第40話
とりあえず、リリちゃんが大武祭に出ることは決定として、問題はタッグを組む相方だよね。
というわけで、急で悪いんだけど、タッグを組んでくれそうな相方を探しに、リリちゃんには冒険者ギルドに行ってもらった。
そこで、とにかく声をかけまくって相方を募集するのだ。
まぁ、善は急げとも言うしね、早めに行動して悪いこともないでしょ。
■□■
リリちゃんには大武祭のために動いてもらっているが、私は私でやることが山積みだ。
というわけで、戻ってきました。
▶フォーザイン地下迷宮
ここに出てくるモンスターから、【錬金術】の素材を手に入れたいところなんだけど……。
▶【バランス】が発動しました。
モンスターの出現バランスを調整します。
ゴゴゴ……と地面が揺れ始めるのを感じて、すぐさま退散!
え、ナニコレ……。
私、EODにマーキングでもされてるの?
どうやら、ちょっとフォーザイン地下迷宮で普通にモンスターと戦うには、
これは、対策を練らないとダメっぽいね。
「そういえば、ゴブ蔵さんが、大礫蟲は古くからフォーザイン地下迷宮に潜んでるみたいなことを言ってたような……?」
だったら、古い資料を漁れば、大礫蟲の生態とか弱点、もしくはどうやって討伐したのかといった情報が分かるのかもしれない。
「古い情報というと、冒険者ギルドよりも図書館かな? そんな施設があるのかは知らないけど、カッツェさんにでも聞いてみようかな?」
カッツェさんもこの街の住人なんだし、街の施設ぐらいは知ってるでしょ。
知らなかったら、最悪冒険者ギルドで地図でも見るかなー?
そんなことを思いながら、エリアボス待ちの人々を横目に脇道に逸れる。
どうやら、一度エリアボスを倒すことができると、こういうショートカットが利用できるようになるっぽいんだよね。
小部屋にあった魔法陣を踏んで、エリアボス部屋の向こう側にある魔法陣までワープ。
とても便利です。まる。
「それにしても、ワールドイベント効果かな? 結構な人数が順番待ちしてたねー」
ボス周回をメインにしていたパーティーに関しては、ご愁傷さまというしかないけどね。
それだけ、ワールドイベントが魅力的ということなのだろうか?
いや、参加賞の【蘇生薬】が目当てなのかもしれないけどね?
それにしても、【錬金術】の素材まで集まらないとなると、どうしたものか……。
かくなる上は、さっきカフェで思いついたことでも試してみるしかないかなー?
■□■
というわけで、やってきました、海ー!
青い海、白い砂浜……。
ここだけを切り取れば、南国リゾートに来た気分なんだけどね。VRだからねー。ゲームだからねー。
とりあえず、海に来た以上は、これやっとくかなー。
周りに誰もいないよね? チラチラ。
「海のバッカヤロー!」
とりあえず叫んでみました。
はー、スッキリした。
と思っていたら、海面からすーっと上がってくる黒い影……。
!?
人間の頭?
「海はバカヤローじゃないぞ」
そう言って、すーっと海に消えていった……。
いや、ナニアレ!?
海坊主か何か!?
そして、私の叫び声が聞かれてた!?
恥ずかしすぎて砂浜に埋まりたい気分だよ!
そんなことを思っていたら、さっきの海坊主……いや、ウエーブのかかった長髪の間に二本の角を生やした精悍な顔つきをした男の人がゆっくりと海から上がってくる。
その上半身は筋肉ムキムキで……。
……下半身はふんどし一丁の変態でした。
しかも、片手に太い鎖を持ってる……。
ナニコレ、本物の変態?
「あのー、セクハラですか?」
思わず聞いちゃったよ。
だって、この人、堂々とふんどし姿で近づいてくるんだもん。普通はセクハラだって思うじゃない?
そうしたら、この人は――、
「なら、太陽照りつける砂浜で真っ銀々のお前は何なんだ? 暑さハラスメント……略して暑ハラか?」
とか言ってくるし!
暑ハラとか初めて聞いたよ!
造語だろうけども!
