第77話

 というわけで、一波乱はあったものの、私たちはシノモリに向かって歩くよ。


 シノモリは、港町セカンから若干南西に行った部分。ファースの街方面に向かう街道沿いに存在しているらしい。


 そこでは、背の高い竹林が形成されており、視界が悪い上に武器の取り回しも難しくなるので、現在は腕や立ち回りが求められる場として、中級冒険者たちには人気の狩り場なんだってさ。


 中でも、シノモリでしかゲットできないラプーという動物の素材が一際人気が高いらしい。


 素材として良し、乗り物として良し、食べても良しらしくて、ツナさんも既に臨戦態勢だよ。


 で、ツナさんと街道を歩きながら、イカの食べ方について色々と話をしていたら、ようやく見えてきたよ。


 大規模な竹林!


 あれが多分、シノモリだね!


 で、それと同時にシノモリの入口で何か騒いでる人たちがいる。


 不揃いな装備を身につけた冒険者パーティーと、その周りを乗り物に乗って囲むようにしてぐるぐると回るモヒカン頭たち。その乗り物というのが……。


「あれが、ラプーか?」

「なんか想像と違う……」


 私の中の想像では、チョ●ボのイメージだったんだけど、なんか脚が長くなって、前傾姿勢になったペンギンが走り回ってる。


 どうも、それがラプーらしい。


 そして、それを乗り回しながら、ヒャッハーしているモヒカンって……。


 ダメだ。脳が追いつかないよ。


「どうするんだ?」

「とりあえず、近くまで行ってみようか? どのみち、シノモリに入る予定だし」

「アイツらのラプーを倒して素材を手に入れてもいいんじゃないか?」

「それ、強盗じゃない?」

「悪人に人権なんてないだろ」


 ツナさんが怖いよ!


「悪人に人権はないかもしれないけど、これデスゲームだからね? 殺しちゃったら、その時点で私たちがリアル犯罪者だからね?」

「分かってる。だが、こちらの命が狙われる状況になってまで、手加減なんてしてられないだろ」


 どうかなー。


 今の状況なら、そんな状況でも私たちなら何とかなりそうな気がするんだよねー。


 そんなことを思っていたら……。


 あ。


「モヒカンに誰か近付いていくね」

「もの好きもいたもんだな」


 遠目で見たところ、何か小汚い風体をした背中に二本の剣を背負った男の人が、トコトコとモヒカンたちに近づいていくね。


 そして、モヒカンたちと何か口論になってるみたい。


「何やってるんだ、アイツら?」

「さぁ?」


 何を話しているのか、気になりつつ近づいてみたら、ようやく彼らの会話が聞き取れるようになってきたよ。


 何を言ってるのかな?


「テメェ! 俺らが暴走集団『夜魔燃斗ヤマモト』のモンと知っての言葉かぁ! 俺らにテメェの下につけだと!? 死にてぇのか、あぁん!?」

「大武祭を見ていなかったのか! 控えろッ! この俺様こそがEOD殺しのヤマモトだ! テメェらバッタモンとは格が違うんだよ! いいから、テメェらは黙って俺様の傘下に入りやがれ!」


 ヤマモトvsヤマモトの仁義なき戦いだった。


 あー、頭痛い……。


「ヤマモトとヤマモトが喧嘩してるようだが? どうするんだヤマモト?」

「私に何を期待してるのさ?」


 やがて、夜魔燃斗の連中は頭のおかしい奴に付き合ってられないとばかりに、シノモリの中に去っていってしまった。


 ヤダなー。


 私たちもシノモリの中に用事があるのに、中に行っちゃうのかー。はち合わせしそうでヤダなー。


 そして、素浪人風の大男。


 顔にバッテンの傷が付いたヤマモトも、「コラァ! 逃げるな! 俺様がEOD殺しのヤマモトだと知ってて逃げるのかー! 大人しく従えー!」とか叫んで、シノモリの中に行っちゃうし……。


 後に残された冒険者(?)らしき人たちはポカーンだ。


 私たちはテコテコと歩いていって、彼らに声をかける。【隠形】は自分から声かけると解除されるから便利だよね。


「どーも」

「え、あ、どうも」

「なんか変なのに絡まれてましたね?」


 私の一言で正気に戻ったのか、「そう! そうなんだよ!」と冒険者の人たちが急に食いついてくる。


 その勢いは、私たちがちょっと引くほどだ。


 驚くほど、元気。


「シノモリに素材を取りに行こうとしてたら、夜魔燃斗とかいう奴らが、ここは俺らの縄張りだから出ていけとかいきなり言い始めて! 囲まれて脅されたからビックリしたよ!」

「夜魔燃斗って最近、セカンの近くで悪さをしてるってグループでしょ? シノモリを拠点にするなんて聞いてないんだけど!」

「冒険者を囲んで、金品とか装備を強奪するって有名な奴らだ! どうする、依頼キャンセルするか……?」

「なんか悪い奴らが巣食っちゃったんですねー」


 悪さするにしても、こんなに街に近いところでやるとか、頭悪過ぎだし。


 あと、いちいちヤマモト、ヤマモト、名前出し過ぎだし。


 というか、ヤマモトの名を使って悪さしないで欲しいんですけど!


