第42話

「【魔神器創造】」


 次の瞬間、私を中心に星空が広がり、私の意識は宇宙空間の中へと放り出される。


 相変わらず、凄い演出だけど、この状態の私の体が無防備になってるかどうかは気になるんだよねー。


 今度、誰かに確認してもらおっかなー?


「ま、とりあえずはTakeくんの問題から片付けちゃおっか」


 現状、Takeくんたちがやってるのは、転売ヤーと同じことなので、対処法もほぼ同じだろう。


 つまり、彼らは希少素材の希少性に目をつけて、それに法外な値段を付加価値として付けて売っているわけだ。


 だったら、その希少性を失くして、値崩れを起こしてしまえばいい。


「【千変万花】をクリエイト」


 私の目の前に【千変万花】のグラフィックが現れ、それを作るのに必要な素材が表示される。


 だが、微妙に揃っていないものも多く、【千変万花】を作ることはできないようだ。


 【千変万花】を作るのに必要なのは、


 ・浄化草

 ・星の砂

 ・七色コガネ

 ・水


 ――らしい。


 一応、【星の砂】と【七色コガネ】以外は揃っている。


 【浄化草】は、割と道端でも拾える薬草で、森で何個も拾っているのでストックがある。


 【水】は適当に調合室の水道から出るものを【収納】でストックしてあるので、それを使えばいい。


 さて、問題は【星の砂】と【七色コガネ】。


 【星の砂】の取得場所は分かるよ?


 カッツェさんに教えてもらったからね。


 砂浜の砂をあさってると、たまに星の形をした砂が取れるんだって。


 それが、【星の砂】。


 確率系でゲットできるアイテムなので、量を用意するのはなかなか時間がかかりそうなアイテムだ。


 もうひとつの【七色コガネ】に関しては、情報すらない。名前からして虫系かな? ヤダなぁ……。


 さて、素材が足りないせいで、いきなり計画が頓挫した感はあるが、私が試そうとしているのはその先だ。


「そもそも、【千変万花】も素材なんだよね。だから……【星の砂】をクリエイト」


 ▶生産するには以下の素材が必要です。

  白珊瑚の欠片*3

  恵みの小石*2

  ※素材が足りません。


 なるほど。


 【星の砂】を作るには、【白珊瑚の欠片】と【恵みの小石】が必要と。


 どっちも持ってないけど……。


「【白珊瑚の欠片】をクリエイト」


 ▶生産するには以下の素材が必要です。

  free*10

  ※素材を選択して下さい。

 

 キターーーー!


 というわけで、私はfree……つまるところの自由素材……の欄に海水を選んでクリエイトを開始する。


 これ、自由素材の数は10個ってなってるけど、【収納】の一枠には99個までストックできるわけで……。


 それを何枠も海水で埋めている私にとっては、この程度の素材の消費など、ほぼノーダメージなのだよ!


 元手もタダだしね!


 というか、おかしいと思ってたんだよねー。


 【魔神器創造】のフレーバーを見ると、アイテムクリエイターの極地とかいうスキルなのに、珍しい素材がないと何もできないみたいな微妙な感じでしょ?


 でも、これなら納得。


 必要な素材すらもなら、アイテムクリエイターの極地って言葉も理解できる。


 そして、素材の素材って感じで遡っていくと、ゴミ素材から何でも作り出せる。


 すなわち、海水からオリハルコンだろうと何だろうと作り出すことが可能なスキルが【魔神器創造】というわけだね!


 いやぁ、こんなスキルを序盤の序盤に渡しちゃうなんて、運営って何考えてるんだろうね?


 いや、違うかな?


 これが手に入ったきっかけは【バランス】さんだ。


 つまり、【バランス】さんが悪い!


 いや、でも、それだとやっぱり【バランス】さんを実装しちゃってる運営が、頭オカシイってことでは?


 じゃあ、やっぱりオカシイのは運営だね!


