第75話
まぁ、そんな甘くはないよね。
「見た目ドレスとかだと、ドレス扱いにされちゃうのか。内部にワイヤーとか仕込んで頑丈にしてみたけど、結局バトルドレスって感じだし……やっぱり見た目も必要かぁ……」
裏地に鉄板とかを仕込んで、鎧として認識しないかなー作戦はものの見事に失敗だ。
というか、急所を硬いもので防護してれば、鎧だよねという結論から間違ってたみたい。
というか、見た目ドレスだとやっぱりドレス扱いなんだよねー。裏地が硬かろうが、柔らかだろうが、関係ない。
同じ感じで、急所を厚い布で保護するタイプの布鎧も作ってみたけど、それは種別的には鎧と出るんだけど、装備不可の表示が出ている。
革鎧も作ってみたんだけど、それも装備不可の表示だ。
「いや、何で? 根本的に考え方が間違ってるの?」
鎧しか装備できないのではなく、金属部分がある鎧しか装備できないって話?
確かめていくと、それとはまたちょっと違うようだ。
どうも、胴体部分に金属パーツがひとつでもないと、装備できない仕様みたい。
要するに、胸回り、腹回り、腰回りのどこか一箇所でも金属のパーツによる保護部分が必要っぽい?
運営の中の騎士像というか、鎧像としては、胴体回りを金属で保護してないとダメってことなのかー。
そして、ディラハン種は大人しく騎士っぽいデザインの鎧でも着てなさいってことなんだろうね。
普通は、そこで、はい分かりましたー、騎士っぽい鎧のデザインを洗練させる形で考えますーとなるものだけど、この私……ヤマモトはあえて言いたい。
知ったことか!
運営からの制約を、私に対する挑戦と受け取ったよ!
というわけで、可愛い布メインの鎧としてデザインしていこうと思う。
まずはメインとなる胴体部分を作っていくわけだけど……。
「ブレストプレートとかはありがちだけど……。腰回り? 腰回りってどうなんだろ? よし、腰回りで考えてみよっか」
大きめの金属の輪っかを二つ作って腰に垂らすようにするけど、それは装備可の判定にはならなかった。
どうも、体に密着させる形にしないとダメっぽいね。
なので、輪を縮めていったら……。
「腰に食い込んで痛そう……」
アバターだから、大丈夫かもしれないけど、見た目的に痛そうなのはちょっとNG。
なので、金属のベルトみたいにしてみたんだけど、ある程度の太さがないと装備可にならないっぽくて、それなりに太くなった結果……。
「これは、ライ●ーベルトかな?」
ちょっと、オシャレとは程遠い感じになってしまったので没にする。
というか、腰回りを金属で覆うというのが、なかなか難しいんじゃなかろうか?
というわけで、路線変更。
腹回りを金属で覆うことにする。
鉄の腹巻きとかいうと、オシャレから遠くなるけど、鉄のコルセットっていうと途端にオシャレになるよねー。
でも、鉄でコルセットなんて作ると腰が曲がらなくなりそうだし、動きが制限されちゃうから、細かな鉄の輪を繋ぐ形で作ってみる。
「うん、お腹が見えちゃうシースルーになっちゃったね。止めよう」
私はセクシー路線に突き進む気は毛頭ないのである!
まぁ、可動域が狭まるのは、この際仕方ないとしよう。
というわけで、鉄でできたコルセットをメインに白のサマードレスと組み合わせる。サマードレスはリボンタイ付きのショルダーで肩にかけるタイプ。で、裾には軽くフリルを付けて、軽やかにしておこうかな。
あとは、コルセットには細かく彫りを入れて、メッシュ地のような模様を刻んでおけば、なかなかオシャレに見える……と思う。
ついでにコルセットも白く塗っておけば、統一感も出ていい感じだ。
「うん、いいね」
白を基調にしたのが良かったのか、なかなかに涼しげで良い感じだ。
まぁ、コルセット装備なので、妙に胸が強調されるのがアレだけどね……。
でも、この衣装なら、まず白銀鎧の女とイメージが被らないと思うから、オッケーでしょ。
あとは、全体を見てみる。
白のサマードレスと白のコルセットに、銀色がメインのフロートサークレットというのは、なかなかにお姫様な感じだ。
けど、顔隠しのヴェールがねー。
体はバケーションなのに、頭だけが仮面舞踏会か、葬式って感じで、チグハグ感がある気がしてならない。
あっ、そうだ。
いっそのこと、フロートサークレットを隠しちゃおっか。
というわけで、私は日傘の製作に取りかかる。
白い日傘の周りに全体的に白いヴェールを付けておけば……ほら、日傘の中を覗けない!
うん、多分、リアルだとかなり重い感じの日傘になるんだろうね。
でも、LIAの私は物攻が有り余ってるからね。この程度の重さなら、重い内に入らないよ。
で、あとは小物としてのハイヒールとか、小さなバッグとかを追加して……うん、完成!
余暇を過ごす、涼し気な御令嬢セットの出来上がりである。
あとは、作成するための素材をポイポイと突っ込んでいったら、現物が手元に現れた。
【魔神器創造】を終了して、早速装備を換装するよ。
====================
【鉄の
レア:3
品質:高品質
耐久:200/200
製作:ヤマモト
性能:物防+12
魔防+8
備考:涼し気な雰囲気のサマードレスに鉄製のコルセットを一体化したもの。
====================
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【パラソル】
レア:3
品質:高品質
耐久:50/50
製作:ヤマモト
性能:物攻+3(刺属性)
備考:涼し気な雰囲気のサマードレスに合う、瀟洒な日傘
====================
日傘って武器なんだ。
しかも、刺して使うの?
でも、使ったらすぐに壊れそうだね……。
装備を変えてみて、くるりとその場で回ってみる。
うん、スカートがふわりと浮いて、ちょっと楽しい。
学生時代の制服とかを思い出すね。
ほら、私って家だとズボン派だから。
あんまりスカートとか履いてなかったから、凄く新鮮。
でも、この格好が似合ってるかどうかは、鏡がないから分からないんだよねー。
「ゴッド起きてるか?」
と思っていたら、グッドタイミング。
コンコンと扉を叩いて、ツナさんが訪ねてきたよ。
私はガチャリと扉を開ける。
ツナさんに感想を聞く気でいた私だったけど、ツナさんは私を見て変な顔をしてみせる。
それは、どういう感想なのかな?
「ん? 失礼。部屋を間違えたようだな。すまない」
「いや、間違ってないよ?」
「間違ってない? それだとしたら……誰だ、貴様っ!」
「いや、私、私」
「……ゴッド?」
「うん」
「馬鹿な! ゴッドといえば、どんな状況でも暑苦しい白銀色の鎧を着て、ピカピカ目立つ、傍迷惑な存在だったはず! それが、深窓の令嬢に早変わりするだと……!?」
うん。以前の私はトナカイの真っ赤な鼻レベルの存在だったらしいね。
まぁ、ツナさんでも私だと認識出来ないんだとすれば、そう簡単に正体がバレることもないかな?
私はツナさんに、カクカクシカジカと変身に到った経緯を説明する。
「そんなことになっていたのか……。寝ていたから知らなかったぞ。というか、あのイカと戦いたいのなら、海の深いところに潜ればいいだろ。あれぐらいの大きさのモンスターならわんさといるぞ」
海の中って意外と魔境なんだ……。
あと、あのイカはネームドだからって騒がれてる部分もあると思うよ?
「というか、あの時のワールドアナウンス覚えてる?」
「いや?」
「なんか、どっかの航路が解放されたらしくって、それを探してるプレイヤーも多いみたいなの」
「ほう」
「で、それすらも私たちが独占してると思われてるみたいなんだよ」
「迷惑な話だな」
そう、本当に迷惑な話だよ。
で、私たちが知らないって言っても嘘つけって迫ってくるんでしょ? 想像するだけでウンザリするね。
「だから、はいこれ」
「なんだこれは?」
「ツナさん用の変装セット」
渡したのは着流しに天狗面と高下駄だ。私の装備を作る片手間に作ったものである。
多分、フード付きコートよりは、こっちの方が似合うと思うんだよね。
「俺にも必要なのか?」
「昨日の岩場で、色んな釣り人に目撃されてるからね。付けといて。あと、そのお面には【隠形】のスキルも付けといたから、それで少しは誤魔化せるはず」
「そうか。それにしても、ゴッドのユニークスキルは相変わらず凄いな」
ん?
あれ? ツナさんって【魔神器創造】をユニークスキルだと誤解してる?
でも、普通に考えたらそうなのかな?
常識的に考えて、現状じゃありえないアイテムをポンポン作り出しているんだから、それがユニークスキルだと思われるのは無理もないか。
まぁ、わざわざ訂正するほどのことでもないから訂正しないでおこうかな。その方が面白そうだし。
「それよりも、そろそろ夕飯だ。下に行こう」
私があげた装備品を早速装備したのか、ツナさんの姿が変わる。
うん、さっきまでの変態さが抜けて、ちょっとカッコよくなってるね。むしろ、面白い感じになってるかもだけど。
「なぁ」
「なに?」
西洋風のファンタジー世界の中で和風な格好って変じゃないか、とか聞かれるのかなって思っていたら。
「これ、口元も面で覆われていて飯が食べづらいんだが……」
あー、そっちかぁ。
そうだよね。ツナさんだもんねー。
「今日はお面を上にずらして食べるなり何なり工夫してね。後で口元だけ出せる天狗面も作るから」
「わかった」
で、私たちが階下に向かおうとしたところで、また問題が……。
「ヴェールが邪魔で前が見えづらい……」
フロートサークレットのヴェールに、日傘のヴェールが重なって、外の状況がほとんど見えないんですけど!
