第60話
▶【バランス】が発動しました。
モンスターの出現バランスを調整します。
ゴゴゴと地面が揺れ始めるのも三回目。
私は慣れたものだけど、ツナさんはそうでもないみたい。
いきなりの現象に戸惑った表情を見せる。
「陸酔いしそうだ」
陸酔いって何だろう? 船酔いの陸バージョンかな?
まぁ、あらためて尋ねてる暇はないよ。
私たちは打ち合わせ通りに距離を取って散開すると、
やがて、ボコリと私たちの目の前の地面が不自然に隆起し、巨大な虫の頭が顔を出すよ!
「タツさん、打ち合わせ通りにタゲ取って!」
「おう、任せぇ! ここが使い時やな! ワイのユニークスキルを見せたるでぇ! 【魔道王】発動や!」
▶まねっこ動物が発動しました。
【見た感じ魔道王】を習得しました。
は?
いや、えぇ……?
他人のユニークスキルもパクれちゃうの? まねっこ動物……。
大礫蟲の意識がタツさんに向いてる内に、【見た感じ魔道王】のスキル内容を確認しちゃうよ!
====================
【見た感じ魔道王】
魔力に関する技能を極めた証……の真似。
効果中は魔術/魔法スキルに関してのスキルクールタイムが半分になる。
※一時間のみ使用可能。
※クールタイム24.0h
====================
スキルクールタイムが半分?
まねっこ動物は、元のスキルの半分の効果しか出せないから、タツさんの使った【魔道王】のスキルの本来の効果って……。
「【フォローウインド】×10発動や!」
魔術系スキルのクールタイムがゼロになるってこと!?
「【魔道王】は魔術や魔法のクールタイムがゼロになるユニークスキルや! そして、魔術や魔法は完全に発動タイミングが同時なら威力が倍々に跳ね上がんねん! タイミングがズレると効果時間延長にしかならへんけどな!」
つまり、魔術の重ねがけがオッケーになるってこと? しかも、一人で魔術の重ねがけをミスすることなく、相乗効果を生み出すって……ぶっ壊れスキルじゃん!?
「そして、渾身の【ファイアーミサイル】×10や!」
【ファイアーミサイル】が一瞬で重なり合った結果、十個の【ファイアーミサイル】ができるんじゃなくて、一個の巨大な【ファイアーミサイル】ができあがる。
それをタツさんが投げつける。
ぐぉっ! と巨大な火の尾を残して走った【ファイアーミサイル】は大礫蟲に避ける暇を与えずに着弾し、その表面をゴウゴウと激しく燃やす。
普通の相手なら、一瞬でポリゴンになって砕け散ってもおかしくないんだけど……。
「流石のEODやな。これぐらいやと効かんか……」
炎に巻かれながらも、大礫蟲が動き出す。
掘削機のような沢山の歯で大地を食い散らかしながら、ヘイトを取ったであろうタツさんに一直線だ。
一直線なんだけど、あまりにその体が巨大過ぎて、こっちも逃げなきゃいけない。
タツさんは、【フォローウィンド】を重ねがけした影響なのか、ものすごい速度で飛んでいるので逃げられそうだけど、ツナさんはそうもいかない。
胴タックルする勢いで、ツナさんを肩に担ぎ上げて、その場から急いで離れるよ。
「スマン」
「感謝は後! 喋ってると舌噛むよ!」
多少、本気で走って、危険がなさそうなところでツナさんを下ろす。
相変わらず、バカデカイミミズだよね。
蛇のようにくねりながら、大地を破壊しつつ進む姿はまさに化け物といった感じだ。
あらためて、これに勝てるのかなーという思いが湧き上がってくるけど、やってやれないことはないと気合いを入れるよ!
「ゴッド」
「え、何?」
「俺がユニークスキルを使ったら、俺に近づくな」
「え、なんで?」
「見境がなくなる。そういうスキルだ」
いやいや、何か物騒そうなスキルじゃん……。
でも、その物騒さが今は頼もしいかな?
