第105話

 私の【鑑定】が弾かれたということは、私よりも相手の方が格上ってことなのだろうか?


 それとも、他に【鑑定】を弾くアイテムを持ってたりとか、スキルを所有してるとか?


 どちらにせよ、私が【鑑定】に失敗したことは相手にも伝わってしまう。


 フィーアはニヤリと笑うと、


「フッ、自ら絶望を感じるとは酔狂な奴め」


 せせら笑うなり、駆ける。


 え、早――……。


 ドンッ!


 衝撃と共に腹部に感じる強烈な痛み。


「あぐっ!?」


 痛い、痛い、痛い!?


 お腹に強烈な腹パンを受けたような痛みが駆け抜け、私は後方にゴロゴロと転がり、無様に尻もちをつく。


 それでも、涙目になりながらもフィーアを睨みつけたのは、追撃を警戒してのことだった。


 うぅっ、内出血でもしてるのか、お腹の感覚がない。痛い、痛い、痛い……。もうやだぁ……。


「硬いな」


 けど、フィーアはフィーアで、攻撃した手応えに戸惑っているようだった。


 硬いと呟き、切断できなかった自身の武器……柄の長い槍だ……を見返している。


 というか、私の敏捷は600オーバーにも関わらず、普通に動きが捉えられないんだけど!? 何なのコイツ!?


 ステータスを見れば、HPが十分の一以上は減っているところから、私の物防から逆算すると、フィーアの物攻が1100オーバーはあるって計算になる。


 EODよりも高いなんて、そんなことありえるの!? 不可解ここに極まれりだよ!?


「【オーラヒール】……」


 【光魔術】レベル10。現状、私が使える最大級の回復魔術で自身を回復させる。


 それで、お腹の痛みは収まった。


 それと共にフツフツと怒りが湧いてくる。女の子のお腹を斬ろうとするなんて、なんて奴! 許せない!


「まだ動くか。実力差は理解したはずだが……。逃げぬというのであれば、倒すしかあるまい。――皆のもの、鬨の声を上げよ!」

「「「おー!」」」


 頭の中がぐわんぐわんするような大声にさらされながらも、私は視界の端に映ったシステムメッセージを見逃さない。


 ▶まねっこ動物が発動しました。

  【少しだけ衆中一括】を習得しました。

  まねっこ動物のスロットがいっぱいになりました。

  以降、新規に覚えた技は既存の技と入れ替えとなります。


 あ、まねっこ動物にストックしておける技って入れ替え制になるんだー。


 じゃあ、残しておきたい技を消さないように注意しないとねー。


 じゃ、なーい!


 私は慌てて、【少しだけ衆中一括】のスキル概要を確認する。


====================

【少しだけ衆中一括】

 半径2.5km圏内の自身の配下の力をまとめ上げることで、自身の力へと変える。

 ※配下全員のステータスの0.5%を自身のステータスへと加算する。

====================


 え。


 待って、待って、待って。


 何、このクソスキル!?


 フィーアの背後には、千人以上の兵士が控えているわけなんだけど……。


 その一人ひとりのステータスの1%分、フィーアのステータスが強化されるってこと?


 つまり、あの千人の兵士たちのステータスがこんな感じだったとしたら……。


 名前 兵士A


 物攻 100

 魔攻 100

 物防 100

 魔防 100

 体力 100

 敏捷 100

 直感 100

 精神 100

 運命 100


 フィーアのステータスは、この兵士のステータスの1%を加算されるってことでしょ?


 つまり、全パラメーターがプラス1されるってことで……。


 それが千人いれば……全パラメーターが1000超えるってこと!?


 ナニソレ!? 反則じゃん!


 いや、私が言える義理じゃないにしても、このゲームのユニークスキルはとんでもないのが多過ぎる気がするんだけど!?


「「「第四騎士団最強! 第四騎士団最強!」」」

「「「フィーア様万歳! フィーア様万歳!」」」

「行くぞ、小娘!」


 私は咄嗟に両腕を上げてガードを固める。


 首だけは、人より取れやすいから死守しないと!


