第51話
とりあえず、積もる話もあるからということで、私はリリちゃんを連れて、例の『ちょっとお高いせいであんまり人がいない』オープンカフェに入る。
やっぱり、大武祭期間中のせいか、ここも人が多いね。
でも、テラス席は満席だけど、店内はそうでもないかな?
とりあえず、忙しそうにしている店員さんがやってきたので、個室が使えるかどうか聞いてみたら、オッケーらしい。
むしろ、個室の存在は一見さんにはあまり知られてないらしく、「常連さんですか? いつも御利用ありがとうございます」と挨拶されてしまったよ。
まだ三回しか利用してないんだけど、常連さんでいいのかな? そもそも、常連さんの定義って何回目ぐらいからの利用になるんだろ?
個室に入って、適当に大武祭限定メニューとかいうのを頼んだところで、リリちゃんと本題に入る。
「いや、ごめん。よくわかってないんだけど。名前を呼んじゃマズイって、どういうことなの?」
「ヤマさんは、EOD殺しのヤマモトって知ってますか?」
「え、あ、うん。知ってるね……」
多分、誰よりも知ってるんじゃないかな?
「一時期、そのヤマモトさんって方を探して、ヤマモト探しっていうのが行われていたんですけど、それのリリ版です……」
「あー、あの動画目立ってたもんねー」
「どうが……?」
リリちゃんは公式サイト(?)らしきページは見てないらしい。
なので、私がお知らせメールを元に教えてあげる。
「不思議です。このLIAの世界のことをどうやって動画にして、どうやって外部サイトに上げてるんでしょうか……?」
「外部じゃないんじゃない? LIAのゲームサーバーの中に公式ページを用意して、自動でイベントのハイライトを切り抜いて、動画を貼り付けてるだけなのかも。結構、切り口が大雑把な動画もあるし」
「じゃあ、運営さんがイベントの様子を確認して、その動画をあげてるんじゃないんですか?」
「いや、良くわかんないけど……」
私もそういうのは強い方じゃないからなー。
でも、ゲームをやる人には、サーバーとかPCとかプログラムとかに強い人が多いから、聞いてみたら分かるのかもね。
けど、良く考えてみたら、変といえば変かな?
最初にデスゲームを宣言した佐々木幸一が、今回のイベント発生時には、まるで関わってきてないんだよねー。
再登場するには、絶好のタイミングだったし、未だに動けずにいるプレイヤーを煽るには丁度いいとも思ったんだけど……。
実際には、お知らせメールだけで済ませちゃってるし。
佐々木はデスゲーム開始時に、「ゲームを真剣に楽しんで欲しい」って言ってたから、外部モニターとかで私たちが真剣にゲームをやってる様子とかを確認しつつ、定期的にイベントなんかで姿を現しちゃあ、煽るだけ煽って姿を消したりするのかなーと思ってたんだけど……。
何か、思い違いをしてるのかな?
「まぁ、小難しいことを考えても仕方ないでしょ」
自身に言い聞かせるようにして言う。
今はそれよりもリリちゃんの話だ。
「じゃあ、現状、リリちゃんは追い回されてるんだ」
「さいわい、コグツーの見た目が先行して、私がリリだってあんまり知られてないから、何とかなってますけど……。タツさんとか、結構酷くて……」
聞けば、冒険者ギルドでプレイヤーに囲まれて質問攻めを受けているようだ。
ごめーん、タツさーん!
この穴埋めはいつかするから許してー!
「大体の人は、あの装備はどうやって手に入れたのかを聞く人が多いんです。タツさんは、それを上手く煙に巻いてますが、中には装備を寄越せぐらいのことを言ってくる人もいて……」
ちょっと怖い思いや、不快な思いをすることが多くなってきた時点で、タツさんが引き付けて、リリちゃんを逃がすというパターンが確立されたようだ。
なるほど。それで、街中を一人でフラフラしてたんだね……。
「そういえば、Takeくんからは何かメッセージはきた?」
「勝ったよって送ったら、『おめでとう。ガンバレ』って……」
そう言って、リリちゃんは嬉しそうに笑う。
人を応援するのは、それなりに心に余裕がないとできないことだからね。
Takeくんも上向きになってきたってことじゃないかな?