「分かった。ツナさんがスキル使ったら、なるべく近づかないようにするよ。ちなみにそのスキルなら、アレ、ひっくり返せるんでしょ?」
「海中ではアレぐらいの大きさの奴も多くいる。できないとは言わんさ」
じゃ、その辺はツナさんに任せようかな。
「タツさん!」
私はタツさんに合図を送りながら、【収納】から、カッターの刃を厚く、太くした感じの装備を取り出す。
それを、ガガさん謹製の魔剣に装着しながら、一気に速度を上げて大礫蟲に追い縋る。
うわっと。
タツさんが大礫蟲の脇をすり抜けてUターンしてきたよ。
どうやら、ツナさんを気遣ってあまり戦場を離れないようにしてくれたらしい。
もちろん、大口を開けた大礫蟲もそれに続いてやってくる。
「やって!」
「えぇんか?」
「あとは何とかするから!」
「わーったわ!」
タツさんが背後を振り向きながら、【収納】に入っていたアイテムを次々に大礫蟲に向けて投げつける。
それは、皿に乗った数々の料理で――。
私がムンガガさんから受け取って食べ切れずに残していたものである!
「大量の毒料理、食らえや!」
土と同時に大量の毒料理が大礫蟲の口へと吸い込まれていく。
そして、それと同時に、大礫蟲の体中から毒にかかった紫の泡のようなエフェクトが飛び始めたよ! よしっ、いい感じだ!
グオオォ……!
大礫蟲が思わず身悶える中で、私は【闇魔術】レベル8の魔術である【ダークアバター】を唱える。
次の瞬間には、足元の影が盛り上がってもう一人の私になると、完璧に私の挙動を真似する分身体となってくれていた。
「うーん、初めて使ったけど、操作が難しいかも……」
もっとこの魔術に慣れていれば、私一人で一人連携とかもできたのかもしれないけど、今は私の動きを真似させるだけで精一杯だ。
それでも、これで私の手数は倍になる。
「タツさん、どいて! 行くよ! 【ファイアーブラスト】×2!」
「【火魔術】レベル9やと!?」
タツさんの驚きの声と共に、私と私の影の手の平から赤く輝く火線が放たれる。
それは、レーザービームのように大礫蟲へと照射されると、触れた部分が赤熱化し、グズグズの溶岩のように溶けていく。
その火線で線を描くようにして、大礫蟲をズダズタに切り裂いていくんだけど……。
グアアアァァァーーー!
熱が内部にまで届いてないのか、大礫蟲は【ファイアーブラスト】を喰らいながらも、こちらに向けて爆進を始める!
「ヘイトがそっちに行っとるでヤマちゃん! これからどうするんや!」
「こっちで何とかするよ!」
けど、大礫蟲の動きには先程までの精彩さが見られない。
それは、【ファイアーブラスト】で受けたダメージが自動で癒えてないからなんだけど……。
うん、作戦通り。
毒のスリップダメージで
「やっぱりおかしいと思ってたんだよね! ムンガガさんの毒料理!」
私がいくら【状態異常耐性】のスキルレベルを上げても、その耐性を抜いて毒にしてくるんだもん。ちょっとおかしいな、とは思っていたんだよ。
そして、大礫蟲の自動回復の情報を得た時にピンときたんだよ!
多分、ムンガガさんの毒料理って、この大礫蟲戦に必須のイベントアイテムなんじゃないかって。
これで、大礫蟲の自動回復を封印して戦えって、運営側が言ってるように私には見えたんだ。
そして、EODに効くような毒を【状態異常耐性】ぐらいで受けきれるわけがないんだよね!
せめて、【状態異常無効】ぐらいあれば、違うんだろうけど……。
むしろ、あの巨体を毒にするほどのヤバイ毒料理を食べ続けてきた私の方が色々とヤバイんじゃ……って今更気づいたよ! 後でムンガガさんに文句言っとこう!
