第55話

「な、ナバル&ハサンがなんぼのもんじゃー! 俺たちにはまだアクセルさんがいる!」

「そうだ、そうだ! 三勇者のテレさんだっているんだ! NPCに優勝なんて取らせやしないぜー!」


 一時は、お通夜状態になっていたお客さんたちだけど、また盛り上がってきたのか、活気が出てきたね。


 良かったよ。気持ちが沈んだせいか分からないけど、二人ほど【キュアライト】をかけなきゃいけない事態に陥ったからね。気持ちを持ち直してくれたら、ありがたいね。


 それに、次の試合を見るのに、盛り下がった状態では見たくないし……。


「注文いい?」

「はい、ただいまー」


 というわけで、注文を取りながらも第二試合の様子も確認するよ。


「タツさん出てる」


 相変わらず、肉料理のA定食の注文だけを取ってきたミサキちゃんと言葉を交わす。


「うん、勝って欲しいね」

「昔のパーティーのよしみ。応援する」


 出来上がった料理をムンガガさんから受け取り、テーブルに届けていたら、タツリリコンビと相手の……ドラゴンとリンゴの被り物をした謎魔物が闘技場の中央まで出てきたよ。


 そして、リンゴさんが何か言ってるね。


 えーと、『みんな、リンゴを食べよう!』……。


 ん? いや、どういうこと?


「お、リンゴスター出てきた」


 リンゴスター……?


 あ、アップル☆ってそういう意味?


 いや、わかんないよ! そんなの!


「まぁた、リンゴ普及活動やってんのか」

「なんだっけ? メジャー果物ナンバーワンの座を奪うとかだっけ?」

「メジャー果物ナンバーワンって何だよ?」

「リンゴスターが言うには、一番メジャーな果物はオレンジらしい」

「なんで?」

「ファミレスとかのドリンクバーにオレンジジュースは設置してあるのに、リンゴジュースはないからだってさ」

「それは、ドリンクサーバー作った会社の関係だろ……」


 うん、私もそう思うよ。


 というか、随分と濃いキャラだね?


 今も『一日一個のリンゴは医者知らずと言いまして! 健康にもいいんです! 皆さん、毎日リンゴを食べましょう! お子さんの健康にもいいんですよ!』とか言ってるし。


 あの子が魔物族の三勇者とかいう人の一人なのかな?


「いや、テレさん、爆笑じゃん……」

「テレさん、三勇者の一人だから、もう少ししっかりして欲しいんだけど……」

「駄目だよ、あの人、ゲラだから」

「あの口上が見たくて、リンゴスターと組むことが多いもんなぁー」

「あ、出た。決めポーズの『はぁーい! あっぷりゃ!』」

「やめてやれよ、魔王が困惑してるじゃねぇか」

「テレさんは大喜びだけどな」


 何か闘技場の上で変なポーズを決めるリンゴさん。あれが決めポーズなのかな?


 それに対して、ただ腕組みをして待つリリちゃん。


 うん。凄く反応に困ってるのは分かるね。


 いや、あの腕組みはもしかして……。


「すみ――」

「あ、解毒茶のおかわりですね。お持ちしますー」

「あ、はい。お願いします……」


 パパっと作業をこなしていたら、ようやく第二試合が開始された。


 開始直後、いきなりテレ(?)というドラゴンさんがリリちゃんに特攻を仕掛けてくるんだけど……。あれ、リリちゃんとのサイズ比で考えると、三メートルくらいあるよね?


 小型車が猛スピードで突っ込んでくるって考えたら、もの凄く怖いと思うんだけど、リリちゃんは動じずに滑るように動いて、突進を躱してる。いいぞー!


 そして、牽制なのか、タツさんの【ファイアーストライク】がテレさんにあたるけど、意に介さずにテレさんは突っ込んでくるね。


 魔防が高い?


 それとも、体力が高いのかな?


 とにかく思ったのは、硬いって印象だ。


 そんなテレさんに【火魔術】をバンバンあてるタツさんだけど、テレさんの後ろからもバンバンリンゴが飛んできては、テレさんが青い光に包まれてる。


 いや、何あれ!?


「出た、【リンゴ魔術】!」

「回復から爆弾まで、全てリンゴの形をしてるから分かりにくいんだよな!」


 どうやら、私と同じオリジナル流派の持ち主っぽいね、リンゴちゃん。


 取得スキル一覧をちらっと呼び出してみたら、普通に【リンゴ魔術】とかいうのが載ってたよ。


 ちょっと、どんな魔術なのかは気になるけど、取りたくないというか……。


 私は、そっと取得スキル一覧を閉じる。


 うん。気にしないようにしよう。


「おしおし、テレさん押してるぞ!」

「テレさんの必勝パターンに入った!」


 どうやら、テレさんたちの戦法はテレさんの高防御に回復を合わせて、後はあの巨体で近接戦闘を行って、ゴリ押す作戦みたいだね。


 一方のリリちゃんとタツさんの方は……。


「おい、おかしくないか?」

「魔王がまだ一回も攻撃してないぞ……」

「こりゃ、また何かやってくれるんじゃないか?」

「おい、お前ら、テレさんを応援しろよ!」

「うるせー! 俺らは魔王リリ派だ!」


 取っ組み合いの喧嘩になりそうなのを、まぁまぁ楽しく見ましょうよと仲裁しつつ、私はフロートスクリーンに視線を向ける。


 うん。攻撃しないんじゃなくて、が正解だね。


 現在、腕組みをしてるように見えて、腕にある魔力口まりょくこうに魔力を注ぎ込んでる最中だからね。それが溜まり切るまでは、攻撃に移れないんだ。


 でも、それももう終わり――。


 バサァ! ――と音が聞こえるぐらい派手に、マントのような推進装置スラスターがリリちゃんの背後で大きく展開する。


 そして、それと共に推進装置スラスターの一部が大きく迫り上がってきて、巨大な二門の砲としてリリちゃんの肩にドッキングするよ。


 この瞬間だけは、推進装置が使えなくなるから、機動力は大きく落ちるけど……その代わり、縦横無尽に動いていた機動力を全て攻撃力に転換することができるんだ。溜めていた魔力もその二門から一斉に増幅して発射することが可能になるよ!