「私、頑張ります。Takeくんも見てくれてますし……」
それをリリちゃんもわかってるからこそ、張り切るんだろうね。
私の目にはリリちゃんが輝いて見えるよ。
「うん、頑張れ、リリちゃん」
「はい!」
その後は大武祭期間限定のフルーツタルト……生地を舞台に見立てて、フルーツがバトルロイヤルしているというデザインらしい……とやらが出てきたので、紅茶と共にリリちゃんと美味しく頂く。
いや、それは普通のフルーツタルトなのでは? とツッコんではいけないらしい。
そして、街中を色々と見て回りたいというリリちゃんに付き合って、私も街中を見て回る。
海水の回収は後回しだ。
やっぱり一人で屋台の列に並んだりするよりも、二人で並んだ方が時間も潰せるし、楽しいしね。
はぁ、私も学生時代にこんな生活をしたかったよ……。
ちなみに、リリちゃんを誘って、例の蒲焼き屋さんにも並んでみた。
結構待たされたけど、リリちゃんが居てくれるおかげで、そこまで気にならなかったかな?
いつものお兄さんに、大武祭限定メニューを頼んだら蒲焼きミルフィーユサンドなる謎のものが出てきたよ!
蒲焼きと野菜を二、三層にしてバケットで挟んであるんだけど……なかなかに食べづらい!
でも、見た目の豪華さで結構売れてるみたい。お兄さんはホクホク顔だ。
その後もリリちゃんと一緒に屋台を見て回り、充実した一日を過ごすことができたんだけど……。
うん、海水を汲むのを完全に忘れてたね。
明日には忘れないようにしないといけないなぁ。反省反省。
■□■
大武祭もついに予選三日目――。
昨日、寝る前にざっくり計算したんだけど、大武祭の参加人数が一万二千人なんだ。
それが、七会場に分かれるとして、一会場は大体1700人くらいでしょ?
一試合が五十人単位で行われるとして、決勝を含めると、一会場では35試合が消化されないといけないわけだから、三日で分けると大体一日11試合程度なんだよね。
で、一昨日のリリちゃんの試合はアレだったけど……大体、決着がつくまで三十分ぐらい戦ってるケースが多いわけ。
つまり、一日に五時間ぐらいが予選で費やされるんだけど、それは試合だけの話で……実際には舞台に上がる時間とか、舞台を直す時間とかは別なのよ。
要するに、予選はほぼ一日がかりで試合消化しているわけなんだけど、その待ち時間とか、その日程から外れてしまった人たちにとっては、すんごい暇ってわけで……。
何か、昨日よりも人の列が並んでるのは、そういうわけなのかなーと少々自分を無理やり納得させている次第だったりする。
うん、今日も頑張ろう!
そして、なんと、列の先頭には見知った顔がいる。
「ツナさん? 何でそこにいるの? あと、いつからそこに……?」
「美味いという評判を聞いてな。昨日の夜からここで座り込みだ」
半日近くも座り込みしてるじゃん!
まぁ、でも先頭にツナさんがいる効果なのかは分からないけど、今日はちゃんと列が出来てるね。
まぁ、ふんどし姿のマッチョがきっちりと並んでるのを見たら、あんまり問題を起こそうという気もなくなるのかな?
「それじゃ、急いで準備した方がいいのかな? ムンガガさん、急ごう」
「おう、任せぇ! ギタギタにのしたるわ!」
何をのすんだろう? 毒かな?
「ちなみに、購入制限はあるか?」
ツナさんに聞かれてハタと動きが止まる。
そういえば、購入制限なんて考えてなかったね。
【毒耐性】が取れれば、それ以上の購入の意味がないと思ってたから考えてなかったよ。
でも、味を目的としてくるツナさんみたいな人もいるんだよね……。
そういうのを考えると、購入数を制限して、より多くの人にスープを配った方がいいのかな? 変に買い占められても困るし。
「じゃ、一人最大五個までにするよ」
「じゃあ、五個で頼む。もちろん、一番美味い奴だ」
「だってさ、ムンガガさん?」
「まかせぇや! 腕ふるったるわ!」
…………。
ムンガガさんの腕ふるったるは怖いんだよなーとか思いつつ、私も開店の準備を進めていく。
うん、今日も売って、売って、売りまくるぞー!