「それじゃ、ココは任せるで!」
「うん、何とかするよ!」
予定では、タツさんが引き続き相手のタゲを取って逃げる予定だったけど、私の攻撃でヘイトを稼ぎ過ぎたからね。
タツさん側にヘイトを取り返すほどの大技がない以上、私が追いかけられる役になるしかない。
「行くよ、【アースハンド】×2!」
大礫蟲が迫る中、私が使ったのは【土魔術】レベル9の【アースハンド】だ。
足元の地面から巨大な土の腕がせり出してきて、それを私の思い通りに動かせる魔術である。
私は作り上げた土の手の上に乗ると、そのまま一気に垂直に上昇していく。そして、更にその土の手の上からもう一本、土の腕が生えて、私をますます高度へと上昇させていく。
そんな土の腕に大礫蟲が衝突し、食い散らかす気配を感じた次の瞬間、私は土の手の上から更に上空へと跳び上がっていた。
「【ダークアバター】が消し飛んだ!? 私と同じぐらいの物防があるはずなのに!?」
下に残していたはずの【ダークアバター】が大礫蟲に食べられた瞬間に消滅した。
もしかしたら、大礫蟲に食べられたら、物防関係なく部位破損してしまうのかもしれない。
この辺、運営の容赦のなさを感じるね!
そんな、若干動揺する私の後を追うようにして、大礫蟲が土の腕を喰らいながら、垂直に伸び上がってくる。
ギザギザした歯が沢山付いた口が私を喰らおうとして迫ってくる姿は、トラウマになるぐらいには恐ろしい……!
だけど、伸び上がってきてくれたおかげで、大礫蟲の腹部が丸出しだね!
「ツナさん!」
正攻法で倒せないなら、弱点である腹部を狙うしかない!
私はツナさんが潜んでいる位置を振り向いて合図を送ると、ツナさんが静かにユニークスキルを呟く声が聞こえた……気がした。
「【狂神降臨】――」
▶まねっこ動物が発動しました。
【半狂神降臨】を習得しました。
…………。
なんか、私、他人のユニークスキルを奪うヤバイ奴になってない?
そんな私の不安を打ち消すように、
グゴォォォオオォぉぉ……!
人とは思えないほどの声がツナさんの喉の奥から発せられる。
私が「何……?」と驚いている間にも、ツナさんがもの凄い加速をしながら、地面を走ってきており、勢いそのままに鎖付きの巨大な銛をぶん投げる。
――ズドォン!
空気を震わせるほどの圧倒的な破壊力が地下迷宮内に響き、ツナさんの銛が大礫蟲の腹にぶっ刺さって、大礫蟲が吹っ飛ばされる。
「いや、パワー凄すぎでしょ!?」
最初に出会った時から、とんでもない怪力だろうなーとは思ってたんだけど、大礫蟲を吹き飛ばすほどって、ゴブ蔵さんレベルの怪力じゃん!
思わず、まねっこ動物で取得したスキルを確認しちゃうよ。
====================
【半狂神降臨】
怒り狂った神を自分の内に降ろす……真似。
物攻、物防、直感、敏捷が1.5倍になる。
ただし、自我を半分失い、破壊衝動に身を任せるようになる。
====================
えーと、私のまねっこ動物だと半分くらいの力しか出ないから、実際のスキルの威力は……。
ゲ、出た! ステータス3倍スキル!
でも、明確にデメリットが記載されてるね。
デメリットがあるからこその3倍スキルなのかな?
そして、使うと自我を失って暴走状態になるって、それってなんてエ○ァ?
けど、ツナさんの攻撃で大礫蟲がひっくり返った今がチャンスだね!
「大礫蟲、あなたに恨みはないけど、私の糧になってもらうよ。
リリちゃんに渡した
そもそも、何故、名前が002なのか?
