第44話

 ■□■


 大武祭まで、残り二週間――。


 ここ最近は、【千変万花】を市場に流したり、屋台の打ち合わせをしたり、冒険者ギルドの地下にある訓練施設でリリちゃんとタツさんの訓練風景を眺めたり、食べ歩きの途中でツナさんとバッタリ出会ったり、ただひたすらに海水を汲んだりと――とにかく忙しくしていたわけだけど……。


 流石に、大武祭も差し迫ってきたこともあって、私はリリちゃん(と、ついでにタツさん)を私が借りたレンタル鍛冶工房に呼び出していた。


 まぁ、ちょっと他人には聞かれたくない話をする予定だからね。


 防音には気を使っている施設で、二人に相談する予定だよ。


「で? 今日はなんなんや?」

「今日、二人を呼んだのは、他でもないリリちゃんの装備のお披露目を兼ねた相談があるからだね。そのためにタツさんも呼んだんだよ」

「相談? 装備が完成したんとちゃうんか?」

「できたのはベース。そこから、どうやって完全体にしようかって話をしたいんだ」

「話が見えへんな。もうえぇから、装備を見せて説明してもらえへん?」


 もう、タツさんはせっかちだねぇ!


 でも、現物を見ながら説明した方が、二人の理解も早いだろうし、仕方ないかなー。


「分かったよ。だったら、目の穴かっぽじってよく見なよ!」

「目の穴かっぽじったら痛いやろ」

「かっぽじれないと思います……」


 そこツッコまないで欲しいかなぁ?


 ちょっと頬が赤くなりながらも、私は【収納】から小型の人型を取り出して、その場に置く。


 うん、全長一メートル六十センチぐらいのゴツい人形ですよ。


全身鎧フルプレートアーマー……?」


 まぁ、継ぎ目もほとんどないし、全体が黒い金属でできてるから、リリちゃんがそういう感想を持つのも分かる。


 ちなみに、この人形――、


 頭の部分は丸くヘルメットのようになっており、胴体部分は逆三角形で、足部分は太く長くしている。そんな人形の外殻は黒色が強い魔鉄で作られており、その表面には玉虫色に色を変える魔力線が複雑に走っている。


 私にとっては人形って感じなんだけど、初めて見た人にとっては鈍重そうな全身鎧に見えなくもないのかも?


 そして、タツさんがより分かりやすい答えを言ってくれていた。


「ロボ……なんか?」


 うーん。惜しいねぇ。


「Customed Over Gear、略してCOGって私は名付けたけど、簡単に言っちゃえばパワードスーツの類だね。COG-002L、ハッチを開いて」


 私の言葉に反応し、プシュッと軽い空気音が漏れると、人形の腹部分がゆっくりと外側に開いていく。その中には衝撃と密着性を考慮された操縦席が用意されている。この操縦席に乗り込んで、COGを動かすのだ。


「じゃ、リリちゃん、中に乗って」

「え……?」

「これ、リリちゃんのための武器だから」

「えぇぇぇぇぇぇ!?」


 いや、ちょっと、無理ですぅーとか何とか言ってるリリちゃんを捕まえて、無理やりCOGの中に突っ込む。


 暴れていたみたいだけど、物攻200オーバーの私の腕力からは逃れられないよ?


「あとで、リリちゃんの声帯パターンの登録もしとかないといけないかー。COG-002L、ハッチ閉じちゃって」

「無理で――」


 うん、リリちゃんの悲鳴が途絶えた。


 COG-002Lの気密性は完璧だね。


「息できとるんか?」

「そのへんは問題ないよ」


 流石に乗ってすぐに窒息死する棺桶なんて作らないよ。


「というか、生産職ってこんなもん作れるんやったっけ?」

「頑張ったらできたよ」


 胡散臭そうにタツさんから見られる。


「ま、ヤマちゃんには色々と世話になっとるからな。詮索せぇへんようにしとこか」

「そうしてくれると助かるかなー」


 多分、アレと組んで大武祭に出るタツさんは質問攻めにあうと思うけどねー。


『な、なんか締め付けられてますー!』


 お、リリちゃんを操縦者として認識して動き出したね。


「落ち着いて、リリちゃん。それはCOGの高機動に対応するためだから。必要以上に締め付けられないはず」

『は、はい。止まりました……』

「じゃ、立ち上がってみて」

『えっと、どうすれば……』

「普通に、自分の身体を動かす感覚でやってもらえばいいから」

『は、はい……』


 どこか、緊張感を含んだままにCOG-002Lが動き始める。


 でも、その動きはとてもゆっくりだ。


「ヤマちゃんを疑うわけやないんやけど、こんなんで戦えるんか?」

「設計上だと、COG-002Lを身に着けたリリちゃんのステータスは運を除いて全てが三倍に跳ね上がるはずなんだけどねぇ」

「コイツ、ツノ付きなんか!?」


 いや、カラーリングはほぼ黒ですよ?


 赤ではないです。


 というか、リリちゃんが思っている以上に慎重っぽいね。


「リリちゃん、もっと派手に起き上がってもいいよ。自動姿勢制御システムを載せてるから、ちょっとやそっとじゃコケないし」

「ヤマちゃん、LIAが一応ファンタジーの世界観やって分かって言うとる?」

「わかってるよ。だから、人目につきにくいようにレンタル鍛冶工房をわざわざ借りたんじゃない」


 そのへんは気を使ったつもりだけど、何かいけなかっただろうか?


