第83話
王国軍の第四騎士団と少し揉めてから、四日が経った。
その間、私が何をしていたかというと、セカンの街中に引きこもり、【調合】や【錬金術】をレンタル施設の中でひたすらに行っていた感じだ。
うん。
なんかヤな感じだったから、ほとぼりを冷まそうと考えたんだよね。
というわけで、当初の目的である生産活動に精を出して、コツコツと成果物を生産していったんだよ。
いやぁ、生産活動はいいねぇ。
人と接触せずに、コツコツと自分の作業だけに没頭できるってのが最高だよ。
このへん、絵師としての創作活動にも通じるものがあって、十分にリフレッシュできた気がする。
ちなみに、LIAでは自分の工房を持たない流しの調合師や錬金術師は、街中の生産用レンタル施設を借りることによって、【調合】や【錬金術】を行うことができるんだよね。
もちろん、簡易の調合セットや錬金術セットを持っていれば、屋外でもできるんだけど、それだと比較的簡単なレシピのものしか作成できない。
あと、エヴィルグランデの時のように、生産ギルドの中にも無料の生産施設はあるんだけど、セカンの街は……というか、人族の国では……結構、生産活動が盛んらしくって、いっつも混雑状態なので、使用するのは諦めたよ。
なかなか順番が回ってこないし、落ち着いてもできないから、それならお金を払ってレンタル施設でやるかなーって感じになっちゃった。
一応、レンタル施設だと、生産ギルドの無料施設よりも設備が良くて、品質も上がりやすいってメリットもあるので、単純に損してるってだけじゃないのが救いかなー。
で、【調合】や【錬金術】をちょいちょい生産施設でこなしつつ、たまにはガガさんの工房で剣打ちした時のことを思い出したりして、剣を打ってみたりしてたら、あっという間に四日が過ぎちゃったね。
で、本日で宿の滞在期限の十日目。
延長しようかどうしようか迷いながら、レンタル生産施設から出てきたところで、見知った人影を見つける。
「あ。おーい、アイルちゃーん」
「うあぁぁぁぁぁ!?」
飛び跳ねるようにして叫んだ後で、キョロキョロと辺りを見回すアイルちゃん。
そして、私の姿を見つけるなり、
「私は
なんか変な呪文を唱え始めた。
うん。
四日前に、アイルちゃんが殺されそうになった一件あたりから、なんかアイルちゃんの様子がおかしいんだよね。
その反応がちょっとだけ面白くて、ついつい声をかけちゃうんだけど、今日も変なリアクションで対応してくれたね!
うむ、満足満足。
「うぅ、やめてぇ……。そんなに素敵エフェクトを飛ばしながら近づいてこないでぇ……」
「え? そんなエフェクト飛んでる?」
思わず周囲を確認しちゃったけど、特にそんなエフェクトは飛んでない。
あれかな? 【
見えないものも見えるようになっちゃうとか?
それは、それで怖いスキルだね。
「大丈夫? 辻ヒールいる?」
「優しい……。キュン……。 ……はっ! キュンじゃない私ぃ!」
ポカポカと自分の頭を殴り始めちゃったアイルちゃん。
なんかよく分からないけど、重傷そうだ。
ほら、死にそうになった現場に私もいたわけだし。私の顔を……顔は見えないや……姿を見ると、その時のことを思い出して、取り乱すとかそういうことなんじゃないの?
それだと、ちょっと可哀想なことをしてる気がしてきたよ……。
「はぁ、はぁ、何もかもがステキに見えてしまう……。本当にどうしたら……」
「ステーキに見えるの!? それは、本当に大変そうだねぇ……」
「違っ!? あぁっ、そんな天然なところも……」
アイルちゃんは本当に大変そうだ。
早く病気を克服してくれることを願うよ。
で、往来の端っこの方で、私たちがキャイキャイやってたら、大きな影が差す。
「ゴッドも帰りか?」
あ、ツナさんだ。
「や、ツナさん。私は今終わったとこ。ツナさんも?」
「あぁ、海に潜って何体かモンスターを倒して、それをギルドに売っ払ってきた帰りだな」
「よくやるよねー」
「まぁ、素人には無理だな。簡単に部位破損が起きて危な――、…………」
ツナさんの言葉が唐突に止まって、視線があらぬ方向を向いている気がする。
なので、そちらを私も向くのだが、そこにはニコニコと笑ったアイルちゃんがいるだけだ。
「どったの、ツナさん?」
「いや」
私がツナさんの方に振り向くと、ツナさんがまだアイルちゃんを観察してる。
「なんか、アイルちゃんが珍しい?」
「珍しいというか、アイツあんな奴だったか?」
「死にそうな目にあったことで、心に傷を負っちゃったらしくてね……」
「傷を負ってる? 機嫌の悪い猫が『シャー!』ってやるような感じなのが、傷を負ってる……?」
「え、どういうこと?」
私は思わず後ろを振り向くけど、アイルちゃんは変わらずのニコニコ顔だ。
で、ツナさんの方に振り向くと見せかけて、アイルちゃんの方を全力で振り向く。
シャー! って威嚇してた。
「…………」
「…………」
あぁっ! アイルちゃんが両手で顔を覆い隠して、どっかに走り去って行っちゃったよ!
