第69話
とりあえず、風花亭の夕飯は大変美味しゅう御座いました。
出てきたのは、ウニクリームのパスタ。
濃厚なウニの風味とこれまた濃厚なホワイトクリームソースが絡まり合って、実に美味しかった……んだけど、これ現実で食べてたら、あとで胃もたれしそうだなーとは思ったよ。
まぁ、それなりに味には満足したんだけどさ……。
だけど、何でかな?
ムンガガさんの料理に慣れてしまったせいか、ちょっと物足りなさを感じてしまうよ。
これが、舌が肥えるということなのかな?
それとも、毒物中毒という奴なのかな?
後者でないことを切に願うね!
ちなみに、部屋は私とツナさんで別々に借りた。
まぁ、ゲームの都合上、最低限の衣類は絶対に脱げないようになっているっぽいので、一晩の過ちみたいなことは起きないんだけど。私は【魔神器創造】をこっそりと使ったりすることが多いからね。
部屋を一緒にして大部屋にして過ごそうみたいな話にはならなかったよ。
そして、ここの宿の部屋も割りとシンプルな造り。
机、ベッド、椅子、クローゼットの基本セット。
どうも、宿の備品を豪華にし過ぎると、盗難の被害にあったりするから、わざと安く作ってるっぽい?
豪華な調度品のある部屋に泊まりたければ、高い宿に泊まらないといけないとツナさんが言ってたよ。
むしろ、ツナさんが高い宿に泊まったことがあることに驚いたんだけど、そこの食事が目的だったと聞いて納得したよ。
で、ベッドに寝転がりながら、本日あったことを思い返しつつ、私はテキストを呼び出して、本日感じたことを加筆したりして修整していく。
このテキストには、情報屋で買った情報も記載されてるからね。生の声までついて、お得な情報になるに違いない。
魔王国に帰ったら、タツさんとかへのお土産として、渡したりすると良いかもしれないね。日記をつける感じで生きた情報を盛ってくよー。
「それにしても、魔物族に対する当たりが強いファーランド王国かー」
情報屋さんから得た情報では、この世界には八つの大陸があるらしい。
人族の治める大陸が五つ。
魔物族が治める大陸がひとつ。
後は竜の治める大陸と神の治める大陸がひとつずつあるんだとか。
で、ファーランド王国は人族国家としてはオーソドックスな中世ファンタジー寄りの国家らしいよ?
ちなみに、他の国家はというと、
・ガーツ帝国……スチームパンク風。
・メルティカ法国……宗教国家。
・リンム・ランム共和国……未開の地。
・倭国……年中戦国時代。
ということらしい。
うん、どこも癖が強い。
ちなみに、倭国は日本に近い風習を持つ国らしく、米や醤油や味噌なんかが度々輸出されてくるらしいんだけど、希少性から凄く高い値段で売買されてるんだって。
だから、どうしても欲しいなら倭国に買い付けにいかないと無理っぽいね。
え、高い値段で買わないのかって?
無理無理。
リアルの醤油の値段とか知ってると、そんなお金出したくないもん。
というか、体が拒否反応起こすよ。
例え、ゲーム内では希少性が違うとしても、実際に味も知ってる物にウン億とか出せないって話だよ。
いや、ウン億もするかどうかは知らないけどさぁ……。
で、今回、私が訪れてるファーランド。
農業大国として知られ、小麦とかそういった作物の生産が盛んらしい。
モンスターも割りと弱いので、そのおかげもあって農業が発展したというのが、情報屋さんの見解。
でも、大陸の南端と北端には要注意で、そこだけは強いモンスターがウロウロしていたり、環境が割りと凶悪だったりするので、あんまり近づかない方がいいよとは言われたかな?
モンスターがいきなり強くなるとか、隠しエリアとかダンジョンとかありそうで気になるよねー。
モンスターの強さ次第だけど、行ってみても面白いかも?
そんなファーランドには
始まりの街、ファース。
港町、セカン。
王都、サーズ。
すごく覚えやすいよね!
で、現在いるのが港町セカン。
ここから、南に向けて進んで行くと始まりの街ファース方面へ、逆に北へ進んで行くと王都サーズが見えてくる。
見聞を広めたり、マリス探しをするためにも、王都サーズに行ってみたかったんだけど、屋台のおじさんの話を聞いちゃうとなかなか行きづらいね。
だったら、先にファースの方がいいかなーって、今は考え中だ。
ファースはモンスターが強いという南の森に近く、【調合】と【錬金術】の素材の宝庫っぽいんだよね。
セカンは海の幸とか、魔物国からの輸入品だとかで人族プレイヤーには物珍しさがあるんだけど、魔物族のプレイヤーにとってはそんなにうま味がないイメージ。どっちもフォーザインでできることだしね。
まぁ、それでもこの辺でしか取れない素材とかもあるみたいだから、それを収集したらファースに行ってみようかな。
ちなみに、魔物族が嫌いな第二王子の話に関しては、私もちょっと情報を仕入れている。
なんでも、現在、病気で療養中の王様に代わり、次期王位を巡って三人の息子たちが水面下でドンパチやってるんだとか……。
現在、代行として国王としての執務を行っているのが、長男の第一王子くん。
だけど、彼は王都で連日パーティーを開いたりして、結構豪遊しているみたいな噂がある。付いたあだ名が浪費家王子。うん、国を傾ける未来しか見えないね。
で、魔物族嫌いの第二王子くんは、屋台のオジサンも言ってたけど、王国軍の将軍様。第一王子くんとは犬猿の中で、かなりの脳筋っぽい印象。常に魔王国を攻めようと発言し、更に本人も結構な武闘派らしくって、騎士団とかの軍関係者にはわりと人気が高いって話だった。
で、上二人と少し歳の離れた第三王子くん。
彼が結構優秀らしくって、文武に優れているって話なんだけど、優秀過ぎて疎まれたのか、今は王都ではなく、ファースの方に都市の責任者として飛ばされちゃったらしい。
で、飛ばされたことを恨みに思って、虎視眈々と王座を狙っているのではないかと言われてるとかなんとか。
うーん。
こう考えると、嫌な緊張感のある時期にファーランド王国にやってきちゃったんだよね。
まぁ、中でも一番気をつけるべきは第二王子くんかな?