「さて、じゃあ、この調子でバンバン素材作って、【千変万花】をワールドマーケットで適正価格より少し下の値段で売り出そうっと!」


 こうしておけば、転売ヤー……じゃなくて、希少素材独占冒険者たちが、買い占めしようとすることもなくなるだろうし? 希少素材独占冒険者も減ってくれるといいんだけど。


 勿論、彼らも馬鹿じゃないから、次の希少素材を見つけて同じことを繰り返すかもしれないけど、こっちはそれを見つけ次第、海水を汲んできては素材を作って適正価格の少し下くらいで売り捌けば良いだけだ。


 まぁ、ずーっとイタチごっこを繰り返していれば、彼らも割りに合わないと諦めてくれるんじゃないかな?


 というわけで、大雑把に必要素材の数を計算しながら、【千変万花】を大量生産しちゃうよー。


 ■□■


「ふーっ、全部、海水使っちゃったなぁ……」


 結局、できた【千変万花】の数は100個。


 海水の数がその十倍以上だったのに、結局、これしかできないというね。もうちょっと枠を空けて、海水を汲んでこないとダメかぁ。


 まぁ、ゴミ素材からだと効率が悪いってことなんだろうね。きっと。


 効率良く作りたいなら、正規の素材を集めて下さいねってことなんだろうけど、現状だとそれも難しいからねー。その素材、どこにあるの? って感じだし。


 まぁ、海水で何とかなるなら、一ヶ月の間、海水を汲んできてはちまちまと作っていきましょーかね。


「さてと、冒険者集団の件は良いとして、ちょっと気になってる部分があるんだよねー」


 私は【魔神器創造】のスキルの中で考える。


「【再生薬】って三日以内に使わないと、部位欠損が治らないわけじゃない? そんなことゲーム内でありえるのかなーって」


 部位欠損が起きて治せなかったら、プレイヤーはずーっとその状態でゲームをプレイしなきゃいけない。


 普通に考えて、プレイヤーがずっとストレスを抱えてプレイするような作りにするだろうか?


「時間経っても回復できる【完全版再生薬】みたいなものがあるんじゃないの?」


 私のイメージに呼応するようにして、宇宙空間の中にひとつの小瓶が浮かび上がる。


 私が細部をイメージしなくても出てきたってことは、ゲーム内に既に実装されてるってことだ。


 小瓶の見た目は普通の【再生薬】だけど……。


「何か、アイテムの詳細を見る方法は……。あ、こうか」


==================== 

 【神秘の再生薬】

 レア:7

 品質:高品質

 性能:消費アイテム

 備考:失われた手足をも再生させる脅威の回復薬。ダンジョンの深層で稀に発見されることがある。非常に価値が高く、市場では高値で取り引きされている。


 補足:現在は、エヴィルグランデにいるミレーネが【錬金術】での再現品レプリカを研究中。

====================


 おっと。ちゃんと無期限のものがあるね。


 そして、謎の補足。


 これって、もしかして、ミレーネさんイベントを進めることで解放されるのかな?


 そういえば、ミレーネさんって無駄にお色気ムンムンだったし、これみよがしに外見ガワが人気出そうな感じだった。


 これって、運営もプレイヤーにはさっさとミレーネさんと仲良くなってもらって、イベントをコンプリートさせたい意図があるのかもしれないね。


 そうすることで、【神秘の再生薬】が市場に出回って、部位欠損プレイヤーを救済することを期待してるのかも?


 まぁ、こういう物があると分かっただけでも収穫だよ。


「一応、何本か作ってストックしとこう。リリちゃんに渡してもいいし、カッツェさんに使ってみてもいいよね」


 まぁ、使っちゃったら、絶対騒ぎになる奴だし、カッツェさんに渡すとしたら、この街を出る日になりそうだけど……。


 それにしても、ミレーネさんイベントってどんなのなんだろう?


 お酒とお弁当で餌付けしてれば、勝手に好感度がガンガン上がっていきそうな気もするけど、そこからのイベント展開が想像つかないよ!


 まぁ、そのへんはエヴィルグランデの生産職の人たちにお任せだね!


「さぁて、後やることは……」


 屋台で何を売るか決めて、ソレの準備と、リリちゃん用の装備の作成かな?


