第68話
船に乗ってドンブラコ〜して三日。
その間に、リリちゃんから『Takeくんに預けていたリリの荷物の中に見たことのないアイテムがあるんですけど? これ、ヤマさんの忘れ物じゃないですか?』というメッセージが来たので、『あー、それ、失くした腕を戻す【神秘の再生薬】だから、Takeくんが反省してるようなら渡しといてー』と返したり、逆にリリちゃんに『コグスリーは旅から帰ってきてから作るから、それまで待っててー』と送ったら、『ヤマさん何処に行ったんですかー? タツさん探してますよー?』とか、そういったやり取りがあったりしつつ……。
私は、ようやくファーランド王国に辿り着いた!
……………。
まぁ、辿り着いたといっても沖合なんだけどね。
フォーザインに停泊してた時もそうなんだけど、船が大き過ぎて港の桟橋にまでつけないんだって。
だから、乗り降りは桟橋につけられるくらいの小型の船に乗って行われるんだね。
ま、小型といっても五十人くらいが乗っても沈まないサイズの大きさなんだけど。
それに、すし詰めにされながらも、私はついにファーランド王国第二の都市、港町セカンに降り立った!
「着いたー!」
「着いたな」
というか、何故かツナさんも一緒だ。
愛花ちゃんは一刻も早く地面に足を付けたかったのか、最初の船でセカンに向かったらしく、私とは別の船での到着になったみたい。周りを見回してみても愛花ちゃんの姿はないよ。
うーん。船酔い酷そうだったし、大丈夫かなぁ?
まぁ、ユウくんたちもついてることだし、大丈夫だと思うことにしよう。
そして、ファーランド王国第一訪問都市セカンの第一印象なんだけど……。
とても、カラフル!
リアルで言うところのイタリアのブラーノ島? にイメージが被る。リアルでは、霧の中で漁をしてても自分の家が見えるように家々をカラフルに塗ったって話なんだけど、赤やら青やら緑やらに派手に塗られた家々を見てるとテンションも上がってくるね!
フォーザインの白い石造りの町並みもギリシャのサントリーニ島みたいで良かったけど、この派手な町並みも思わず陽気な気分にさせてくれて、私は好きだなー。
「なんか派手だな」
「ツナさんは、こういうの苦手?」
「落ち着かん」
どうやら街の景観については、感想に個人差があるもよう。
まぁ、派手なのが苦手っていう人も一定数以上いるだろうけどねー。
さて、人族国のファーランド王国にやってきたのは良いんだけど、これからどうしようかな?
普通に逃げてきただけだから、あまりはっきりとした目的がないんだよねー。
あ。そうだ。
生産職としてB級に上がるためにこなさないといけない依頼の中に、ファーランド王国でしか取れない素材の採取があったはず。
私は【魔神器創造】でゴミ素材から何でも作れるんだけど、折角なら生の素材とかを見たり、集めたりして、【調合】とか【錬金術】を行ないながら、生産職の腕を上げていくのも良いのかも。
うん。
生産職を名乗るくせに、なんでもスキル頼りというのは、ちょっと情けないしね。
たまには、素材と生で触れ合ってみたり、現地の美味しい物を食べたり、綺麗な景色を見たりして、リフレッシュすることが必要だよ。
最近は、イベントのせいもあるけど、バトルに給仕に忙しすぎたんだから、たまにはこういう時間もいいと思うんだよねー。
となると、まずは商業ギルドか、宿の確保か、どっちにしようかなーとなるんだけど……。
「あのー。ツナさん?」
「なんだ?」
「美味しい店とか探しに行かなくてもいいの?」
ちょっと探りを入れてみる。
というか、ツナさん、私が道の端に寄って考え始めるのに付き添う形で、ピタリと私の後についてくるんだもん。
そりゃ、どういう了見なのさと聞いてみたくもなるよね。
そしたら、ツナさんは、
「俺はこの国の美味い物を探しに来た」
「うん」
「だが、それ以上に俺はEODが食いたい」
「うん?」
「お前といると食えそうな気がする」
「…………」
よく分からない三段論法だけど、ツナさんの言いたいことは分かった。
つまり、あれだね。
きび団子につられたお供ってわけだね。
そして、多分、このお供は私の都合に関係なくついてくると。
はぁ……。
イコさんとの対決では、ツナさんのスキルに救われた部分もあるからね。このぐらいは大目に見てもいいのかな?
