第62話

 ■□■


 さてと――。


 結局、コグツーと同じ見た目の普通の鎧を作るのに徹夜しちゃったわけなんだけど、おかげでそれなりに満足するものが出来上がったとは思う。


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【COG-002Lレプリカ】

 レア:6

 品質:高品質

 耐久:1000/1000

 製作:ヤマモト

 性能:物防+76

    魔防+52

 備考:COG-002Lにそっくりな見た目の鎧。材料に密かに大礫蟲を混ぜて使っているせいか、見た目よりも高性能である。

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 うん。コグツーをそのまま作成することは、材料の関係もあって一日じゃ無理なんだよねー。


 というわけで、見た目だけをソックリにして、それを私が装備してみようとして――、


 …………。


 あれ? 元の白銀鎧の方が脱げないんだけど、どうしたら……?


 あ、近づけたら、鎧の中に新しい鎧がズブズブと吸収されてくね。


 最終的には、一式全てを吸収し終わった時点で、私の見た目は完璧に魔王スタイルへと切り替わった。


 うんうん、我ながらいい感じだね。


 あ、コマンドを呼び出して、装備を切り替えると、アバター衣装を切り替える感じでパッと一瞬で白銀鎧の方にも切り替わるんだ。これは中々便利かも……。


 後は、EOD戦で稼いだSPもステータスに全振りして、最終的なステータスはこんな感じだよ!


 名前 ヤマモト

 種族 ディラハン(妖精)

 性別 ♀

 年齢 0歳

 LV 36

 HP 3890/3890

 MP 1087/3890

 SP 0


 物攻 513(+124)

 魔攻 476(+87)

 物防 465(+76)

 魔防 441(+52)

 体力 389

 敏捷 389

 直感 389

 精神 389

 運命 389


 ユニークスキル 【バランス】

 種族スキル 【馬車召喚】

 コモンスキル 【鍛冶】Lv9/ 【錬金術】Lv9/ 【調合】Lv9/【鑑定】Lv9/ 【収納】Lv9/【火魔術】Lv9/【水魔術】Lv9/【風魔術】Lv9/【土魔術】Lv9/ 【光魔術】Lv9/ 【闇魔術】Lv9/ 【料理】Lv9/ 【ヤマモト流】Lv9/ 【採掘】Lv9/ 【採取】Lv9/ 【細工】Lv9/ 【革細工】Lv9/ 【木工細工】Lv9/ 【彫金】Lv9/ 【彫刻】Lv9/ 【釣り】Lv9/ 【追跡】Lv9/ 【逃亡】Lv9/ 【魔鋼精製】Lv9/ 【魔神器創造】Lv9/ 【隠形】Lv9/ 【隠蔽】Lv9/ 【魔力操作】Lv9/ 【魔甲】Lv9/ 【状態異常耐性】Lv9/ 【思考加速】Lv9/【並列思考】Lv9/【観察眼】Lv9/【先読み】Lv9


 まずまずかな?


 本当は、全ステータス400オーバーは欲しかったけどね。


 まぁ、いざとなったら、ツナさんからパクった【半狂神降臨】を使えば、近接戦闘系のステータスが1.5倍になるし、敏捷や直感が600近くにまで跳ね上がれば、流石のA級冒険者といえども恐れることはないでしょ!


 …………。


 いや、変なフラグ立ててないよね?


 無茶苦茶なぶっ壊れスキルを相手が持ってましたーとかいう展開は無しにして欲しいけど、怖いからコグワンを修理しとこうかな?


 いや、でも、今ここでMPを1000も払って【魔神器創造】を使ったら、残りが87しか残らない。そもそも海水そざいがほとんど残って無いというね。


 うーん。


 悩んだけど、やめとこ。


 MPは大事だよ、きっと!


 というわけで、徹夜明けの変なテンションのまま、タツさんでも誘って闘技場に行こうっと。


 ■□■


「いや、無理やろ」


 私がリリちゃんに成りすまして準決勝に出るって宿屋から寝ぼけ眼で出てきたタツさんに言ったら、一発で却下された件。


 え、何で? って顔でタツさんを見るよ。


 ヴェールで見えないかもしれないけど。


「え、何でって顔しとる雰囲気やな……」


 流石、タツさん! 洞察力が高い!


