第112話

「ただの剣術勝負であれば、俺様に勝てるとでも思ったのかエリック兄上よ?」

「クッ……。ディーンよ、何故分からぬ……。今はこうして兄弟で争っている場合ではないのだ……。諸外国は着々と力をつけており、我が国も力をつけるべき時なのだ……。それをわざわざ国力を減らすような真似を……」


 白い鎧を着た兵士と、きらびやかな衣装を着たのは……大臣とかのお偉いさんかな? それを背後に背負いながら、玉虫色に色を変える鎧を着たエリックが悔しげにうめき声をあげてる。


 まぁ、魔物族の国だけじゃなくて、人族国家の多くも自国の発展に尽くしてる時なのに、この国だけ王位継承権を争って内戦してたら、そらアホかってなりますよねー。


 一方の金色鎧のディーンは、ハッと鼻で笑いながら、自分の身長ほどもある大剣をぶんっと振るって、その切っ先をエリックに突きつけていた。


「本質が見えてないのは兄上の方であろう! 魔物族どもの寿命は長く、能力も高い! 時間は魔物族のスキルをより研鑽させ、状況はより魔物族に有利に傾いていく! 国力を蓄えるというが、その実、時間が過ぎれば過ぎるほど、魔物族側との国力差が増すだけだ! ならば、魔物族を叩き、かの国を疲弊させなければ、人族国家の全ては魔物族に牛耳られようぞ!」

「他国のために、我が国を捨て石にするつもりか!」

「魔物族を抑えられるなら、それも本望よ!」

「何故……、何故そこまで魔物族を憎む……!」


 お二人さんが何かやりとりしてる間に、私は部屋を大きく回り込んで、ようやく玉座にまで辿り着いた。【隠形】さん様々だね。


 そんで、どっかりと玉座に座り込みながら、脚なんて組んじゃったりして、リラ〜ックス!


 あ、ちょっと今の魔王装備の耐久力が減ってきて、見た目がボロくなってるから白銀装備に切り替えよっと。


 これで、見た目はオーケーかな?


 うん、玉座に座る私というなかなか映えなシチュエーションを設定したところで、エンヴィーちゃんからもらっていた【遠話】の魔法陣とやらを【収納】から取り出して起動させるよ。


 起動……。


 あ、魔力流せばいいのか。


 うん、起動した。


 空中にボワッと粒子が集まって、それが背景含めての立体映像を作り出す。うん、書類の山に囲まれて、せっせっと頑張って働いてる黒髪が肩までかかった美しい女性。


 これが魔王様かな?


 男のイメージも若干持ってただけに、少しだけビックリしたよ。


「へろー、魔王様ー?」


 私が声をあげたことで、【隠形】が解けたのか、ギョッとしたようにエリックとディーンがこっちを見てくる。


 立体映像の方の魔王様も気づいたみたい。書類仕事をしていた手を止めて、顔を上げてくれるよ。


「貴様、何者だ!」

『はいはい、魔王様ですよー。って誰?』


 何か両方に尋ねられたから、丁度いいから両方に返しとこうかな。


「魔王軍新四天王? に就任要請を受けてるヤマモトといいますー」

「魔王軍四天王、だと……!?」

『あー、例の。あれ? ヤマサンって名前じゃなかったっけ?』


 そういえば、イコさんにはそうとしか名乗ってなかったかな?


「愛称みたいなもんです」

『そうなんだ。で、随分と豪華な背景に、外野がうるさそうなんだけど、大丈夫?』

「大丈夫じゃないですか? 彼らも今回の事件の真相を話すって言えば、多分、聞いてくれますよ」

「「「何ッ!」」」


 ほらね、聞いてくれそう。


『ちなみに、今、どこに居るか聞いていい?』


 外野はワイワイ騒いでるけど、魔王はあくまで冷静だ。うん、落ち着いた話し合いができそうだね。

 

「ファーランド王国の王城です。そして、多分、謁見の間です」

『うん。すんごい問題行動をとってるって自覚はあるかな?』

「問題行動を起こしてる相手を止めるためなので、仕方ないかなーって。むしろ、この活躍を褒めて、ちょっと欲しいものがあるんで御褒美なんかくれたりしないかなーって考えてるんですけど」

『自分から褒美を狙いに行くスタイルなんだ?』

「頑張ってるなら、相応のプレゼントをくれても良くないですか?」

『検討してみるよ』


 うん、言質は取れなかったけど、前向きに考えてはもらえるみたい。上手くいくといいな。


 じゃ、プレゼン開始だ。


「そもそも、現状、何が起こってるのかお話しますね。現在、ファーランド王国では、第二王子様が、第一王子様を殺して、王位継承権を簒奪しようとしてるんですよ」

『うわ〜、御家騒動じゃない。大変だねぇ』

「チッ」

「でも、これ仕組んだのが魔物族なんですよー」

「「「ん?」」」

『ん?』


 私が、フンフに対して行った最初の質問。


 それは、『もしかして、魔物族の国と戦争を起こそうとしてる?』というものであり、フンフの答えは『はい』であった。


 それが分かると、色々と狙いも見えてくる。


「この計画の標的となったのは、第二王子ディーン・ファーランド。彼に魔物族に対する嫌悪感を徹底的に植え付け、そして、現在の王国の姿勢が弱腰だと唆し、王位を簒奪させようとした者がいます」

