第43話
本日も日光の照り返しが酷い街中を歩きながら、私は腕を組んで考えていた。
「屋台どうしよう……」
こうして、街中を歩いていてもチラホラと屋台が出ているのは確認できる。その中でも多いのは、やはり海産物を使った食べ物屋が多いようだ。
やはり地元の強みを活かしてくるよね。
……あ、イカ焼き。
「ひとつ下さい」
「あいよぉ!」
思わずイカ焼きが出ていたので買ってしまった。
ちょっと、私の知ってるサイズのイカを越えて大きいけど、そっとひと口……。
…………。
あぁもう、お祭りじゃなくても美味しいなぁ!
図書館への道を歩きながら市場調査をしてるんだけど、やはり飲食関係は簡単そうに見えて敷居が高く感じるね。
いや、敷居が高いというか、ライバルが多すぎて勝てるビジョンが見えないというか……。
それなりにお客さんは来てくれるだろうけど、バカ売れ! みたいな状態にはならないかなーってね。
いや、そんなに売りたいの? って思われるかもしれないけど、折角のお祭りなのに、忙しくもなくボーッとしてるってのは寂しいもんだよ?
ソースは、夏と冬の祭典で暇なサークルの絵師さんのSNSね。
ちなみに、私は例の祭典には行ったことがない。
引き籠もりにはちょっと敷居が高過ぎるというのと、妹に『お姉ちゃんは絶対に人混みとかイベントに行っちゃダメ』と釘を刺されているからだ。
とにかく、人目を引くところに行くと混乱を巻き起こすらしいからダメらしいよ? 『何人のカップルを破局させるつもりなの?』って言われた時は、私のことを何だと思っているんだろうとは思ったけど。
閑話休題。
とにかく、お祭りに参加する以上は人並みには売りたい。
じゃあ、何を売るかってなると、海産物系はNGかなー?
供給が過多で、需要を凌駕しそうなのが目に見えてる。
あと、ポイントはプレイヤーが多く集まるんじゃないかってこと。
プレイヤーの中には、ツナさんみたいな美食家もいるけど、タツさんみたいな食事はフレーバーだからみたいに割り切ってる人もいるわけで……。
必ずしも美味しいものを供給したからといって、売り上げが上がるとは限らないんだよねー。
だったら、大武祭記念に特殊なアクセサリーとかを作って売ってみるとか?
記念品需要としては、割と伸びるかもしれないけど、ゲーマーたちが記念品とかに飛びつくのかって不安もある。
ちょっと出たトコ勝負の感があるよねー。
「あ」
閃いちゃったよ。
集まるのはゲーマーなんだし、プレイヤーなんだから、アレが欲しいに決まってるよね?
それに、丁度、あの人もお金に困ってるようだったし? 儲けられるって言えば、話に乗ってきてくれるんじゃないかな?
「問題の接客や外装は私が担当して、あの人には裏方に徹してもらえば……。あ、なんかイケる気がしてきた」
うふふ、素晴らしいアイデアを思いついてしまったよ!
後の問題は商業ギルドで、なんてジャンルで報告するかだけど……。
絶対に飲食店とだけはやめておこう。
トラブルが起こる未来しか見えない。
「やっぱり、ジャンルは……」
アレしかないよねー。
まぁ、許可されるかは分からないけど。
■□■
機嫌よく某アニメの主題歌なんかを鼻歌で歌っていたら、図書館についたよ!
いやぁ、ここに着くまでに焼きホタテにタコの素揚げ、照り焼きのハンバーガーなんかを食べられたから、かなりご満悦です!
あと、最後の照り焼きハンバーガーは、多分、プレイヤーさんのお店なのかな?
結構繁盛していたので、物珍しさに並んでみたら、出てきたのが普通のテリヤキバーガーでびっくりしたんだよね。
やっぱり、現実の味が恋しい人も多いんだろうね。客足が途絶えることもなく、売れてたみたいだよ。
「それにしても、でっかい図書館だねぇ」
周りが四角い箱みたいな家が多い中で、ここだけ普通の洋館というのが、何とも浮いてる感じがするけど……作った人が違うとか? それとも公共施設だから力を入れたとか?
まぁ、私に知る術はないんだけどね。
「よいしょっと」
両開きの大きな扉を押して中に入る。
入った瞬間に目に入るのは、体育館ほどの広い空間の中に、天井付近にまで届かんとする背の高い書架の森。いやいや、あんなに高い所の本なんてどうやって取るのよ?
そう思っていたら、自走式の梯子みたいなのが書架の間を走ってるね。アレに乗って目当ての本を探すのかな?