 タツさんは首を横に振っている。


 と、COG-002Lが寝転んだ姿勢のまま、いきなりビヨーンと飛び上がる。


『あわわ……』


 けど、自動姿勢制御システムが働いて、COG-002Lはその場に見事な着地をみせていた。


「おー、立てたねぇ」

『びっくりしました……』

「なんや、動きがごっつう不自然やなかったか?」

「現在のリリちゃんは、通常時の三倍強い状態だからね。力加減が難しいんでしょ」

「そういう問題ちゃうような……?」


 タツさん、それ以上ツッコまないで。


 私も、ブラボー、おー、ブラボーっていうのかなぁって、ちょっと思っちゃったんだから。


「とりあえず、リリちゃん、工房の中を歩いてみて」

『は、はい……』


 リリちゃんの動きはただ歩いているだけなのに、結構早い。まぁ、COG-002Lのコンパスが長いからね。一歩の幅が大きいんだろうね。


『視界が高いです。それに、少し動いてるだけなのに、すごくスピードが出てる気がして……』

「いや、実際出とるで。小走りくらいの速度で動いとる」

『そうなんですか……? あと、すごく反応が早くなった気がします……』


 それは、直感も三倍になってるからだね。


 だから、体も動かしやすくなってるんだと思うよ。


「しかし、三倍なぁ」

「何か言いたそうだね、タツさん」

「いや、三倍で足りるんかと思うてな」


 それは、ちょっと私の方でも気にしてたトコだ。


「一応、三倍がベースで、更にオプションを付けて強化する予定だけど……」

「一度、リリちゃんのステータス確認した方がえぇんとちゃう? それでオプションの方向性を考えた方がえぇんとちゃうかな?」

「それはそうかもしれないけど……」


 普通のVRMMORPGでは、他人のステータスやスキルを覗くのはマナー違反とされているんだよね。それに伴って、【鑑定】もマナー違反とされてるわけだしね。


 まぁ、本人の許可が取れれば、その限りではないのだけど。


 というわけで、歩き回っているリリちゃんを呼び止めて交渉してみると、意外とあっさりとオーケーがもらえた。


「私のために、皆さんが一生懸命考えてくれているのに、ステータスを開示しないなんてできないですよ!」


 ということらしい。


 なので、早速、リリちゃんのステータスを見せてもらう。オプションで他者のステータス閲覧禁止のチェックを外してもらうと――、


====================

 名前 リリ

 種族 インプ(悪魔)

 性別 ♀

 年齢 12歳

 LV 15

 HP 260/260

 MP 310/310

 SP 8


 物攻 14

 魔攻 30

 物防 19

 魔防 17

 体力 26

 敏捷 31

 直感 16

 精神 31

 運命 17

 

 ユニークスキル 【必中】

 種族スキル 【イタズラ】

 コモンスキル 【火魔術】Lv5/【闇魔術】Lv2/ 【光魔術】Lv2/ 【気配察知】Lv3/ 【弓術】Lv2/ 【魔法効果上昇】Lv4/【根性】Lv3

====================


 うん。うん、……うん。


 何だろう、自分のステータスと比較しちゃうせいか、すごく寂しく感じるね……。


「あ、【火魔術】がレベル5に上がってます!」

「良かったなぁ。毎日、訓練所で特訓してたもんなぁ」

「はい!」


 スキルレベルもほとんど自動で上がっていく私にとっては耳の痛い話だよ!


「で、これが三倍になるんやろ?」

「つまり、こうなると」


====================

 名前 リリ

 種族 インプ(悪魔)

 性別 ♀

 年齢 12歳

 LV 15

 HP 780/780

 MP 930/930

 SP 8


 物攻 42

 魔攻 90

 物防 57

 魔防 51

 体力 78

 敏捷 93

 直感 48

 精神 93

 運命 17

 

 ユニークスキル 【必中】

 種族スキル 【イタズラ】

 コモンスキル 【火魔術】Lv5/【闇魔術】Lv2/ 【光魔術】Lv2/ 【気配察知】Lv3/ 【弓術】Lv2/ 【魔法効果上昇】Lv4/【根性】Lv3

====================


「すごいです! チートです! 最強です!」


 いやぁ、うん、えっと、どうだろう……?


「足りひんな」


 私が迷ってると、タツさんがバッサリと切って捨てた!


「大武祭には、A級冒険者が出てくるって話やった。A級冒険者はステータスのほとんどが100越えとるし、得意分野に至っては200に迫るとか、そういう設定やったはずや。それに加えて上級スキルもバンバン使ってくるんや。ステータスがこれやと正直、勝負にもならんやろ」


 いや、それだと、全ステータスが200越えて、一部300越えちゃう私はA級冒険者以上ってことにならない?


 あ、でも、スキル差があるのか。


 まだ、私も上級スキルとかは取得してないもんね。


「そう、なんですね……」


 シュンとしちゃうリリちゃん。


 でも、COG-002Lはここからが本番なんだ!


「大丈夫だよ、リリちゃん。COG-002L……言い難いから、もうコグツーって言うけど、コグツーにはオプションが付けられるんだ! それで、これ以上にステータスが伸ばせるから、強敵にも何とか対抗できるようになると思う! だから、希望は捨てないで!」

「は……はい!」


 いい返事だね。


 後は、タツさんを交えて、どの方向にステータスを伸ばすか、機能を拡張するのかを話し合う。


 その結果、コグツーは魔攻と敏捷、直感重視の避けタンク型に改造することが決まった。やっぱり後衛二枚は戦いづらいという判断らしい。


 予定としては、一週間で改造して、残りの一週間でフォーザイン地下迷宮で実戦テストを繰り返すことになると思うんだけど……。


 屋台の件といい、EODの件といい、【神秘の再生薬】の件といい、色々と私のやることが多過ぎるよね、も〜!


 まぁ、望んでやってるんだから、文句は言えないんだけども!

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