男の人は砂浜に着くと、右手に巻きつけていた鎖をグイグイと両腕で引いていく。
何やってるんだろ、と見守っていたら……。
鎖の先にデッカイ銛が付いていて、それに脳天を突き刺されたデッカイマグロ? カツオ? が海から引き摺り出されてきたよ! ひぇぇぇ!
いや、待って……。
「え、それ死んでるよね? 何でポリゴンになってないの!?」
「お前、プレイヤーか? あぁ、そうか。こんな暑い砂浜で鎧姿なんてプレイヤー以外にはいないか……」
「悪かったね、暑苦しくて! ディラハン種族だから鎧が脱げないんだよ!」
多分、騎士って設定があるからだと思うけどね。
それにしても、私をプレイヤーだって断言するってことは、この人も十中八九プレイヤーだよね? 海に潜って銛で魚を突いてるとか、随分と変わってるけど!
「そうか。種族特性みたいなもんか。知らなかったとはいえ、すまない」
「謝ってもらうほどのことでもないけど……それより、その魚は何でポリゴンになってないの?」
「コイツか」
ぐいっと力強く引っ張ったら、海から魚が飛び出て、そのまま砂浜の上に転がったよ。
全長で五メートルくらいはあるんじゃないかな?
現実世界のマグロよりももっと大きそうだ。
「スキルの力だ。【解体】ってスキルがあってな。それを持ってると確率で素材全部が残ることがある」
「【解体】……何か凄いスキルだね」
「まぁ、取れる部位が増えたりするから稼ぎは多くなるが、実際に解体しなきゃならない手間と、グロ耐性がないとキツイからな。あまり流行ってるスキルじゃない」
そう言って、男の人はデカイ包丁みたいな大剣を取り出して、魚の解体ショーを始めちゃったよ。
そういう経験があるのか、妙に手際がいいけど……私は【解体】は多分取らないなー。血で真っ赤に汚れるのがどうにもね。あと、グロはいけないと思います。
「お前さん、【水魔術】使えるか?」
「使えるけど?」
「軽く魚の血を流してくれ。軽くだぞ。軽く」
「わかったよ、【ウォーターボール】」
私が使った【ウォーターボール】はレベル3の【水魔術】だ。一応、ダメージと共にノックバックが入るんだけど、ダメージが微妙に低いっていうんで、攻撃系の魔術師には見向きもされない魔術である。
その魔術を【魔力操作】を使って、微妙な力加減に調整しつつ、解体中のお魚に当てる。
ぱしゃんっと水が弾けて、血だらけだったのが大分綺麗になったよ。
「上手いもんだな。何だ、プロか?」
いや、何のプロよ?
「普通の生産職だよ」
「そうか。そういえば、まだ自己紹介してなかったな。俺は『ツナ缶うまいですよ♪』だ。よろしく」
「それ、名前?」
「良く言われる」
ツナ缶うまいですよ♪……長いからツナさんでいっか……は、そう言って柔らかな笑みを浮かべている。
なんだろうね。やってることはワイルドなんだけど、どことなく物腰が柔らかいんだよね。
あれかな? その人が持つ気質的なものなのかな?
「それで、お前さんは?」
「あー、私はヤマモト……」
言ってから、しまったと口を押さえるが、もう遅い。
いつかやるんじゃないかと思ってたけど、こんなところで失態を犯すとは!
私はチラリとツナさんを見るけど、ツナさんに特に変わった様子は見られない。
良かったー。聞き逃したのかな?
「なるほど、お前さんがEOD殺しの……」
しっかり聞き取れてるじゃん!
だけど、ツナさんは特に態度を変えることもなく、淡々と魚を解体している。
あれ?
何かパーティーに誘われたりだとか、情報寄越せだとか、そういう面倒くさいことに巻き込まれると思ってたんだけど、何もない……?
「え、感想それだけ?」
「安心しろ……って言っていいのかどうかは分からんが、俺もそれなりに有名人だからな。騒がれる奴の気持ちは分かる。だから、EOD殺しだろうが、何だろうがギャーギャー騒いだりはしない」
そのまま、解体作業を続けるツナさん。
なにそれ? 男は口で語るよりも背中で語るってこと?
