかる。
私たちが微妙な空気を流していると、エンヴィーちゃんが恐る恐るといった調子で提案してくる。
「あのー。人を探すというのでしたら、冒険者に頼んでみるというのは如何でしょう? もしくは、正式に四天王になられたというのであれば、魔王様を通して王国に調査依頼を要請することも可能だと思いますが……」
けど、それを聞いたシュバルツェンさんは首を横に振ってるね。
「冒険者はともかく、王国は調査に協力しないだろう。これだけの騒ぎを起こされて、素直に魔王の言う事を聞いていたら、他の人族国家に弱腰と取られかねんからな」
「いや、それ、おまいう?」
私がツッコむが、シュバルツェンさんは肩を竦めるだけだ。
騒ぎを起こした自覚はあるらしい。
「まぁ、私たちがここでウダウダやってても仕方ないか。とりあえず、冒険者ギルドに依頼してみることにしようかな? その結果待ちだねー」
あとは、ひっそりとレイドチャットにもマリスの情報を流しとこうっと。
これで、誰かが見つけてくれたら嬉しいなっと。
「じゃあ、そろそろ魔物族の国に帰ろうか」
「ふむ、向こうの大陸の食べ物もそろそろ恋しくなってきたことだしな。それもいいだろう」
思えば、四天王になりたくなくて逃避行で来た国だったけど、なんか色々と巻き込まれて大変だったなぁ。
魔物族の国に戻ったら、少しはのんびりしたいよね。
じゃあ、ひとっ飛びして港町セカンにまで向かいますかー。れっつごー!
■□■
【ゼクス視点】
何だ、この王都の荒れようは……。
第三王子セイル様の要請を受けて、王都まで援軍に来てみれば、街を囲む城壁の城門は破壊され、そこかしこに夥しい血痕が残っているではないか。
その痕跡は、ここで激しい戦闘があったことを如実に示しており、私の心を焦らせる。
まさか、クーデターは成功してしまったのか?
「第六騎士団よ、私に続け!」
騎馬を駆って、第六騎士団と共に王都へと雪崩れ込むが、そこもまた酷い有り様であった。
だが、そんな酷い有り様の中でも、人々が歩く姿が見える。
それを見て、私はようやく片手を上げて、騎士団の進む速度を
よくよく見やれば、第二王子の占領下にあるにしては、第二王子の派閥の兵の姿が見えない。
ならば、騎士団を率いて、王城に向かうのは侵略行為とも取られかねないか。
「第六騎士団は、王都近郊にて待機! 王城へは私と三聖騎士で向かう! 行くぞ!」
「「「は!」」」
通行人を轢かないように、縦列で進みながら街並みを観察するが、戦闘の傷跡が生々しい。
やはり、セイル様が言っていた通り、王都が侵攻を受けたのは確かなようだ。
気持ちを改めて引き締めながら、王城へと続く一本橋にまで来たのだが……。
何故か、人が大勢いる。
なんだこれは?
「すまないが、王城に用事がある。通してくれないか?」
「バッキャロー! 俺たちは英雄様だぞ! お前が馬から降りて隅っこ通りやがれ!」
「…………」
よくわからないが、怒られてしまった。
仕方がないので、馬から降りて隅っこを通って王城に向かう。
私が王城で、既にクーデターは鎮圧され、出遅れたことを聞かされたのは、その三十分後のことであった――。
■□■
【???視点】
「結局、クーデターは失敗に終わったのか」
「元から……期待のできない……連中だった……」
「そうだな」
俺たちは絶影。
魔物族の国に潜む、汚れ仕事を引き受ける暗部。
個を示す名はない。
だが、便宜上、能力によって個体名を示すことはある。
それによれば、俺は魔弾、そして、俺の相方は死霊術師となるのだろう。
今回、俺たちは絶影の上層部の命令で、ファーランド王国に向かい、そこで暗躍する者たちの計画を手伝ったのだが、どうやら計画は失敗したようだ。
このままでは、俺たちが望む戦乱の世というのは、また遠くなるだろう。
だが、俺はそれほど残念には思っていない。
絶影という組織の興りは、凡そ千年前に魔物族たちの大陸をひとつに纏めた初代魔王の時代にまで遡る。
絶影では、今でもその時代を生き抜いた古参たちが数多く在席しており、過去の栄華を取り戻さんと張り切っているが、俺や死霊術師のような比較的若い戦力にとっては、それにはそこまで固執していなかったからだ。
俺たちは、とにかく平和とか平穏とか、そういうものが苦手で、そういうのに馴染めない爪弾き者だったからこそ絶影に入ったという経緯がある。
戦争が始まれば面白かったのだが、始まらなかったのであれば、次の面白いことを探すだけ――そう簡単に割り切れた。
「依頼人……どうする……殺すか?」
「その依頼人ってのはフンフの旦那か? それとも親玉か?」
「両方……」
「そうだなぁ」
ジジイと戦闘特化型じゃない魔物族を殺してもな……。
大して楽しいことにはならなそうだ。
そもそも、落ち武者狩りは俺の趣味じゃない。
「いや、不要だろう」
「何も……成果なしで……帰ったら……殺され……ないか?」
「その時は、俺たちがアイツらを殺しまくればいい」
「クックックッ……そういうの……嫌い……じゃない」
そうと決まれば、この国ともさっさとおさらばするか。
そして、もっと不吉を届けて回ろう。
世の中が混乱し、世界を乱し、混沌へと導けるような――そんな仕事がやりたいものだ。
どこかに、そんな素敵な目的を持った輩はいないもんかね?
俺はまだ見ぬ素敵な主人を思い描き、そんな夢想をするのであった――。
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