『それが魔物族だとでも?』

「えぇ、まぁ」

『続きを』

「第二王子が王様になれば、嫌魔物族の感情からキッカケさえあれば、魔物族の国といつでも戦争を起こせる。黒幕の狙いはそこにありました」


 第三王子は、第二王子がもしかしたら思い通りに動かなかったり、不測の事態で亡くなったりした時のスペアとして確保されていたのだろう。


 だけど、ここにきて、第二王子が完全に掌中で踊ってくれるのが分かったから、邪魔になったので殺そうとした。


 老執事は、元々そんな第三王子を近くで見守り、殺す役目も負っていたんだろうけど、長く第三王子の側にいたせいか、情に絆されちゃったんだろうね。


 なんか、フンフもそんなこと言ってたし。


『我が国と戦争を起こす? それが目的なの? そんなことをして、何の利点が?』

「私が出会った魔物族は言ってましたよ。『戦乱の世だからこそ、輝く才能ってものがあるってことを忘れちゃいけない』って。魔王様の統治は立派なものだと思いますけど、同時に平和な世界の中ではお荷物となってしまう種族も生み出してしまったんじゃないですかね?」

『だから、戦争を起こそうと? ……馬鹿げてるわね』

「ですが、実際にそういう魔物族がいて、そんな悲嘆にくれる魔物族を放っておけなかった心優しい魔物族もいたって話ですよ」

『心優しい?』

「困ってる魔物族がいて、それを助けようと動くのだから、心優しいのでは?」

『優しいかなぁ……』


 なんか納得いっていない御様子。


 まぁ、やられてることは魔王にとっては迷惑そのものだからね。


 それを心優しいというのは理解したくないのかもしれない。


「俺様が……! 俺様が魔物族に操られていただと……!」


 そして、こっちはこっちでうるさい。


 しかも、めっちゃ敵愾心をこっちにぶつけてくるし!


 やめてよー。私、悪いディラハンじゃないよー。


「で、まぁ、本人は正義のためにやってるとは思うんですけど、明らかに内政干渉ですよね? なので、この国で大事になる前に魔王軍で処理した方がいいかなーと思ってやってきた次第です」

『悪いけど、もう大事になってるんじゃない?』

「それでも、ケジメは魔王軍でつけた方が面子が保たれるでしょう? そう思ったから、正式に四天王の話をここで受けて魔王軍所属ってことをハッキリしといた方がいいかなーって。その辺、ちゃんと配慮したんで、ご褒美お願いしまーす」

『ちなみに、その御褒美って何が欲しいの?』

「土地と自治権ですね」

『貴族的権利が欲しいっていうのなら、四天王になった時点で付いてくるわよ? 今、栄えてる都市の自治権が欲しいっていうのなら、イコ婆の後任でエヴィルグランデがあるけど、どうする?』

「いやぁ、静かな湖畔でのんびりと畑いじりとかしたいんで、大都市とかはちょっと」

『そう、残念』


 それは、面倒くさい大都市の運営を私に押し付けようとしてました?


「貴様、口からでまかせを! 俺様が操られているとして、誰に操られているというのだ!」

『あー、それは私も知りたいかなー?』


 それなんだけどねー……。


 フンフに残った質問回数を使って、ある程度絞ってみたんだけど、断定まではできなかったんだよねー。


 Q:その黒幕は魔物族の国と人族の国で戦争を起こさせて、アナタたちのような救われない魔物族を救おうとしてる?

 A:はい


 Q:その黒幕は、王国騎士団に所属している?

 A:いいえ


 Q:その黒幕は、王国の宰相とか大臣とかの役職持ち?

 A:はい


 ここまでで、計四つの質問を消費しちゃったんだ。


 で、多分、黒幕は、第二王子に近しい関係にある人物で、国の偉い役職の人だと思ったんだけど……。


 この国の偉い人なんて、全く接点がないからわかるわけないじゃん! って思ったわけね。


 でも、よくよく考えてみたら、複数の魔物族を束ねて、王国に政変を起こそうなんて大それた計画を考えられるような魔物族が、ポッと出の無名ってわけがないんだよ。


 実績とか名声とか、そういうのがあるからこそ、フンフや老執事なんかもその人に従ったんだろうし、他にも何人も付き従ってるかもしれないじゃない?


 だから、フンフに尋ねる最後の質問は、これにしたよ。


 Q:その黒幕って魔王に顔見せたら分かるぐらいに有名?

 A:はい


 というわけで、魔王に顔見せたら分かるって言ってたから、世間知らずの私よりも魔王本人に確定してもらっちゃおうと思って、この場で【遠話】を行ったんだよねー。


「多分、この中に魔王様の知ってる顔がいると思うんですけど、それが黒幕さんだと思います。分かります?」

『えー。私、人族の顔なんてあんまり見分けつかないからなー』


 そう言いつつも、立体映像の魔王がぐるりと謁見の間を見回す。


 そして、


『あ、いたわ。……久し振りね、シュバルツェン元侯爵』


 魔王の視線がその場にいた一人の髭面の壮年を貫いて止まったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る