第35話

「いや、なんちゅーか。バカンスにきた気分になるなぁ……」


 太陽の日差しを浴びながら、目を細めるタツさん。


 身も蓋もないけど、同じような気持ちだ。


 でも、本当のプラヤ・エスコンディーダには行ったことがないから、これはこれで嬉しいんだけどね!


 しかも、本物のプラヤ・エスコンディーダはただのビーチだけど、ここは街もあるフォーザインだ。多分、規模的にはこっちの方が遥かに大きいんだろう。それに活気もある!


「凄いですね。大地の下に街があるのか……」


 そして、海に直結してる港町だからか、新鮮な魚介類にもありつけそうというね!


 あ。


 ワールドマーケットで、ちょいちょい新鮮な海産物が売りに出てるなーと思ってたけど、この街までやってきたプレイヤーが横流ししてたってことか! 納得!


 むしろ、案外と漁師プレイを楽しんでるプレイヤーとかいたりしてねー。


 デスゲームでそれで良いのか? って話なんだけど、まぁ、ゲームはゲームなんだし。肩肘張らないぐらいで丁度いいと思うんだよねー。


「ま、とりあえず冒険者ギルドにでも向かおか。ゴブ蔵さんと、イコさんもソレでえぇやろ?」

「はい、お願いします」

「冒険者ギルドはこの道を真っ直ぐいったところの十字路の手前にあるからのう」


 やっぱり、ゴブ蔵さんたちは一度フォーザインに来たことがあるみたいだね。


 ゴブ蔵さんたちとゆっくりしたペースで歩いて、ようやく冒険者ギルドに到着。ここで、ゴブ蔵さんたちの依頼は完了ということになるみたい。二人があらためて私たちに挨拶をする。


「みんな、ありがとうのぅ」

「おかげさまで、楽しい旅でした。また機会があれば、どこかでお会いしましょう」


 というわけで、ゴブ蔵さんとイコさんとは、冒険者ギルドで別れたわけなのだが、問題はここからだ。


 ▶イベント『老夫婦の望むもの』をクリアしました。

 ▶イベントをトゥルーエンドで終えた為、ワールドイベントが発生します。


 はい?


「今、ワ――……」


 途中まで言いかけたうっかりブレくんの口をミサキちゃんがしっかりと塞ぐ。


 私とタツさんは、その場で一斉に親指を立ててグッジョブの意思を示していた。


 こんな大勢が集まる冒険者ギルドの中で、いきなり迂闊な発言をしようとしてくれるブレくんのうっかり具合よ。


 そんなんだから、イマイチ信用できないんだよねー。


 とりあえず、システムメッセージの後でしばらく待ってみるが、何も起きない。


 あのワールドイベントを開催する旨の表示はブラフだったんだろうか?


 私たちはとりあえず、ギルドの端の方に寄って相談を始める。ギルドの入口でやっていて、他のパーティーの不審な視線を集めたくなかったのだ。


「とりあえず、ソッコーで何かが起きるってわけでも無さそうやな」

「な、なんだったんでしょうか……?」

「ゴブ蔵さんと、イコさんが現れた時と同じじゃない? どこかでフラグが立ったのかも」


 チェイン系のクエストで、私たちには分からないけど、このゲームのプレイヤー全員に関わるようなイベントの続きがどこかで始まったんじゃないかなーと私は予想するけど、どうだろ?


「あまり考えても意味ない」


 もしかしたら、ミサキちゃんのその言葉が真理なのかもしれないね。


 結局、何も起こらないなら、アクションの起こしようがないと気づいた私たちは、特に肩肘張ることもなく、今後について話し合う。


「ほんじゃ、パーティーはここで一度解散ってことでえぇか?」

「そうだね」

「一応、護衛依頼の報酬の取り分があるが、その辺は後日にでもヤマちゃんに渡すわ」

「うん、ありがと。ブレくんもミサキちゃんも短い間だったけど、楽しかったよ」

「こちらこそ。ありゴッド」


 それ、流行らないからね?


「ヤマさんは、これからどうするんですか?」

「んー? 私は一応生産職だからね、これからこの街の商業ギルドに顔を出すつもり」

「生産職……?」


 ブレくんが、本気で戸惑ってる顔してるし。


「ゴッドはゴッド級に戦えるけど、ゴッド的な生産品を作るゴッドな生産職だから仕方ない。むしろ、生産職としての方がゴッド色強い」

「はい、ありがとありがと」


 ゴッドを推されすぎて、半分くらいスルーしちゃう私。ミサキちゃんは、いつまでそのスタイルで行くんだろ?


「まぁ、また次のエリアに行くとかなったら、手を貸してもらうかもしれへん。そん時はよろしゅうな」

「うん。まぁ、みんなも死なない程度に元気でやってよね」

「デスゲームやから、その台詞は笑えへんなぁ……」


 ちょっとみんなをブルーにさせながらも、私はここで冒険者ギルドを後にする。


 まぁ、また後で地図を見に来たりだとか、魔物図鑑やら素材図鑑やらを見に来るかもしれないけどさ!


 とりあえずは、本日の宿を決めたりだとか、商業ギルドを探したりとだとか、優先すべき事項を優先しようかなーってね。


 しかし、それにしても、この街……。


 白い石材で街全体を作ってるせいか、太陽の光を反射して眩しいの何のって!


