第59話

====================※前回を飛ばした方への簡単な説明。

・Takeくんが改心したよ。

・ナバル&ハサンがリリちゃんに準決勝を棄権するように強制するよ。

・リリちゃんは拒否したよ。

・リリちゃんはナバル&ハサンの呪いの剣によって目覚めなくされちゃった上に、コグツーも破壊されちゃったよ。

・たまたま通りかかったTakeくんが挑むもボコボコだよ。

・そんな感じのことをTakeくん目線で語ったよ。


 では、続きからどうぞ!

====================


 ■□■


「リリを襲ったのは、ナバルとハサンだ。アイツらは人族の権威がどうのこうのと言っていた。そして、優勝しなくちゃいけないとも……。多分だけど、そういうなんだと思う」

「冒険者の……、依頼って奴……?」

「そうだが……。なぁ……」


 私が何とか歯を食いしばって耐えてるっていうのに、Takeくんは平気でそこに踏み込んでくる。


「何で、アンタが泣いてるんだよ……?」

「泣いてないもん!」


 というか、身の上話から始めるとは思ってなかったんだよ!


 そんな重い話されたら、普通に泣くじゃん!


 歳取ると涙腺緩くなっちゃうんだからね!


 でも、事情はわかった。


 そして、犯人はナバル&ハサンで間違いない。


 Takeくんが嘘をついている可能性がないわけでもないんだけど、状況証拠的に彼らしか犯人になり得ないんだよね。


 ほら、リリちゃん=魔王ってさ、世間一般的には知られてないわけでしょ?


 それなのに、どうやってリリちゃんが魔王だって特定したのかって話が出てくる。


 そこで、例のアレ。


 関係者用秘密の通路。


 ナバル&ハサンは、アソコで出てくる人間を見張っていたんじゃないかな?


 サラ&ソフィアにも同じことができそうだけど、二人はもう既に負けてるから、わざわざリリちゃんを襲う動機がない。


 となると、自然と犯人は絞られるわけで。


 ナバル&ハサンが犯人かなーってなるわけだね。


 じゃあ、ナバル&ハサンを大会の運営委員会みたいなところに訴えようと思っても、リリちゃんが魔王であったという証拠がないから訴えることができない(?)らしい。


 というか、ゲームの中の大会に運営委員会みたいなものがあるのかって、そもそもの話がついて回る。


 システム的に進められてるなら、運営委員会自体がない可能性もあるよね?


 それだと、ナバル&ハサンを失格にするのは難しいんじゃないかな?


 あと、そもそもの問題として、私が権力との結びつきが薄いから、あまり「出るとこに出るよ!」とか強気に出られないところもある。


 言って、ヨアヒムさんぐらい?


 でも、あの人と仲良しってわけじゃないからなぁ。


 後は、リリちゃんの眠りについて。


 Takeくんの話を聞く限りだと、掠りでもしたら眠って起きなくなっちゃうとかいうヤバ過ぎる剣を相手は持ってるみたい。


 多分、魔剣の類だとは思うんだけど、それでリリちゃんを眠らせた後で、決勝ぐらいには目覚めるだろうと宣言してる。


 更に言うと、Takeくんに先客がいなかったら〜云々という宣言をしてるところを見ると、おそらくは最後に一撃を与えた相手を永遠の眠りにいざなう魔剣だとみた。


 つまり、ナバルだか、ハサンだかは決勝でイコさんか、ゴブ蔵さんのどちらかに、その魔剣をあてて眠らせて、二対一で戦って勝とうとしてるんじゃないかな?


 そして、そのタイミングで、リリちゃんの呪いは解けて目覚めるから安心しろと……。


 …………。


 フザケンナヨ……。


 この一ヶ月、リリちゃんがどれだけ頑張って、Takeくんのために努力してきたか。


 ずっと近くで見てきた私は知ってるんだよ!


 そして、そのリリちゃんのために、私が精魂込めて作ったコグツーもボロボロにしてくれちゃってさぁ……。


 それが、人族国家の権威のためとかいう、私にとっては超どーでもいいような理由でやられたってことがさぁ……。


 腹の虫が治まりそうにないんですけど!?


 目には目を、歯には歯を……。


 卑怯には卑怯を――。


 相手が卑怯なことをしてきたんだから、こっちも卑怯なことをしてあげないと【バランス】が取れないよね……?


 ねぇ、【バランス】さん?


 うん、そうだよー。(裏声)


 うんうん。【バランス】さんが言うなら仕方ないよねー。


「とりあえず、事情は分かったよ。私は運営委員会ってのがどこにあるかは分からないけど、それに掛け合ってみる。だから、Takeくんは安心して眠って。あと、たまにでいいから、リリちゃんの看病もお願いできる?」

「分かった。俺だって、こんな理不尽なことでリリが悲しむのを見たくない。何とかしてくれ……頼む」


 ずきんと胸が痛むけど、それは私が口からでまかせを言ったせいだ。


 私には、運営委員会なんてものを探す気は最初ハナからないからね。


「じゃ、行ってくるよ」


 リリちゃんとTakeくんを残して部屋を出る。


 すると、廊下で布の切れ端を使って目元を拭ってるタツさんと目があった。


「アカンてぇ……。ワイも歳なんやから、そういうのアカンてぇ……」

「もしかして、聞いてた?」

「なんや入りづらそうな雰囲気やったからな。途中からやったけど聞いてもうたわ……」


 それなら、丁度いいね。


「だったら、私が何を考えてるか、タツさんなら分かるでしょ?」

「…………。ま、おおまかにやけどな? せやけど、相手は強いで。今のままやったら返り討ちにあう可能性も十分あるやろ」

「そうだね。今のままならね」


 特に、相手が持つ呪いの魔剣は厄介だ。


 攻撃が掠りでもしたら、そこで終了するというのは脅威以外のナニモノでもない。


 だから、対抗策をとる。


 ――相手の攻撃を掠らせもしない。


 それができれば、呪いの魔剣も何の効果も持たない、ただの剣と同じだ。


 そして、その対抗策を行うには、強くなる必要がある。


 もっと圧倒的で膨大な経験値や、もらえるだけのSPが欲しい。


「タイムアップは明日の午前十時くらいや。その時には、準決勝が始まってまうで」

「十分だよ。既に色々と準備済みだったから、あとは仕上げを御覧じろ状態なんだよね。むしろ、キッカケをくれてありがとうって感じだよ」

「やるんか? ?」

「もう一人呼ぶけどね。タツさんも手伝ってくれるんでしょ?」

「あんなん聞かされたら、やるしかないやろ。それに、ちょうど大武祭で欲求不満が溜まっとったんや。憂さ晴らしに付き合ったるわ」

「あと、ゴメン。手伝ってもらったけど、マリスには会えなかったよ」

「しゃあない。最初から時間的にも難しいとは思っとったからな。それよりも、今はこっちに集中しようや」

「うん。それじゃあ、行こうか」


 私はツナさんにメッセージを送りながら、宿の廊下を歩き出す。


 さぁて――、と。


 真夜中のEOD退治に繰り出しましょうか……。


 ■□■


 私たちはツナさんと合流して、フォーザイン地下迷宮へとやってきていた。


 もう夜も更けてるっていうのに、ゲーマーにとってはここからが本番だとばかりに、エリアボス周回を行っている人たちも多いようだ。


 私たちはそんな人たちと距離を取りながら、軽い打ち合わせを行っている。


 まぁ、私たちが近付くと、『なんだ、お前ら横入りか!? 後ろに並べやゴラァ!?』って射殺しそうな目で睨みつけてくるからね。距離を取らざるを得ないというか、聞かれたくない話でもあるので距離をとった感じだ。


「一応、メインで戦うのは私なんだけど、二人には敵の情報を教えとくね」


 私が図書館で調べた情報によると、大礫蟲ジャイアントワームの特徴は以下だ。


・本体は土属性

・風属性弱点。

・弱点部位は腹部。

・HPの自動回復能力があり、長期戦は不利。

・目が悪く、音や振動で相手を捕捉する。

・何でも食べる悪食。


 といった感じだ。


「実物を見たことがないが、厄介そうな相手には聞こえる。倒せるのか?」


 ツナさんが心配そうな表情をみせるが、一ヶ月近く準備をしてきたからね。


 その辺はぬかりないよ。


「もちろん。だから、ツナさんを呼んだんだもん。一応、ざっくりと作戦を説明しとくね」


 大礫蟲の厄介なところは、その生命力の強さだ。


 硬い外皮に、攻撃魔術がクソ弱な風属性が弱点だから魔術での攻撃も効きにくい。それに加えての自動回復オートリジェネ付き。


 クリスタルドラゴンが防御力に長けたEODだとしたら、大礫蟲は生命力に長けたEODなのだろう。


 普通にやったのなら、倒すのは非常に難しいはずだ。


 だからこそ、策を練ってきたわけだけど。


「まずは、厄介な相手の自動回復オートリジェネを封じるよ。それと同時に、弱点である腹部をさらすためにひっくり返す。後は致命傷となる超特大の一撃を叩き込む。その三本立て」

「聞くだけやと、えらいシンプルに聞こえるな」

「あ。言っとくけど、自動回復の封印はタツさんにやってもらう予定だから」

「なん……やと……」

「そして、ひっくり返す役はできればツナさんにやって欲しいかな」

「俺も巻き込むのか……」


 だって、楽したいじゃん!


