第76話

 翌日――。


 シノモリまで行ってみようと、港町セカンを出ようとしていた私たちだったけど……。


「おい、お前たち止まれ」


 ――街の出口の所で呼び止められた。


 おかしいなぁ?


 私たち、【隠形】を使ってるから普通は気づかれないはずなんだけど?


 そういうユニークスキルとかかな?


 ま、気づかないフリして行っちゃおっと。


「ゴッド、呼びかけられてるが?」

「私たちのことじゃないでしょ。行こ行こ」


 と無視して進もうとしたら囲まれた。


 六人?


 誰も彼もが同じような装備をした冒険者風の人たちだ。


 まぁ、ここまで露骨に囲まれちゃうと、止まらざるをえないね。


「止まれと言ってるのが聞こえないのか!」

「あー、私たちに言ってたの? 違う人かと思ってたよ」

「白々しい!」


 プリプリと怒りながら近づいてくるのは、黒髪短髪の女の子かな? ボーイッシュと言えば聞こえはいいけど、活発過ぎて男の子と見間違えられるタイプとみた!


 で、そんな女の子をリーダーに道を塞ぐ六人。


 うん、通行人の邪魔だと思うよ?


 ちなみに、私たちが通行人。


「【隠形】を使ってコソコソと街の外へ出ようとしていたようだが、嘘を見抜く私のユニークスキル【審判の目ジャッジメントアイズ】は誤魔化せないぞ!」

「厨二臭いねー。痛くない? 心が」

「厨二臭いとか言うな! 気にしてるとこ的確に突いてくるな!」


 だったら、そんなユニークスキル取らなければいいのに。


 というか、【隠形】って嘘をつくスキルに分類されるんだ。始めて知ったよ。


「貴様ら、我々をSUCCEED傘下のクラン、PROMISEだと知っての軽挙妄動か! 場合によっては処断するぞ!」

「ほう」


 あぁ、駄目だよ! ツナさんを挑発するような言動は! その人、結構問答無用で襲いかかったりするんだからね! 首輪のついてない猛獣なんだからね!


「…………」


 なんかツナさんから、抗議の視線を受けてる気がするけど、気にしないことにする。


 仕方ない。


 私が前に出て弁明するよ。


「いや、PROMISEとか言われても知らないし。お金でも貸してくれるの? というか、クランってもう実装されてたんだ?」

「金貸しじゃない! そして、クランはいずれ実装されるだろうし、あらかじめ名乗っていてもいいだろ!」

「アイル様、本題の方に……」


 坊主頭の、目が線みたいな人に嗜められてるアイルちゃん。


 うん、駅みたいな名前だね。


「ゴホン! ゴホン! そんなことはどうでもいい! 貴様ら、白銀鎧を着た女を見なかったか?」

「見たよ」


 ▶まねっこ動物が発動しました。

  【え、審判の目?】を習得しました。


 いや、半分の確率で嘘を見抜く目って微妙じゃない? むしろ、騙されやすくなっちゃうんじゃ? 【まねっこ動物】って、オートラーニングのスイッチをオフにできないかなー。あとでスキル詳細でも確認しよっと……。


「ふん、嘘をつこうとしても無駄だぞ! 私の【審判の目】は誤魔化せない! ……何?」

「だから、見たって」

「み、見たって……どこで!?」

「え? 掲示板だけど?」


 私が答えたら、一瞬考え込んで、そして顔を真っ赤にするアイルちゃん。そういうことを言ってるんじゃないって顔だね。


「そういうことを言ってるんじゃない!」


 ほら、当たった。


「私が言ってるのは、掲示板の写真じゃない、動いている白銀鎧の女を見たかどうかという話だ!」

「それなら見たよ」

「何!?」

「街中で白銀鎧を着てる女の子って沢山いるよね?」

「だから! そうじゃない!」


 LIAでは、結構、白銀色の鎧を装備をしてる人もいるからね。これも嘘を言っているわけじゃない。嘘を看破するユニークスキルは厄介だけど、別に嘘さえ言わなければいいなら、どうとでも誤魔化しようがあると思うんだよね。


 やるなら、最初に設問を用意しといて、イエス、ノーで確認するのが正解なんじゃないかな?


「もういい! 貴様らは怪しい! 悪いが、【鑑定】させてもらうぞ!」

「え、拒否するけど?」

「やはり、怪しい! 貴様がネームド殺しではないのか!」

「んー?」


 EOD殺しとか、四天王(仮)とか、ゴッドとか色々とあるから、一概にネームド殺しとは言えないんじゃないかな?


 あえて言うなら、ヤマモト?


「私は私だね」

「なんだ、その答えは! 当たり前だろう!」

「もういいよ、アイルちゃんー。勝手に【鑑定】しちゃおうよー」


 アイルちゃんと同じパーティーメンバーの女の子が、そんな事を言い始める。


 というか、面倒くさいのはこっちなのに、あっちが面倒くさがるってどうなのよ?


 だったら、最初から絡まないで欲しいんだけど?


「そうだな、最初からそうすれば良かったんだ! 怪しきは処断する! それが我らPROMISEだ!」


 芹沢鴨が局長時代の新選組かな?


 まぁ、そっちがその気なら、こっちも一応決意表明をしとかないとねー。


「あのさ、わかってるよね? こっちを勝手に【鑑定】するってことは、私たちの個人情報を盗み見るようなものだからね? そんな犯罪まがいのことをされたら、こっちも黙ってないよ? 私が【鑑定】された瞬間に、あなたたちを【鑑定】し返して、あなたたち全員のステータスを掲示板にアップするからね? それでもいいなら、どうぞ」


 私がそう言ったら、彼らは一斉に笑い始めた。


 え? 私、何かおかしなこと言ったかな?


 私がキョトンとしてると、アイルちゃんが片手を上げながら、片目をつぶる。わかってないなーといった感じだね。


「君たちは知らないかもしれないが、私たちはPROMISEだぞ? SUCCEED傘下で共有しているオイシイ狩り場で、レベルもかなり上がってる。悪いが、君たちの【鑑定】程度では、私たちのステータスが抜けるとは思えないな」


 それを聞いて、私とツナさんは思わず顔を見合わせる。


 その時の二人の思いは、きっと同じだったはずだ。


 何言ってんだ、コイツ?


 である。


 いや、傲慢になるのはいけないね。


 もしかしたら、彼女たちが私たちよりもレベルが高い可能性もある。その可能性は憂慮しないと。


 というわけで、早速昨日の夜に取得した【魔力感知】を使ってみる。


 日傘についたヴェールのような魔力の無い物は暗く透けて映るが、魔力のある存在は明るくはっきりと映るスキルだ。


 これを使うと私の隣が結構明るくなって光って見える。


 うん、この明るさはツナさんだ。


 で、私の目の前を塞ぐ六人を見ると……。


 暗っ!


 とんでもなく暗いよ!


 というか、ちょっと明るいかな? 程度の明るさ! ほぼ誤差だよ!


 魔攻とか魔防とか精神を育ててないのかな?


 物理特化的に育ててるとか?


 というか、ツナさんが明る過ぎて、他が暗く見えてるんじゃないの?


 いや、ツナさんが明るいのも意味分かんないんだけど? ツナさんって物攻に特化してるんじゃ……。え、違うの?


 まぁ、でも、これで大体の実力は分かったかな?