「まぁ、ついてきてもいいけど、あまり面倒は起こさないでね?」
「大丈夫だ」
自信満々に言うツナさん。
「面倒を起こすのは、むしろゴッドの方だからな」
「…………」
ド正論過ぎて何も言い返せないよ!
私も騒ぎを起こさない自信がないからね!
まぁ、ツナさんを連れて商業ギルドに行くよりは、宿を探した方がいいかなーと思って、その辺の屋台で買い食いをしながら、ご飯の美味しい宿屋を尋ねる。
屋台の店主は気の良さそうなおじさんで、特に私たちの風貌なんかには気を留めずに、食事が美味しいと言われる『風花亭』という宿を教えてくれた。
そこは、海鮮系のパスタが美味しいんだって!
「あいよ、お待たせ」
ホタテを連ねて串で刺し、それにタレを塗りながら焼いた物……ホタテ串っていうらしい……を屋台のオジサンからもらって、その場で齧りつく。
ふほっ! 熱々だけど、とっても肉厚でホタテの味が濃い! それにタレの甘塩っぱさが絡まって、抜群に美味しいよ! やっぱり、港町は海鮮の味が別格だね! ツナさんなんて、おかわりでもう二本頼んでるし!
と、そこでおじさんも、私たちが人族じゃないってことに気づいたみたい。ツナさんのウエーブのかかった長髪から飛び出している二本の角を見て、渋い顔をする。
「アンタ、魔物族かい?」
「そうだが?」
うわー。
ここで、種族差別イベント来る? とか思ってたんだけど、違ったみたい。
「だったら、王都と田舎には行かない方がいい」
「何故だ?」
「アンタは昔、王国と魔物族の国の間で戦争があったことは知ってるかい?」
「いや」
私は知ってるかなー。
確か、カッツェさんがそんなこと言ってた気がする。
「田舎はそん時の遺恨を今も伝えてるところが多くてな。魔物族に対してあまりいい感情を持ってないんだ。御先祖様が受けた恐怖や怒りを今も伝えてるっていうかな? まぁ、俺たちの代にまで持ち込む話じゃねぇってことは分かってるんだが、頭で理解していても、感情が理解できないってことはあるだろ? そんな感じだからな。あんまり田舎に行くのはオススメできねぇかな」
「田舎は分かったけど、じゃ、王都の方は?」
私が尋ねると、おじさんは苦々しい顔を見せていた。
そんなになんか嫌なことがあるのかな?
「この国には、三人の王子がいるのは知ってるかい? その内の第二王子ってのが王国軍の将軍なんだが、コレがとんでもねぇ魔物族嫌いで知られてるんだよ。まぁ、王国を守る立場としては、それで正解なんだろうけど……。そのせいか、王国軍全体が魔物族に対して良い感情を抱いてねぇって話だ。まぁ、この辺はまだいいが、王都なんて行った日にゃ酷いもんだと聞くぜ? 何か起きりゃ、事件と関係ない魔物族が捕まって投獄されてるって話だからな。まぁ、近づかないにこしたことはねぇだろうさ」
王都って、確か、サーズって名前だったかな?
うーん。マリスの足取りとかを調べようと思ってたんだけど、この調子じゃ近づかない方が賢明かな?
「話に聞くと、王国全体で魔物族はあんまり好かれてないみたいだね。その割には、おじさんは偏見がないみたいだけど」
「海を挟んでいるとはいえ、フォーザインとは隣国の間柄だ。交易も行ってるし、それなりに魔物族と出会う機会も多いのよ。で、実際に話してみりゃ、イイヤツもいれば、悪い奴もいる。そこで俺は気づいたのさ。あぁ、コイツらも人族と何も変わんねえんだなぁって。だから、色眼鏡で見るのはやめたのさ」
「みんな、おじさんのように良い人だったら良かったのになぁ」
「よせやい、照れらぁ」
顔を真っ赤にするおじさんにお礼を言いつつ、私たちは本日の宿『風花亭』に向かう。
その間にも、感じるのはツナさんに向けられる視線。
さっきまで、ずっと褌一丁だから目立ってるのかなーと思ってたけど、魔物族だからってこともありそうかな?
うん、でも、あの道の端でツナさんを指差してキャーキャー言ってる若い女の子たちは、絶対そういう理由じゃないと思うけどね。
「ツナさん、宿に行く前にフード付きの服買おうか?」
「何故だ?」
「悪目立ちしたくないから。というか、ただでさえ、魔物族に悪感情があるところで、相手の神経を逆撫でしたくないよ」
「別にこちらは悪いことをしているわけじゃないから、良いのではないか?」
「でも、リアルだと公序良俗違反で違法じゃない?」
「悪いことだったのか……」
うん、褌一丁は色々と駄目だと思うよ。
ほぼストリーキングだよ。
「分かった。ならフード付きのコートを買おう」
それって、なんて変態?
「俺はあまり多くを着込むのが好きじゃない。出来れば一枚がいい。すぐにキャストオフできるしな」
ツナさん、身長高いし、顔はそれなりに男前だから、ダブルのスーツとか着れば、映えそうなんだけどね。
まぁ、変態的な格好が好きならお好きにどうぞという感じだ。
というわけで、街の服屋でフード付きのコートを買っていく。
うん、気候的にないんじゃないかと思ってたけど、朝の漁とかは寒いんで、着込む人もいるらしい。そのおかげで、フード付きコートに素足とかいう変態ができあがったよ。
ドレスコードがある店には絶対に入れない奴だね、これ。
「久しぶりに防具を装備したな」
もっと触れよう? 文明に?
なんか、原始人を連れた猛獣使いの気分になりながら、私たちは『風花亭』を目指す。
まぁ、マップに既にピンが立ってるから、道を間違えようがないんだけど、それでも、ちょっと入り組んだところにあるのは、隠れた名店というワードを思い起こさせてくれるので自然と期待が膨らむ。
それはツナさんも一緒なのか、自然と歩く歩幅が大きくなってるんだよね。
私の敏捷がそれなりに高くなきゃ、普通においていかれてるところだったよ。
「ここか」
「雰囲気……はないね」
風花亭は渋くて年季の入った小洒落たお店という感じではなく、淡いブルーに全体が塗られたポップな印象の宿だった。
私たちはその宿の扉を恐る恐る開けて、中に入る。
あ、よかった。
普通に飲み食いしてる人がいる。
なんか、入った瞬間に閑散としてると、流行ってないんじゃ? ってちょっとだけ思っちゃうよねー。
でも、人もちゃんといるし、出てくる料理に関しては安心できそうかな?
「あ、いらっしゃいませー」
「泊まるところ探してるんだけど、空いてる?」
「はい、問題ないですよ。一泊100褒賞石、食事付きで150褒賞石ですけど、どうしますか?」
「じゃ、十日でお願い」
それぐらいで、この街の中も見て回れるだろうし、近くの素材とかも集められるんじゃないかな?
まぁ、足りなければ延長すればいいでしょ。
それにしても、ムンガガさんのとこは一泊30褒賞石だったことを考えると……。
やっぱり値段設定がおかしかったんだなって、改めて思うよ。
「なら、俺も十日分にしよう」
ツナさんは、本当についてくる気なのかな?
私が生産活動とかしてる間は暇になっちゃうんだけど、それでも大丈夫?
それを聞いてみたら、
「ゴッドが生産活動をしている時は、俺も冒険者活動をするから大丈夫だ」
と、言われた。
まぁ、一人で旅するよりは、二人で旅した方が楽しいかもしれないから、これはこれでありかな?
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