第79話

 ■□■


「別に、俺たちも最初から犯罪に手を染めようとは思ってなかったんです……」


 そう言って、モヒカンのカツラを取って話し始めたのは、夜魔燃斗ヤマモトのリーダーらしき人だ。


 というか、そのモヒカンってヅラっていうか、装備品だったんだね? てっきり自毛だと思ってたよ。


 そういえば、さっきのどさくさに紛れて逃げたのか、ニセモトさんの姿がなくなってる。


 また、ヤマモトの名前を騙って、変なことしなければいいんだけど……。


 まぁ、ニセモトさんのことはいいや。


 意識を夜魔燃斗の方に戻そう。


「俺たちは、元々、LIAでは人族側で行商人をやる予定だったんです。リアルでは無理でも、ゲームの中でくらいは商売で儲けて、大金持ちになってみたい、成り上がってみたい……と、そういう希望を持ってLIAを遊んでたんです」

「そんな希望に満ちた連中が何故盗賊に落ちぶれた?」


 そうだよね、ツナさん。


 それ、気になるよね。


 すると、リーダーさんが口惜しいとばかりにうなだれる。


 え、なんか重い理由だったりするの?


「商売が上手くいかずに、借金をこさえてしまいました……!」


 理由が妥当!


 というか、全面的に自業自得な奴!


 それで、盗賊……もとい暴走集団になるとか、擁護のしようもないよ!


「元々、このファーランド王国は平和なことも手伝って、物資の供給を一介の行商人に頼るということ自体があまりなく……」

「地方の民芸品なんかを王都やセカンに持ち込んでも、そんなに売れるわけでもなく……」

「かといって、知識チートで現代の料理を売り出そうとしても、既にその料理はLIAで普通に売られていたりと……」

「全く儲ける隙がなかったのです……」


 リサーチ力がガバガバ過ぎるよ!


 もっと色々と調べてから商人やろうよ!


 とりあえず始めてみましたで始めるようなものじゃないでしょ!? 商人って!?


「【ヤマモト流】を悪事に使ったのは何故だ?」

「我々は行商人を目指していましたので、まずは形からということで馬車を買いました」


 形からなの!?


 その時点で、まず間違ってる気がするんだけど!?


「ですが、今はデスゲームの真っ最中。PKやモンスターに襲われた時のために、俺たちは自衛手段を探していたんです。そんな中で、スキル一覧を探していた時に見つけたのが【ヤマモト流】です」


 あー、うん。


 膨大なスキル群から、よく見つけたねー。


 そこは凄いかな?


「【ヤマモト流】はレベル1の時点で、乗り物で攻撃という特異性が際立っていました。そして、我々、馬車持ちの行商人には神の如きスキルに見えたのです……!」


 まぁ、バカ高いであろう馬車を買って、それが移動手段にも物理攻撃手段にもなるって考えたら、一石二鳥と考えて飛びつくのかも?


 でも、馬車を使って攻撃する以上、それって馬車の耐久値がゴリゴリ減ってかない?


 私の馬車は種族特性なのか、特に耐久値とか、そういう項目がないんだけど、普通の武器とか防具には耐久値ってあるよね?


「俺たちは【ヤマモト流】を取得し、調子に乗って【轢き逃げアタック】を繰り返した結果……馬車を全損させてしまったのです! その結果、残ったのは借金だけでした!」


 いや、気づこうよ! そこは!


 むしろ、馬車が壊れないかとか、耐久値がどれだけ減るのかとかさ、最初に確認しないと!