 そんな私に向かって、容赦なくフィーアは槍で何回も斬りつけてくる!


 強烈な痛みに耐えながらも、私は泣き言のように回復魔術を使い続けて、何とか意識を手放さないようにする。


 あぁ、体が重い……!


 意識が泥の中に沈んでいくように暗くなっていく。


 HPはそこまで減ってないのに、精神が摩耗している気がする。


 現実的な痛みって、本当に毒でしかない。


 フィーアは格上の強者による重圧が私の足枷として働いてるって言ってたけど、多分それだけじゃない。


 フィーアの背後に控えている騎士たちも相応の重圧を私に与えてきている……!


「「「フィーア様! フィーア様!」」」

「「「殺せ! 殺せ!」」」


 この感じ……、嫌だ……。


 あの時のことを思い出す。


 あの時の――中学の時の、みんなでよってたかって、私を徹底的に無視して、私を追い込んでいった、あの時のことを思い出す……。


 私は何もしてないのに、私一人が悪者で……。


 みんながみんな、正しいことをしてるみたいな空気で……。


 アイツは女の敵だからって……。


「…………」


 ――違うじゃん。


 私が学校でもモテる方の男子をフッたのは確かだけど、誰も彼もがソイツと付き合いたいって思ってたわけじゃないじゃん。


 私が別にフッてない男子に思いを寄せてる級友クラスメートだっていたわけじゃん。


 なのに、扇動する女子たちに何となく乗っかってさ。


 イジメのターゲットが自分に向くのが嫌だからって、傍観者のフリして加害者してたじゃん。


 コイツらはそれに近いんだ。


 第四騎士団の連中から、私のトラウマを掘り返すような嫌な圧を感じる。


 状況も噛み合って、ちょっと泣きそうだ……。


「どうしたぁ! 亀のように縮こまることしかできないのか!」

「……【オーラヒール】」


 私が歯を食い縛って、何とか泣かないのを我慢していると……。


 ▶【バランス】が発動しました。

  威圧感のバランスを調整します。


 ▶【畏怖】スキルLv1を取得しました。


 ▶【バランス】が発動しました。

  スキルのレベルバランスを調整します。


 ▶【畏怖】スキルがLv3になりました。

  泣かないでヤマモトさん。

  私はあなたの味方ですよ。


 え……。


 【バランス】さん……?


 突然、ふっと体が軽くなる感覚。


 これは、【畏怖】というスキルを取得したからなの……?


 慌てて、スキル効果を確認すると、


====================

【畏怖】

 周囲の者へ威圧を与え、本来の力を発揮させなくする。

 ※弱体効果、効果範囲はスキルレベルによって上昇する。

====================

 

 パッシブ的なデバフ効果?


 それで、騎士団のステータスが減少して、フィーアから受ける威圧感が減ったってこと?


 …………。


 ありがとう、【バランス】さん。


 私、頑張ってみる。


「ようやく防御を止めて諦めたか!」


 ……見える。


 フィーアの攻撃は相変わらず早いけど、さっきまでの対応できないレベルの早さじゃない。


 私は大きく後退して、フィーアの攻撃を躱す。


 それで、フィーアも自身の力が落ちていることに気づいたみたい。


 自分の部下たちに喝を入れる。


「貴様ら、どうした! 気合が足りんぞ!」

「「「お、おー! フィーア様最強! フィーア様最強!」」」


 騎士団の士気が上がる。


 コイツら……。


 自分たちでは何もしないくせに、勝ち馬に乗った気で騒いでるのが……。


 すぐに倒せるぞ! とか、あんな雑魚瞬殺だ! とか、ダサい鎧着て目立とうとしてんじゃねぇ! とか、好き放題言ってくれてる……。


 というか、学生の時分も実際にイジメの指揮した奴らも許せなかったけど、流されるままにイジメに加担してた連中も許せなかったからね!


 ぷっつーん、ときたよ!


