第41話
■□■
「ゴッド、今日は世話になったな」
「私をゴッド呼びするのは何なの? ノルマなの?」
「なら、ヤマモトと呼ぼうか?」
「ゴッドでいいです……」
日も暮れてきた浜辺でツナさんと一緒に夕陽を見ながらグラスを傾ける。
見ようによっちゃあ、デートなんだけど、実際はツナさんが集めていた海産物を食い漁るという海産物パーティーを行っていたわけで……。
私としては、ドリンクボックスを出して、そこに水を補充するだけだったから良かったんだけどさー。
ツナさんは、結構な量の海産物を出してくれちゃったので、その辺は申し訳ないなーって気持ちだよ。
あと、バーベキューコンロで焼いたサザエのつぼ焼きとホタテの醤油焼きは美味しかった!
バターがね! バターが欲しかったけど……なかったんだ! 残念!
ちなみに、私とツナさんの海産物パーティーをチラチラと横目で見ているプレイヤーもいるにはいたんだけど、特に話しかけられることはなかったね。
まぁ、二人共、特異な感じだもんねー。
一人は砂浜で暑苦しい鎧姿で、一人はふんどし姿って、私だって積極的に関わろうとは思わないよ!
「なぁ、ゴッド」
「なーに?」
「お前さん、EODを倒したんだよな?」
「そうだねー」
死ぬ気で戦って何とかねー。
そして、また新しいEODに目を付けられてるっていうねー。
私とEODは宿命のライバルか何かなのかな?
嫌なライバルだなぁ……。
「だったら、EODっていうのは本当にいるのか」
「そこ、疑ってたんだ?」
「会ったことが無いし、会ったという奴にも会ったことがなかったからな。だけど、今はいるんだと確信が持てた」
「あぁ、そう」
カランとグラスの中の氷が音を立てるのを聞きながら、私はグラスを傾ける。こう、ロックはチビチビと氷で薄めながら、時には濃いままに飲むのが楽しいんだよねぇ。
うん、美味しい。
「なぁ、ゴッド。次にEODとやる時は、俺も呼んでくれないか?」
思わず、グラスを傾けていた手を止める。
いや、ツナさんは多分強い方だとは思うけど……。
EODはかなりヤバイモンスターなんだよ?
それと正面切って戦おうっていうのは……。
「別に戦闘に参加させてくれってわけじゃない。見学だけでもいいし、なんならパーティー登録だけして、俺だけ端っこで見てるってだけでもいい」
「それってタダのお荷物じゃないの? 何か狙いがあるわけ?」
私がそう尋ねると、ツナさんはグラスに注いだ日本酒をグイッと喉に流し込む。あれ、辛口の奴だけど、結構、パカパカ飲むんだよね。
【酩酊耐性】が高いのかな?
「俺がパーティーにいれば、【解体】スキルが発動する」
「ふーん?」
「喰ってみたくないか? EODを」
「!?」
アレを!? 食べる!?
いや、あれはデカイミミズだよ!
でも、食用ミミズとかもいるんだっけ……?
うーん、ゲテモノだけど……。
もしかしたら、モンスターだし、美味しい可能性もほんの僅かにあったりする……?
いやいやいや。
えー、どうだろ?
うーん。
「とりあえず、一応、フレンド申請しとく。EODとやる時には呼ぶから。アレを食べられるかどうかは自分で判断して……」
私にはちょっと判断が無理でした。
「その感じだと、もう次のEODにアテがあるんだな?」
「ま、ナイショで」
ツナさんと互いにフレンド登録しつつ、私たちはお酒を飲み終えたところで、その場で別れる。
まぁ、予定にはない出会いだったけど、なかなか面白い出会いではあったかな?
それに、役に立つか立たないかは分からないけど、大礫蟲とはいつか決着をつけなきゃいけないから、その時のために戦力を確保できたと考えると大きいのかもしれない。
あー、それにしても飲んだなぁ。
ドリンクボックスを発明した人は天才だね。
拍手してあげたいくらいだよ。
あ、私か。
じゃあ、私に拍手しとこー。パチパチ。
■□■
「ワレェ、コラァ! 何処行っとったんじゃあ! もう戻ってこんかと心配したやろが!」
海の藻屑亭に帰ったら、ムンガガさんにめっちゃ凄まれた件。
うん、何も言わずに朝から姿を消してたら、お客さんに逃げられたんじゃないかって心配になるよね。
でも、斜め下から見上げるようにしてバキバキの目つきで見上げてくるのはやめて欲しい。
「ムンガガさん」
「アァン!? なんや、ワレェ!?」
「この宿に、ひと月泊まりたいんだけどいくらになるかな?」
私がそう告げると、ムンガガさんは静かに下に下がっていって――、あっという間に土下座の姿勢になる。
さっきまでの凄味はどうしたの!?
