第119話

【エンヴィー視点】


 乾いた音は、玉虫色鎧の人が金色鎧の人の頬を張った音でした……。


 それに、金色鎧の人が目を白黒させます。


「目は覚めたか」

「兄上……?」

「お前がクーデターを起こしたせいで、国内はズタズタだ。更に騎士団の総大将であるお前まで私に失えと言うのか? そうなったら、我が国はどうなると思っているのだ?」

「それは……」

「自決を選ぶくらいなら、国のためにその身を捧げよ。ディーン、お前ができることを、お前で考えて為すのだ。今度こそ、他人の意思に動かされてではなく、な」

「俺様の、意思……」


 自分の中に染み込ませるように、そう言うと金色鎧の人がこっちに近づいてきます!


 ひぃぃ、私、心の中で金ピカ鎧とか趣味悪いなぁ、なんて言ってませんよー!


「叔父貴……」

「ディーン……」


 ですが、止まったのはシュバルツェン様の前でした。


 私じゃなくてよかったです……。


 というか、よくよく考えてみたら、この人と私は何の関係性もなかったですね。


「すまなかった」


 ゴッ!


 ひぃっ!?


 なんなんですか、この人!?


 頭を下げたシュバルツェン様をいきなり殴り飛ばしましたよ!?


 し、四天王ポイントが欲しいんでしょうか!? いや、あなたがいくら頑張っても四天王にはなれませんからね!?


「これで痛み分けにしといてやる……。縁切りだ……」


 そう言って、フラフラと床にへたり込みます。


 シュバルツェン様も頬は腫れたようですが、そこまで大事になってなくて何よりです……。いきなりの暴力は心臓に悪いですよね、本当にもう……。


「フッ、わだかまりもなくなったようで何よりだ」


 玉虫色鎧の人がそんなことを言って笑ってますけど、今のでますますわだかまりが拗れたのではないですかね?


 私が事情を知らないから、分からないだけなんでしょうか? 正直、わかりません。


「ディーン、これを使え。【蘇生薬】だ。そちらの赤の他人殿からの贈答品だよ」

「一言多い。そもそも、俺様をこの場で回復させて、自分がどうにかなると考えないのか?」

「事態がそれどころじゃないからね」

「何?」


 ぐいっと【蘇生薬】を呷る金色鎧の人。


 それを見越してたかのように、玉虫色鎧の人が言葉を続けます。


「どうやら、我らの偉大な先祖が封印していたデイダラの封印が解けてしまったらしい」

「ゲホ! ゴホゴホ! テメェ……」

「あぁ、狙って言ったわけじゃないんだ。すまない。私も勇者アストリアの子孫として、なんとかしたいのは山々なんだが……。如何せん、私のユニークスキルは戦闘向きではないのでね」

「そこで、俺様に白羽の矢を立てたと?」

「無理そうなら断ってもらっても構わないよ。なにせ、病み上がりのようなものだからね」

「ぬかせ。クーデターの負い目を利用して、俺様に断り難くさせているくせに……。兄上のそういうところが嫌いなんだ」

「では、やってくれるかい?」


 玉虫色鎧の人の言葉に、金色鎧の人の目の色が変わります。


 というか、【蘇生薬】の力は偉大ですね。


 先程まで死にそうだったのが、今はもう気力に溢れてますよ。


 パァンとひとつ掌を拳で打ち鳴らし、金色鎧の人が獰猛な笑みを浮かべます。


 なんか怖いです……。


「いいだろう。先祖の尻拭いだというなら派手にやってやる!」


 そうして、金色鎧の人は床に落ちていた自分の剣を拾うと――。


 ■□■


 痛たた……。油断したぁ〜。


「【ヒールライト】」


 メキメキっと私の上に積み重なっていた木を力で無理やりどかしながら、私は【光魔術】で回復を行う。


 そういえば、フィーア戦でも【光魔術】レベル10を連打してたね。それも、MPがかなり減ってる原因かなぁ……。


 痛みがリアルっていうのは良くないことばっかりだ!


 それにしても……。


 巨人のようなデイダラの一撃を食らっても、ダメージがほとんどないっていうのは、我ながらバケモノだなぁって感心しちゃうよ。


 たしか、私の物防って650くらいあったんだっけ?


 デイダラの物攻が500近くだから、最低限のダメージ保証で50ぐらいのダメージが入ったのかな? 


 最大HPの0.8%くらいのダメージだから、ほぼかすり傷! むしろ、深爪レベルの不快感! うん、バランスの取れたステータスって素敵だね!


「それにしても、ここはどこだろ? 遠くまで飛ばされたって気はするけど……」


 錐揉みして飛んだから、方向感覚がぐちゃぐちゃだよ。


 周りを見ると森っぽいけど。


 そして、森の中の木を何本かへし折って止まったみたいだけども! あぁもう、我ながら頑丈だ!


「……動かないで頂きたい」


 私がキョロキョロとしてると、何やら冷たい刃物の感触が私の首元に押し当てられる。


 森でキョロキョロしてたら、首元に刃物を押し当てられるって、どういう状況なんだろう?


 私が混乱していると、木々の間からゆっくりと姿を現す人影が……。


 ――あっ!


「マリス……もとい、楠木麗!?」

「なんだい? ボクのファンか何かかな?」


 金髪巻毛のイケメンを傍らに侍らせながら、悠々と歩き出てきたのは開発チームのCGチーフデザイナーである楠木麗だった!


 この人には、色々と聞きたいことがあるんだけど、デイダラとの戦闘を放っておくわけにもいかないし! あぁもうっ! タイミング悪いなぁ!


「動かないで下さい! 動くと首が落ちますよ!」


 じゃあ、私に剣を突きつけてるのは、大武祭に参加してたレオンくんかな?


 この人、金髪イケメンばかり仲間にして、ハーレムでも作るつもりなんだろうか?


「あなたには聞きたいことがあったんだよ」

「ボクには無いね」

「動くなと言ってるでしょう!」


 グイグイと剣の刃を押し付けてきて、その存在を主張してきてるんだけど、私は首が取れても死なないからね。その脅しは意味がないんだよ。


「追手というわけではなさそうだが、追手……なのか?」


 戸惑ったような声がもう一人聞こえる。


 誰? どこにいるの?


 駄目だ。そういうスキルなのか、全く見えない……。


 というか、この首元にある剣が鬱陶しい!


 私はさっと首を外して剣をスルーすると、呆然としていたレオンくんの腕を掴んで軽く地面に叩きつける。


 ドォン!


「…………ッ!」


 土柱が上がって、いきなりレオンくんが気絶しちゃったけど、まぁいいでしょ。


 というか、レオンくんの手から転げ落ちた魔剣? っぽいものに、私の目は釘付けだ。


「【鑑定】」


 ひっそりと【鑑定】を行った結果がこちら。


====================

【レーヴァテイン】

 レア:10

 品質:最高品質

 耐久:10000/10000

 製作:バルカン

 性能:物攻+1254 (斬属性)

    魔攻+1435(炎属性)

 備考:鍛冶の神の一人によって、この世に生み出されたとされる炎の力を凝縮した剣。切られた者は切った者の命がない限り、燃え続ける。この世に一本しか存在しない最高峰の魔剣のひとつ。

====================


 ふむふむ。なるほどなるほど。


「レオンくん!?」

「姫、お下がりを……彼女、かなりできます」


 レオンくんから魔剣をかっぱらいながら、今度はチャキっと剣を構える金髪巻毛のイケメンくんの持つ魔剣も【鑑定】する。


「【鑑定】」


====================

【グラム】

 レア:10

 品質:最高品質

 耐久:10000/10000

 製作:レギン

 性能:物攻+1562 (斬属性)

    竜種超特攻 (ダメージ5.0倍)

 備考:鍛冶の神の一人によって、この世に生み出されたとされる竜殺しの魔剣。その鋭い刃は、年月を経てオリハルコンよりも硬くなったとされるエルダードラゴンの鱗さえも容易く斬り裂くと言われている。この世に一本しか存在しない最高峰の魔剣のひとつ。

====================


 ほうほう、いいじゃないですかぁ(ねっとり)


 私は内心で舌舐めずりしながらも、視線をマリスこと楠木麗に向ける。


「楠木さん。私からあなたに聞きたいのは、デスゲームの黒幕っぽい佐々木プロデューサーと繋がりあったりするのかってことなんですけど……あったりします?」


 私がぶっちゃけて聞くけど、金髪巻毛くんがマリスの前に出たことで余裕が生まれたのか、彼女はフフンっと腕を組む。


「……あるって言ったらどうする?」

「マリス!」


 え、あるの? 本当に?


 アレ、これ、当たり引いてる……?