「一応、情報は行商人の掲示板で共有していたこともあり、境遇が同じような者は何人かいました。その何人かで、知恵を出し合って考えたのがラプー素材の独占です。俺たちはラプーに乗って、集団で【轢き逃げアタック】をすることによって、冒険者を締め出し、ラプーの素材を独占することにしました。その過程で、冒険者から金品を巻き上げたりとかも、あったかもしれません……」


 うん。どう考えても有罪ギルティだよね。


 というか、被害者いるんだから、確定な奴でしょ? なんで、ちょっと誤魔化そうとしたのさ。


「お前ら、最低だな」


 けど、ツナさんは容赦なくぶった斬る。


 覇○丸の大斬りくらいぶった斬るね。


 というか、ツナさんも結構ダメな人だからね? そんなツナさんにぶった斬られるって相当だよ?


「さ、最低って……」

「お、お前に何が分かる! 借金を背負ったことのないお前に、俺たちの気持ちの何がわかるっていうんだよ!」


 いや、そこで逆ギレする意味からして、わかんないよ!?


 普通、商機を見つけてから、本格的に商売をやるもんじゃないの?


 それを、形から入って馬車買ったり、何を売るかのアイデアも特になく、それに加えて馬車の耐久値も見ずに破壊って……。


 むしろ、何も分からないんですけど!?


 これが、私の脳を破壊する攻撃だとしたら、大したもんだよ!


 私の頭は絶賛混乱中だよ!


「やっぱり、ド素人がLIAで新しい人生を歩むなんて無理があったんだ……」


 しょげ返る夜魔燃斗の面々。


 ん? もしかして……。


「今、気づいたんだけど……アナタたちって、もしかしてVRMMO初心者?」

「え、あ……、そ、それがどうした!」

「初心者で悪いか!」

「誰だって初めてはあるだろ!」


 あー、うん。


 何となくダメダメな理由が分かってきたかも?


 LIAは新世界を体験できる、とんでもないゲームとして、社会現象にまでなってたゲームだからね。


 普通に、普段はゲームをしない層の人たちまで初回抽選に応募してるってニュースになってたのを覚えてる。


 で、勝手はわからないものの、とりあえず始めてみたのが、彼らってことかな?


 元々、新しい人生を歩もう、みたいなキャッチコピーを前面に押し出していたこともあり、それを信じた彼らは、何もリサーチすることなく行商人プレイを始めて――……今に至ると。


 うーん。


 正直、彼らの現状には一ミリたりとも同情の余地はないとは思うんだけど、その失敗がVRMMORPGに不慣れだったからって理由だとすると、ほんの少しくらいは彼らだけの責任ではないかなー、という気持ちもあるかな?


 ほら、環境がデスゲームになっちゃったから、気軽に人を信用できなくなっちゃったりだとか、デスゲームのせいで、ゲーム内の攻略情報の更新が滞ってたりだとかするしさー。


 正確な情報に触れる機会が失われてるってことはあると思うんだよねー。


 というか、そもそものVRMMORPGでの基礎的な有用スキルとかも知らなそうだし、そういうのを誰か親切な人が最初に教えてあげるべきだったんじゃないの?


 けど、彼らはそういう機会に恵まれなかったってことなんだろうね。


 それは、彼らとしても積極的に聞きに行かなかったりだとか、そういう問題もあるんだろうけど、人族プレイヤー全体の質の悪さにも起因してるかもしれないし……。


 というか、何で私がこんなこと考えなくちゃいけないんだろ? とは思う。


 というか、これも縁なのかなー?


 はぁ……。


「えー、話を聞いて分かりました。アナタたちには【ヤマモト流】は相応しくないです。よって、アナタたちを今この場で破門と致します」


 ▶【ヤマモト流】に【破門】が登録されました。


 ▶対象のプレイヤーたちからスキル【ヤマモト流】が削除されました。

  該当のプレイヤーはSP4が返還されます。

  以降、【ヤマモト流】を取得することは不可能になります。


「や、【ヤマモト流】が消えた!?」

「俺、もう少しでレベル3になるとこだったのに!?」

「おい、破門ってどうなってるんだ!?」


 いや、聞きたいのはこっちの方だよ!?