「うるさいっ! アンタらみたいなのがいるから、世の中からイジメがなくならないんだ! 他人に迷惑かけることを流されてやるんじゃない! 自分を持ってシャンとしろバカー!」


 フィーアを無視して、私は第四騎士団の中に飛び込む。


 私のあまりに突飛な行動に、フィーアがポカンとしてる内に、私は周囲の第四騎士団の連中を怒りのままに斬り伏せていく!


 撫で斬りじゃー!


「一人じゃ何もできないくせに、ぼっちを集団でイジめて何が楽しいのさ! そんなことやってる暇があるなら、夢中になれるもの探せよアホー!」


 私の周囲にいた騎士団五十人くらいがあっという間にポリゴンになって消えていく。


 強いのはフィーアであって、騎士団自体はそんなに強くない! だったら、徹底的に荒らすまで! ガガさんの魔剣を私はブンブン振り回す!


「おい、貴様! 相手はこの俺だぞ!」

「うるさい! 大体、まともにデザインしたことも無い奴が、どこかで見たようなデザインですねとか批評すんなッ! だったら、アンタがオリジナルのデザインで作ってみなさいよ! そして、万人を納得させてみせてよ! やれるの!? やってみせてから文句言いなさいよ!」


 あ、何か日頃の鬱憤を吐き出して、少しだけスッキリしてきた。


 この際だから、ぜーんぶ吐き出そう。


 溜め込むのは良くないしね。


「ま、待て! それ以上進むな!」


 私がガンガンに第四騎士団の中に吶喊していくので、フィーアも迂闊に武器を振れなくなったみたい。長物を振り回して、味方に当たったら危ないもんねー。


 私にとっては関係ないけども!


「何が古臭いキャラデザだー! そういう注文きたから、そういう風に描いただけだし! というか、そういう奴に限って大した実力もないくせに、難癖つけるんじゃないよ! というか、AIに描かせた絵柄を俺の実力とか言ってんじゃないよ! 死ね!」

「何の話だ!?」

「『俺の絵見て、何かアドバイス下さい』って言われたから、『バストアップと右向きの絵だけ描いてても上達しないよ?』ってアドバイスしたら、次の日から垢消しすんなや! 何か私が傷付けたみたいじゃんか! ふざけんな!」

「だから、何の話だ!?」

「私、○○って言います。昔から先生のファンですーって言いながら、お前がずっと私の作品に星1の評価付けてたこと知ってるんだからな! 良くも抜け抜けとファンですとか言って、サイン付きオリジナルイラストをDMで強請ってこれたな! 死ね! 死んでしまえ!」


 バッサバッサと斬り進みながら常日頃から思ってた鬱憤をぶち撒ける。


 何か大勢の人間に囲まれることで、一般ユーザーに対面してる気分になり、不満が爆発してしまったらしい。


 気づいたら、大量の騎士たちがポリゴンへと変貌し――。


「き、貴様ぁ!」


 スカッ。


 うん、力の源を失ったフィーアが驚くほど弱くなっていた。


 最初から、第四騎士団の面々を【木っ端ミジンコ】しておけば、こんなことにならなかったのかもしれないけど……。


 でも、【バランス】さんと話せたし、ストレスも解消できたし、そのへんはちょっとラッキーってことで。えへへ……。


「隙あり!」

「隙ありじゃないよ。何言ってるの?」


 振り下ろされた槍の一撃を無造作に躱しながら、私はフィーアと巨馬を縦に真っ二つに斬り裂く。


「これは、余裕って言うの」


 人馬一体のままポリゴンになって消えていくフィーアを見ることもなく、私は先へと進む。


 ▶第四騎士団団長フィーアを討伐しました。

  SP10が追加されます。


 ▶称号、【殺戮者】を獲得しました。

  SP5が追加されます。


 ▶称号、【人族キラー】を獲得しました。

  SP5が追加されます。


 ▶経験値24513を獲得。

 ▶褒賞石12476を獲得。

 ▶ヤマモトはレベルが上がりました。


 ▶【バランス】が発動しました。

  取得物のバランスを調整します。


 ▶褒賞石12037を追加獲得。


 人のトラウマをほじくり返そうとする奴には、死あるのみだよ! プンプン!

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