第65話

 ■□■


 大方の予想通り、準決勝第二試合はゴブ蔵さんとイコさんのコンビが勝ち上がった。


 アクセル&クロウも良く粘ってはいたんだけどね。結局、アクセルが逃げに徹しきれずに吶喊とっかんしたところでゲームオーバー。


 まぁ、よく頑張った方だとは思うよ?


 続いて、昼休憩を挟んで、三位決定戦が行われたんだけど、そこはナバル&ハサンコンビが棄権。アクセル&クロウコンビが不戦勝で三位になるという結果で終わった。


 ま、ナバル&ハサンもリリちゃんの一件で、私を怒らせてるって知ってるし、下手に残って、私ともう一度鉢合わせでもしたら、今度こそ本当に殺されるとでも思って、さっさと撤退したんじゃないかな?


 私としても、ちょっと顔を合わせるのに複雑な気持ちだったから、それはそれでありがたかったんだけどね。


 そして、いよいよ決勝戦なんだけど……。


 何か、開始前にタツさんが進み出て、ゴブ蔵さんと話をしてるね。


 何話してるんだろう?


 そう思ってたら、帰ってきたよ。


「おう、話し合いすんだで」

「何か話し合うことなんてあったっけ?」

「これから、ワイとゴブ蔵さんは棄権する。せやから、ヤマちゃんとイコさんで一対一タイマンな」


 えぇ〜!? なんでそんなことになっちゃってるの!?


「元々、ワイがいたところで足手まといやろ? せやから、ダメ元で交渉してみたんやけど、あっさりとあっちが受け入れてくれたわ。ま、ゴブ蔵さんはちと不満そうやったけどな。イコさんの怖い笑顔で納得せざるを得なかったみたいや」


 イコさんの怖い笑顔……。


 うん。すごく想像しやすいね。


「ちゅーわけで、ワイは開始前に降参サレンダーするわ。殺されて痛い目になんぞ合いとうないし」

「それは、私も同じなんだけど?」

「ま、ヤマちゃんと戦いたいっていうんは、向こうの名指しやし。頑張ってなー」


 あ、ゴブ蔵さんが舞台から光の粒子になって消えた。


 それに続くようにして、タツさんも消えちゃったね。


 うわー。


 イコさんと一対一で決闘かぁ。


 どうなっちゃうんだろ?


「ヤマさん」

「あ、はい」


 あ、ヤバ。


 イコさんに声かけられて、普通に返事しちゃったよ。


 今の私はヤマじゃなくて、リリなのに。


 でも、イコさんって品の良いお婆さんって感じだから、何かちょっと嘘を吐きづらいというか、素直になっちゃうんだよね。


 だからかな。普通に返事しちゃってたよ。


 失敗失敗。


「私はね、初めて貴女と会った時から、こうなるんじゃないのかなって、何となくだけど思っていたの」

「そうですか」


 初めて会った時って、冒険者ギルドでお茶飲んでた時かなー。


 あの時は、あっさりと【隠形】が破られちゃって、タダモノじゃない! ってなったんだけど、あれからもう一ヶ月ぐらい経つんだよね。


 懐かしいなー。


「私はずーっと探してたのよ? 私が本気になって戦える相手。むしろ、私を負かしてくれる相手をね?」

「買い被り過ぎですよ」

「私はそうは思わない。ロックリトルドラゴンを倒した時の動きは才能の片鱗を見せてくれた。そして、先程の準決勝もね。久し振りに心が躍ったわぁ」


 うっとりとするイコさんなんだけど、その体からなんか稲妻みたいなものがピリピリと漏れ出しているんですが?


 そして、徐々に肉体が若返り、背筋が伸びていく。


「ふぅ……」


 一息ついた時には、イコさんの姿は妖艶な美女になっていた。白髪と着物姿なのは変わらないけど、その頭に付いている耳はピンっと立っているし、いつの間にかイコさんの後ろには大きな白い尻尾がゆらり、ゆらりと揺れている。


 なんとなくだけど、狐というイメージが思い浮かぶよ。


「狐の獣人だったんですか?」

「あら、よくわかったわね。【キュウビ】というのが私の種族名よ」


 キュウビというと、やっぱり九尾の狐から来てるのかな?