「あのなぁ。大武祭のシステムに既に参加者としてのリリちゃんのデータが渡っとんねん。その状態で違う人間が参加したら、一発で不正やってバレてシステムに弾かれるんとちゃうか? ワイはてっきり、ナバル&ハサンを闇討ちするもんやとばっかり思っとったわ」


 闇討ちなんて、そんな怖いことしないでしょー。


 そっかー。システム的な問題かー。


 それは考えてなかったなー。


「けど、大武祭のルールには、出場選手の途中変更については何も記載されてないよ?」

「当たり前や! 参加者の腕試しが目的のイベントで、普通は入れ替わるとか想定せんやろ!」


 そんなものかな……?


「まぁ、多分、何とかしてくれると思うよ」

「はぁ? 誰がや?」

「え? 私のハンムラビ法典かな? やられたらやり返せーって言ってる気がする」

「あれは、やられた分だけ返しましょう、やり過ぎたらアカンですよって話やったとちゃうか?」

「ま、とりあえず、行ってみようよ」

「ワイの話聞いとった!?」


 というわけで、タツさんと連れ立って闘技場に向かう。


 途中で路地裏に寄って、魔王スタイルに着替えたりもするけれど、それでも誰にも気づかれずに闘技場まで着いた。


 うん、【隠形】レベル9は偉大だね。


「ここからは、参加者しか通れへんぞ」


 見上げるほどにデッカイ石造りのコロッセオ。その下部にこじんまりとした長いトンネルのような入口があり、そこから選手は出入りするらしい。


 タツさんがスーッと中に入っていくのに続いて、私も続こうとするんだけど……。


 ▶大武祭決勝トーナメント参加者でないため、これ以上は進めません。


 って出るね。


 そして、何か透明な壁がある感じで前に進めない。


 バンバン叩いちゃうよ。


「せやから、言ったやろ?」


 若干ドヤ顔のタツさんに、イラっとしつつも私はその壁を通り抜けようと頑張って進もうとする。


 それでも、透明な壁は何ともできなくて……。


 やっぱり、無理なのかなーと思いかけていた、その時――、


 ▶【バランス】が発動しました。

  イベントのバランスを調整します。

  本イベントの間、闘技場内にてヤマモトはリリとして行動できます。

  やっちゃって下さい。


 ふっ、と透明な壁がなくなる感触。


 私はちょっとだけコケそうになりながらも、キョトンとした顔をしてたに違いない。


「今、【バランス】さんの私信みたいなログが視界の端に流れたような……?」


 気のせい、じゃないよね?


 何だろう? 勝手に喋っちゃうスキル? そんなスキルがあるなんて聞いたことがないんだけど……。


 でも、バランスさんが私の味方だと分かって嬉しいかな? ……うん、嬉しい!


「は? 何が起こったんや?」

「目には目を、歯には歯を、卑怯には卑怯をが認められたんだよ」

「どういうことやねん!?」

「ま、ここからは魔王リリで行くから。そういうことでよろしくー」

「リリちゃんはそういう軽い感じとちゃうけどな! 結構、ガチガチでそれでも頑張ろうって懸命な感じやったで! 例えるなら、頑張るハムスターやったわ!」

「なんで、そんな感じなのに魔王なんて言われてるんだろうね?」

「…………」


 120%お前のせいやろ、という視線を感じるよ。


 私の洞察力もなかなかのもんだね!


「そんで? A級冒険者相手やけど、勝てるんやろな?」

「舞台上で【鑑定】して、それからどうするか決めるつもりだけど?」

「舞台上では【鑑定】が使えんで。大武祭参加者には、そういう説明があったんやが……まぁ、参加しとらんかったからな」

「うん」


 そんな特殊なルールがあったなんて初めて聞いたよ!


 でも、それもそうだね。


 対戦相手の情報がいきなり丸裸だったら、対策も立てようがあるし、ミサキちゃんが【デススクリーム】を出し渋っていた意味も分からなくなっちゃう。なるほど、全体的に【鑑定】禁止だったんだね。なるほどなるほど。