 正直、ヴェールで明るさが中和されている分、見やすくはなってるけど、魔族がこんな明るい街に住んでいいのかなーって、思うんだよね。


「ん? 良い匂い……?」


 表通りと思われる広い道をぶらぶらと歩いていたら、良い匂いをさせている屋台を発見。


 何を焼いているのかなーと思って覗いてみたら、まな板の上で捌かれているウツボさんとしっかり目が合っちゃったよ……。


 でも、【鑑定】してみたら、ウナギウツボと出てきた。


 え? ウナギなの? ウツボなの? どっち?


「お、なんだい、嬢ちゃん。食ってみるかい? ウチのウナギウツボの蒲焼きは絶品だよ!」

「いい匂いしてますよねー。ところで、ウナギウツボって聞いたことないんですけど、モンスターですか?」

「この辺の海で取れるモンスターさ! やたらとヌメヌメしてやがって攻撃的でな、ベテランの漁師でも油断してると大怪我するって奴なんだが、コレが処置を間違えなければ、べらぼうに美味いのよ! 肉厚でジューシーだけど、後味はサッパリしている身に濃厚な甘じょっぱいタレを付けると絶品でな! 一本食べたら、二本、三本と食いたくなる美味さだぜ!」


 うーん、聞いていたら食べたくなってきた……。


「じゃあ、お兄さん、三つ買うから、この辺で食事の美味しいオススメの宿を教えてよ。あと、商業ギルドの場所も教えてくれると嬉しいな」

「なんでぇ、お仲間さんかい? アンタも屋台を出したりするのかい?」

「考え中。まぁ、出すとしてもウナギウツボの料理はやらないよ」

「ソイツはありがてぇ。商業ギルドなら、ほらそこに見えてるデケェ建物があるだろ? あそこがそうさ。宿はそうだな……『潮騒の調べ亭』がそこそこの値段だが、飯が美味いぞ。はいよ、蒲焼きみっつ!」

「ありがとー、お兄さん。美味しかったらまた来るよー」

「おう、きっとまた来ることになるぜ!」


 すっごい自信!


 物自体は、普通に鰻の蒲焼きに見えるけど……。


 それでは、まずはひと口。


「あふっ、あふっ! でも、うまぁ……!」


 宣伝文句に偽りなしだね! 肉厚で食べ応えもあって、甘じょっぱいタレが非常にいい感じにマッチしてる!


 基本的には、鰻の蒲焼きなんだけど、鰻ほど身がふんわりしているわけでもなくて、歯応えは鶏のささみ肉といった感じ?


 皮もパリっと焼いてあるし、香ばしい匂いが食欲をそそるけど、量はそこまでないので、ついつい二本、三本と食べたくなっちゃうね。


「うーん。これは、参ったね。次回も寄らないといけないかぁ」


 私は蒲焼き三つをペロリと平らげて、あっさりと白旗を上げるのであった。


 ■□■


 さて、着きました。


 フォーザインの商業ギルド。


 周りの建物に比べるとちょっぴり大きな四階建ての建物です。でも、周りと同じような四角い箱のようなデザインは一緒というね。


 そして、なんと、なんと……!


 商業ギルドに出入りしている人を発見してしまいましたよ……!


 エヴィルグランデでの貸し切り状態が普通だと思い始めていたから、商業ギルドには人が通わないものだとばっかり……。


 でも、フォーザインでは、普通に人が出入りしているのを見て、ちょっとだけ違和感を覚えている次第でございます!


「お邪魔しまーす……」


 商業ギルドはホームのはずなのに、何故だがちょっとだけアウェイの気分になりながら、商業ギルドの門を潜る。


 ふぉぉぉぉ……!


 ヤバイ! ギルドの中に人がいる!


 そして、それに感動してる私、マジ不審者!


 とりあえず、それとなーくギルドを使い慣れているベテラン感を出しながら、依頼掲示板をチェック!


 うーん。当たり前だけど、依頼の内容にエヴィルグランデとの大きな違いはないね……。


 とりあえず、この辺で取れるような素材は何があるのかと、どこに行ったら取れるのかぐらいは受付の人に確認しておこうかなー。


 というわけで、ギルドの受付待ちの列に並ぶ。


 そう、並ぶ!


 並ぶほど人がいるのだ!


 凄いね、フォーザイン!


 しかも、ギルドの受付嬢も三人いるよ!


 ミレーネさんがのんびりやっていたエヴィルグランデとはえらい違いだ!


 というわけで、三人掛かりで列を捌いていたこともあり、待ち時間もそこそこに私の番となった。ウキウキで受付嬢とお話するよ。


「フォーザイン商業ギルドにようこそ。初めての方ですよね? 本日はどのような御用件でしょうか?」

「あー、この辺で取れるC級依頼の素材は何があって、何処にあるのかとか教えて欲しいんですけど」

「それは、【調合】ですか? 【錬金術】の素材ですか?」

「あ。両方で。それと、【鍛冶】の珍しい素材とかも探していて……」

「……すみません。ちょっと、バックヤードまで来てもらえます?」


 なんか、すんごい目で睨まれてるんですけど?


 さっきまでのニコニコ笑顔はどうしたのってぐらい、雰囲気が怖い受付嬢さん……。


 え、急にどうしたの?


「えーっと、拒否することは……?」

「いいからこい!」


 受付嬢に鎧を引っ掴まれて、カウンターの奥に引き摺り込まれる。


 あれれー、おかしいなー?


 ちょっと素材の在り処を聞こうとしただけなのに、どうしてこうなったんだろ……?

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