 でも、別に尻尾は九つもない。


 むしろ、ひとつだし。


 このLIAでは、そういう種族名ってことなんだろうなー。


 そして、種族名。


 多分、結構な上位種じゃないかなーと思うんだけど……どうだろ?


 ▶まねっこ動物が発動しました。

  【小神降臨に違いない】を習得しました。


 え、イコさんの若返り技も取得できちゃうの!?


 私は慌てて、取得したスキルを確認する。


====================

【小神降臨に違いない】

 小神の領域に届いた者のみが使える、全盛期の力の解放……を模したもの。

 ステータスの全てが2.5倍に上昇して若返る。

 ※一時間のみ使用可能。

 ※クールタイム24.0h

 ※肉体が戦闘適齢期を過ぎていないと使用不可

====================


 え!? 五倍スキル!?


 本当にイコさん何者!?


 五倍って、元のステータスが100だとしても、500に跳ね上がるわけで……。


 そうなったら、完全に私のステータスを上回ってくるじゃん!


 イコさんをナメてたわけじゃないけど、スキルで上回られているところに、ステータスまで上回られると、私の勝ち目が全くない!


 しかも、このステータス、戦闘適齢期(?)を過ぎてると使えるって、0歳の私には使えないスキルじゃん! これ、まねっこ動物して、何の意味があるのよ!?


「ヤマさんも準備があるなら今の内よ。戦闘開始したら、本気で殺りあいましょう?」


 アカン。


 イコさん完全にこっちを殺す気で来ている。


 多分、バリバリに【魔力浸透激圧掌】とかで即死を狙ってくるんだろうなー。


 即死連打とか、それってなんてクソゲー? って感じだけど、デスゲームのせいで今更この程度でクソゲーって感じがしないあたりが、色々と感覚麻痺してるよね。


 それにしても、EOD戦にツナさんを呼んでおいて良かったよ。


 そうじゃなきゃ、今頃絶望してるところだろうし。


「それじゃ、お言葉に甘えて。【半狂神降臨】」

「なかなか面白い奥の手を持っているわね」


 これで、物攻、物防、敏捷、直感も1.5倍。


 ステータス上は600近くに跳ね上がったはずなんだけど……。


 くぅっ、ナニコレ……。


 すっごい気持ちが昂揚してハイになっていく……!


 ツナさんは自我を失くすって言ってたけど、その半分でも十分に辛いよ!


 ハイになって暴れ回りたい自分と、それを冷静に見て制御できている自分がいるのは、多分、【並列思考】のおかげかな?


 これなら、まだ戦えるよ……!


「おまたせ、イコさん。これでいいよ」

「武器は持たないのかい?」

「持ってたら、多分、利用されそうだからね。それが一番怖いし、これがちょうどいいよ」


 あのガガさんの魔剣は、試合終わったら能力が戻るのかなーと思ってたら、そのまんま固定されちゃったからね。


 というか、あんなゲキヤバな代物を、もし返し技で返されたら私が消し飛んじゃうし。


 あれは、来たるべき時まで封印だよ!


「あら、残念。利用しようと思ってたのに」

「やっぱり」

「まぁ、それで準備が完了したというのならいいでしょう。審判さん、開始の合図をお願いします」


 あ、開始するのを待っててもらってたんだ。


 というか、審判なんていないけど、NPCだと何かが見えていたりするのだろうか?


『それでは、泣いても笑っても最後の一戦! 大武祭、決勝戦開始です!』


 ブザーが鳴り響き、試合が開始される。


 それと同時に、イコさんがスタスタと歩いてくる。


 走れないわけじゃないだろうけど、普通に歩いてくるね。


 だったら――、


 私も荒れ狂う意識を【並列思考】で押さえつけながら、ゆっくりとイコさんへと歩いていく。


「焦って走ってくると思ってたけど、歩いてくるのね?」

「多分、技では勝てないだろうから、小細工しない方がいいかなーって」

「小細工なしなら勝てるのかしら?」

「やってみます?」

「そうねぇ。見てみたいわ」


 私とイコさんは同時に足を止める。


 その距離は60センチあるかないかだ。


 完全にどちらも射程距離。


 そこでピタリと足を止めた私たちは、合図もなく、同時に拳を打ち合う。


 どんっ! と、空気を震わせる音を残して、私とイコさんの拳が空中で正面衝突する。


 互いの威力で足元の舞台が割れ、互いの拳が弾き飛ばされる。


 というか、拳痛いんですけど!?


 けど、嘆く私よりも、大きく弾き飛ばされたのはイコさんの方だ!


 物攻では、私の方が上みたいだね!


 そして、そのまま二発、三発と両腕で回転を上げていく。


「うりゃりゃッ!」


 手打ちの、現実だったら威力のないパンチだとは思うけどね! ゲームだからね! あたれば、攻撃力相応のダメージが発生するよ!


 イコさんは、私に付き合って拳を合わせてくれてたけど、三発目には拳が間に合わずに思わず片腕を上げて防御する。その衝撃で少し吹っ飛ばされたね。


 でも、今ので確信できた。


 敏捷や直感のステータスも私の方が上だ!


「やはり、今の若い子には勝てないねぇ」

「今のイコさんは、見た目も十分に若いと思いますけど?」

「ありがとね。じゃ、ちょっと小細工を使うかねぇ」


 そう言って、距離を縮めてくるイコさん。


 私も手打ちの速射砲で応戦するけど……全然あたらない!


 手の甲や、肘なんかを上手に使って、イコさんに散々に弾かれちゃう!


 多分、直感や敏捷の差が、ナバルとかと違って何倍もないんだね! 普通に技術が通用するレベルになっちゃってるんだ!


「ほい」

「わっ!?」


 いきなり、腕を掴まれそうになったから、思い切り飛び退いちゃったよ!


 絶対、掴まれたら【魔力浸透激圧掌】を放ってきたよね?


「あら、惜しい」


 やっぱり! 絶対狙ってた!


 イコさんとの接近戦は危険だよ!


「じゃ、腕試しもこれくらいにして、本気でいこうかね」

「何でも有り有りでいいんですか?」

「えぇ、かかってらっしゃいな」


 じゃあ、お言葉に甘えて――、


「【ダークアバター】!」


 私の言葉と共に私の影が実体化し、イコさんに襲いかかる!


 操作は、荒ぶっている方の【並列思考】にお任せで、私は続いて魔術を行使する!


「【ウォータースネイク】!」


 【水魔術】レベル8。私の掌から巨大な水の蛇が生まれたかと思ったら、生き物のようにイコさんを追尾していく。


 その水の蛇を後追いしながら、私はイコさんとの距離を一気に詰めていくよ!


「二本の腕で駄目なら、手数を増やす!」

「目新しければ良いってもんでもないよ?」


 イコさんが【魔甲】で強化した腕で水の蛇の上顎と下顎を掴む!


 でも、両手が塞がったから、こっちのもの――って、背後から殴りかかった【ダークアバター】が後ろ蹴りで土手っ腹に穴が空いた!?


「後ろに目でもついてるの!?」

「年の功で気配で分かるのさ」


 バリバリっと音がして、水の蛇が横に真っ二つに引き裂かれる。


 魔術を引き裂くとか、どんなパワーしてんのさっ!?


 水の蛇が水飛沫となって宙に消える中で、それでも私は水飛沫を全身に被りながらも、イコさんに肉薄する。


「馬鹿正直に正面かい?」

「そんなわけないじゃん! 【ミラージュ】!」


 【光魔術】レベル7。一瞬で光を屈折させて、私の姿を一気に増やす!


 光の屈折を利用して、自分の姿を消したりすることもできる魔術らしいんだけど、今回は撹乱目的で使うよ!


 多分、気配で私の位置はバレバレだろう。


 でも、それでも、少しだけでもイコさんの気が逸れれば儲けもの!


 複数の私の幻影と共に、イコさんに向かって殴りかかるけど……。


 幻影もろとも、攻撃が全て捌かれた!?


「おっと、これが本物……」

「【レイ】!」


 【光魔術】レベル9。一瞬で発動する光線で、発動後に躱すことは不可能な魔術ということで、ぶっ放したけど、ほぼ同時に蹴りの衝撃!


「危ないねぇ」

「光線の軌道を私を蹴ることで逸した!? うー、脇腹痛いんですけど……。本当にイコさんって強いね……!」


 イコさん的にも緊急手段みたいな攻撃だったのか、【魔力浸透激圧掌】をやられなかったのは良かったけど……。


 これ、本当に勝てる相手なの?


 序盤のイベントで用意されていい敵じゃないでしょ!?

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