第48話

 うん、暇です。


 まぁ、そう簡単に口コミが拡散されるわけもなく、私はしばらく暇な時間を過ごしていた。


 うーん、呼び込みをしようにも、プレイヤー自体が通らないからねー。


 どうにもなんないねー。


 というか、最初の三人組がよほどのもの好きだったということなんだろうね、多分。


 あの三人が、口コミで店の情報を広げてくれたりすると嬉しいんだけど、そこはまぁ機会と運なのかなぁと思ってる。


 後は、プレイヤーが利用してる掲示板を利用してPRとかかなー?


 何か『毒を扱ってる』って書いた時点で、袋叩きにあいそうで嫌なんだよねー。


 というか、流れも早いし、PRにならない可能性すらあるというね。


 まぁ、ここはじんわりと待ちの一手かなぁ、と思う次第なんだ。


 というわけで、あまりに暇なので隣の怪しげなお爺さんのお店にまで来てみたんだけど、このお爺さんの店は……なんとまぁ、暗器の専門店みたいなんだよね。


 よくわからない見た目の武器が、色々と店頭に並んでる。


 刀身に波線の入ったナイフみたいなのがあったから、ちょっと眺めてたら、その波線の溝に毒を蓄えておくことで、切ると同時に相手を毒にできるよーとか説明されちゃったよ。


 いや、そういう用途ってほぼ暗殺者の世界でしょ?


 ちょっと怖くなって、慌ててそのナイフを棚に戻したら、お爺さんにムヒョヒョと笑われた。


 いや、ビビリじゃないよ? これが普通の反応だってば!


「あ、タツさんからメッセージだ」


 タツさんからのメッセージが来たので、お爺さんに暇を告げて、自分の屋台に戻る。


 何かあったのかな?


 メッセージを開くと、『オモロイもんみっけた』って言葉と共に、添付のスクリーンショットが目の前に広がる。


 スクリーンショットには大武祭参加者の名前がずらーっと記載されており、その中のひとつにタツさんの手書きであろう歪んだ赤丸が付けられていた。


 その丸の中の文字を確認すると……。


『ヤマモト&EOD』


「いや、誰!?」


 どうやら、私のニセモノが大武祭に出場しているらしい。


 タツさんから続けざまにメッセージが送られてくる。


『めっちゃ雰囲気あるで』


 そのメッセージに添付されてた画像は、顔の中央にバッテン傷をつけたゴツい顔をしたチョンマゲ姿のおっさんの姿……。


 いや、強そうな雰囲気はあるでしょうけど!?


 私の容姿にカスリもしてない!


『周りもめっちゃ警戒してるんやけどwww』


 どうやら、タツさんは偽ヤマモトと同じ予選会場にいるみたいだね。楽しそうにメッセージを送ってくる。


 なので、『楽しそうでいいなー。こっちは屋台やってるけどすっごい暇ー。リリちゃんの方は大丈夫?』とメッセージを送り返す。


 すると、『もうロボになっとるから表情まではわからん。けど元気そうやで』と返ってきた。


 だったら、大丈夫そうかな?


 リリちゃんに関しては、ちょっと精神面での不安があったんだけど、それもTakeくんのために頑張るって目標ができたおかげで安定してるっぽいね。


 自分のために頑張れる人もいれば、他人のために頑張ろうとすることで力を発揮できるタイプの人もいる――で、どうやらリリちゃんは後者の方みたい。


 これなら、安心できるかなー。


「そうなると、タツさんの方は心配ないかぁ。あとの問題は……」


 というわけで、一応、参加者である偽ヤマモトの名前にチェックを入れて、偽ヤマモトの試合をチェックすることにしたよ……。


 なんで本物が偽物の動向を気にしなくちゃいけないんだろ……。でも、人の名前を使って変なことやられてても嫌だし……。


 とりあえず、私はヤマモト警察として、偽ヤマモトを監視することにしたよ!


「これで、偽ヤマモトの試合が始まったら、フロートスクリーンの画面が切り替わるはずなんだけど……ん? あれ?」

 

 そう思ってたら、いつの間にか画面が切り替わった。


 もしかしてと確認したら、いきなり偽ヤマモトの試合らしいね。


 すっごいタイミングだね!


「偽ヤマモトは、なんかすごくゴツくて臭そうな見た目なんだけど……。どうなの……」


 なんか、ザ・素浪人って感じの格好で、背中には二本のサーベルを背負ってる変な侍が偽ヤマモトらしい。


 うーん、なんでサーベルなんだろう?


 日本刀が用意できなかったのかな?


 あと、どうして、この人がヤマモトを名乗ろうとしたのかも気になるね。


 ただ顔を売ろうと思ったとか?


 そんな風に画面を見てたら、なんか変な生物がちょいちょいと画面に映り込んでくるよ。


 くねくねウネウネしていて、触手が沢山生えた円柱みたいな生物。


 ……これ、ローパーじゃないの?


「もしかして、これがEOD?」


 どう見てもプレイヤーっぽいよね?


 うーん。結局、この二人はネタでヤマモトを名乗ったのかな?


 本人が名乗り出ないのをいいことに顔を売ったというか、まぁ、良くも悪くも注目を集めることには成功したように思うけど……。


 けど――、


「バトルロイヤルでそれをやったら袋叩きじゃないの?」


 よく見ると、これから予選が行われるであろう舞台の上で、偽ヤマモトに視線を向けているタッグが多いことに気づく。


 どうやら、それに気づいたのは偽ヤマモトも一緒らしい。


 なんか口を開けてパクパク喋り始めたね。


 音声をオンにしてみると――、


『オイー! 俺様はEOD殺しのヤマモトだぞ! まさかとは思うが、俺様に挑むバカはいねぇよなぁ!?』


 うん。


 どうやら、EOD殺しという言葉の圧を使って、挑んでくる者を怯ませようということらしい。顔を売るのが目的じゃなくて、異名でハッタリを効かせたかったのかな?


 それで退いてくれる程度の相手なら、最初から、この大武祭に出場しないと思うんだけどなー。


『EOD殺し? その隣の変な魔物がEODか?』

『EODとやらがこの程度なら、EOD殺しも大した称号じゃないだろ』

『あんまりはしゃぐなよ? いきなり潰されたくはないだろ、おっさん』

『テメェら……後で後悔するなよ……』


 うわぁ。舞台の上ではバチバチだぁ……。


 この偽ヤマモトの周辺もそうなんだけど、血の気の多い人たちが多いのか、そこかしこで皆ピリピリしてるね。


 舞台に上がったのは大体五十人くらい。


 つまり、二十五のタッグによる乱戦だ。


 この内、生き残るのは一組で、その一組がまた数十組くらいで乱戦を行って――と試合は進んでいくらしい。


 お、早速、試合のゴングが鳴ったね。


 あ。


 偽ヤマモト、いきなり五組のタッグに取り囲まれてるよ!


 偽ヤマモトも取り囲まれないように上手く立ち回ろうとするんだけど……ローパーの足が遅すぎて分断されちゃった!


 後は、多勢に無勢でボッコボコ。


 何も良いところがなく終わっちゃったよ……。


「ニセモトさーん……」


 何か見てるコッチが悲しくなっちゃったよ。


 多分、腕自体はそんなに悪くないと思うんだよね。三人ぐらいに囲まれても善戦してたもの。


 けど、あの逆境を跳ね返すほどの圧倒的な力はなかった感じかな。あっさりと倒されて終了だったよ。


 うーん。


 まぁ、この偽ヤマモト騒動のおかげで、ヤマモト探しも下火になってくれるとありがたいかなー。


 なんて、そんなことを思っていたら――、


「ねぇ」

「――ひゃい!?」


 いきなり声をかけられて、ビックリして声が裏返っちゃったよ!


 え、何? お客さん?


 視線を慌ててフロートスクリーンから目の前に移すと、そこには癖のない黒髪を肩まで伸ばし、全身を黒一色の装備で包んだ、背の高くてスタイルの良い美女の姿が……。


 私は一瞬、固まりかけるけど、何気ない風を装って、尋ね返すよ。


「な、何か御用でしょーか?」

「いや、何か御用じゃないわよ。この毒スープって本当に【毒耐性】が付くのかって聞いてるんだけど?」

「あー、つきますよー。レベル1には三杯飲む必要がありますが、付きますよー。あと、毒の状態異常が現れる前にお茶を飲む必要もありますが、確実に付きますよー」

「ふーん。なるほどね。……それじゃ、どうする?」


 美女が背後を振り返る。


 そこには彼女のパーティーメンバーなのか、一人のイケメンが立っていた。何かバンドでボーカルでもやってそうなチャラい見た目だ。見た目アバターをそういう感じにわざわざ調整したのかな?