 リリちゃん用の装備は漠然と何を作るのかは決めてあるんだけど、デザインや細部の仕様まではまだちょっと決めてないので、そのへんは作っていきながらになりそう。


 問題は屋台の方だ。


 何を売るのかも全く決まってないし、屋台を勝手に作っちゃって、それで商売していいのかも良く分かっていない。


「屋台の方は、カッツェさんにでも聞いてみようかなー」


 大武祭にあわせて屋台をやる人たちも増えるだろうって話だったから、今の内に聞きに行った方が待ち時間が少なくて済みそうだね。


 ついでに図書館施設の位置まで聞ければ完璧かな?


 というわけで、今日のところはリリちゃん装備のデザインを大まかに進める感じで終了。


 ちなみに、【魔神器創造】スキルは途中まで作った装備の情報なんかをセーブできたりするので、途中でスキルを終わらせても全然問題なかったりする。


 そのへんは、奥義スキルだけあって至れり尽くせりだね!


 ■□■


 翌日。


 もはや、日課になりつつある蒲焼きを買って、朝っぱらの海岸で海水を汲む。昨日の夜に【収納】の枠を少し整理したから、昨日よりも汲む量は増えるよ。


「うーん、いい朝だねぇ……」


 今日はツナさんはいないのか、朝の海岸は静かなものである。


 いや、時折、水平線近くで馬鹿デカイ魚が飛び跳ねてるけども。アレは何? クジラ? シャチ? それともモンスター? よく分からないなー。


 とりあえず、【魔神器創造】用の海水を確保したところで、街中にある商業ギルドを目指す。


 商業ギルドの中は、朝早く来たんで混んでないかなーと思ってたんだけど、割と朝から人がわんさといるね。


 しかも、誰も彼もが気色ばんだ様子だ。


 彼らはちょっと興奮した様子で、「【千変万花】が! 嘘だろ!?」「おい、今の内に買い占めようぜ!」などといった会話を繰り広げている。


 うーん。100個は少なかったかな?


 そんなことを思いながらも、受付の方はいていたのでカッツェさんのところへ近づくと――。


「げ」


 げ、って酷くない?


「その様子だと、あの時の料金、経費で落ちなかったみたいですね? おはようございます、カッツェさん」

「わかってるなら言わないでくれる? ギルマスにしこたま怒られちゃったこと思い出しちゃうからさー……」


 片手で顔を覆うカッツェさんだったけど、すぐに気持ちを切り替えたのか、いつもの営業スマイルを見せてくれる。


 いやぁ、プロだねぇ。


「おはようございます。商業ギルドへようこそ。本日はどのような御用件でしょうか?」


 この変わりようよ!


 まぁ、気にせず進めるけどね。


「大武祭にあわせて屋台を出したいんですけど、屋台をやるのに何か登録とか条件とかが必要なら、それを教えて欲しいかなーって……」

「何の屋台をお出しするのでしょうか?」

「そこはまだ決めてないかなー」


 やれることが多すぎて、逆に決められないっていうね。


 食べ物の屋台もいいし、装備品を作って売ってもいいし、ちょっとした面白道具とかを作ってもいいしなー。うーん。迷う。


「そうですか。一応、大武祭では事前に屋台の場所が商業ギルドによって割り当てられますので、早めにジャンルだけでも決めてもらえますと、商売敵と隣り合ったり、隣り合わなかったりといったことが回避できるかと思いますよ」

「商売敵と隣り合うのを回避するのは分かるけど、隣り合わないのを回避するってどういうこと?」

「飲食系ですと割と相乗効果が見込めますので、飲食系はまとめて配置されることが多いのです。ですが、ジャンルの提出が遅いと……」

「離れたところで、ポツンとひとつだけ飲食の屋台が立つってことかぁ。まぁ、それはそれで目立ちそうだけど……」


 相乗効果は見込めないかなー。


「あとは、屋台の方ですが商業ギルドでレンタルもしています。屋台を自力で用意できない場合はそちらもご利用下さい」

「うん。考えておくよ」

「では、大武祭で屋台を出すということで、登録してしまってもよろしいですか?」

「うん、お願い。あ、登録名はヤマでお願いね。ジャンルは決まったら伝えにくるよ」

「お早いお越しをお待ちしておりますね」

「うん。あぁ、それと――」


 私は図書館の位置をカッツェさんに確認すると、軽くお礼を言って商業ギルドを後にするのであった。

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