 一方的に私が責められているようで、気分がよろしくないんですけど!


 そんな私の様子に気づかずに、冒険者の一人が続ける。


「一部では、騎士団も動き出してるって話だし、その内一掃されるだろうから、それを待って、もう一度取りにくるとか?」

「それって、いつになるんだよ!」


 騎士団って、例の第二王子の息が掛かった王国軍のことだったりする?


 それがセカンに来るって……。


 わー。未来は暗ーい。


「その騎士団がいつ来るかってわかります?」

「さぁ? 俺たちも噂で聞いた程度だから、本当に動いてるかどうかも分からないな」


 じゃあ、来ないこともあるんだ。


 うん。来ないでくれると嬉しいなー。


 …………。


 思い切りフラグを立てた気もするけど、気にしないでおこう!


「というわけで、今、シノモリは夜魔燃斗に占拠されてるみたいで危険だから、入らない方がいいぞ」

「でも、素浪人みたいな人が入っていっちゃいましたよ?」

「そういえば……。何かあの人もヤマモトとか自分で言ってたな……。まぁ、なんか変な人っぽかったし、状況を良く分かってなかったんじゃないかな……」

「じゃ、止めないとですね」

「へ? 止め……?」

「というわけで、行ってきますー」


 私たちは軽い感じで手を振りながら、竹林の中に入って行こうとしたのだが、件の冒険者パーティーに回り込まれてしまう。


 残念、回り込まれてしまった! って奴だね。


「いや、話聞いてた!? 竹林の中には夜魔燃斗がいて、危ないんだよ!?」

「でも、それならあの素浪人の人も危ないですよね?」

「そりゃ、そうだけど……」

「大丈夫ですよ。さっと声を掛けたら、さっさと退散しますから」

「本当に気をつけてくれよ? 夜魔燃斗は危ない連中なんだから。君みたいな、か弱そうな女性を前にしたら、どんな凶行に及ぶか分かったものじゃない。危ないと思ったら、すぐに逃げるんだ。その結果、あの男の人が酷い目にあっても、それは君たちのせいじゃないと思うから」


 へー。


 たまには、まともな人族のプレイヤーもいるんだね。


 なんか、人族プレイヤーってだけで色眼鏡で見ちゃうくらいには、この大陸に来てから酷いのとしか出会ってこなかったから、なかなか新鮮だよ。


 特に、私をか弱いって言ってくれたところに好感が持てるよね。


 ねっ!


「ゴッドが……、か弱い……?」


 いや、ツナさんのその呆然とした表情は何なのさ?


 ツナさんも見た目だけは、深窓の令嬢だって言ってくれてたじゃん!


 あれは嘘だったの!?


 コホンとひとつ咳払いをして、私はなるべく心配をかけないように明るい声で答える。


「心配してくれて、ありがと。一応、引き際は見誤らないように気をつけるね。それじゃ、良いLIAライフを!」

「え、あぁ……。本当に気をつけてくれよ? 良いLIAライフを……」


 うん、挨拶も返してくれるなんて、人族にも良いプレイヤーはいるんだねぇ〜。


 そんなわけで、ホクホク顔で竹林の中へと潜入していく私たち。


 私たちの背後で様子を見守っていた冒険者たちの姿が見えなくなったぐらいで、ツナさんが口を開く。


「しかし、ヤマモトvsヤマモトvsヤマモトか。一体、どのヤマモトが勝つんだろうな?」


 いや、ヤマモトは一人だけだからね?


 他のヤマモトは全部騙りのヤマモト(?)だから、一緒にしないで欲しいんですけど。


「まぁ、最終的にはヤマモトが勝つか……」


 それ、どのヤマモトなの!?


 私だよね!? 私のこと言ってるんだよね!?


「なかなか興味深い争いになりそうだ。そうは思わないか、ゴッド?」


 そこで、私をゴッド呼びしちゃうとヤマモト三竦みの状態が崩れない!? 大丈夫!?


 でもまぁ、私がひとつ確実に言えるとすれば……。


「人の名前で遊ばないで欲しいんだけど?」

「すまん」


 ツナさんを謝らせつつ、私たちは竹林の奥へと進んで行くのであった。

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