 こちらの余裕は一切崩れないレベルの実力差だね。


「私は警告したからね?」

「それは強がりのつもり? それで、私たちが躊躇するとでも?」


 うーん。井の中の蛙感が凄い。


 まぁ、でも、向こうがやる気だからね。


 これは、不可避の事故みたいなものでしょ。


「【鑑定】!」


 ▶天王洲アイルに【鑑定】されました。

 ▶【鑑定】に抵抗しました。


 ▶【バランス】が発動しました。

  【鑑定】をし返します。


 ▶【鑑定】に成功しました。


 名前 天王洲アイル

 種族 人族

 性別 ♀

 年齢 15歳

 LV 22

 HP 340/340

 MP 142/160

 SP 2


 物攻 67(+29)

 魔攻 9

 物防 53(+32)

 魔防 42(+24)

 体力 34

 敏捷 46(+12)

 直感 50(+14)

 精神 16

 運命 12

 

 ユニークスキル 【審判の目】

 種族スキル 【無し】

 コモンスキル 【火魔術】Lv3/【闇魔術】Lv3/【鑑定】Lv5/【剣術】Lv5/【回避】Lv4/【パリィ】Lv2/【収納】Lv3/【悪路走破】Lv2


 うっわ……。


 小突いただけで死んじゃうレベルじゃん……。


 でも、やった以上はやられる覚悟があるってことで。


 私はアイルちゃんのお仲間さんを次々と【鑑定】していく。


 うん、どれも似たりよったりのスキル構成だね。


 というか、有用とされてるスキルを同じように取っていけばそうなるかー。


 特徴的なのは、全員が前衛後衛ができるバランスの良さ。


 パーティーの半数が【光魔術】を取得していて、もう半数が【火魔術】と【闇魔術】か、【火魔術】と【風魔術】を取得しているといった感じ。回復と攻撃魔術の取得バランスが取れているので、【バランス】さんも満足なんじゃない? 多分。


 後は、物理系の攻撃スキルも所持しているので、オールマイティに戦うことができそう。誰かが傷ついても、すぐに誰かが穴を埋められそうなスキル構成だね。チームとして戦うのに優れていると感じるよ。


「馬鹿な、【鑑定】が弾かれた、だと……!?」

「じゃ、約束通り、全員分晒させてもらうね、ちゃん?」

「!? 貴様――」


 思わず武器に手をかけるアイルちゃんだが、疾風のように動いたツナさんが、アイルちゃんの手を上から押さえ込む。


「やめとけ。死にたくなければな」

「な……!?」

「その人の動きが見えなかったんなら、本当にやめといた方がいいよー。まぁ、ステータス晒されるのは、勉強代だと思って諦めてー」

「や、やめ……」

「ごめん、もう晒した」


 仕事は早い方なんです、私ー。


 そして、六人は掲示板を確認したのか、阿鼻叫喚の地獄絵図の状態になってしまった。


 というか、人を馬鹿にするぐらい自分たちのスキル構成に自信があるのなら、晒された程度で大騒ぎするのはおかしくない?


 あー、でもユニークスキルまで晒されるのは嫌なのかな?


 それともスキル構成が晒されることで、スキル構成の情報的な損失があるとか?


 まぁ、でも、私、警告したし。


 自業自得だよね。


「貴様ら、こんなことをして……。SUCCEEDに喧嘩を売ったぞ!」

「SUCCEEDじゃなくて、PROMISEあなたたちの暴走でしょ?」


 やだやだ。


 その筋の人が背後バックについてる不良の負けゼリフみたいなことを言い出したよ。


 そして、出てくるのがSUCCEEDっていうね。


 イコさんたちの相手にもなってなかったアクセルくんたち。


 更に、そのアクセルくんたちにも敗れちゃった人たちでしょ?


 それ、脅し文句にもなってないんだけど?


「まぁ、うん、頑張ってSUCCEEDに報告してみたら? 多分、あなたたちが怒られて終わりだと思うけど?」

「ふんっ! 強がっていられるのも今の内だけだ! 貴様らはいずれ、ミタライさんの超絶技巧の前に平伏すことになる! それまで震えて眠れ!」


 バーカ、バーカ! とか言い出しそうな勢いでPROMISEのメンバーたちは去っていった。


 うん。ミタライさんとやらが大人な対応をしてくれることを切に願うよ。

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