第114話

 ■□■


【マリス視点】


「お前なぁ!」


 懸命になって逃げてきて、逃げ切ったところでmasakiさんに頭を引っ叩かれる。


 ボクの騎士様たちがその行為に色めき立つけど、ボクは素早くそれを片手で制していた。


 うん、完全にボクが悪いからね。


「イベント仕様書読んでないのか!? 王城の隠し宝物庫の中には、レイドボス封印に使ってる封印宝珠があるって書いてあっただろ!? 見た目綺麗な宝石だからって、いきなり【収納】なんてしたら、封印が解けるに決まってるだろ!? 何考えてるんだよ!?」

「イベント仕様書って、あの辞書みたいに分厚い奴でしょ!? あれ、二十冊以上もある上に、物語の進行の仕方によってはボクたちでも予想しない方向に話が進むっていうじゃん! そんな無駄になるかもしれないものの隅々にまで目なんて通すわけないでしょ!?」

「それでも、ヤバそうなイベントぐらいは把握しとくだろう普通!?」


 masakiさんがプリプリ怒ってる中で、ボクは湖の縁から中央の王城へと目を向ける。


 そんな王城近くの湖からは、これまた王城にひけを取らないほどの巨大な泥の巨人が起き上がっており、それが耳障りな咆哮をあげていた。


 太古の神デイダラ――日本神話のダイダラボッチと日本妖怪の泥田坊の二つをモチーフに作られたレイドボスで、とにかく体力がバカ高いモンスターだ。


 デザイン的には体は泥で出来ており、表情がなく、逆三角形の上半身だけで、下半身は湖の底に封じられていて、存在しないというなかなか手抜き感満載の見た目をしている。


 簡単に言っちゃうと、巨大な泥田坊だね。


 うん、そういえば、泥の質感を出すのに苦労したんだった。ササさんに何度もリテイク出されたっけか……思わず遠い目になっちゃうよ。


「ったく、おかげさまで、王族脱出用の隠し通路は水没するし、お宝も全て回収できなかったしと散々だ!」


 masakiさんの言うように、ファーランド城の地下には湖の下に掘られた長い地下通路が存在する。


 本来の目的としては、城が攻められた場合の王族の脱出用通路なのだが、クーデターが起きた場合には、エリック王子が脱出せずにディーン王子を迎え撃つために、誰も使用しない便利な抜け道となるのだ。


 私たちは、そこを通って王城に出入りし、隠し宝物庫にまで辿り着いたわけなのだが、デイダラが復活した場合には、その通路は徐々に水没し始め、やがて使えなくなるといった仕様になっているらしい(masakiさん談)。


 masakiさんが把握してなかったら、帰りの通路が潰されて、逃げられなくなってるところだったよ。


 まぁ、断面図で見るとV字の階段通路だったから、道の一部は既に水没していて、ある程度水泳したんだけどもね……。


 それでも、全員無事に生還できたことは喜ばしいことである。


「で、あの巨大なマッドマンはどうするの?」

「どうもこうもないだろう。デイダラはファーランド王国の内乱が終わった後に、場合によっては発動するエンドコンテンツのひとつだ。現状の私たちでは、どうにもできない」

「え、じゃあ、王国滅んじゃうの?」

「デイダラは徘徊型のレイドボスじゃないからな。多分、王城と王都が機能不全になるだけで、王国が滅ぶとかにはならないはずだ」

「ちなみに、ボクたちがレイドボス戦にエントリーされてるっぽいけど?」

「一定以上の距離を離せば、離脱扱いでエントリーは解除される。もしくは、戦闘に参加していない時間が一定時間経過でも同じようになる。関わる必要はないってことだ」

「masakiさん、物知りだねぇ」

「マリスが仕様を頭に入れてないだけだろ!」

「あはは、ゴメン、ゴメン」


 というか、今、気づいたんだけど……。


「エントリー数3って、誰かプレイヤーが巻き込まれてるのかな?」

「運がない奴がいたか、デイダラを見かけて戦闘エリアにまで駆けつけてきたお調子者がいたか……。何にせよ、無駄だ。こんなゲームの序盤でデイダラが出てしまっては誰も倒せん」

「まぁ、願わくば、あまりプレイヤーに被害が出ないといいね。ボクたちの楽しみが減るし」

「全くだ。勇気と無謀を履き違えてなければいいが」


 ボクらは、そんなことを言いながら、しばらくデイダラの動きを眺めているのであった。


 ■□■


「でかっ!」


 城から出たら、あらビックリ。


 山のような泥巨人が咆哮をあげていた。


 これが、デイダラ?


 見た目はそんなに強そうじゃないけど、とにかく大きくて迫力がある。


 デイダラは私の姿を見るなり、迫ってこようとするけど……動きはそんなに早くない。


 というか、このままだと戦闘にお城も巻き込まれちゃう?


 場所を変えて、空中戦といかないとマズイかな?


「使ってみよう。【わりと雷帝】!」


 新スキルをいきなり使用!


 私はビビリだけど、こうと決めた時の思い切りの良さはピカイチなのだよ!


「あー、こういう感じね」


 思った体の部位を雷に変化できる感じかー。


 で、スキル使用中は徐々にMPが減っていく仕様みたい。


 【収納】からガガさんの魔剣を取り出して、つかもうとしたんだけど、雷化した手ではつかめなくて、取り落としちゃったよ


 うーん。少し慣れが必要かなー?


 とりあえず、下半身だけを雷に変えて、上半身でガガさんの魔剣を握る。


 そして、走り始めたら、一瞬で景色が切り替わったよ。


 これが、【縮地】の効果かな?


 体感では、一瞬でショートワープを繰り返す感じになるので、なかなか扱いが難しい。


 それでも、空中だろうと関係なく、どこでも駆け回れるのは圧倒的な利点だ。


 私は飛び上がると、デイダラの目の前をさっ、さっ、さっと通って気を引き、デイダラの姿を王城から遠ざける。


 緩慢な動きで、デイダラが私に向かって手を伸ばすが、そんな動きで捕まえられるほど、私はおマヌケさんではない。


 雷の如き動きで伸ばされた手から逃れながら、


「【鑑定】!」


 デイダラのステータスを丸裸にするよ!


 ▶太古の神デイダラを【鑑定】します。

 ▶【鑑定】に成功しました。


 名前 太古の神デイダラ

 種族 亜神

 性別 なし

 年齢 12415歳

 LV 1886

 HP 1000100/1000100

 MP 1290/1290


 物攻 534(×1.5)

 魔攻 149

 物防 270

 魔防 116

 体力 100010(×10)

 敏捷 99

 直感 111

 精神 129

 運命 128

 

 ユニークスキル 【亜神デイダラ】

 種族スキル 【亜神の祝福】

 コモンスキル 【自動再生】LvMAX/【怪力】LvMAX/【状態異常無効】LvMAX/【冷気弱点】Lv--/【愚鈍】LvMAX/【勇気】LvMAX/【土魔術】LvMAX/【水魔術】LvMAX


 んん? 見間違えたかな?


 HPが100万あるように見えるんだけど?


 私が目をシパシパやってると、ピピピッと電子音が響いて、デイダラの上部に五列の黄色いHPバーが出現する。


 レイドボスの【鑑定】に成功すると、こういう演出が入るってことかな? わー、素敵ー。


 ――じゃないよ!


 HP100万って、私の攻撃力でも二百発は当てないと駄目なんだよ!? どんな無理ゲー設定してるのさ!?


 いや、レイドボスなんだから、普通はこんなものなのかな……?


 色んなプレイヤーが集ってボコボコにするんだから、HPが高いのはデフォルトっぽいけど……。


 それにしたって、物防がやたらと高かったり、【自動回復】がついてたりと、パッと見はしぶとい印象。


 そもそも、物攻も高くない?


 私以外のプレイヤーとかが参戦して大丈夫なレベルなの?


 でも、魔防や敏捷はそこまで高くないから、離れて魔術で戦ってねってことなのかな?


 【冷気弱点】とかいうのも初めて見たけど、冷気魔法とかいうのがあるのかな?


 それで、遠距離からチクチクやってね、とかそういうことなんだろうか……?

 

 とりあえず、まずはひと当てしてみよう。


 下半身が雷の状態で宙を駆けて、デイダラの後ろに回るなり、私はガガさんの魔剣で背中を斬りつける。


 背中に大きな燃え盛る切り傷ができて、HPバーがちょっとだけ減るけどデイダラは特に気にした様子もなく、私の方にゆっくりと振り向いてくる。


 リアクションがあまりないのは【愚鈍】の効果? そもそも泥でできてるから、痛み自体を感じていないのかな? そして、【自動回復】の効果なのか、HPバーが割りと早いペースで回復していく。


 これは……勇者が倒しきれなかったっていうのも、何か分かる気がするね。


 突出した何人かで攻撃しても、スキルのクールタイムとかの関係で倒し切れないんじゃないかな?


 必要なのは、HPの回復を阻害する波状攻撃を行う大人数と、確実にHPを削っていく突出した複数の存在……って、まんまレイドボスの攻略だね! そりゃ、デイダラがレイドボスとなるわけだよ!


「それでも、私の馬鹿げた攻撃力ならレイドボスの単独撃破だって……」


 チャキっとガガさんの魔剣を構えてから気づく。


 あれ? なんか、妙に刃毀れしてない?


「【鑑定】」


 なんかちょっと不安になった私は【鑑定】でガガさんの魔剣を確認する。


 すると……。


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【ヤマモトの魔剣】

 レア:7

 品質:高品質

 耐久:64/1000

 製作:ガガ

 性能:物攻+4929 (斬属性)

    魔攻+870(火属性)

 備考:魔王国の名匠ガガによって、人工的に作られた魔剣。斬った箇所を火の魔力によって焼き焦がすことで、物理ダメージと魔力ダメージを同時に加えることができる。非常に珍しい剣。

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 耐久値が一割切ってるじゃん!?


 どうりでボロボロなはずだよ!


 それにしても、そんなに耐久値を削るようなことしたかな……?


 耐久値削りのEODであるヴリトラを滅多切りにして、地面を深々と斬りつけて、第四騎士団を鎧ごと撫で斬りにしていったぐらいじゃないの?


 …………。


 うん、普通に耐久値が削れることしてるね。


 それに加えて、特にお手入れもしてなかったから、そりゃこうなるよ!


 チラリと自分のステータスを確認する。


 ここまでの【風魔法】連発でMPも3000を切ってる……。


 しかも、【わりと雷帝】もMPをガンガン削っていくスキルだし……。


 これを維持しながら、魔術戦を繰り広げたあかつきにはMPが枯渇するんじゃないかって疑念が……、ぐぬぬ……。


 あれ? 相手がただでさえタフそうなのに、こっちのリソースがボロボロって……もしかして、私、詰んでる……?




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※注意……ヤマモトの魔剣は、ガガさんが製作後にヤマモトさんが使う剣なので、ヤマモトの魔剣が正式名称なのですが、ヤマモトさんはガガさんが打ってくれた魔剣なので、ガガさんの魔剣と呼称しています。虎○拳と龍○拳の関係だと思って頂ければ。

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