第85話
■□■
「というわけで、新たな旅の仲間が増えました。エンヴィーちゃんです。拍手ー」
「いや、何がというわけなんだ?」
次の日――。
いそいそと風花亭をチェックアウトしたところで、改めてツナさんとエンヴィーちゃんを顔合わせさせたんだけど、勢いでツナさんを納得させることはできなかったみたい。
仕方ないので、歩きながら色々と端折って説明するよ。
カクカクシカジカターイム!
「つまり、ゴッドが強過ぎるせいで、魔王軍からスカウトがきたのか」
そんなプロ野球のスカウトみたいに。
大筋では間違ってないかもだけどさー。
「いえ、正確には魔王様が直々に新四天王となられるであろうヤマモト様と話がしたいと言われまして、そのために【遠話】の魔法陣を届けにきた次第です」
「魔王? 四天王?」
あぁ、ツナさんにそこは上手くボヤかして説明してたのに、全部台無しになる予感!
「そもそも、魔王様からはヤマモト様を四天王の一人だと思って遇せよとの命を頂いております」
「お、おう……」
ツナさんから、「大変だな、お前さんも」という気配を感じる。
そう、大変なんだよ!
でも、それ以上にまず私のことをヤマモト、ヤマモトと連呼するのをやめさせないと!
どこで誰が聞いてるか分からないからね!
「エンヴィーちゃん。悪いんだけど、人前で私の名前を呼ぶ時はヤマちゃんって呼んでくれる?」
「それか、ゴッドでもいいぞ」
良くないよ! ツナさんはそれを広めようとしないでよ! 一部界隈で微妙に広がりつつあるんだからね!
「わかりました。では、ヤマ様と呼ばせて頂きます」
ヤマ様……。
なんか関係ないけど、韓流スターにでもなった気分だね……。
そんな会話をしながらも、私たちは街の外へと向かって歩いていく。
そこで、ツナさんも、ちょっとどこに行くんだろうって疑問に思ったみたい。視線をこちらに向けてくる。
「ところで、これはどこに向かっているんだ? 街の外に向かっているみたいだが……」
「え? あー、言ってなかったけ? セカンに飽きたから、ファースに行こうかなって思ってるんだよねー」
「旅の同行者に告げずに、行き先を勝手に決める。四天王ポイント、プラス1……」
「…………」
ツナさんがエンヴィーちゃんを「何だコイツ……」って目で見てるけど、エンヴィーちゃんは気にしてないみたい。カリカリと歩きながらメモを取ってるよ。
「まぁ、ファースに行くなら行くで良いが、こっちは旅支度なんかしてないぞ?」
「大丈夫だよ、私の方で色々と買い込んでおいたから」
「できる気遣い。四天王ポイント、マイナス1……」
エンヴィーちゃん、歩きながらのメモ書きは危ないからね? 前を見て歩こうね?
あと、旅支度の方は私の方でちゃちゃっと済ませた。
作った剣をワールドマーケットで何本も売って、懐も潤ってたしね。大盤振る舞いって感じだよ。
「そもそもファースには何があるんだ?」
「ファースというか、ファースの南にある森に色々と素材があるって話なんだよね。場合によっては、その森の中にダンジョンがあるかもってぐらいかな?」
「ダンジョン……EODがいそうだな!」
ツナさんの士気が俄然上がる。
いや、その感想は何も間違ってないと思うよ。
というか、クリスタルなドラゴンさんも、大きなミミズさんも、どっちもダンジョンで「こんにちはー」してるからね。ダンジョンイコールEODの住処と言われても、私の中では全く違和感がない。
むしろ、違うの? って感じだ。
「というわけで、ファースにちょっとした素材を集めに行ってみようって話だね」
「魔王軍の幹部が、あまり人族国で勝手に動くのは好ましくないのですが……」
「今はまだ四天王(仮)みたいな状態でしょ? 大丈夫、大丈夫」
新生活前に卒業旅行とかで羽目を外したりするアレと一緒だから問題ないでしょ。
というわけで、セカンの門にまでたどり着いた。
セカンには、十日間という短い間だったっけど色々とお世話になったような気がする。
カラフルな街並みの景色を目に焼き付けて……それでは、アデュー!
「あ」
「あ」
カッコつけて人差し指と中指だけを立てて額から離しながら、「アデュー!」とかやっていたら、そこを通りすがりのアイルちゃんパーティーに見られた件。
ぐおおぉぉ、恥ずかしいよぉぉぉ……!
「おね……貴様ぁ! ときめかせるようなことをやるんじゃない!」
「……尾根?」
というか、アデューってカッコイイよね。トキメクよね。うんうん、やってみたい気持ちは十分にわかるよ。実際やったし。でも、掘り返すと自爆するから、そこには触れないよ!
「ちょっと言い間違えただけだ! 揚げ足取るな!」
「あぁ、うん、そう」
アイルちゃんも大分調子が戻ってきたっぽいね。顔がちょっと真っ赤なのは、まだ本調子じゃないのかもしれないけど。
「私は
また呪文唱えてるし!
そして、立ち直った! 早い!
「貴様ら! 運が良かったな! 私たちは今日から王都サーズへと向かう! そこでクラスチェンジし、新たな力を手に入れるのだ! も、もし、その、よかったら……い、一緒にどうだ!? サーズまで一緒に行かないか!?」
「え、ゴメン。私たちこれからファースに行くんだよ。だから、無理」
「…………」
「えーと、本当にゴメンね?」
「猫に引っ掻かれて死んじゃえー!」
そう言い捨てて、アイルちゃんはパーティーメンバーすら置いてきぼりにして走っていってしまった。
「あ、ご迷惑おかけしました。それじゃー。……アイルちゃん待ってー!」
それを追いかけて走っていくPROMISEの皆さん。
うーん、カオス。
「それじゃ、こっちも行くか」
「そうだね。【馬車召喚】っと」
そして、こっちもそれに優るとも劣らぬマイペースっぷりというね。
私たちもアイルちゃんたちのことは言えないのかもしれない。
そして、エンヴィーちゃんだけが、眉根に皺を寄せて、むむむと唸っているのは何故だろう? 困惑してるのかな?
「魔王軍四天王であられるヤマ様にあの態度……タダモノではない?」
それは穿ち過ぎだよ!
ただの炎上系配信者だよ!
■□■
というわけで、馬車の御者台にエンヴィーちゃんと座りながら、ゴトゴトと移動する。
ツナさん?
ツナさんは馬車の屋根に上って、そこで空を見上げてる。鳥が飛んでたら、それを落として夕飯の食材の足しにするんだってさ。
空は快晴。雲はゆったりと流れ、牧歌的な雰囲気が漂う中を馬車は進む。
ファーランド王国が平和とは、よくいったものだね。
街道を進んでいれば、モンスターと遭遇することすらないんだから、平和そのものだよ。
で、特に何事もなく馬車は進んでいるんだけど、少し気になることがある。
「尾けてきてるな」
「そうですね」
「そうだねぇ」
ツナさんが言う通り、私たちの馬車から、つかず離れずの距離を保ちながら、ずっと後をつけてくる集団がいるのだ。
どうやら、私たちをモンスター避けにして、楽をしているようなんだけど……。
「どこまでついてくるんだろうねぇ。あの――」
「野盗は」
「暗殺者は」
「馬車は」
ん? そこは皆の声がハモるところじゃないの?
聞き間違えたかなと思って、私は思わず尋ねてしまう。
「え、みんななんて言ったの? 馬車の話じゃないの?」
「馬車って、俺たちの後ろについてくる少し豪華な感じの馬車か?」
「そうそう。セカンを出たあたりから、ずっと後ろをついてくるよね?」
「そうだな。そして、その馬車を狙っているのか、冒険者の格好をした野盗のような連中が更につけてきている」
ツナさんが言うには、私たちの後を走る馬車を追う冒険者の格好をした野盗のような存在がいるんだってさ。
いや、それ、どうやって見定めてるのと聞いたら、【野生の勘】ってスキルが働いて、冒険者に偽装した連中がついてきてるって直感が働いたんだってさ。
たまにしか働かないスキルなんだけど、結構、重要な情報を寄越すこともあるんで重宝してるんだとか言ってるね。
で、エンヴィーちゃんが言うには、
「そんな冒険者紛いの更に後方に、黒ずくめの怪しい風体の二人組がいます。距離にして三キロ後方です」
ツナさんの言う野盗すら見えないのに、エンヴィーちゃんが言うには、更にその奥に怪しい二人組がいるらしい。
いや、全然分からないんだけど!
エンヴィーちゃんには何が見えてるの?
そういうユニークスキル持ち?
私には、ついてくる馬車の姿ぐらいしかわからないよ!
せめて、ツナさんとエンヴィーちゃんの索敵範囲が一緒だったらなぁ。
バランスを取るために私の索敵範囲も勝手に広がると思うんだけどねぇ。
現状だと、索敵範囲が長、中、短と揃っちゃってるから、ある意味バランス取れてて、【バランス】さんが発動しそうにないというね。
うーむ、もったいない……。
「ちなみに、その怪しい風体の人たちって暗殺者なの?」
「格好は我が国の一般的な暗殺者の装束に酷似しています」
「我が国? 人族国じゃなくて?」
「人族国の一般的な暗殺者の衣装を私は知りません」
それもそうか。
というか、魔物族の国の一般的な暗殺者衣装を知ってるってことは、そういうのが城に出入りしてるってことだよね?
使う側なんだか、狙われる側なんだか知らないけど、物騒な想像が捗っちゃうね!
「それにしても、そんな離れたところにいる相手をよくみつけられるねぇ」
「魔王様の秘書でしたら、これぐらいはできて当然です」
魔王の秘書ってポンコツだけど、能力優秀な人が多いのかな? 私にはよくわかんないよ。
「野盗の方は、後ろの馬車を狙ってるんだろうが、その後ろの怪しい二人組の狙いはどっちだ?」
「どっち?」
「俺たちを狙うってこともあるだろう?」
ツナさんが屋根からひょいと頭だけを出して、そう尋ねる。
あ、そっか。
私たちが狙われるパターンもあるわけか。
すっかり、後ろの馬車が狙われてるものとばかり思い込んでいたよ。
……ん?
「いやいやいや、品行方正に生きてる私たちが命を狙われるとかないでしょ?」
「ゴッドはやらかしがあるから、本人が預かり知らん部分で他人から恨みをかっていることもあるとは思っている」
酷い言い草!
でも、きっぱりとそんなことはないと言えないもの悲しさ!
「もうひとつの可能性もあるのでは?」
挙手して発言したのはエンヴィーちゃんだ。
はい、どうぞ。
「あの野盗たちを殺すために暗殺者が派遣されたとは考えられませんか?」
悪党同士が殺し合いなんてするかなぁ?
いや、悪党だからこそ、恨みをかって暗殺者が送られたとか?
まぁ、いくら話し合っても結論なんて出ないんだけどね。
結局、私たちは不思議な追跡者たちのことをダシに話に花を咲かせるのであった。
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