「追わないのか?」
「なんで?」
「…………。まぁ、いいか。宿に帰ろう」
「そだねー。あ、そういえば、ツナさん。コレ渡しとくね」
というわけで、昨日の晩に【魔神器創造】で作り出した【蘇生薬】をツナさんに五個ほど渡しておく。
「なんだこれ?」
「【蘇生薬】。使うタイミングはツナさんにお任せするよ」
「ふむ、わかった」
まぁ、使うタイミングなんてない方がいいのは当然だけどね。
ツナさんと並んで歩きながら、夕焼けに照らされるカラフルな街並みに感嘆のため息を吐く。
日中のパステルカラーな街並みも好きだけど、こうやって夕焼けが照らすと一斉にオレンジ色に染まる景色もまた格別だ。
こういう心が動かされる景色を見る度に、旅っていいなぁって感じるよね。
そんな景色を上機嫌で楽しみながら、宿の前にたどり着いたところで、宿の前に誰かが立っていることに気づいた。
なんだろ?
港町には全く似つかわしくない、上下黒のスーツに身を包んだ紫髪の褐色肌の美人さんだ。見る限りだと、有能な秘書って感じがひしひしと伝わってくる。
そんな女の人が宿の前で立ち尽くしているのは、どこか違和感があるね。
でも、私には関係ないかなーと思って宿に入ろうとすると……。
「ヤマモト様ですね」
げっ。
もしかしなくても、私関連の厄介事だったりする?
「魔王様の使いの者です。是非、お話を聞いて頂けると嬉しいのですが……」
げげげっ!
魔王の使いってことは、四天王のアレだよね!?
全然条件とか考えてなかったんですけど!?
むしろ、生産活動をエンジョイしてて、すっかり忘れてたぐらいなんですけど!
うわー。どうしよ……。
「えーと、とりあえず、こんなところでは何ですので……」
「わかりました」
というわけで、ツナさんには一階の食堂で食事をしてもらってる間に、私は魔王軍の使者さんを、私が泊まってる二階の部屋へと案内する。
「えーと、狭い部屋で申し訳ないんですけど」
「問題ありません」
モデル歩きで部屋に入ってきた使者さんは、綺麗な姿勢で部屋の中央あたりで佇む。
「あ、適当に椅子にでも座ってもらって……」
「お気遣いなく」
そう言って、ずっと立ったままの状態を維持しようとする。
うーん。やりにくい……。
私はベッドに腰掛けながら、とりあえず、目の前の人が凄く礼儀正しく、真面目な人なんだろうなーと理解したよ。
そんなことを考えていたら、使者さんが綺麗な姿勢のままで一礼する。
「突然のご訪問申し訳御座いません。魔王軍四天王候補のヤマモト様で間違いありませんでしょうか?」
「イコさんに新四天王頑張ってねーって言われたヤマモトなら私だねー。それにしても、よく私がヤマモトだって分かったね?」
そう、そのへんは気になってたんだ。
魔王軍関係者には、誰にも気づかれることなく海を渡ったはずなのに、あっさりと身バレっておかしくない?
衣装だって変えてるのにさー。
もしかしたら、この人が凄く優秀なのかもしれないけど、何かカラクリがあるのなら聞いてみたいところではあるね。
「魔物族である以上、無職であることは考え難かったので、冒険者ギルドと商業ギルド、後は教会の方のデータベースにアクセスして、ヤマモト様の登録情報を検索させて頂きました。そこで、エヴィルグランデにて最初期の登録情報がありましたので、ミレーネ様より、容姿に関しての情報を頂いております。あとは、商業ギルドネットワークを介して、直近での依頼完遂情報を調べてもらい、このセカンの街にたどり着きました」
「なるほどねぇ。でも、セカンの街って言ったって広いよ? 背丈はともかく、格好だって変わってるしさー。私を探すには難しくない?」
「そこは、物魔に優れるライコ様を倒された方ということで、【魔力感知】にて強大な魔力を纏った方に絞って検知させて頂きました。実力を秘匿したいと考えるのであれば、今すぐにでも【偽装】を修得することをお勧めします」
「なるほど……」
【魔力感知】って【鑑定】代わりにもなるんだね。
ということは、【魔力感知】を持っている相手には、私の実力が知れ渡っちゃうってことで……。
変なことに巻き込まれる可能性も増えてくると考えたら取っておいた方がいいかな?
私はSPを消費して、早速【偽装】を取得すると、適当にステータスをオール50くらいに設定する。ま、即席なんだから、こんな感じでいいでしょ。
「どう? 【偽装】を取ってみたけど」
「一見すると、魔力が抑えられているように見えます。よろしいかと」
一見すると、ということは、よく見ると分かっちゃうってことだね。
そこは、スキルレベルを上げるしかないのかな?
何せ、スキルレベル1だもんねー。
「そろそろ、本題に移らせてもらってもよろしいでしょうか?」
「あ、はい。どうぞ」
そういえば、魔王軍四天王の話がまだだったね。
うーん、まぁ、なるようになれの精神で、何とかするしかないかな……。
「ヤマモト様には、こちらを受け取って頂きたいと思います」
そう言って、使者さんが渡してきたのは、封蝋された少し大きめの封筒だ。
私はそれを裏っ返したりしながらも、ためつすがめつ確認する。
「なにこれ?」
「魔王様とホットラインで繋がる【遠話】の効果が付与された魔法陣が入っております。【遠話】は相手の姿を見ながら話すことのできる効果があり、ヤマモト様にはその魔法陣を使って、魔王様と直接お話をされて欲しいのです」
魔王と直接お話……。
これ、四天王から絶対逃げられない奴じゃん……。
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