それにしても、書架の前に浮かぶヒントマークの多いこと、多いこと。
まともに
「こんにちは。図書館の利用は初めてですか?」
「え? あ、はい」
現実での図書館はあんまり利用したことがなかったけど、この世界の図書館にはルールがあるみたい。
受付のお姉さんに丁寧に説明してもらったところによると、
・図書館での図書の閲覧は無料。
・ただし、入場の際には10000褒賞石を払う必要がある。
・何もなければ、10000褒賞石は帰りに返してもらえる。
・本を破損した場合には、10000褒賞石は没収され、追加で弁償料金が発生することもある。
・貸し出しは不可。
・内容を書き写したりするのは可。
ということらしい。
要するに、現金を人質に本を大切にしましょうということらしい。
ルールはわかったので、早速受付のお姉さん……司書さんに10000褒賞石を渡す。
ふふふ、今の私は【千変万花】のおかげで小金持ちなのだ! これぐらいの金額なら、余裕で出せるよ!
「あ、ちなみに、
「大礫蟲ですか?」
司書さんもピンときてないようだったので、フォーザイン地下迷宮に昔から棲むモンスターらしいということを説明すると……。
「そういうことでしたら、左手奥の歴史資料か、中央右手辺りのモンスター資料の辺りに情報があるかと思います」
との回答。
まぁ、近い方からでいいよねーってことで、中央右手のモンスター資料の方を二、三冊見てみたんだけど……うーん、全然見当たらない。
▶【バランス】が発動しました。
フォーザイン周辺で出現するモンスター情報のバランスを調整します。
▶フォーザイン周辺で出現するモンスターの情報を全て取得しました。
まぁ、【バランス】さんは絶好調なんだけどねー。
でも、【バランス】さんが集めてくれた情報の中にも、大礫蟲がない。
あれ? 何で?
もしかすると、EODはモンスター扱いじゃないのかな?
なんか、ゴブ蔵さんも『あの伝説の!』みたいな驚き方だったもんねー。
モンスターというか、EODはEODって種類なのかな?
というわけで、歴史資料の方に移動。
「うわー。量すご……」
思わず口に出しちゃうくらいの在庫量。
というか、ヒントマークの群れ。
とりあえず、二、三冊、ペラペラ〜と本をめくると――。
▶【バランス】が発動しました。
フォーザイン周辺の歴史情報のバランスを調整します。
▶フォーザインの歴史に少し詳しくなりました。(60%)
何か新しい表示が出たね?
もしかして、この大量の資料を全て読むと、歴史の理解度が60%まで進むってことなのかな?
▶【バランス】が発動しました。
歴史の理解度のバランスを調整します。
▶フォーザインの歴史を理解しました。(100%)
何が起きたし?
えーと、歴史の理解度が50%を越えてたから、【バランス】さん御得意の切り上げが発生した感じ?
何もしてないのに、いきなり理解度マックスになったから、ちょっと怖かったよ!
▶フォーザインの歴史を理解したことで、大礫蟲の生態について理解が進みました。
▶【大礫蟲知識】Lv1を取得しました。
待って。
待って、待って、待って。
理解が追いつかない。
ちょっと落ち着いて、今起こったことを色々と考えてみる。
えーと、多分、運営的にはフォーザインの歴史をちゃんと学んだプレイヤーに対して、EODである大礫蟲の情報を開示しようとしてた、のかな?
でも、私は【バランス】さんのおかげで、理解度が切り上げられちゃって、いきなりマックスになったと。
で、それでロックが外れて、【大礫蟲知識】とかいう大礫蟲の情報が公開になったってこと?
そもそも、【大礫蟲知識】って何?
ステータスを色々と弄っても何も出てこないんだけど?
と思ってたら、
そういえば、称号とかも見えなかったけど、ここでオンにしてなかったからかー。
称号は、LIAでは記念トロフィーみたいなものなので特にオンにはせず、知識表示をオンに切り替えて、ステータスで【大礫蟲知識】について確認すると――、
====================
【大礫蟲知識】
大礫蟲の生態について、より詳しい知識を有している証。大礫蟲との遭遇率が上昇する。
====================
ん?
いや、待って。
私、遭遇率は100%なんですけど?
あれ? 大礫蟲に対しての特攻効果が乗ったり、大礫蟲の弱点が分かったりする効果は乗らないの?
何度もフレーバーを読み返すが、フレーバーにはコレしか書いてない。
えーと、つまり……。
本来なら、この【大礫蟲知識】がないと、大礫蟲に遭遇するのは難しいと?
だから、EODと遭遇したいなら、フォーザインの街で歴史と、あと何かプラスアルファを調べなさいということだよね?
そうすると、大礫蟲との遭遇率のロックが解除されるんで、後は大礫蟲に挑んでね! ってことだと思う。
それで、多分、あってるよね?
じゃあ、肝心の大礫蟲に関しての情報は?
「まさか、このヒントマークが浮かんでいる本たちのどこかに記載があるっていうの……?」
あのー、LIAの本って本当にちゃんとした本なんですけど? それをひとつひとつちゃんと見ていけと?
まぁ、普通はそうやって得る知識を色々とすっ飛ばしちゃったわけだし、仕方ないっちゃ仕方ない……のかな?
「仕方ない。頑張ってひとつずつ見ていきますか……」
かくして、私は一週間ほど図書館に通い詰めになるわけだが、この時の私はまだそのことを知らないのであった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます