第46話

 というわけで、大武祭当日の朝ー!


 私の視界の片隅には、『イベント開催のお知らせ』とやらが届いたことを知らせる通知が。


 さささーっと内容を確認。


 ふむふむ。


 大武祭参加人数が一万二千人……って、あれ?


 なんか少なくない?


 このLIAに囚われてる人数って全部で十万人だったよね? それが、たった一万二千人の参加って?


 あまりに疑問だったのでタツさんにメッセージを送ったら、しばらくしてからメッセージが返ってきたよ。


 何々。


 そもそもゲームしてる人数が少ないんじゃないか?


 もしくは、第二エリアにまでこれてないとか?


 あとは生産職は参加しないだろう?


 なるほどねー。


 あと、モンスターは平気で傷つけられても、リアルと違わないを傷つけるのが無理な人もいるだろう、と。


 それから、痛みがリアルなので参加したくないって奴も多いんじゃないかって……。


 それは凄く分かる気がするよ。


 Takeくんの時は、売り言葉に買い言葉で勢いでやっちゃったけど、もう二度としたくないもんねー。


 後は、逆に参加する奴の動機を考えると、そんなものじゃないかと書かれてるね。


 参加者の動機……?


 まぁ、そういうのが得意だとか、【蘇生薬】が欲しいとか、名前を売りたいとか?


 よく考えてみると、参加する理由が何かちょっと弱い気がする。


 そうだよねー。絶対に参加したいってならない限り、常に『痛いの嫌』が付き纏うわけだし、参加人数もそんなものかなと納得しちゃったよ。


 あと、タツさんは大武祭の様子を確認する手順なんかも送ってきてくれたので、早速設定してみるよ。


 ぽちぽちぽちー。


「フロートスクリーン起動」


 私の声と同時に、私の目の前を平べったい板のようなものが浮かび始める。


 これは、浮いているテレビ画面みたいなもので、イベント中は大武祭の様子を常に中継してくれているらしいんだ。


 音声も有りにすると、NPCが実況してくれるらしく、なかなか楽しめるんやでーとタツさんのメッセージには書いてあった。


 あとは、出場選手で気になる選手にチェックを入れておくと、その選手の試合になった時に、自動で画面が切り替わるらしい。テレビの予約視聴みたいなものかな?


 というわけで、早速、選手一覧表からリリ&タツにチェックを入れる。後は、ブレイバ&ミサキにもチェックを入れてと……。


 うーん、ツナさんは参加してないっぽいなー。


 それとも偽名で参加してるのかなぁ?


 あと、他に冒険者の知り合いがいないから、チェックしたい人がいないっていうね。


 あらためて、自分の人脈のなさを感じちゃうね!


「オイコラァ! 起きとるんか! はよ行かんと場所取られるやろが!」

「起きてるー。行くよー。あと、場所は商業ギルドが割り振りしてるから、取られたりとかはないよー」


 階下からの怒鳴り声に大声で返しつつ、私はゆっくりとベッドから起き上がるのであった。


 ■□■


 大武祭の予選一日目。


 この日は開会式が行われる。


 開会式は、海の上に架かる橋のようになった崖の上に作られた闘技場の中で行われるようだ。


 そこで、ルールの説明と選手宣誓が行われた後で、街中にあるいくつかの会場で予選が行われるらしい。


 それにしても、参加者一万二千人という数……。


 場合によっては、予選日程が伸びる場合もありえるとお知らせメールには書いてあったけど、私の感覚でいえば、まず間違いなく伸びると思うんだよね。


 いや、だって一万二千人だよ?


 予選の戦闘方法にもよるとは思うけど、なかなかに時間がかかるんじゃないかな?


「オゥコラァ、開店の準備はできたんか!? アァン!?」

「いや、ムンガガさん? こんな町外れの場所に初日からわざわざやってくるような客なんていないんだから、のんびりと用意すればいいって」

「それで、お客さん逃したらどうするつもりじゃあ!? おどれ、やったるんか!? やったるけんのう!?」


 いや、何をやっちゃうのさ?


「とにかく、ムンガガさんは店頭に出てこないで、後ろで【簡易調理キット】で追加の毒スープを作る準備だけ勧めててよ。絶対に店先には顔出さないでよー?」

「なんでや!? いらっしゃいませ~! させんかい!」


 それは、ムンガガさんの顔が怖いからダメだってば!


 とりあえず、ムンガガさんを奥に引っ込ませつつ、私は店の飾り付けを行う。


 立て看板には、


 毒スープ レベル1、100褒賞石

 ※三杯飲めば、【毒耐性】レベル1が取れるぞ!


 毒スープ レベル2、200褒賞石

 ※五杯飲めば、【毒耐性】レベル2が取れるぞ!


 と記載し、ポップな模様や花柄、それに可愛い動物なんかを記載し、毒という言葉のエグさを何とか中和するデザインにしている。


 むしろ、毒って言葉をカラフルにして強調しとこうかな?


 ちなみに、屋台自体はギルドからの借り物なので、大々的に改造するのは禁止されている。


 まぁ、一応ラーメン屋の屋台みたいにテーブル席を広げられたり、屋根もついていたりして、屋台の方ではスープを煮込むことも可能なので、取り立てて機能的に困るということはなさそうだ。


 唯一の欠点は見た目が地味なので、通行人の目につきにくいってことだけど、そこはカラフルなポップとか作って、私の力で十分に目立たせてみせるよ!


 簡単に毒耐性が取れるよ! 美味しさは保証するよ! みたいな可愛らしいポップを作ってペタペターと貼っていたら、どうやらお隣さんの屋台が来たみたい。


「おっしゃあ! ちょっとヤキ入れたろかぁ!」


 え!?


 いや、ムンガガさんが行ったら……。


 ガラガラガラガラーーー!


 もの凄い勢いで隣の屋台が去っていった……。


「なんでや!? そうはならんやろ!?」


 なっとるやろがい!


 あ、もう片方のお隣さんの屋台が来たね。


「クククッ、もういっちょ行ったろかい!」


 だから、ダメだって! ムンガガさん!


 だけど、私が止めるよりも早く、ムンガガさんは隣の屋台に行き――、


「えぇもん買うたでぇ!」

「毎度ありヨー」


 何か凶悪そうな柳葉刀を買って帰ってきたんだけど!?


「ムンガガさん! お金無いのに、何無駄遣いしてんの!?」

「む、無駄遣いちゃうわ! これは、料理に使うねん! 素材に対する斬れ味がちゃうねん!」


 隣の屋台を見ると、丸サングラスをかけて長い口髭をたくわえた怪しいお爺さんが「ムヒョヒョ」と笑ってる。


 うん。ムンガガさんに負けず劣らずの怪しさ満点っぷり。類友だからね、そりゃムンガガさんが挨拶に行っても逃げないよねー。


「あ、ども。大武祭が開催されてる間の短い期間ですが、お隣としてよろしくお願いします」

「ムヒョヒョ、こちらこそヨロシクのうー」


 不気味な見た目だけど、割と良い人そうで良かった。


 お客さんが入らないで暇だったら、お爺さんの屋台でも冷やかしに行こうかなー。


 というわけで、飾り付け完了。


 うん、頑張って飾り付けたけど、毒という言葉とポップな雰囲気に彩られた屋台が、そこはかとなく不気味さを増大させているような?


 失敗したかな……?


 まぁ、とりあえずこのままいってみよう。


 誰かにダメ出しされたら考えることにしよっと。


「ムンガガさんー、こっちは準備終わったよー」

「こっちは特にやることあらへんわ! さっさと開店してイテマエや!」


 何でイテマうんだろ?


 よくわからないけど、開店しても良さそうな雰囲気だったので開店〜。


 ま、お客は来ないんだけどね。


 というわけで、しばらく暇なので大武祭の開会式でも見てるかなー。


 まずは大会のルール説明を行っているみたいだけど、フロートスクリーンの方には簡易的な説明が既に表示されている。


 説明によると……、


 ・大会参加者はHPが全損した場合には、HPが半減した状態で闘技場の外に放り出される。


 ・回復アイテムの使用は不可。


 ・回復魔術(魔法)/回復スキルは使用可。


 ・降参する場合は、降参を宣言すること。


 ・入賞者には豪華賞品。


 簡単にまとめると、こんなトコらしい。


 そして、気になる予選の試合形式。


 やっぱり、人数が多いこともあって、各試合会場で何度もバトルロイヤルを行って、篩い落としが行われるらしいよ。


 それで、七つの会場で最後まで残ったタッグ七組が決勝トーナメントに進出なんだってさ。


 ブレくんとミサキちゃんは最後まで勝ち残れるのかなー?


 ちなみに、リリちゃんとタツさんについては、そこまで心配していないかな。


 だって、コグツーの最終チューニングでタツさんからも「A級冒険者とも張り合えるんとちゃう?」というお墨付きをもらったからね。


 予選でくだんのA級冒険者タッグとでもあたらなければ、普通に勝ち抜けると思うんだ。


「お、そろそろ選手宣誓かな? そうだ、音声も聞いてみよっと」


 というわけで、音声をオンにする。


 確か、NPCの実況が付くんだっけ?


 それもちょっと楽しみだね。


「あ、ムンガガさん、まだお客さん来てないし、お茶飲むー?」

「せやったら、隣の爺さんにも出してやれや! 死にかけのヨボヨボには上等な茶になるやろうがなぁ!」

「ムヒョヒョ、お構いなくじゃ〜」


 というわけで、三人分のお茶を用意して、口を湿らせながら選手宣誓の映像を見る。


『さて、前回大会の優勝タッグによる選手宣誓です!』

「アァン!? なんや、大武祭の映像が見れるんか!?」

「ムヒョヒョ」


 どうやら、NPCにもフロートスクリーンの映像は見えるみたいだね。ま、そういう魔術なんだよ〜と一応誤魔化しておこう。


『今回、選手宣誓を行うのは前回大会の覇者のタッグになります! このタッグは前回大会優勝ということもあり、既にシードで本戦決勝トーナメントに出場することも決まっています! とはいえ、大武祭は波乱がつきもの! 前回大会の優勝者といえど、気の抜けない戦いが続くことでしょう! それだけ大武祭にはドラマがあるのです!』


 へぇー。今回の大武祭には、前回の大武祭での優勝タッグも出るんだね。


 やっぱり、A級冒険者だったりするのかな?


『あぁーっ! 出てきました! 前回の大武祭の覇者! ゴブ蔵&イコのタッグです!』

「ブフーッ!?」


 思わずお茶噴いちゃったじゃない!?


「ゲホ、ゴホ、ゲホゲホ……!」

「ムヒョヒョ、きちゃないアルヨー」

「なんや、ワレェ……、衛生管理に気をつけろ言うたんは、オドレやろが! 指詰めんかい!」

「ちゃ、ちゃんと掃除するから!」


 ムンガガさんに謝りながらも、混乱する頭で考える。


 ゴブ蔵さんとイコさんが前回覇者ってことは……。


====================

 ▶イベント『老夫婦の望むもの』をクリアしました。

 ▶イベントをトゥルーエンドで終えた為、ワールドイベントが発生します。

====================


 ワールドイベントのフラグを立てたのって、もしかして私たち……?


 うぅ、ゴメン、リリちゃん、優勝は難しくなったのかもしれないよ……。

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