「というか、何故、室内で日傘をさしてるんだ?」
そういう根本的な問題もあるね!
これは、視界不良の問題を解決するためにも、後で【魔力感知】でも取っておくかなー。SPもレベルアップと称号で若干増えたから余裕あるし。
というわけで、日傘をたたんで宿の食堂部分にまで下りる。
うん、【隠形】のおかげか、周囲には全く気づかれることなく、空いてる席につくよ。
で、給仕の女の子に声を掛けてビックリさせつつ、本日の日替わりパスタを頼む。
本日は海老と貝のシーフードパスタなんだって。
ツナさんの分、超大盛り一皿と、私の分、普通盛り一皿を待っている間、周囲の会話に耳を澄ませていると、それなりにプレイヤーもいるのか、私たちの噂話が聞こえてくる。
「しかし、ネームドか。やっぱり強いんかな?」
「なんか、夜中に街中に戻ってきた冒険者が言うには、大きな津波が迫ってきたのが見えたとか何とか。それが一瞬で形をなさなくなって、崩れたとか言ってたな」
「それって、ネームドが津波を起こそうとして、戦ってた相手が一瞬でネームドを倒したってことか?」
「さぁな。ソイツの話も真実かどうか分からないし」
「まぁ、会ったら聞いてみたいよな。何がどうなったのかさっぱり分かんないし」
「ついでに攻略法とか、ネームドと戦う方法とかも聞けたら良いよな」
「そしたら、案外とあっさりと勝てちゃったりして」
「そしたら、素材とか使って装備作って、一躍トップ層か? いいなぁ、夢が広がるなぁ」
夢は夢のままの方がいいんじゃないかな?
あんなのに、攻略法もクソもないと思うんだけど。囲んでボコって、自分が被弾しないことを祈れぐらい?
何にせよ、並の攻撃力じゃ倒しきれないことは確実だと思うよ。再生能力が割りと高かったし。
「おまたせしました」
というわけで、パスタがきたので堪能する。
パスタの方はヴォンゴレに近い感じ? エビが入っている分、食べごたえはこっちの方がある気がするよ。十分お腹に溜まるし、満足できる味だ。
そして、凄い勢いでツナさんの前のパスタが消えていく。惚れ惚れするような食べっぷりだね。
「そういや、聞いたか?」
「何を?」
ツナさんの食事風景を見ながら、私はまた何かを話し始めたプレイヤーたちの話に聞き耳を立てる。
「ネームド殺しを探すのに、PROMISEが動き出したらしい」
「げっ、またアイツら動いてるのかよ。EOD殺しの時も憲兵まがいのことやってなかったっけ? 街の入口で張ってさー。いちいち問答するのが面倒くせぇんだよ、アイツら」
「俺もアイツら苦手。SUCCEEDの下部組織だか何だか知らないけどさ。こっちをあからさまに下に見てくるから嫌なんだよ。そりゃ、SUCCEEDの攻略情報を得た状態で取得したスキル構成なんて強いに決まってるのにさ、アイツら『何でそんなスキル構成にしてんの? デスゲームなのに死にたいの?』ぐらいに言ってくるからな」
「分かるわー。SUCCEEDにおんぶに抱っこなのに、自分たちが正道だみたいな顔してんのが鼻につくんだよな」
「俺らは俺らで考えてスキル取ってるし、馬鹿にされるいわれなんてないっつーの。な?」
PROMISE?
良く分かんないけど、ソイツらが私たちのことを探してるっぽい?
はー、ヤダヤダ。
他人を気にするよりも、もっと自分たちで、このゲームを楽しむことを考えた方が建設的だと思うんだけどなー。
「どうした、ゴッド?」
私が考え込んでいることに気づいたのか、ツナさんの食べる手が止まる。
「いや、何でもないよ。次、どのスキルを取ろうかとか考えてただけ」
「そうか」
適当に話をはぐらかすけど、ツナさんは疑うこともなく食事を再開させる。
そんなツナさんの食べる姿を眺めながら、私もパスタを食べ進めるのであった。
うん、美味しいね。
とりあえず、私は目の前のパスタに全力を注ぐことにしようかな。
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