魔物族嫌いの武闘派なんて、魔物族からしたら天敵みたいなもんだしね。
だから、なるべく第二王子くんとは関わらないように過ごしたいかな。
まぁ、とりあえず、今日は寝よう。
明日は、商業ギルドに行って、貯めてたアイテムを提出して依頼をそれなりに達成しよーっと。
■□■
晴れたねー。
というか、LIAって雨が降ったりすることってあるんだろうか? 現状は全く雨が降ったことがないので、ちょっとその辺はゲーム的な都合なのかなーと勘繰っちゃうね。
ちなみに、私が今日の予定をツナさんに伝えると、ツナさんも商業ギルドについてくると言い出した。
なんだろう? 私の追っかけかな?
と思っていたら、
「お前が商業ギルドで不当にイチャモンをつけられた場合、この街が消し飛ぶ可能性がある。俺はそのための外部安全装置だ」
うん。追っかけじゃなくて、お目付け役でした!
はぁ、信用ないなー、私。
というわけで、宿の人に商業ギルドの位置を聞いて、レッツゴー。
途中で屋台で買い食いして、優しい味の野菜スープを味わう。なかなか気持ちが柔らかくなる味で、ちょっと嫌なことがあっても許せるような心温まる味だった。
でも、できることなら、冬場に飲みたかった! ちょっと朝日が燦々と降ってくるような中で飲むようなものじゃないよ! まぁ、全部飲んだけどね!
ツナさんとさっきのスープの感想について、アレコレ言ってたら商業ギルドに到着。
商業ギルドは爽やかなレモンイエローに塗られており、なかなかにファンシーな外観だ。
「黄ばんでるな」
「…………」
ツナさんは割りとデリカシーがないと思う今日このごろ。
というわけで、人族の商業ギルドを初訪問!
レモンイエローに塗られた扉を開けると、中からは多くの熱気が溢れてくる!
わー、活気あるなぁ……。
フォーザインも人はいたんだけど、例の希少素材独占問題が起こっていた最中だったからね。結構、陰鬱とした雰囲気だったんだ。
けど、ここは違うね。
普通に生産活動が盛んだ!
なんか、そこら中で素材の交換だとか、売れ筋の品物の確認だとか、どのへんに出店を出したら売れるかだとか、作ったアイテムの売買だとかが行われている。作ったアイテムの売買なんて、ワールドマーケットでしかやったことのない身としては新鮮だよ!
そんな活気のある商業ギルドの中でも、何人かは常に入り口に気を配ってたっぽいね。
ツナさんに視線が向いたと思ったら――。
ツナさんが一気に駆け出す。
そして、一人の男の襟首を掴んで片手でその男の体を持ち上げちゃうよ。
わー、力持ちー。
――じゃない! 何してんの、ツナさん!?
「おい、何勝手に【鑑定】してる?」
うわー。ツナさん相手に【鑑定】するとか命知らずにも程があるでしょ……。
その人、【
ぶっちゃけ、攻略組とか呼ばれてる人らよりも、ヤバイステータスしてると思うんだよね。
大体、海中とかいう未知のフィールドで五体満足で生き残ってる時点で、その人おかしいから。
でも、まぁ、事情を知らない人には、ツナさんがいきなり凶行に及んだように見えたみたい。変に周囲の注目を集めた上に、「これだから、魔物族は……」みたいな声まで聞こえてくるね。
いや、魔物族関係なく、プレイヤーとしてのモラルの問題でしょと言いたいんだけど?
ま、ツナさんがソイツをボコボコにしても私は止めないよ?
だって、悪いのソイツだし。
むしろ、人族プレイヤーの間では、挨拶代わりに【鑑定】するのが普通なのかな?
いやー、でも、愛花ちゃんはそんなことしてこなかったし。育ちの問題かなー。
商業ギルド全体が変に緊張した空気になる中、私は私で用事を済ませようと受付に向かう。
え、ツナさんの件?
そんなのツナさんがどうにかするでしょ。
ちなみに、私に【鑑定】がかけられなかったのは、【隠形】レベル9のおかげっぽいね。それで、存在自体が気づかれてなかったんじゃないかな?
受付の前にすーっと移動して、受付嬢さんに声をかけたら、短い悲鳴をあげて驚かれちゃったよ。
「あ、すみません。依頼の品を納品したいんですけど、よろしいですか?」
「ヒッ!? は、はい……。どちらの依頼でしょう……?」
「あ、依頼書を持ってこないといけない感じ?」
「え、あ、はい……。そうですね。というか、普通はそうです……」
物だけ持っていけば、「コレとコレとこの依頼は全部オッケーかなー」って処理してくれたミレーネさんって超優秀だったんだなー。
仕方ないので、受付嬢さんの前からテコテコと歩いて依頼掲示板に移る。
ツナさんの方は、勝手に【鑑定】してきた男のお仲間かな?
ゴツい髭面が出てきて、「俺のツレに何しやがる!」とか言ってるね。
あー、そういうの必要かな?
「ツナさーん、私も『ツレに何しやがるー』って言いながら行った方がいいー?」
「絶対にくるな! 穏便に終わらなくなる!」
ツナさんに拒否されちゃったよ。
むしろ、この時点で穏便じゃないと思うんだけどなぁ。
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