 いや、それともブラフ?


 うーん。


 でも、黒幕の佐々木さんと繋がってるっていうんなら、このマリスさんって裏ボス相当でしょ?


 それが、こんなに弱そうなことなんてある?


 騎士に守られるお姫様ポジだから、弱そうに見えてるだけなのかもしれないけど。


 いやいや、こんなに弱そうなのが裏ボス相当なわけがないよ!(決めつけ)


「どうしよう。絞め上げて、洗い浚い吐いてもらいたいところなんだけど……時間がなぁ」

「なにこの子。ちょっと怖いこと言ってるんだけど……」


 この間にもデイダラと戦っているプレイヤーが何人も死んでるかと思うと、ちょっと気が気じゃないんだよね。


 でも、ここでマリスを逃したとしたら、デスゲームの謎に迫るヒントを逃すのと同義になっちゃうかな?


 うーん。


 よし、そうだ。優先順位を付けよう。


 まずは、人命第一!


「【灰棺】」


 【灰棺】を呼び出して、中から屍小姫を六体呼び出す。


「「「…………」」」


 なんかちっちゃな女の子キョンシーが六人出てきた! 可愛い!


 本家の方は体のラインが見えちゃってる包帯女子が十三人現れて、セクシーって感じだったけど、こっちはかなり可愛い路線だね! いいよー! そういうの大好きー!


「屍小姫、彼女たちが逃げないように見張ってて。お願いね?」

「「「…………!」」」


 六人全員が一斉に敬礼する。


 うん、可愛い。


 思わずスクショに撮ってしまったよ!


「なんだ、このスキルは……仕様でも見たことがないぞ……」

「ツヴァイくんのスキルに似てるけど、まさか……」


 さてと、これで見張りの体制は整えた。


 あとは……。


「悪いけど、あなたの魔剣が欲しいんだよねー。そこの色男さん、その剣くれない?」

「女性の頼みは断らない主義なのですがね。姫の手前、浮気などできませんよ」

「じゃあ、力づくで奪おう」

「ふっ、私のステータスは全てが300近くあるのです。それを素で越えでもしない限り、私から剣を奪うことなど不可能ですよ」


 ん?


「じゃあ、余裕だね」


 私は一気に金髪巻毛の男に近づく。


 その際に、なんか体の動きが鈍くなったような気がしたけど……まぁ、誤差かな?


 スピードを落とさずに、そのまま駆け抜ける。


 金髪巻毛くんも私の動きに気づいたのか、剣を振ろうとするけど……遅過ぎる。


 私は振り上げられた魔剣の柄を掌で叩いて、その魔剣をスッポ抜けさせると、素早く【ロック】で遠くまで飛んでいかないように空中で固定させる。


 で、それを解除して、落ちてくる二本目の魔剣を手にして……魔剣ゲットだぜー!


「あ、アインズくん……!?」

「き、貴様ァ……!」


 私にやられたのが悔しかったのか、怒鳴りながら金髪巻毛の人がまた【収納】から魔剣を取り出してくれる。


 え? 三本目もくれるの?


 ラッキー!


 この人、いい人だね!


 というわけで、金髪巻毛の頬をビビビっと張ってから、本日三本目の魔剣を手に入れる!


 やったね!


「ま、魔剣泥棒ー!」

「お前が言うなよ……」


 マリスが何か言ってるけど気にしない。


 私は今、上機嫌なのだ!


 ふんふんふーんと鼻歌なんかを歌いながら、最初に得た魔剣二本とガガさんの魔剣を並べると――。


 ▶【バランス】が発動しました。

  魔剣のレアバランスを調整します。

  魔剣の品質バランスを調整します。

  魔剣の耐久バランスを調整します。

  【ヤマモトの魔剣】のレアランクが10に上がりました。

  【ヤマモトの魔剣】の品質が最高品質に上がりました。

  【ヤマモトの魔剣】の耐久が10000に上がりました。


「【鑑定】」


====================

【ヤマモトの魔剣】

 レア:10

 品質:最高品質

 耐久:10000/10000

 製作:ガガ

 性能:物攻+4929 (斬属性)

    魔攻+870(火属性)

 備考:魔王国の名匠ガガによって、人工的に作られた魔剣。斬った箇所を火の魔力によって焼き焦がすことで、物理ダメージと魔力ダメージを同時に加えることができる。非常に珍しい剣。

====================

 

 うん、直ったよ!

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