「900褒賞石や、コラァ! 毎度ありぃぃぃ!」
「いや、もうちょっと値上げした方がいいって!」
何で一ヶ月の宿泊代が、昨日の一食に負ける値段なのさ!? 計算おかしいよ、ムンガガさん!
「テメェ、コラァ! こちとら毒出してるんやぞ! へりくだってナンボやろがい!」
「へりくだってない! 威圧してるから!」
「あと、テメェ様がくると思っといて、パワーアップした毒料理ぎょうさん作っといたから! 食えや!」
「え? 今、私、結構食べてきた後だから……」
「食えや!」
「だから、斜め下からガンつけないでよ! 分かった! 少し食べるから! 余った奴は明日の朝食にするから!」
「ほなら、食おか!」
人をニ、三人は殺しているであろう凶悪な顔を歪めるムンガガさん。多分、本人は笑ってるんだろうけど、絶対に笑っているようには見えない。危ない薬を打った後のように見える。
まぁ、昨日の今日で私は【状態異常耐性】を取得してるからね。毒なんてほぼ効かないよ。
――そう思っていた時期が、私にもありました。
▶【状態異常耐性】スキルがLv6になりました。
▶【バランス】が発動しました。
スキルのレベルバランスを調整します。
全てのスキルがLv6になりました。
何で毒がパワーアップしてるのさ……。
ガクリ……。
■□■
ムンガガさんに解毒のお茶を飲ませてもらって、何とか復活した私はようやっとの思いで宿の部屋に辿り着いて、ベッドに横になる。
今日は疲れたから、もうこのまま眠っちゃいたいなーとか思っていた時に限って、タツさんからフレンドコールだ。
唐突だったのも手伝って思わず目が冴えちゃったよ。
私は意識を集中して、フレンドコールをオンにする。
「もしもし、タツさん?」
『おう、今、えぇか?』
「目も冴えちゃったし、いいよー」
『寝るとこやったか? すまんな。ちとヤマちゃんに聞きたいことがあってな』
聞きたいこと? なんだろ?
思わず姿勢を正して身構えちゃうよ。
『今日な、冒険者ギルドでなんやチンマイ女の子がイベントのパートナー探してる言うて、ワチャワチャやとってん。せやけど、けんもほろろに断られてばっかでなぁ……。あまりに可哀想やから、ワイが組んだるってことになったんやけど……』
うん、凄く身に覚えがある話だね。
『なんや、組んでみたらヤマちゃんの名前がチラホラ出てくるからなぁ。コレ、もしかしてヤマちゃん案件か? そう思うて電話かけたねん』
「タツさん、ラッキーだったね」
『あん?』
「大武祭優勝候補に躍り出たよ」
『ヤマちゃん、マジで何言うとるん?』
通話先のタツさんのジト目が見えるかのようだ。
だけど、私は怯まない。
だって、リリちゃんのハッピーエンドが見たいからね!
「まぁ、結論だけ言っちゃうとバリバリ関わってるよ。バリかかだよ。バリかか」
「意味わからん。ちゅーか、他人に大武祭に出る強要でもしとるんか? そういうのは関心せぇへんぞ?」
「うーん。どっちかというと、リリちゃんが変わりたいっていう手助けかな? あの子は、ずーっと自分が弱くて鈍臭いって思い込んでるから、大武祭で優勝して自信をつけさせようと思ったの」
『はぁ? タッグパートナー探すだけで涙目になっとる娘が優勝なんかできるかい! 良くて一回戦勝ち抜けるかどうかっちゅートコやろ! ……ワイも参加賞だけやと諦めとるからな』
「いや、そこは頑張ろうよ!? リリちゃんの方は私が何とかするからさー」
『何とかって……何とかなるんか?』
「何とかするよ。ほら、私って生産職でしょ?」
『生産職……? あぁ、装備品で補おうっちゅーことか?』
「ま、そんなとこ」
構想については、もうあるんだよね。
なかなか面白いことになると思うんだけど、どうだろ。
『……まぁ、ええわ。今は詳しく聞かん。どうせ、その内分かるんやろ?』
「まぁ、ある程度形になったら教えるよ。それまで、タツさんには悪いけどリリちゃんを鍛えてもらおっかなー」
『ワイがか? 後衛二枚っちゅーのはどうなんやって構成やけどな。ま、ブレとミサキが大武祭に出るとか息巻いとるから、レベル上げのお供に売り込んでみるかぁ……』
「よろしくねー」
私たちは軽く挨拶をした後で通話を切る。
うーん。
しかし、タツさんのお節介癖はなかなかのものだね。
多分、リリちゃんが私の悪だくみの被害にあってるようなら、文句のひとつでも言ってやる気でフレンドコールしてきたに違いない。
しかも、リリちゃんにはナイショで。
本当、気遣い名人だよ、タツさんは。
「さて、と……」
タツさんのおかげで目も冴えちゃったし、ちょっとやるかなー?
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