第78話
「キュイ! キュー、キュー、キュー!」
「【木っ端ミジンコ】」
「キュー!?」
シノモリに入って、最初に出会った第一モンスターを触れもせずにポリゴンに変えてあげる。
頭にタケノコを生やした中サイズの兎だったけど、私たちを見るなり突進してきた凶暴な奴だった。
一番最初に戦った角兎の亜種なのかな?
LIAの兎は見た目と違って凶暴だから、注意しないといけないよね。
で、ちょっと戦闘をやって気づいたことがある。
「ツナさん、ツナさん」
「なんだ?」
「私、まともに戦闘できないかも」
「はぁ?」
今さっきモンスターを瞬殺した奴のセリフじゃないからね。ツナさんも戸惑った表情をみせるよ。
でも、これにはね、理由があるのよ。
「今、さっき戦ってみせたじゃないか」
「激しい動きがない【木っ端ミジンコ】とか、各種魔術なら使えるんだけどね。激しいアクションとかは無理みたい。ほら、ヒール履いてるし。コルセットで胴締め付けてるし」
「なんでそんな装備に変えたんだ」
「オシャレを優先した結果だね」
「デスゲームでオシャレを優先する意味がわからん」
「いや、それ以前にゲームなんだし、アバターの見た目にはこだわらない?」
「前提がゲームではなくて、デスゲームだろう?」
「そこは見解の相違だねぇ。とにかく、現在、私は物理攻撃が難しいから。難しいというか、
「仕方ないな。後で日本酒で手を打とう」
「はいはい」
お金とか、装備品じゃない分、ツナさんって扱いやすいよね。
というわけで、直接的な戦闘はツナさんに任せつつ、私は時折魔術なんかで援護したりして、シノモリの奥に進んでいく。
うん、何か冒険してるって感じがして、気分がいいね!
毎回毎回、EODとかネームドとかそういうヤバそうな相手との対決とかは要らないんだよ!
ビバ! 平凡な冒険! 平凡最高!
「む、声が聞こえる」
「ホントだ。でも、人の声じゃないかな?」
ラププ、ラププって聞こえるところをみると、もしかしてラプー?
おー。天然のラプーが見れちゃったりするんだろうか。どんな生態してるんだろ? ちょっと興味あるなぁ……。
「狩ってくるか」
ツナさんも私と同じ結論にたどり着いたらしいけど、その後の行動が物騒極まりない。
というか、ラプーが美味しいって聞いてから、完全に意識が狩猟者のそれになってるんだよね。
逆に、私は実物を見て、それが真実なのか疑い始めてるんだけど……。
なんか、リアルのペンギンって美味しくないって、どこかで聞いた気がするんだよね……。
「ツナさん、本当にペンギン食べちゃうの?」
「ペンギンじゃない。ラプーだ」
「普通は、ペンギンを食べようとはしないよ? 食欲より先にラブリーが勝っちゃうからね?」
「ペンギンじゃない。ラプーだ」
「ほら、リアルのペンギンって美味しくないって聞いたことあるんだけど」
「ペンギンじゃない。ラプーだ」
うん、譲らないね、ツナさん。
ツナさんは、どうしてもペンギン……違った。ラプーが食べたいみたい。
うーん。全国のペンギン好きを敵に回しても知らないよ?
「そもそも、長くてムキムキに発達した脚を持つペンギンなんてペンギンじゃないだろ。あれは、ラプーだ。そして、ラプーは大して可愛くない」
身も蓋もないね。
でも、確かにペタペタ歩いてるのがラブリーなのであって、ダチョウみたいにサッサッサッと歩いていたら、それはもうラブリーじゃないのかもしれないね。
「む、見えてきたぞ」
「あ、なんかいっぱい集まってるね」
というわけで、竹林の中でラプーの集団を発見――。
「あぁ!? 俺ら、夜魔燃斗にテメェの下につけって言うのか!?」
「如何にも」
うん。
ラプーだけじゃなくて、その上に乗るモヒカンの集団と、素浪人ヤマモトも同時に見つけちゃいました。
この人たちは要らなかったかなー。
■□■
素浪人ヤマモト……コイツを都合、ニセモトと呼ぶことにする……そのニセモトが言うには、ニセモトを頂点とした犯罪クラン『ヤマモト団』を立ち上げ、最凶の犯罪組織を作りたいらしい。
で、このニセモトさん。
一応、ソロでエリア3である王都サーズにたどり着くぐらいには実力者。
しかも、クラスチェンジまで済ませていて、今は基本職ではないらしい。
まぁ、その辺は情報を渡すつもりはないのか、何の職業になったのかは言わなかったけど。
で、一応、クランを作るだけの条件は揃ってるらしいんだけど、どうも資金が足りないらしくって、その資金を最近荒稼ぎしまくってると噂の夜魔燃斗に出させようと企んでるみたい。
一方の夜魔燃斗は、知らんオッサンがいきなり絡んできて、「俺がリーダーになってやる! お前ら、俺に従え!」とか言い始めたんで、「はぁ?」となっている感じだ。
彼らも悪いことをしてる自覚はあるんだろうけど、別に犯罪クランなんて立ち上げるつもりはなかったみたい。
で、いきなりの話に面食らってるってところかな?
で、そんな二つの集団を【隠形】で気配を隠しながら見守るのが、私たち。
というか、ツナさんの方の【隠形】なんて、スキルレベル3で装備品に付いてるだけだから、即効でバレるかと思ったら、全然気づかれないというね。
うん。未来の凶悪犯罪クランを夢見るより、もっと足元を見た方がいいと思うよ。
「それで!? 返答は!?」
「従うわけねぇだろ!?」
モヒカンたちを脅すつもりでニセモトさんは凄んだのかもしれないけど、むしろモヒカンたちの感情を逆なでしちゃってるからね。
そりゃ、交渉決裂するよって感じ。
「ふん、所詮は偽のヤマモトか! 本物のヤマモトの力を見せつけて、翻意させてやろう!」
「テメェこそ、背中に剣を二本もさしやがって! それこそが偽物の証拠だ! 行くぜ、テメェら!」
「「「へい!」」」
そう言うなり、ラプーに乗ったモヒカンたちが、ぐるぐるとニセモトさんを取り囲んで回り出す。
冒険者の人たちにやっていたのと同じ光景だね。
「「「喰らえ! ヤマモト流【轢き逃げアターック】!」」」
「ぬうっ! これは!? ――グハッ!?」
ニセモトさーん!?
いや、これは……。
まさか、【ヤマモト流】を取得している、だと……!?
というか、【轢き逃げアタック】を集団で統制とってやるとは思わなかったよ!
【ヤマモト流】、十分強いじゃん!
「ゴッドの弟子か?」
「え、そうなるのかな……?」
うん。正直、よく分からない。
というか、【ヤマモト流】を取得する人たちが急に集団で現れて、私は今とても混乱している!
【ヤマモト流】は、スキルレベル1から【轢き逃げアタック】とかいう、とても使いづらい技があるために、取得する人は極少数だと思ってたんだよねー。
頑張って、乗り物で【轢き逃げアタック】を何度もして、スキルレベルを上げても、今度はレベル2で【採掘王に私はなる】が出てくる。
こんなの【採掘】スキルがないと何の役にも立たないし、何より【ヤマモト流】を取得すると、オーソドックスな攻撃アシスト系のスキル……【剣術】とか【槍術】とか……が取得できなくなっちゃうっていうデメリットがある。
そのデメリットを許容してまで、【ヤマモト流】を取るメリットがないと思っていたから、誰も取らないんじゃないかって心配してたんだけど、私は今、猛烈に感動している……かもしれない!
うん、君たち頑張ってね!
ヤマモト流はレベル3で【大★切★斬】ってスキルを覚えて、レベル4で【まねっこ動物】に、レベル5で【木っ端ミジンコ】を覚えるから――。
…………。
アカン!
人様に迷惑かけるような連中が覚えていいスキルじゃないよ、【ヤマモト流】!
