第34話
グダグダとお喋りをしていたら、ようやく私たちの番になった。
もう、かれこれ三時間くらいは待ったかな?
前に六組ぐらいのパーティーがいたから、1パーティー平均すると三十分くらい戦っていたことになる。
勿論、さくっと終わるパーティーもあったし、時間が掛かっているパーティーもあったんで、一概には言えないんだけどさ。
三十分も戦っていて疲れないのかなーとは思うよ。
「さて、やりましょーか」
休んだおかげで、MPは何とか一割程度にまで回復。それに伴ってやる気も出てきたんだけど、もしかしてMPの数値ってメンタルにも影響与えてる?
それにしても、馬車に乗ってる時はもっと自然回復量が多い気がしてたんだけど、こうして改めて確認してみると、微々たるものだって良く分かるね。
馬車に乗っていた時は、使っている魔術の回数も少なかったし、永遠に魔術が撃てる気がしてたんだけど、実際に落ち着いて測ってみると、こんなものかといった感じ。
人間の思い込みって怖いね!
「せやな、行くか。くれぐれもみんな、『命を大事に』で頼むで?」
「それだったら、エリアボスに挑戦しない方が正解な気がするんですけど……」
「覚悟を決める」
「ようやく、ヤマさんの戦いぶりが見られるかと思うと楽しみじゃなぁ、イコさんや」
「面白いものが見れそうで楽しみですねぇ、お爺さん」
何か、一部で期待されてるけど、面白いことなんて何もないと思うよ?
とりあえず、私が先頭になってボス部屋の扉を開ける。
これは、魔鉄製の扉かな?
基本は鉄だけど、微弱な魔力を帯びていることで、物理にも魔力にも強くなるという特殊な鉄が魔鉄だ。それが、シンプルなデザインの扉に使われていて、何となくボス戦の雰囲気を盛り上げてくれる。
しかし、魔鉄かぁ……。
これぐらいの強度なら、いざという時に扉を壊して逃げ出せそうかな?
ちょっと、軽くペシペシ叩いちゃうよ。
「あ、言い忘れてたわ。ボスとの初回戦闘時には紹介ムービーが流れるから、不意打ちとかはできへんからな」
「そうなんだ」
全員で扉の奥に足を踏み入れる。
中は割と広い空間だ。
フォーザイン地下迷宮が土をメインにした迷宮だったのに対して、このボス部屋の周りは岩山だったんだけど、中はどっちなのかなーと思ってたら、どうやら岩山の方がメインのようだ。
みんなで中に入った途端に、勝手に足が止まって動けなくなる。
これが紹介ムービーって奴かな?
私たちの目の前で、中央にでんっと存在していた岩山が身震いする。
岩山だと思っていたものが、脚を伸ばし、腕を伸ばし、尻尾を伸ばし、首を伸ばし、大きな翼を広げて、バラバラと細かな岩の破片が地面に落ちたところで、実はドラゴンでしたーとなったところで、ようやく体が動くようになる。
戦闘開始だ!
「あなたに死を宣告します!」
▶ロックリトルドラゴンに死を宣告しました。
というわけで、初手、死の宣告。
正直、昨日の夜から寝具代わりに呼び出したのもあって、早めに馬車をしまいたいとソワソワしてたんだよね。
だって、【馬車召喚】ってある種の自爆スイッチなんだもん。
そして、このエリアボスを倒せばフォーザインなんだから、死の宣告の使い所はここしかないと思ってたんだ。
そんな私の死の宣告に対して、ロックリトルドラゴンは口を大きく開けて、胸を張る。
もしかして、ブレスかな?
「ヤマちゃん、ブレスくるで!」
「了解。【アースウォール】」
大礫蟲相手に評価を数段落としていた【アースウォール】さんだけど、ロックリトルドラゴンが相手であれば無敵だ。
地面が盛り上がり、硬質な壁になったかと思うと、ガンガンガンガンとロックリトルドラゴンのブレスを跳ね返す。
土の壁に当たって、拳大の石がそこら中に散らばっていくんだけど、これがロックリトルドラゴンのブレスなのかな?
文字通り、石の弾丸だね。
こんなの受けたら、痛さにうずくまっちゃいそうだよ!
