第110話

 うん、生き返ったね。


 ドライが私の要求を飲んだので、私も【蘇生薬】を空中から思い切り城壁の外縁部に投げてみたんだけど、ターゲットマーカーが指し示していた地面で割れた【蘇生薬】が一人を生き返らせたと思ったら、それが【全体化】して次々と人が蘇っていく。


 そして、気づいた時には……重症を負った第三騎士団の面々が、その場に呻きながら倒れ伏しているという、なかなかの地獄絵図ができあがっていた。


 うん。【全体化】はあらゆる単体アクションを【全体化】するんだけど、効果は半減するからね。多分、HP半分とかで復活してるから、苦しみのたうち回ってるのは仕様だと思って諦めて欲しい。


「第四騎士団は復活しないんですか……」


 【全体化】と言いつつ、グループが対象となるからねー。


 第三騎士団と第四騎士団ではグループが違うし、全部が全部復活なんてしないよ?


 なお、同じ理由で王都の住民も復活しないし、なんか対抗していた黒い鎧の兵士の皆さんも復活しない。


「うん、第三騎士団だけだね」


 薄情じゃないかと思われるかもしれないが、第三騎士団は魔物族との貿易の窓口である港町セカンを守る部隊だからね。


 この騎士団がいないと、海を越えてやってきた魔物族たちが調子に乗りそうで、抑止力として必要なんだ。


 うん。


 人族がなめられると、アホな魔物族がまた戦争戦争言い出すからね。玄関口だけでも強そうに見せかけるのは必要だと思う。


「しかし、死んだ人間を生き返らせるとは……」

「【蘇生薬】くらい、あなたも知ってるでしょ?」

「たったひとつで全員を生き返らせる方法なんて知りませんよ……」

「魔物族の国を敵に回すと、こういうことになるってことをゆめゆめ忘れないようにね?」

「肝に銘じておきますよ……」


 ま、実際はモンスター種別がバラバラの軍勢になりそうだから、一斉に生き返らせるとかは難しそうだけどねー。


 そんなこんなでドライと揃って、何とか地上に到着。


 そして、地上に戻るなり、ドライは眼鏡のブリッジを戻しながら、黒一色で塗り固めたような人に向かって肩を竦める。


「……ツヴァイくん、事情が変わりました。私は今回のクーデターにこれ以上参加致しません」

「何を言っている……?」

「これ以上、国力が減衰するよりも現状を維持した方が良いと考えたのですよ。なので、皆殺しにも致しませんので、皆さん、気を楽に」


 何か強者ぶって余裕ですよアピールしてるね。


 まぁ、私には関係ないし、どうでもいいんだけど。


 そんなことよりも忘れない内に渡しておかないといけないかな?


 うん、用意しとこう。


「では、皆さん。私は港町セカンに帰りますので、お達者で」

「あ、ドライさん。これ、シャンプー」

「えぇ、ありがとう。では、さようなら」


 バチッと光ってドライの姿が消える。


 うん、やっぱり肉眼じゃ捉えられなそう。


 ユニークスキルの中には、ああいう特殊な奴もあるんだなーとか思いながら、私はドライの背中を見送っていたんだけど……。


「おい、マジかよ、アイツ……」

「第三騎士団団長をシャンプーひとつで懐柔しやがったぞ……」

「あれこそ、まさに伝説のSHAMPION!」

「おい、脳内BGMでクイーンが流れるからやめろ!」


 なんか冒険者の人たちがざわざわしてるけど、何かあったのかな?


 ちょっと気になっていたら、知った顔を見つけたよ!


「?」


 あー。


 こっちは姿を変えてるから分かんないかぁ。


 とりあえず、アイルちゃんが無事で良かったよ。まぁ、その背後には色々と無事じゃなさそうな人もいるみたいだけど……。


 怪我人を守って戦おうとでもしてたのかな?


 良く分かんないけど、辻ヒールでもしとこうかな。スキルの熟練度上げにもなるし。


 【全体化】のおかげで手間もそんなにかからないしね。


「ほい、【シャインヒール】」

「!」


 冒険者仲間たちが光に包まれて、その傷が回復していくのにビックリしたのかな?


 アイルちゃんが目を大きく見開いている。


「これで、欠損も治ったはずだから」

「はい! ありがとうございます、お姉様!」


 お姉……んん?


 まぁ、いっか。


 多分、戦闘の高揚感からアイルちゃんも混乱してるんだろう。


 まさか、私の声を覚えていて、正体が私だって見破ったとかはないよね?