答えは簡単だ。
既に、001を作っていたからである。
Customized over gear.
装備の上に着る装備を目指したコグシリーズは、人の上に着る装備として開発したパワードスーツであるコグツー。
それとは別に、魔剣の上に装備として装着するコグワンの二種類が最初から計画され、作られていたのである。
私は、そのコグワンを起動させる!
====================
【COG-001G❲モデル:ガガ❳】
レア:9
品質:高品質
耐久:200/200
製作:ヤマモト
性能:装着装備の物攻×3
装着装備の魔攻×3
備考:伝説的な技能を持つ名工の手によって作られた増幅装置。装備に装備するという常識外の発想によって作られているため、世界的にも希少である。また、装備の攻撃力によっては増幅装置が耐えられずに自壊する恐れがある。使用状況、使用時間には十分注意を払うこと。
====================
私の剣から光の刃が伸びる。
全長二十メートルを越える刃は何でも切り裂けそうな危険な黄金色を湛えているんだけど……素材をケチって魔鉄で作ったからか、コグワン自体が何か嫌な音をバチバチと発してるし、さっさとやっちゃった方が良さそうだ……。
「全部で物攻713、魔攻602の合せ技だよ! 【ジェットストリーム】!」
気流に運ばれた私の体が、弾丸のように大礫蟲に迫る!
そのまま、丸出しになった大礫蟲の腹部に大技だ!
「スタンはもらったー! 【大★切★ざーん】!」
空中でぐるんっと回転しながら、巨大な光の刃を叩きつける!
まるでケーキにフォークを入れるかの如く、大礫蟲の腹が縦に真っ直ぐに切り裂かれて――、
――ガチンッ!
「硬い!? 何かに引っかかって……!?」
ぐおぉぉぉぉ……!
ぬがぁぁぁぁあーーーっ!
大礫蟲が暴れる中、正体を失くしたツナさんが大礫蟲の腹に殴り掛かって、事態が混沌としていく!
あぁ!? 大乱戦に巻き込まれたくはないんですけど!?
「多分、モンスターの核に引っかかってんねん! 刃を上手く逸らすんや!」
タツさん、そんなこと言われても!?
そんなテクニック、私にはないよ!?
そう言ってる間にも【ジェットストリーム】の威力が徐々に下がりつつあって……。
あー、もうっ!
核が何処にあるか分かってるなら、これでいいでしょ!?
「【魔力浸透激圧掌】!」
魔剣を通して、莫大な魔力を流し込む。
それを【魔力操作】で操作し、大礫蟲の核にぶち当てて一気に爆発させる!
びきっ、と何かが砕ける音が響いて、光の刃が少しだけど進む感触――。
……勝機っ!
感触を頼りに思い切り剣を振り抜く!
恐らくは、【魔力浸透激圧掌】で核の一部が欠けたのかな?
ヒビか何かが入ったりして、手応えが変わったのを頼りに力任せに剣を振り切った結果――。
どんっ!
大量のポリゴンが一斉に宙を舞って、私は地面の上へとゴロゴロと転がっていた。
「…………」
まるで、カラフルな雪が舞うような光景の中で、呆然とする私に向かって――、
「モンスターの核を破壊したんやな。核を破壊されたモンスターは即死や」
そう、タツさんは言うのであった。
====================
【おまけ】本来のヤマモトさんの作戦
①タツさんがヘイトとる。
②タツさんが急上昇する。
③大礫蟲が伸び上がったところで、タツさんが大礫蟲の口の中に毒料理を投入。
④自動回復を封印。
⑤ツナさんが腹に攻撃を入れて大礫蟲をひっくり返す。
⑥ひっくり返したところに、ヤマモトさんの【大★切★斬】でスタンを奪う。
⑦弱点部位を中心に全員でフルボッコにして押し切る。
今回はたまたまモンスターの核を破壊できたため、短期決着となりました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます