第54話

 というわけで、フロートスクリーンを開いてささっと対戦表を確認。


 ふーむ、なになに……。


 第一試合

 サラ&ソフィア vs ナバル&ハサン


 第二試合

 タツ&リリ vs (*´ω`*)&アップル☆


 第三試合

 イコ&ゴブ蔵 vs マリス&レオン


 第四試合

 アクセル&クロウ vs ミタライ&TAX


 タツリリコンビは、えーと……。


 相手はなんて読むの、これ?


 とりあえず、アップルホシ(?)とかいう人たちとの試合だね。


 顔写真を見ると……なんかゴツいドラゴンと、リンゴの被り物をした人(?)と勝負するみたい。


 その二人に勝てたら、サラちゃんとA級冒険者ズとの勝者と、明日以降に試合なんだってさー。


 さらに、それに勝てれば決勝ってことになるんだけど……。


 絶対、右側のヤグラっていうの?


 あっちからは、イコさんとゴブ蔵さんがくるでしょ?


 なかなか優勝までは厳しい道のりだとは思うんだけど……頑張って欲しいかなー。


 とりあえず、三位までを目標に頑張れ、リリちゃん!


「ヤマさん、動き止まってますよ」

「あ、ゴメン! 手伝う! 手伝う!」

「フロートスクリーンで試合見ててもいいですけど、ちゃんと仕事はやって下さいよー」


 ブレくんに怒られちゃったよ。


 というか、ブレくんの言葉を受けて、お客さんが壁一面に大スクリーンで映せばいいんじゃないかと提案してくれるね。


 というか、これ、大スクリーンでも見れるんだ?


 お客さんに設定を教わって、壁一面にフロートスクリーンを展開する。


 まるで、プロジェクターみたいに映像が広がるけど、画質は荒いね。


 もしかしたら、個人で見るために解像度は低く設定されてるのかもしれないね。


 とりあえず、実況の有り無しは賛否あるところなので、オフにして映像を垂れ流しにしておこう。


 というか、ムンガガさんの宿がほとんど装飾も何もないから、フロートスクリーンの大画面が目立つ目立つ。


 そして、そんなフロートスクリーンに気を取られて、お客さんが毒になる確率が上がったような……。


 まぁ、いっか。


 本戦トーナメントは、私もちょっと気になってるし、【並列思考】で仕事を処理しながらも、本戦トーナメントの映像も確認するって離れ業をやってのけるよ。


 うん、持ってて良かった【並列思考】だね。


「おー、第一試合が始まるな」

「お前、どっちが勝つと思う?」

「そりゃ、双剣姫応援よ」

「双剣姫が勝つとは言わないんだな」

「相手が悪すぎらぁ」

「はい、A定食お待ちでーす。そちらはB定食ですね。前失礼しますよー」


 第一試合の予想をしていた二人のお客さんに料理を届ける。


 料理の方は、給仕の私が「複雑な名前は覚えられないから!」と抵抗して、ムンガガさんに簡単な名前に変えてもらっている。


 ちなみに、A定食は肉料理メインで、B定食が魚メイン、そして、C定食が野菜メインだ。


 そして、中でも一番人気なのはA定食だ。


 やっぱり肉は正義なのだろうか?


 街の特徴的にB定食も人気だけど、数が出てるのはA定食だね。


「店員さんはどっち勝つと思う?」

「A級冒険者コンビですね」


 ほぼ即答で返したら、お客さんが押し黙っちゃった。


 いや、だって、サラちゃんのステータスは見たことあるけど、敏捷と直感以外はほとんどレベル1と変わらないステータスだったよ?


 その敏捷と直感も100前後だったし……。


 全ステータス100越え、得意分野じゃ200まで達するA級冒険者にかなう要素がほぼ無いじゃない。


 しかも、そんな相手が二人もいるって……。


 サラちゃんには悪いけど、無理ゲーだね。


「うーんと……。店員さんは生産職だから知らないかもしれないけど、あのサラって子は魔物族の三勇者の一人って言われていてね」

「三勇者?」


 泥棒じゃなくて?


 あ。


 勇者って勝手に人の家に入って宝箱奪ったり、タンスの中、物色したりするもんね。


 そういう意味での勇者か。納得したよ。


「そう。で、中でも双剣姫のサラといえば、圧倒的なスピードで相手の攻撃を封じ、相手にあてさせないことで有名だ。そんなサラが相手でもA級冒険者が勝つと?」

「勝ちますよ」


 むしろ、私でも余裕でどうにかなる速度だったし、ナバル&ハサンが苦戦する未来が見えないんだけど。


「い、言い切るねぇ……」

「あ、店員さん、注文いいですか?」

「はい、A定食三つと、B定食ひとつ、C定食ですね」

「え、あ、はい、そうですけど。何で……?」


 若干引き攣った表情をみせるお客さんに会釈をしながら、厨房に向かう。


「ムンガガさん、A3、B1、C1〜」

「肉ばっか食うなボケェ! 魚食え! 魚ぁ!」

「そういうのはお客さんに言ってよ!」


 でも、何だかんだ言ってパパっと作ってくれるムンガガさんは、やっぱり腕がいいんだよね。


「A定5」


 そこにミサキちゃんがやってきて、注文を告げるんだけど……。


「テメェ! さっきからA定食ばっかり取ってくるやんけ! なんかやっとるんやないやろな!?」

「…………」

「おぉっ! 目ぇ逸らさんとコッチ見んかい!」


 うん、ミサキちゃんはさっきからA定食を頼むように、お客さんを誘導してるからね。ムンガガさんに凄まれても仕方ないね。


 凄みつつも、手だけは動かすムンガガさん。


 そんなムンガガさんに渡された料理をお客さんのテーブルに届けながらも、横目で決勝トーナメントの様子を窺うと、どうやらこれから第一試合が始まるみたい。


「店員さーん、このフロートスクリーン音声有りにできないのー?」

「えーと、私の一存だけでは……。皆さん、実況付きでも構いませんか?」


 特に表立って反対する人もいないみたいなので、実況をオンにすると音量を丁度良い感じに上げていく。


 うん。


 この音声って、私の耳の近くから流れてくるんじゃなくて、フロートスクリーンの方から流れてくるみたいだね。だから、見てる人としては、壁掛けテレビでスポーツ観戦でもしてる気分になるみたい。


 お客さんに呼び止められて、「エールないの?」と聞かれたけど、【酩酊状態】と毒料理なんてロクなことにならないのが見えてるからね。ありませんとは答えておいたよ。


『さて、第一試合はどちらも圧倒的なスピードで勝ち上がってきたもの同士の対決となります――』


 実況がサラちゃんとソフィアちゃんの説明と、ナバルさんとハサンさんの説明を行っているんだけど、既に闘技場の上では何かバチバチやってるみたい。


 あ。【観察眼】のスキルのおかげか、ソフィアちゃんが何を言ってるのか分かるね。


 えーと、『私のお姉様に逆らおうだなんて、身の程知らずもいいとこね! お姉様、コイツらをさっさとギッタンギッタンにしてやって、準決勝進出を決めましょう!』……かな?


 えーと……。


 プラチナブロンドのツインテールで、色黒な可愛らしい見た目とは裏腹に、相当毒を吐く黒いキャラだね、ソフィアちゃん……。


 一方のサラちゃんは、相手を侮ってない……というか、かなり警戒してるね。


 実際に直接対峙すると、かなり圧がある相手なのかもしれないね。


 あ、ハサンさんが何か言い始めたよ。


『おいおい、俺たちの実力も見抜けねーようなザコが相手かよ? その程度の実力なら、恥かくだけだぜ? さっさと棄権サレンダーしな』かな?


 あ、ソフィアちゃんがムキーってキレてる。


 結構、沸点低いね、彼女。


 そして、ナバルさんが小さく口を開いて『これも仕事だ。無駄口を叩くな』って……。


 仕事……?


 あれ? 読み違えたかな?


 口元の動きが小さすぎて、勘違いしたのかもしれないね。


 多分、『これから試合だ』って台詞を『これも仕事だ』って読んじゃったのかもしれない。


「はい、お水でーす」

「よく、お水欲しいって分かったね? ありがとう」


 まぁ、【並列思考】で動けますんでー。


 退店するお客さんのお会計をして、テーブルの用意をして、新しいお客さんを呼び込んで――とやっていたら、いつの間にか第一試合が始まった。


『おーっと! 最初からサラ選手が仕掛けていく!』


 素早い動きでハサンさんに詰め寄って、二本の剣を交互に繰り出していく姿に、店の中も思わず沸く。


 この騒ぎのせいで、誰かお茶を飲み忘れたりしないといいんだけど……とか思いながらも、私もその攻防に目が釘付けだ。


「凄いなぁ、これ、勝てるんじゃないですか?」


 フロートスクリーンの映像を見ていたブレくんが足を止めて、そんな事を言う。


 それだけ、サラちゃんの攻撃は苛烈に見えた。


 それに、ハサンさんもサラちゃんの攻撃に防戦一方にしか見えない。


 うん、見えないんだけど……。


 なんで、ナバルさんはハサンさんを救いに動かないんだろう……?


 ハサンさん一人を戦わせて、ナバルさんは後ろで腕組みをして悠然と構えているだけにしか見えない。


 まるで、まだ余裕があるかのような態度に、どこか薄ら寒いものを感じる。


「なんか、嫌な感じがする」

「え?」


 やがて、一方的に押していたサラちゃんが、更に加速する。


 どうやら、ソフィアちゃんの【フォローウインド】がかかったらしい。間断のない剣戟の嵐に、ハサンさんもその攻撃を捌くだけで手一杯。もう、為す術もないんじゃないかと思えたんだけど――、


 あれ?


 ハサンさん……笑ってる?


 ハサンさんの唇が僅かに持ち上がったように見えたんだけど、気のせい、じゃないよね?


 嘲るような、侮るような、そんな嫌な笑い方だった。


 嫌な予感が確信に変わるよ。


『遊ぶな。終わりにしろ』

『ヘイヘイ、ダンナは遊び心がなくていけねぇや』


 ナバルさんとハサンさんの唇がそう動いたと思った、次の瞬間――、


 サラちゃんの両腕が一瞬で切り落とされて宙を舞う。


「え?」

「ハァ!?」

「何が起きた!?」


 まさに、電光石火――。


 多分、サラちゃん自身も何が起きたのか理解できない表情のままに、首を刎ねられ、その姿が一瞬でポリゴンとなって消える。


 店の中で盛り上がっていたお客さんも、一気に静まり返ってしまうぐらいには唐突な逆転劇。


 何が起きたのか理解できてない人も多いんじゃないかな?


「ど、どうなったんだ?」

「わ、わからねぇ……押してたんじゃ?」

「いや、強過ぎるだろ!? ナバル&ハサン!?」


 一瞬で阿鼻叫喚の地獄絵図だよ。


 そして、ソフィアちゃんは、サラちゃんが倒された時点で速攻で棄権したね。痛いのは嫌だもんね。それが正解だと思うよ。


『予選と全く変わらぬ、圧倒的な勝利! スピード勝負を制したのはナバル&ハサンだー!』


 実況は盛り上げようとしてくれてるみたいだけど、闘技場はほとんどお通夜状態だね。


 勝者であるナバル&ハサンに対する拍手もまばらだ。


 それだけ、サラちゃんが期待されてたってことなのかな?

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