 私はあるものは何でも使う主義だよ!


 私たちは集まって、作戦を相談する。


 エリアボスに挑戦する人たちは、何やってるんだ? 的に見てるけど、特に積極的に関わろうとはしてこない。


 流石、ツナさん。


 裸フンドシの効果は絶大だよ!


 タツさんとツナさんに作戦を細かく伝えて、それができるかどうかを確認する。


 二人とも少し考えるようにしていたけど、最終的にはできると判断したようだ。静かに頷く。


 だったら、後はちゃんと準備を行って挑むだけだ。


 私は静かにステータス画面を開く――。


 名前 ヤマモト

 種族 ディラハン(妖精)

 性別 ♀

 年齢 0歳

 LV 33

 HP 2350/2350

 MP 2350/2350

 SP 53


 物攻 359(+124)

 魔攻 322(+87)

 物防 250(+15)

 魔防 248(+13)

 体力 235

 敏捷 235

 直感 235

 精神 235

 運命 235


 ユニークスキル 【バランス】

 種族スキル 【馬車召喚】

 コモンスキル 【鍛冶】Lv9/ 【錬金術】Lv9/ 【調合】Lv9/【鑑定】Lv9/ 【収納】Lv9/【火魔術】Lv9/【水魔術】Lv9/【風魔術】Lv9/【土魔術】Lv9/ 【光魔術】Lv9/ 【闇魔術】Lv9/ 【料理】Lv9/ 【ヤマモト流】Lv9/ 【採掘】Lv9/ 【採取】Lv9/ 【細工】Lv9/ 【革細工】Lv9/ 【木工細工】Lv9/ 【彫金】Lv9/ 【彫刻】Lv9/ 【釣り】Lv9/ 【追跡】Lv9/ 【逃亡】Lv9/ 【魔鋼精製】Lv9/ 【魔神器創造】Lv9/ 【隠形】Lv9/ 【隠蔽】Lv9/ 【魔力操作】Lv9/ 【魔甲】Lv9/ 【状態異常耐性】Lv9/ 【思考加速】Lv9/【並列思考】Lv9/【観察眼】Lv9/【先読み】Lv9


 これを――、こう!


 名前 ヤマモト

 種族 ディラハン(妖精)

 性別 ♀

 年齢 0歳

 LV 33

 HP 3410/3410

 MP 3410/3410

 SP 0


 物攻 465(+124)

 魔攻 428(+87)

 物防 356(+15)

 魔防 354(+13)

 体力 341

 敏捷 341

 直感 341

 精神 341

 運命 341


 ユニークスキル 【バランス】

 種族スキル 【馬車召喚】

 コモンスキル 【鍛冶】Lv9/ 【錬金術】Lv9/ 【調合】Lv9/【鑑定】Lv9/ 【収納】Lv9/【火魔術】Lv9/【水魔術】Lv9/【風魔術】Lv9/【土魔術】Lv9/ 【光魔術】Lv9/ 【闇魔術】Lv9/ 【料理】Lv9/ 【ヤマモト流】Lv9/ 【採掘】Lv9/ 【採取】Lv9/ 【細工】Lv9/ 【革細工】Lv9/ 【木工細工】Lv9/ 【彫金】Lv9/ 【彫刻】Lv9/ 【釣り】Lv9/ 【追跡】Lv9/ 【逃亡】Lv9/ 【魔鋼精製】Lv9/ 【魔神器創造】Lv9/ 【隠形】Lv9/ 【隠蔽】Lv9/ 【魔力操作】Lv9/ 【魔甲】Lv9/ 【状態異常耐性】Lv9/ 【思考加速】Lv9/【並列思考】Lv9/【観察眼】Lv9/【先読み】Lv9


 あれだけ、使わない使わないって言っていたSPを全ツッパでステータスに放り込む。


 これで、私のステータスは全てのパラメーターが106上昇。全てのパラメーターが340以上となり、タツさんが言っていたA級冒険者のステータスである全ての数値が100以上、得意分野においては200以上という数値をかなり上回ることになったけど……。


 ――まだ足りない。


 私がガガさんの魔剣を取り返す際に覗いたサラちゃんのステータスには、スキルの効果なのか、×1.8といった表記があったのを私は覚えている。


 つまり、スキル次第では、ステータスが二倍になったり、三倍になったりする恐れがあるということだ。


 それに対抗するためにも、ステータスはいくらでも盛っておきたいところ。


 そうなると、やはりEODは倒しておきたいところだね。


 これを倒して、経験値とSPを頂こう。


 そして、その上で……。


 ――リリちゃんの仇を討つよ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る