■□■
はい。売り過ぎました。
「街中で毒で倒れる者が急増して、冒険者ギルドに依頼が出る騒ぎになった――、店の目の前で倒れられたので営業妨害だ――、一部では闇ギルドに暗殺の道具として流れているなんて話もあるわけだけど――」
フォーザインの商業ギルド――。
そのギルドのカウンターの奥にあるギルドマスターの執務室内で、私とムンガガさんは商業ギルドのギルドマスターであるヨアヒムさんとソファに座って向かい合う。
「何か申し開きはあるかな?」
「あります」
「うん、そこであるって言えるのが凄いよね、キミ」
毒スープを売りまくって、本日も完売。
今日も意気揚々と屋台を商業ギルドに返しにきたところで、カッツェさんに捕まったと思ったら、ギルドマスターの執務室行きだ。
そこで、唐突にギルドマスターから説教ってさぁ……。
普通なら怯むところだけど、私は抵抗するよ!
「そもそも毒になる人が多いのは、その人の自己責任であって、こちらは毒スープを渡している時にきちんと解毒用のお茶を飲むように勧めているんだから、飲まない方が悪いでしょう?」
「せやせや! クソ忙しい中でもそこの説明はきちんとやってたんやで!」
ムンガガさんがガンつけながら、援護射撃してくれる。
でも、あの怖い顔でも全く怯みもしないあたり、ヨアヒムさんもかなりのやり手だよ!
眉くらい動いて欲しいね!
「冒険者ギルドに依頼が出たっていうのも早とちりだし、店の目の前で倒れられたっていうのもたまたまで、私たちの屋台の売り上げを妬んでの言葉じゃないんですか? 闇ギルドに流れてるって話も、そんなの毒スープに限った話じゃないですし。私たちだけが吊るし上げられるのは承服しかねます」
「うーん。まぁ、いちいちもっともだね」
納得しちゃうんだ?
というか、本気で怒っていない?
ヨアヒムさんってやり手な感じだからなぁ。何か意図があるのかも……?
うーん、腹芸は苦手なんだけどなー。
「まぁ、意見の大半はキミらに直接責任があるわけじゃない。むしろ、どんな方法であれ、売り上げを伸ばしているキミたちの行動は正しいというのが、商業ギルドの見解だ。ただ、商業ギルドの評判や二次災害で掛かるコストを考えるとどうしてもね……。キミたちの行動には制限をつけざるをえない」
二次災害って……。
人を災害みたいに言わないで欲しいんだけどなぁ。
「行動に制限ですか?」
「大武祭の屋台にて、これ以上の毒料理の販売を禁止させてもらう」
「それは、もう売るなってこと?」
「別に売ることを禁止しているわけじゃない。毒じゃないものを売るのは認めるということだ」
「ムンガガさん、毒以外の料理ってできるの?」
「できるか、ボケェ! こんなん実質的な締め出しやんけ! 横暴やろがい!」
「本来なら、本日の販売も途中で取り締まっても良かったんだよ? それを大目に見て売りきったところで話をしてるんだし、罰金だって特に課していない。言ってる意味が分かるかな?」
商業ギルド的には、かなり甘々の処分ってこと?
ギルド的にはあまり、新たな商売の芽を潰したくないのかもしれないね。
「分かりました」
「いや、わかったらアカンやろ!」
「ちょっと、ムンガガさんは黙ってて。大武祭中はあそこの屋台のスペースは貸して頂けるんですよね?」
「今更、スペースの変更はできないからね。どうぞ、ご自由に」
なんかヨアヒムさんから期待された視線を受けてるんだけど……。
つまりはそういうこと?
今回は割と読みやすかったから助かったけど……。
「こういうのは二度とやりたくないんですけど?」
「どういうことかは分からないが、まぁ、我々としては制限の中でやってもらえると嬉しいかな」
「はぁ……。これ以上、話がないなら帰っても良いですか?」
「あぁ、うん。引き留めて悪かったね」
なかなか席を離れないムンガガさんを引っ張って、私たちは静かにギルドマスターの執務室を後にするのであった。
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