第104話

 世の中には知ろうとしなければ、知らないことが沢山ある。


 そう。


 スキルレベルが上がっても、覚えた魔法をちゃんとチェックしていなければ、有効に活用できないということだ――。


「まさか、【風魔法】レベル2に空を飛ぶ魔法があるとはねー」


 その名も【エアウィング】。


 【風魔法】は、レベル1の【レビテーション】で空中を浮遊しながら、【エアウィング】で推進力を得て、自由に飛んでいくことを基本に設計されてるらしい。


 うーん、風系って攻撃系はからっきしなのに、意外と便利系の魔術や魔法が多いんだよねー。


 使用頻度も魔術や魔法の中では一番高い気がするし。取得しといて良かったと感じる時が多い。


 で、この【エアウィング】――。


 【ジェットストリーム】と違うのは、スピードはそこまで出ないけど、小回りが聞くのとMP消費の効率が良いということが言えそうだ。


 まぁ、【ジェットストリーム】は常に自分を大砲で撃ち出すような感じだからね。


 Gが辛いし、空を飛ぶのには不便だなーとは思ってたんだよ。


 その点、【エアウィング】は車のアクセルを踏むような感じでスーッと動いていくからね。かなり快適に空を飛べる。


 で、そんな感じで優雅に空を飛んでいたら、今度はツナさんからフレンドコールだ。


 そういえば、ツナさんに王都に向かってることを報告してなかったね。


 丁度いいかな。


「へろー、ツナさん」

『ゴッドか』

「そだよー」

『良い足が見つかったから、そっちに向かおうと思うが、今どこだ?』


 その言葉と共に、何か添付ファイルが送られてきたので確認すると、ツナさんとエンヴィーちゃんと、どこかで見た男の人が映っていた。


 えーっと、誰だったっけかなー?


 どこかで見たような気がするんだけど?


 そんな私の思考を読み取ったかのように、ツナさんが教えてくれる。


『元・夜魔燃斗の男だ。ラプー販売のためにわざわざラプーを率いて、この村にまでやってきたらしい』

「へぇ、そりゃ凄い。でも、わざわざあんな寒村にまでやってくるなんておかしくない?」

『一応、無計画というわけではないようだがな』


 その男が言うには、第五騎士団が周辺で目撃された村は必ずといっていいほど物資が不足するといったセオリーがあるらしい。


 まぁ、フンフの話を聞いてた限りだと、盗賊行為と騎士団による徴収で大分村を荒らし回ってたみたいだからねー。お金も物資も足りなくなるのは、当然といえば当然か。


 で、情報をリサーチして、第五騎士団の姿が目撃された後の村に、彼は踏み込んできたというわけだ。


 ちなみに、生きたままのラプーを連れてきたのは、ラプーの素材は全て有効活用できる上に牛馬代わりにも使えるということで、農村では割りと人気だからってことのようだ。


 それなりに潰しも効くので苦しい懐事情の中でも、人気商品なんだってさ。


 うん、馬車でアホみたいに【轢き逃げアタック】を使ってた、あの子たちはもういないんだなって思ったら、お姉さん、感動してホロリですよ……。


『というわけで、そのラプーを使って、ゴッドの元に急行しようとしているんだが、行き先が分からないので聞いておこうと思ってな』

『大陸に散らばってる他の元メンバーにも話は通しやした! 行き先さえ分かれば、乗り換えのラプーもソイツらを通して用意できやす! そいつを乗り継げば、どこまでも快適に進めますぜ!』


 どうやら、夜魔燃斗の絆は今も残ってるらしい。


 早馬の乗り継ぎみたいな感じで、ラプーの乗り継ぎを用意してくれるみたいだ。


 でも、なんでそこまでしてくれるんだろう?


 それを聞いてみたら、


『俺らは、ゴッドとヤマモトさんのおかげで、どうにか立ち直れたんでさぁ! だったら、恩人に恩を返すのは、商人としての務めってもんでしょう! むしろ、そういうカッコイイ商人になりたくて、俺らはLIAを始めたんでさぁ! だから、お代は要らねぇ! 今こそ借りを返させて下さい!』


 とのことだそうだ。


 へぇ、元・夜魔燃斗の人らも、カッコつけてくれるじゃん……。


 私がフレンドコールの向こうの光景に思いを馳せてニヤニヤしていると……。


『ヤマモト? あなた、今、ヤマモトって言ったの?』


 あ、この声は愛花ちゃん!?


 ヤバイ、どうしよう!?


 と思っていたら……。


『何でぇ? アンタ、ヤマモトの兄さんの知り合いかい?』

『え? ヤマモトの兄さん……?』


 あー……。


 夜魔燃斗の中では、ツナさんがヤマモトだったんだっけ……?


『俺がヤマモトだな』


 その空気を読んだのか、堂々と嘘っぱちを宣言するツナさん。いいぞー、もっとやれー。


『ご、ごめんなさい。人違いだったわ……』

『というか、アンタがもしかして、EOD殺しのヤマモトなのか?』

『というか、さっきのアレもEODだっただろう。見てなかったのか?』

『いや、見たけど!? というか、何か良く分からない内に死んだんだけど!? あのバケモノみたいなのがEODなのか!?』

『いや、モンスターなんて、見た目は大体バケモノだぞ?』

『そういうことじゃなくて! 小山のような大きさの、レイドボスって言ってもおかしくなかったアレがEODかって話で!』

『あと、魔王リリもいなかったか! どういうことなのか説明してくれないか!』


 何か長くなりそうだったので、通話を切ってから、メッセージだけで『王都に行く』と告げておく。


 まぁ、ツナさんのことだから、迂闊なことは喋らずにはぐらかすとは思うけど、大変そうだなぁとは思う。


 他人事ですか? 


 他人事です!


 頑張って、ツナさん! と心の中で応援はしておこう。


 うん、ツナさんならきっと切り抜けられると思うよ!


 そんなこんなで一時間ほど空中散歩を楽しんでいたら、ようやく王都サーズが見えてきた。


 デカイ城壁に囲まれて、中には湖の真ん中にそびえ立つ白亜のお城が見え隠れする、なかなかのファンタジーな都市だ。


 で、現在、その城壁を囲むようにして、ワラワラと部隊が展開している。


 多分、囲んでるのが第二王子の部隊で、城壁の内部に閉じこもってるのが第一王子傘下の騎士団ってことらしい。


 フンフにおまけで教えてもらったんだけど……。


 第一騎士団、第二騎士団は第一王子の派閥で、第三〜第五騎士団が第二王子の派閥なんだってさ!


 で、第五騎士団の到着を待って、第二王子派は一気に王都に攻め込もうとしているって話だったから、今は城壁を挟んでちょいちょい小競り合いをしてる最中って感じかな?


 まぁ、第五騎士団は来ないんだけどねー。


 フンフは私が脅して逃げちゃったから、いくら待っても到着しないんだー。


 だからといって、第二王子側がいつまでも様子見に徹してるとも思えないけどね。


 クーデターを起こした以上は、迅速な王位の簒奪が求められるのに、こんな所でまごまごしてたら、他の土地の貴族の私兵とかが第一王子に協力しに現れかねない。


 そうなると、今度は第二王子派の軍勢が挟撃される形になり、苦しい戦いを強いられることになる。


 そうなる前に、第二王子としてはあの城門をこじ開けて、一気に王都に雪崩れ込みたいところだろうけど……。


 あの分厚く大きな城門や城壁は簡単には切り崩せない――……。


「へ?」


 と思っていたら、巨人が持つような巨大なハンマーが突如として現れて、城門に叩きつけられたよ!


 ドォン! ドォン! バリィッ!


 二回、三回って、消えては現れる巨大なハンマーが城門を激しく叩き、あっという間に分厚い城門を破壊したかと思ったら、第二王子の率いる軍勢が一斉に王都へと向かって侵攻していく!


 いや、噓でしょ!? 今の誰かのユニークスキルなの!?


 そんなことを思っていたら――。


「!?」


 ズシッと、全身に掛かる急激な重み――。


 それに引っ張られるようにして、私の高度が急激に下がっていく!


 これ、誰かに捕捉されて、攻撃を受けてるの!? 全然ダメージはないんだけど、身体がとにかく重いっ!


 空中でバタバタともがくんだけど、それもままならずに、お尻から地面へと叩きつけられる形で着地!


 ビシッと地面が割れてクレーターができあがったよ!


 私本体にそんなにダメージはないんだけど……。


 これ、何?


 重力操作系のユニークスキル……?


 体の自由が効かない……。


「やはり来たか」


 重たい体を動かして、なんとか立ち上がると、私の目の前にいつか見た姿が立ちはだかる。


 巨馬と巨人のコンビ。


 そして、その背後にずらーっと並ぶ、騎士団のみなさん。


 うん、あの巨人と巨馬のコンビは見たことがあるね。


「第四騎士団長、フィーア……」

「ふん、格好を変えたところで、その抑えきれぬ魔力で正体などすぐに知れるわ。貴様、あの時の小娘だな?」

 

 うわー。


 魔王リリスタイルなのに、いきなり看破されてるよ。


 やっぱり、実力者には私の【隠蔽】程度じゃ通じないかー。


 それにしても、さっきから体にかかってる、この重力めいたものは何? 自分の体に鉄球が巻き付けられてるぐらいに重いんだけど?


「この体が重いのは何? 貴方のユニークスキルか何か?」

「ほう、体が重い程度で済んでいるのか。流石だな」


 微妙に答えになってない回答に、ちょっとイラッとする。


 だけど、フィーアはその後にちゃんと解説してくれるみたい。大仰な身振りで両腕を広げたかと思うと、告げる。


「それは、貴様が感じている威圧感プレッシャーよ」

「プレッシャー……?」


 いや、え、実際に体が重いんですけど?


 それって精神的な奴じゃなくて、物理的に作用するものなの?


 私が絶句していると、フィーアがフッと笑みを漏らす。


 それは、てめー全然分かってないな、ダメダメだなと言われているように、私には感じられた。


「どうやら、貴様は真の強者というものにあったことがないらしい。圧倒的な強者を前にすれば、その身は震え、萎縮し、重さを感じ、動けなくなるものなのだ。それが、今、貴様の身に起きている出来事だ」


 嘘……。


 あれだけ、ステータスを上げても、もしかしてフィーアの方が私よりもステータスが上だって言うの!? そんな馬鹿な!?


「か、【鑑定】……」


 私は震える声で【鑑定】を行う。


 だが……。


 ▶フィーアを【鑑定】します。

 ▶【鑑定】に失敗しました。


 まさか……。


 本当に、格上の相手だっていうの……?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る