へぇ、ちょっとカッコイイじゃん。
「ふーん」
「なんだ?」
「べっつに〜」
ま、解体作業の邪魔しても悪いからね。
私は私で、海まで来た目的の作業をこなすことにするよ。
海水に手を当てて、と。
「【収納】」
私の空いている【収納】の枠に次々と海水を詰め込んでいく。生産系の素材で枠を圧迫していたから、そこまで空き枠はなかったんだけど、それでもトータルでは結構な量の海水が取れたはずだ。
これが重要なパーツになってくる。
目的を果たしたことで、私がホクホク顔になって振り返ると、ツナさんはまだ魚の解体中だった。まぁ、五メートルもあるし、それなりに手間もかかるんだろうなーと見学していると、
「手間もかかって、面倒そうだと思うか?」
そう話しかけられた。
まぁ、正直に言っちゃうとそうだね。
でも、ツナさんには、これをやるこだわりがあるんだろう。
だから、一概に否定することはなく、
「大変そうだなーとは思ってるよ」
と、感想を告げる。
すると、ツナさんは何が面白いのか、小さく笑うと、私の方を見ることもなく問いかけてくる。結構、お喋りなのかな?
「お前さん、このLIAで飯を食べたことは?」
「あるよ。宿も御飯の美味しさで決めてるし、重要だよね」
「それじゃ、モンスターを倒してモンスター肉を手に入れたことは?」
「何度かあると思うけど?」
「それで、どうして疑問に思わないんだ?」
え? どういうこと?
私が混乱している間にもツナさんは続ける。
「俺たち日本人は、焼肉においてさえ各パーツを細分化して食している。カルビ、ハラミ、レバーにミノ、タンやホルモンに、ミスジにザブトン。なのに何で、モンスターの肉とかいう、どこの部位かも分からない肉に疑問を持たないんだと聞いているのだが」
言われてみればそうだ。
○○の肉ってアイテム名でドロップするけど、それがモンスターのどの部位の肉なのかはサッパリだった。
ツナさんは熱く語る。
「俺は、同種のモンスターのドロップ肉を何種類も集めては観察を続けた。その結果、分かったことがある。同じモンスターのドロップ肉でも、そのドロップする部位はランダムで決まるってことだ」
「そうなんだ」
「つまり、ドロップした肉は都度、味が変わる。ランダムで美味しさが決定するんだ。俺としては、なるべく美味しいものを食べたいのだが、味が毎回変わるのでは困る。そんな時に見つけた神の如きスキルが【解体】ってわけだ。これなら、自分の思い通りに好きな部位が食える。これほどの素晴らしいスキルは他にない」
「まぁ、丸ごと残るなら、当たり外れはないよね」
「あぁ。だから、これは面倒とか手間ではあるが、俺にとっては喜びでもあるのさ」
手間暇かけてでも美味しいものを求めようという姿勢。
ツナさんは、美食ハンターだね。
そんなツナさんの解体が終わったのか、徐々に魚の部位が【収納】に消えていく。
そして、取り出したるは木の寿司下駄。
その上に、厚くスライスした魚の部位を盛り付けていく。
「何も部位に拘るのは、肉だけじゃない。マグロもそうだ。大トロ、中トロ、赤身にカマやカマトロにテール。今回はちと熟成してないし、酢飯もないが、新鮮な刺し身として頂こうと思う。どうだ、お前さんも食うか?」
「是非!」
頂けるっていうなら、ご相伴に預かっちゃうよ!
あ、そうだ。
「だったら、私もこれ出すね」
じゃーん! 取り出したるは、ドリンクボックス!
お刺身には、日本酒って人も多いって聞いてるからねー。まぁ、私は梅酒ロックオンリーなんですけどもー。
「何だこれは?」
「これは好きな飲み物が何でも飲めるドリンクサーバーだよ。アルコールから調味料まで水系のものなら何でも作り出せる代物。ただ、未知の味は難しいかな?」
「刺し身醤油に日本酒まで出せるだと……? お前、神か……?」
「言ったじゃん、生産職だって」
「俺の思ってた生産職と違う……」
「まぁ、そんなことより乾杯しようよ! 早くお刺身食べたい!」
「む、そうだな」
というわけで、カンパーイ。
私たちは人のいない浜辺で好きなだけ刺し身を肴に飲み食いするのであった。
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