「ツナさん、緊急事態」
「なんだ?」
「あの暴走集団をまとめて更生させないといけないんだけど……」
「どういうことだ?」
「ツナさんには、【木っ端ミジンコ】使ってるとこ見せてるよね?」
「良く見るな」
「あれ、【ヤマモト流】のレベル5のスキルなの」
「…………」
「アイツラが、全員【木っ端ミジンコ】を使えるようになって暴れ回るようになったら、ヤバイどころじゃないよ」
「なるほど。それはヤバイな」
「何か上手くまとめる方法ってないかな?」
「ふむ、任せろ」
というので、ツナさんに任せてみる。
まず、ツナさんは馬鹿デカイ銛を【収納】から取り出すと、それを近くの背の高い竹に向かって思い切り叩き付ける。
バァン!
と、もの凄い音が響き竹が割れる。
うん、ニセモトさんの轢き逃げ祭りに興じていた夜魔燃斗たちも動きが止まるね。
そして、一斉にこちらを振り向いて「!?」な顔を見せる。いつの時代の不良かな?
「なぁんだぁ? テメェらぁ〜?」
顔の筋肉が変に凝り固まっちゃってるんじゃないの? と思えるような凶悪フェイスを見せる夜魔燃斗の連中に向かって、だが、ツナさんは堂々とした態度を一切崩すことなく、腕を組んで答えるね。
「俺こそが、【ヤマモト流】の創始者、元祖ヤマモトだ! 貴様ら、図が高いぞ!」
…………。
いや、何で、更にヤマモトを増やすのさ!?
そして、やってることがニセモトさんと同じなんですけど!?
「ふん、また騙りかよ。いっぺん轢かれねぇと、どいつもこいつもまともなことが喋れねぇようだなぁ……!?」
「ふん、半人前共が。貴様らのような半人前には、我が一番弟子だけで十分。一番弟子よ、やってしまえ」
そう言って、私に丸投げする。
えぇ……。
こんなので何とかなるものなのかな……?
私の不安を感じ取ったのか、ツナさんは力強く頷くよ。
いや、その頷きは何!
私には全く理解できないよ!
とりあえず、仕方ないので、私も【馬車召喚】をして馬車を呼び出して御者台に乗り込む。
うん、ハイヒールで乗りにくかったけど、流石は【バランス】さん。転ぶことは全くないね。
「乗り物、だと……」
ざわ、と夜魔燃斗に何故か動揺が走る。
いや、乗り物ぐらい、アナタたちだって乗ってるよね? 動揺する要素ある?
「えぇい、怯むな! きっとコケ脅しに違いねぇ! 全員の【轢き逃げアタック】で潰すんだ!」
「「「おう! ヤマモト流【轢き逃げアターック】!」」」
「【轢き逃げアタック返し】」
「「「グワーッ!」」」
▶【ヤマモト流】に【轢き逃げアタック返し】が登録されました。
馬車で普通に轢き逃げし返したら、ラプーごとモヒカンたちが吹っ飛んでしまった。
同じ技だけど、やっぱりステータスの差かなぁとか思っていたら、【轢き逃げアタック返し】とかいう新しい技として登録されちゃったね。
うーん、【ヤマモト流】って本当、使えるスキルと使えないスキルがハッキリしてる気がするよ。
「ば、馬鹿な……。【轢き逃げアタック】にこうも簡単に対応し、【轢き逃げアタック返し】だなんて、俺たちですら知らない【ヤマモト流】を使うだなんて……。ま、まさか……」
モヒカンたちがワナワナと震えていたかと思うと、今度は一斉にラプーからおりて、その場で土下座をし始める。
「申し訳御座いませんでしたー! ヤマモト様ー!」
だけど、彼らが頭を下げたのは、ツナさんである。
……なんでさ!
「うむ。俺が【ヤマモト流】宗主、ヤマモトである!」
「「「ははーっ!」」」
うん、君たち、リアクションがひとつも合ってないからね?
それ、ツナさんで、私がヤマモトだからね?
ここで、それを言い始めると色々と面倒くさくなりそうで言わないけどさぁ。
色々と思うことはあるよ?
だって、私が本物のヤマモトだもん!
そんなことを思ってたら、ツナさんが何かを言いたげにこちらをジッと見てきていることに気がついた。
なんだろうと思って、とりあえず【ウィスパートーク】で話しかけてみると……。
「何?」
「まとめたぞ」
多分、天狗面の奥のツナさんの顔はドヤッていたに違いない……。
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