「いや、その話が本当ならaikaだけでも取っといた方がいいだろ。回復役ヒーラーが【毒耐性】を持っているかいないかで、パーティーの安全性も変わってくるだろうし……」


 、ねぇ……。


 多分、ローマ字でaikaかなー。


 私はチラリとaikaちゃんの顔を確認する。


「えー、私一人で飲むの嫌なんだけど?」

「二人で飲んで、二人とも毒になって動けなくなったらどうするつもりだ? 俺の方は【解毒薬】を用意して待機しておくよ」

「だったら、私が飲んだ後でユウも飲んでよ? 絶対だからね?」

「分かった、分かった」


 イケメンくんが、軽く両手を上げて降参のポーズをとる。


 私は、aikaちゃんから100褒賞石を受け取ると、毒スープとお茶を彼女に渡していた。


「そこのテーブル借りていい?」

「どーぞ、どーぞ」


 私が裏声で勧めると、aikaちゃんが怪しげな視線を私に向けてくる。


「その変な声、素なの? さっき、フロートスクリーン出してたってことはプレイヤーよね?」

「キャ、キャラ作りなんで、そこはツッコまないで欲しいかなーなんて……」

「LIAでのロールプレイってことだろ? そういうのあんまりツッコんでやるなよ。やってる人が可哀想だろ?」


 イケメンくん、私のフォローに回ってくれてるんだろうけど、本当にロールプレイを楽しんでる人たちに結構失礼なこと言ってるよね?


 aikaちゃんは、私のことをじーっと眺めていたけど、やがて納得したのか表情を緩めてくれる。うん、可愛い。


「ちょっと背格好が私の知り合いに似てる気がして、気が急いていたのかも……。変なイチャモンをつける感じになってたらごめんなさいね」

「いえいえ、お気になさらずー」


 うん、それ多分、イチャモンじゃないと思うよ?


 屋台に併設されたテーブル席に座りながら、美女……aikaちゃんがスープの入った木のカップを両手に握って悔しそうに歯噛みをする。


「それにしても、本当どこにいるのよ……! 大勢が集まるお祭りならって思ってたのに……!」

「人族側のエリア1はほとんど探し回ったんだろ? もう、ひっそりとエリア2に行ってるんじゃないのか?」

「あの人が単独でエリア2に行けるとも思えないけど……。でも、誰かと組んでやってるなら、可能性は否定できないか……」


 二人の会話はほぼ筒抜けなんだけど、私は何も聞いてないフリをするよ。気分はバーのマスターだね。


「それか、人族側開始じゃなくて、魔物族側開始を選んでるとかかな。そうなったら、外見で判断するのは難しいかもしれない……」

「そういう時は、プレイヤー名で確認するしかないわ。あの人、モノグサだから『山本山』とか『rinka』とか、『link』とか、そういう名前で登録してると思うのよね」

「せめて、生きてることが確認できれば、こっちの肩の荷もおりるんだけどな……」

「多分、死んでないとは思うわ。あの人、追い詰められると、凄いパワーを発揮するタイプだから……。多分、この状況でも生き残ってると思う」


 aikaちゃんが喋り疲れたように、スープに口をつけて、それから驚いたように目を丸くする。


 うん、まぁ、初めて飲むとそういう反応になるよね。あるある過ぎて、もう慣れてきたよ。


「え? 美味しい……。えっ、えっ、美味しすぎる……?」


 で、そのまま呆けちゃったので、私はこっそりとaikaちゃんに【キュアライト】をかけてあげる。まぁ、サービスみたいなものだと思いねぇ。


「え? あの、ありがとうございます……?」

「解毒用のお茶を飲むのを忘れないでねー」

「あ、はい……」


 本当、しっかり者のようで、ちょっと抜けたところがあるんだよねー。


 だから、この子は人を惹きつけるのかもしれないんだけど……。


「おいおい、しっかりしてくれよ、aika。お前さんが倒れたら、誰が行方不明のお姉さんを見つけだすっていうんだよ」

「ご、ごめん……」


 イケメン……ユウくんに謝りながらも、今度はスープをぐびっと飲んだ後で、お茶を飲むのも忘れないaikaちゃん。


 うん、ちゃんと注意したことは守ってるね。


 善き哉、善き哉。


「本当、今一体どこにいるのよ、お姉ちゃん……」


 え? すぐ隣に居ますが?


====================


 忘れている人もいるかもしれませんが、ヤマモトさんのリアルネームは、山本凛花です。


(第一話参照)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る