 はは、まさかね。


「おい、欠損回復の回復魔術を全体でやりやがったぞ……」

「単体の回復魔術を全体でできる奴なんて一人しかいないだろ……」

「あぁ、【黒姫】のaika……」

「まさか、アイツ、aikaなのか……?」


 違います! お姉ちゃんの方です!


 でも、ここで必死になって否定すると、やはり愛花ちゃんでは? とかなったり、人の話に聞き耳立ててやーねーとなりそうなので、あえてスルーする。


 愛花ちゃん。


 なんか変な二つ名とか付いたらゴメンね?


「ありがとう。助かったよ。僕はSUCCEEDのミタライ。君の名を聞いてもいいかい?」


 そして、まごまごとしていたら、なんか黒髪の爽やかイケメンが近づいてきた。


 というか、この人がプロゲーマーの人?


 ミタライってなんか聞いたことあるね。


 でも、今時の若い兄ちゃんって感じで普通だ。


 この人が本当にゲームをクリアしてくれるのかなぁ……?


「どうも、山田です」

「割りと分かりやすい嘘をつくね」


 あっさりと嘘が看破された!


 と思ったら、アイルちゃんが申し訳なさそうに、指でバツ印を作っていたよ! 【審判の目ジャッジメントアイズ】を使ったね! 圧倒的じゃないけど、そのユニークスキルは本当に面倒くさいなぁ! 


「できれば、色々と話を聞かせて欲しいんだけど……。そして、可能なら僕たちのゲーム攻略にも力を貸して貰えないかな?」

「あー、一言いっていい?」

「なにかな?」

「プロのゲーマー集団が素人に意見を求めるとか、その時点でプロ失格なんじゃない?」

「そんなことはないよ。情報あふれる現代社会では一人でやれることには限界があるからね。有用な情報があれば、それを調査、整理して活用する。それが現代のプロゲーマーなんだよ」

「ふぅん? じゃ、古臭い考え方のお姉さんからも少しアドバイスをあげよう」

「何かな?」

「ゲームの攻略だなんだと細かいことを考えるよりも、ゲームを楽しんだ方がいいよ? このゲームはクリアしたらもう二度とできないゲームなんだ。だから、後悔しないように、目一杯楽しむことをオススメするね」


 私の言葉に、ミタライくんが目を丸くしている。まるで鳩が豆鉄砲を食ったようだ。


 というか、私なんか楽しみまくった結果、スキルと会話できるようになってきたしね。


 このゲームにおいて、そういう気持ちは大事なんだと思うよ。


「そうだね。心に留めておこう」

「うん、そうして。あと話し合うのはお断りさせてもらおうかな? 私も暇じゃないんでね」

「そう? まぁ、気が変わったら、いつでも訪ねてきてよ。装備や情報なんかも、ある程度のことには対応できると思うしね」

「うん、その時はよろしくね」


 ごめんねー。


 そういうのも、割りと一人で対処できちゃうタイプなんだ。だって、私って生産職だからね!


 というわけで、今度こそ王城に向かおうとするんだけど、そこを今度は黒髪オールバックの軍服さんが通せんぼする。


「待て。どこへ行く」

「え、王城だけど?」

「部外者を王城にまで行かせるわけにはいかん」

「その前にひとついい?」

「なんだ?」

「大分、生え際、後退してきてますよね?」

「!?」


 とりあえず、黒髪オールバックの人と十五分ほど交渉。


 その結果、どうにかシャンプー一本で通してもらえることになった。


 そして、その結果を受けて盛り上がる外野たち。


「スゲェ! シャンプー二本で騎士団長二人を落としやがった!」

「やはり、奴こそが伝説のSHAMPION!」

「おい、脳内BGMでクイーンが流れるからやめろって言ってるだろ!」

「どこまで強気のシャンプー外交を続けるつもりなんだ、【黒姫】aika……」


 うん、愛花ちゃんが「私じゃなーい!」と叫ぶ声が聞こえる気がするよ。


 でも、これも運命だからね、許してね。


 というわけで、私はシャンプーを武器に王城に潜入することを許された。


 まぁ、魔王軍四天王なんすけど、今回の騒動の後始末したいんで、通っていいっすか? と小声でバカ正直に宣言したのが効いたのかもしれない。


 というか、あの感じだと第一王子派はその可能性も考えてたってことなのかな?


 確証がなくて動けなかったか、誰が裏で糸を引いてるのかわからなくて動けなかったかは知らないけど、少なくともあの黒い人は何とかしてくれるならってことで通してくれたんだと思う。


 …………。


 いや、まさか、シャンプー欲しさにってことはないとは思うけど……。


 え、ないよね?

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