「じゃあ、仕方ないか。相手を挑発して追い込んで本気を出させる方針で動くよ」

「なんで追い込むねん……。相手の出鼻挫いて、ぶっ飛ばすじゃアカンのか?」

「暗器とかに詳しいツテがあってね。眠りの魔剣について知らないか聞いてみたんだよ」

「どんなツテやねん!」


 うん。海水を汲みに行くついでにね、何か知らないかなーと思って、ムヒョムヒョ笑うお爺さんに聞きに行ったんだよ。


 そしたら、眠りの魔剣については知らなかったけど、一般的な呪いの魔剣の呪いの解除方法については教えてもらえたんだよねー。


「で、その人が言うには、呪いの魔剣の呪いって、大体、本体の魔剣を破壊すれば解けるんだってさ」

「それで、追い詰める必要があるっちゅーわけか」

「そっ。掠りでもしたら、一発逆転が狙える魔剣なんだから、追い詰められたら使わざるを得ないでしょ?」

「相手の強力無比な武器の性能を逆手に取って、逆に使わざるを得なくするんか。なかなかエゲツない手を考えるのぅ」


 というか、掠ったら終わりみたいな最終兵器リーサルウェポンが存在してると、私自身の心と休まらないからね。コグツーの仇も兼ねて、ギタンギタンに破壊させてもらうよ。


「おっと、控室に着いたで。一応、好きな部屋使ってえぇんやけど、どうする?」


 狭いトンネルのような空間を抜けると、少しだけ広い通路に出て、その両脇にずらっと扉が並んでる。


 どうやら、ここに並んでる控室のどれを使っても良いらしい。


「ごめん、徹夜作業で眠いから、少し一人で眠らせて欲しいんだけど……時間来たら起こしてくれる?」

「分かった。時間来たらフレンドコールフレコするわ」

「うん、ありがと。じゃ、おやすみー」


 というわけで、私は適当な部屋に入って仮眠。


 タツさんのフレコに起こされるまで気持ちよく眠らせてもらったよ。


 ■□■


 というわけで、開幕前から煽らせてもらったんだけどさー。


 お相手さん、二人ともこっちを殺してやるって目つきで睨んでくるんだよね。


 おー、怖っ!


 相手のステータスが、タツさんの言う通りなら、私の方は二、三倍上のステータスがあるわけなんだけど……。


 実際に体感はどんなものなのか、その辺は体験してみないと分からないから、やはり試合開始前はちょっと緊張するよ。


 まぁ、悟られないようにはするけどね。


「タツさん、二人とも私がやるから、巻き込まれないように注意してね」

「分かったわ。まぁ、危なそうやったら手ぇ出すけどな」


 うん、それでいいと思う。


 絶対に手を出すなみたいなタイプじゃないしね、私。


 助けてくれるなら、助けてもらった方が嬉しいよ!


『それでは、試合開始して下さい!』


 ブザー音が鳴り響き、試合が始まったと思った瞬間に、軽装の男……ハサンだったかな?……が私に向けてキショい動きで近付いてくる。


 えーと、体を右に振ったり、左に振ったり、何か忙しそうだけど……これは?


 あっ、バスケのフェイント的な動きだ!


 …………。


 え、何の意味があるの?


 フェイント沢山かけてるってことかな?


『おー! 凄い! 凄い! ハサン選手が複数人に分身して迫るー!』


 いや、分身はしてないよ。


 忙しく動いてはいるけどね。


 あ、私のところにまで、ようやく来たね。


 そんな変な動きで無駄に動いてるから、到着までが遅くなるんだよ。


 あー、はいはい。


 分かりやすくパンチを打つぞってフェイント入れてきたー。


 じゃ、わざとらしく視線をそっちに動かして、反応したフリをしてー。


 はい、本命は下から上がってくる蹴りね。


 お、ブーツの先から、刃物が生えたね。


 暗器的な奴?


 毒塗られてたらヤダから、さっと蹴りを躱しながら、ハサンの足首を掴んじゃおっと。


 そのまま、ハサンの体を片手一本で引っこ抜いて、大きく振り回して舞台にドーン!


 人の形に血の跡が出来ちゃった……。


「【ヒールライト】」


 なんか一撃でズタボロになっちゃったハサンを回復するよ。


 いや、ナバルなんだか、ハサンなんだか、どっちが眠りの魔剣を持ってるか分からないからね。抜く暇もなく退場されると困るのよ。


 というわけで、ボロクズのようになっちゃったハサンをポイッとその辺に捨てて――……期待する。


 一発逆転を狙って眠りの魔剣を使うなら、背後から斬りかかれる絶好の位置にハサンをおいておくよ。


 うん、しかし、アレだね。


「ゴメン、本当に本気でかかってきてくれない?」


 じゃないと、うっかりで倒しちゃいそうな気がするから、本当に頼むよ!

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