 そして、【ヤマモト流】にまた使えないスキルがひとつ増えてしまった気がする……。


 とりあえず、【破門】ってスキル名だと、攻撃系のスキルと勘違いしそうだから、【門下生破門】ってスキル名に変えておこう。


「はいはい、落ち着いてー」


 私は騒ぐ夜魔燃斗の面々を宥めながら、彼らの注目を集める。


 というか、暴走集団を名乗っておきながら、案外素直なんだよね。もしかして、迫力を出すためにお芝居で凄んだりしてたのかな?


 言われてみたら、そんなに怖くなかったような気も……しないでもない?


「今から皆さんには、VRMMORPGの基礎的な知識を教えていきたいと思います。有用なスキル、金稼ぎ、経験値稼ぎの方法などなど、大体VRMMORPGをやったことがある人なら、普通は知ってるであろう知識を教えていきます」

「そ、そんなことして、何になるっていうんだ!」

「真っ当に生活できるようになりますー。別にずっと犯罪者生活がやりたいわけじゃないでしょー? モヒカンも多分、自分たちの正体を隠すために変装用の小道具として付けてただけだろうし」

「う!? それは……」

「というわけで、とりあえずVRMMORPGのやり方を学んで、その上でお金儲けをする商機を見出したんであれば、行商人でもなんでもすればいいと思いまーす。とにかく、最低限、人様に迷惑かけないでも暮らしていける方法を学んで頂戴……って、ヤマモトさんも言ってるはず!」


 私がそう言うと、皆の視線が一斉にツナさんに向かう。


「うむ」


 そんな視線を受けたツナさんは、動じることなく鷹揚に頷いてみせる。


 ツナさんって、微妙に度量が大きいよね。


 というわけで、私とツナさんの二人がかりでVRMMORPGのお約束的な部分を夜魔燃斗に説明していく。


 こうね、【収納】や【鑑定】っていう便利なスキルがあるんだよ、ってトコから始まり、運動神経に自信があるなら武器のアシスト系スキルを取ったり、運動が苦手なら魔術を覚えるように言ったり、【採取】とか【採掘】で取得したものは、商業ギルドで売ったり、ワールドマーケットでも売ったりできることを伝えて、【調合】とか【錬金術】で素材を加工すれば、より高く売れるよーとか……まぁ、そういう基本的なことを教えていく。


 夜魔燃斗の人たちは、まるで目から鱗でも落ちたかのように、私たちの説明を聞いてるね。


 まぁ、リアルファンタジーを夢想していた彼らとしては、地域格差による物資の過多を利用して、行商人プレイをする気でいたのかもしれないけど、ゲームの最序盤でもあるファーランド王国では長い平和が続いてるせいか、割りと物資が行き届いていて、行商人の需要が少ないっぽいんだよね。


 だから、そういうのをやりたいなら、ゲームを進めて大陸を渡ったりするか、ただお金持ちになりたいだけなら、商人として物の売買で財を成していくか、希少なアイテムの生産者になるしかないんじゃない? ってのをきっちりと伝えていく。


 それと、犯罪を犯したことは確かなので、罪滅ぼしのためにも、余裕があれば善行を積みなさいといったことも口を酸っぱくして伝えるね。


 一応、「これでまた犯罪を行うようなら、見つけ次第、【木っ端ミジンコ】にするよ」と伝えて、近くの竹を粉微塵に変えてあげたから、再度犯罪には走らないと思いたいね。


 結局、四時間くらい講義を行ったところで、その集会は終わりとなった。


 最終的に、彼らは私のことをゴッドとか呼ぶようになってたけど、それは今更だから気にしないでおこう……。


 あとは、彼らがどう思って、どう行動するのか次第だけど……。


 まぁ、彼らの顔つきを見れば、少しは希望が湧いてるって顔をしてるから大丈夫だと思いたいな。


 あとは、【木っ端ミジンコ】の出番がないことを願うのみだよ。


 …………。


 ちょっとは出番がある可能性も考えて、【蘇生薬】を作っておこうかな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る