 コグツーの武装の中でも最大級の火力を誇る決戦兵器――それが、ツインスラスターカノン!


 よーし、行け! リリちゃん!


 最大出力フルバーストだー!


 ――ドゥビッ!


 瞬間、画面が真っ白に染め上げられ、衝撃が激しく画面を揺らす。


 そして、爆風が一気に吹き荒れ、その爆風を断つようにして、ツインスラスターカノンを放った状態のリリちゃんが後方へと流されていく。


 うん。


 やっぱり、威力が大き過ぎて反動がすごいかー。


 でも、それだけの武器なんだから、破壊力も折り紙付きだよ!


 画面が落ち着きを取り戻した時には――、闘技場の半分が粉微塵になって消滅していたからね。


 あまりといえば、あまりの光景に、毒料理を食べていたお客さんも口をあんぐりだ。


 えーと、一応解説すると、溜めた分の魔力と推進装置で使用していた魔力を同時に増幅して超極太ビーム二本を放つのがツインスラスターカノンなんだけど……。


 それが、リリちゃんの【必中】と組み合わさって、避けられない超極太ビームとなって二人を薙ぎ払った感じかな?


 何か色々と私が計算していない相乗効果も生み出していたりするかもしれないけど、まぁ、いくら高防御とはいえ、アレには耐えられないと思うよ? ……多分。


『しょ、勝者! タツ&リリ!』


 実況の声と共に、闘技場の方では地鳴りのような歓声が湧き起こってるみたいだ。


 だって、声援に合わせてフロートスクリーンの画面が細かく揺れてるんだもん。


 ナバル&ハサンぐらいには圧倒的な勝利だったんで盛り下がるかなーと思ってたんだけど、決着が派手だったからかな?


 意外と喜んでる人は多いみたい。


 もちろん、海の藻屑亭で食べてるお客さんもそうだ。


「見たか?」

「あぁ、ゲロビだった!」

「つまり、魔王ゲロビか……」

「あぁ! 魔王ゲロビだな!」


 違うよ!? ツインスラスターカノンだよ!?


 あぁ、私が正式名称で否定しようにも、否定できないもどかしさ!


 そして、通称、魔王ゲロビームゲロビとして浸透していく悲しさ……。


 どうしようもないので、店員の仕事を全うすることで悲しさを紛らわせていくよ。


 うぅ、ゴメン、リリちゃん。


 しばらく、ツインスラスターカノンは使い難くなるかもしれない……。


 ■□■


 そして、お昼時も終わりに差し掛かった頃合いになって、ようやく第三試合が開始される運びとなった。


 いや、ひろーい闘技場のね、半分くらいがツインスラスターカノンで破壊されちゃったからね。


 復旧作業に凄く時間がかかるのも無理ないよね。


 私が配膳の合間にタツさんに『祝・準決勝進出!』って送ったら、『会場壊したから、NPCにめっちゃ怒られてるわ……』って残念なメールが返ってきたぐらいだからね。


 うん、なかなか大変だったっぽいよ?


 こっちの方は、ようやく落ち着いてきた感じなんだけどねー。


 A定食、B定食が売り切れて、C定食だけになったら、客足が落ち着いたというか……。


 例のリンゴちゃんじゃないけど、もっと野菜食べなよーとは言いたくなっちゃうね。


 でも、そのおかげで、こっちはこっちでまったりと仕事が出来て助かってるんだけど。


「ゴッド、イコさんとゴブ蔵さんの試合だよ」

「多分、イコさんたちが勝つと思うんだけど……」

「何か引っ掛かってるんですか?」


 食べ終わった後の食器を持ってきたブレくんが尋ねてくるので、コクリと頷く。


「相手のレオンさん? とマリスちゃん? この二人、どこかで見たような気が……」


 レオンさんは、絵に描いたような金髪碧眼の美青年。貴族だと言われても違和感ないぐらいの品の良さを感じる好青年だ。


 うん、普段、ゾンビのブレくんやら、顔の怖いムンガガさんやら、裸フンドシのツナさんとか見てるから、目の保養になるね。


 ……というか、私の周りイロモノ多すぎィ!


 類友ではないと信じたいけど……。


 一方のマリスちゃんは、ボーイッシュ系の美少女だね。顎くらいで切られた黒髪に、負けん気の強そうな黒瞳がちょっと勝ち気そうな印象を与える。


 うーん。この二人、やっぱりどこかで見たことがある気がするんだけど、どこだったかなー。


「こっちの金髪」

「うん」

「パッケージにいた気がする」

「あ! そうだよ! パッケージの人だ!」


 ミサキちゃんの言葉で思い出した。


 LIAの製品パッケージ、またはメインイラストに描かれていたキャラとそっくりなんだ。


 でも、女の子の方は?


 彼女もどこかで見たことある気がするんだけど……どこだったかな?

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