第61話
<匿名のプレイヤーたちの手によって、EOD『
▶EOD『大礫蟲』を初討伐しました。
SP10が追加されます。
▶称号、【蟲殺し】を獲得しました。
SP5が追加されます。
▶経験値51200を獲得。
▶褒賞石12011を獲得。
▶大礫蟲の宝珠を獲得。
▶大礫蟲の外皮を獲得。
「ぬおおおおぉぉぉぉーーー!」
▶大礫蟲の刃牙を獲得。
▶大礫蟲の腹肉を獲得。
▶ヤマモトはレベルが3上がりました。
▶【バランス】が発動しました。
取得物のバランスを調整します。
▶褒賞石39184を追加獲得。
▶大礫蟲の胃袋を追加獲得。
▶大礫蟲の繊毛を追加獲得。
経験値がクリスタルドラゴンよりも5倍近く多いね。
やっぱり弱体化させずに倒したからかな?
いや、どうすれば弱体化できるのか、さっぱりだったけど。
「ぬおおおおぉぉぉぉーーー!」
そして、ゴメン。
さっきからなんなの? ツナさん?
「リザルトの確認中に、いきなり叫ばないで欲しいんだけどツナさん……」
「これが叫ばないでいられるか! EODを初めて食す機会が失われたんだぞ! ぬおおおおぉぉぉぉーーー!」
あ、そういえば、死体が完全にポリゴンになって消えちゃったね。
でも、【大礫蟲の腹肉】ってアイテムならドロップしてるけど? 無いのかな?
「何か、【大礫蟲の腹肉】ってアイテムならドロップしてるけど?」
「ワイもや」
「これだから、ドロ運の良い奴らは!」
あ、この調子だとドロップしてないんだね。
それは、ちょっと嘆きモードに入るかも。
まぁ、参加してくれたお礼も兼ねてあげちゃってもいいかもね。
……私は食べたくないし。
「とりあえず、後で腹肉あげるから、ここから立ち去ろう。ワールドアナウンスが流れちゃったから、流石におかしいと思ってボス待ちの人たちがこっちを覗きにくるかもしれないし」
「ま、雑魚狩ってレベル上げしてた言うて誤魔化しても別にえぇんやけどな」
「ふむ、食える部位をもらえるなら、俺に是非はない」
ツナさんは現金だね!
というわけで、早速移動。
私たちはそそくさとフォーザインの街まで戻るよ。
「アカン。MPが結構カツカツや。宿で眠らんと戻らん」
「あー、【魔道王】の効果? 連発する分、消費が激しいんだ」
「せやねん。もっと強くなってMP増えてくると、色々と楽しくなってくるんやけどな。現状だとすぐ底ついて使い勝手がなかなか難しいねん」
「ふむ、皆、ユニークスキルには苦労してるんだな」
「そういうツナさんも苦労しそうなユニークスキルしてるでしょ?」
自我を失くすとか、正直、使い勝手が悪いどころの話じゃないんだけど。
「初期は良くフレンドリーファイアをして迷惑をかけた。今は一人で海中に潜って戦ってるから、そこまで使い勝手も悪くない」
あぁ、ツナさんがいつも一人でいるのって、そういう……。
何か悲しくなっちゃうよ。
「何か、冒険の手伝いが必要になったら呼んでね。手伝うから……」
「ワイもや……」
「同情するなら肉をくれ。魚でもいいぞ」
そこはブレないね!
「で、これからどうするんや?」
「私はちょっとやることあるから海岸に向かうけど、パーティー的にはここで解散だね」
「海で手伝えることがあるなら手伝うが?」
【大礫蟲の腹肉】をトレード機能でツナさんに渡すと、ツナさんからありがたい言葉をもらった。
けど、ここからは私の領分だからね。
ツナさんには手伝ってもらうことはないかな。
「大丈夫。ここからは、私にしかできないことだから。手伝いは要らないよ。でも、ツナさんにはタツさんを宿にまで送っていって欲しいかな?」
例の奴らが、念には念を入れてくる可能性も否定できないし、そこはこっちも予防策を取るよ。
「分かった」
「なんや知らんけど、無理はするんやないで」
「大丈夫。無理はしないよ。やることやるだけだよ」
そうして、二人と別れると、私は海水を汲みに海へと向かうのであった――。
■□■
【ナバル視点】
時は満ちた――。
いよいよ、本日、大武祭の準決勝、そして決勝が行われる。
とはいえ、この準決勝は始まる前に既に勝負はついているのだが。
「ダンナ、会場盛り上がってやすぜ? これから、不戦勝になるとも知らずに呑気なもんでさぁ」
「ふ、例の魔王が残っていたら、どうなるかは分からなかったからな。観客が期待するのも分かるというものだ」
決勝トーナメントの二回戦。
あの時に、魔王と呼ばれる小娘が放った攻撃は忘れられない。
あんなものを食らったら、いくら俺たちでも耐え切れる自信がなかった。
だからこそ、関係者連絡通路を抜けて街に戻ろうとする小娘を尾けたのだが……。
しかし、通称、魔王の中身があんな小娘だとは思わなかった。
関係者用の通路を使っていなければ、確実に魔王と同一人物だとは思わなかったことだろう。
「しかし、相手はどう来ますかねぇ?」
「たった一人になったのだ。一人で戦うか、すぐに降参するかのどちらかだろう」
俺の自慢の魔剣コレクションのひとつ、【
万が一、気まぐれな高位司祭などが通りかかり、魔剣の呪いが解かれるようなことがあっても大丈夫なように、策は二重に巡らせている。
そもそも、これはファーランド王国からの依頼……つまりはほぼ王命だ。失敗することは許されないのだから、念には念を入れるのは当然である。
『ナバル、ハサン組は舞台に上がって下さい』
「……だそうですぜ? ダンナ行きやしょう」
「あぁ――……?」
ん? 何だ、気のせいか?
一瞬、【危険察知】が反応したような……。
「ダンナ?」
「いや、何でもない」
どうやら、もうすぐ決勝ということで俺も昂ぶっているようだ。恐らくは、そのための武者震いか何かを【危険察知】と勘違いしたのだろう。
「へへっ、準決勝は楽できそうでいいですね」
「顔には出すなよ。一流はそういうところにも気をつけるものだ」
「へいへい」
ハサンの奴は、腕は確かな斥候職なのだが、どうにも気分屋なところがある。今回の依頼を受けるほどの腕ではあるが、ひとつのミスで文字通り首を切られる程度にしか、王国には信用されていないだろう。
この先もA級冒険者としてやっていくなら、この男とは付き合い方を考える必要があるのかもしれんな。
そんなことを考えながら、ゆっくりと闘技場の舞台に上がる。
相変わらず、闘技場の中から見る景色は格別だ。自分たちに注目が集まっていることに高揚感を覚える。
これが、仕事の依頼でなければ、最高なのだが……。
まぁ、実質的な王命である以上は断ることもできない。
ならば、俺たちは打てる最善手を打ち続けることしかないだろう。
『やってまいりました! スピード決着の鬼! ナバル&ハサンコンビだぁ! そして、スピード決着なら負けていない! 今日は闘技場を壊さないでくれぇ! タツ&リリコンビの入場だぁー!』
実況が盛り上げるようにして、場内に響く声でそう告げると、観客がわっと盛り上がる。
どうやら、俺たちよりも、相手の方が人気があるらしい。
俺たちは、
まぁ、それもいいだろう。
元々、この大武祭は
人族側の出場者に人気がないのも仕方な――……。
「ダンナ、アレ……」
「顔には出すなと言ったはずだ」
そこには、一体どういったカラクリなのか、魔王の姿をした相手がゆっくりと舞台に上がってくるではないか。
俺の【眠りの虚】の呪いを解除して、予備の鎧でも持っていたとでも言うのか?
いや、あんな特殊な装備を二個も三個も持っているわけがない……。
だったら、俺の目の前に立つコイツは何なんだ?
背格好から、装備の意匠まで全く同じ……。
俺たちが襲ったのが、まるで偽物だったかのように思えてくる。
いや、違う……。
俺たちは確実に魔王を大武祭に上がれない状態にした。
だったら、目の前にいるコイツこそが、偽物ではないのか?
「偽物か」
カマをかけるつもりで言ってみるが、魔王は小馬鹿にしたように肩を竦めてみせた。答える気は無いらしい。
「テメェ! 本物の魔王は昨日――」
「ハサン!」
馬鹿か、コイツは!
うっかり口を滑らしかけたハサンを激しく叱責する。
「魔王が、何?」
魔王が口を開くが、あの小娘の声ではない。
やはり、偽物か……。
「そもそも、魔王が誰であるのか証明できないって言ったのは、アンタたちじゃん? それが何故、魔王が誰だか知ってるような口ぶりで話すの? おかしくない?」
そう、魔王の正体は一般的には知られていない。
だから、ここで中身が違うと指摘することはできないのだ。
指摘すれば、どうして知っているのかとなってしまう……。
そして、それが明るみに出れば、我々の昨日の仕事までが明るみに出る可能性がある。
それは、王国の権威を失墜させることに繋がりかねない。
だから、それを指摘することはできないというのに……ハサンの馬鹿ときたら。
俺は作戦を伝える風を装って、ハサンに近づくとその耳元で小さく囁く。
「ハサン、心配するな。あんな装備が何個も用意できるわけがない」
あれだけの装備――金だけでなく、作るのにも時間が必要だろう。そういくつも用意できるものではあるまい。
俺の言葉に落ち着きを取り戻したのか、ハサンも冷静な態度に戻る。
「見せかけだけだって言うんですかい?」
「恐らくな。そして、装備が大したものでないのであれば、俺たちのやることはいつもと同じだ」
「なるほど。分かりやしたぜ、ダンナ」
「A級冒険者の実力を分かりやすく見せてやればいい」
ハサンがその言葉に舌舐めずりする。
コイツはムラのあるタイプだが、ノッてきたら止められないタイプでもある。集中力を増したハサンを見て、俺は不安が霧散するのを感じていた。
これなら、不覚をとることもあるまい――、そう思っていた矢先に、魔王の声が響く。
「後で言い訳されても面倒だから、先に言っとくね。卑怯な手でも何でも使って全力できた方がいいよ? それ、全部ぶっ潰して、王国のA級冒険者なんてクソの役にも立たないんだから、余計な茶々入れんなバカって警告するつもりだから。あー、キミたちには悪いんだけど、生贄になってもらうからね? それだけのことをしたって自覚もあるでしょ?」
魔王の生贄、ね。
なかなか洒落が聞いているが、それができるかどうかはまた別問題だろう。
「何の話か分からんな。だが、まぁ……」
俺は自慢の魔剣コレクションのひとつを【収納】から取り出すと、それを静かに構える。
「やれるものなら、やってみろといったところだ」
「言ったね。後悔しても知らないよ」
魔王がそう嗤う中、俺の口角は自然と弧を描くのであった。
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