「ヤマちゃん、ブレスはいつまでも吐いてられへん! 途切れた時がチャンスや!」
「分かったよ、タツさん」
というわけで、音が止んだのを合図に、私は「よいしょっ」と【アースウォール】を片手で引っこ抜くと、それを盾にロックリトルドラゴン向けて突っ込んでいく。
「はぁ!?」
「嘘でしょ!?」
「さすゴッド」
まぁ、外野が五月蝿いけど、そのまま【アースウォール】を盾として持って突撃だ。
あ、でも、これ前が見えない。
要らないから投げちゃおっと。
ごっ。
分厚い土の壁が、噛みつこうとしていたらしいロックリトルドラゴンの顔面にカウンター気味にヒット。
私、コントロール悪いのになぁ……。
思わず仰け反るロックリトルドラゴンを前に、私は【フォローウインド】で敏捷を上げると、一気に側面に回ってから、その背中へと駆け上がる。
「なんや、今の動き!? 目で追えん!」
「え、いつの間に背中に!? 見えなかった……」
「さすゴッド」
まぁ、普通はこう簡単に背中に上がるのは難しいかもね。
でも、私には【バランス】さんがあるから、少しぐらい凸凹した場所だったら、簡単に登っていけるんだよねー。
で、空に逃げられると面倒くさそうなので、【収納】から【水晶鋼の魔剣】を取り出すと、力任せにロックリトルドラゴンの片翼を切り落とす。
「グガァ!?」
「おっとっと……」
片翼を切り落としたら、ロックリトルドラゴンが地面に倒れちゃったね。
思わず振り落とされるけど、【バランス】さんを使って十点満点の着地。
そして、ダウンしたロックリトルドラゴンの方は、頭の部分に星が飛んでいる状態?
もしかして、部位破壊によるスタン状態かな?
らっきー。
「なんや、あの剣!? 硬いはずのロックリトルドラゴンの翼をやすやすと切り裂きよったで!?」
「というか、切られたところ燃えてないですか!? 何なんですか、あの武器!?」
「ほう。なかなか面白いものを持っとるのう」
「そうですねぇ、お爺さん」
「さすゴッド」
ミサキちゃん、「さすゴッド」を流行らそうとするのは止めて!? 絶対流行らないから!
「まぁ、スタン取れたなら、大技でも入れておこうかな? 大★切★ざーん!」
飛び上がっての上段斬り。
ちなみに、この技。
フレーバーを見たら、クリティカル率アップの、スタン付与率アップの、とても優秀な技だった。
ただ、問題は飛び上がったところからしか繰り出せないので、動きに隙があるんだよね。
でも、まぁ、相手がスタンしてれば関係ないでしょ!
ドゴンッ!
ロックリトルドラゴンの頭部に全力で振り下ろしたら、そのあまりの威力にロックリトルドラゴンの頭ごと地面が陥没した。
そして、またロックリトルドラゴンの頭上に星が飛ぶ。うん、スタン状態継続みたいだね。
じゃあ、これで終わりにしよう。
私は動けないロックリトルドラゴンの胴体に片手を当てると――、
「【魔力浸透激圧掌】!」
どごんっとロックリトルドラゴンの体が大きく震えたかと思うと、その姿は次の瞬間にはポリゴンの光となって宙に消えていく。
いやぁ、思った以上に楽勝でしたわ……。
――あ。
「うわっ!?」
「そういえば、言い忘れてたけど、馬車消えるから気をつけて?」
「そういうの早く言ってくれませんかねぇ!?」
タツさんは飛んで回避して、イコさんとゴブ蔵さんは普通に着地したみたいだね。
ブレくんとミサキちゃんはゴブ蔵さんたちを守るために馬車から少し離れてたからセーフと。
まぁ、びっくりはしたみたいだけど。
「というか、デスゲームでエリアボスをソロでスタンハメするとかありなんですか!?」
「ヤマちゃんだからやろ。アレを基準に考えたらおかしなるで……」
「さすゴッド」
「なんじゃ、もう終わってしもうたか」
「相手が弱かったんですよ、お爺さん」
「「いやいやいや!」」
「やはり、さすゴッド」
まぁ、うん。
特に盛り上がらなくて悪いんだけども、予想通りの結果だったね!
さて、討伐報酬はというと……。
▶エリアボス『ロックリトルドラゴン』を初討伐しました。
SP10が追加されます。
▶称号、【新たなる旅路】を獲得しました。
SP5が追加されます。
以降、ロックリトルドラゴンとの戦闘が任意で選べます。
▶経験値558を獲得。
▶褒賞石212を獲得。
▶岩劣竜の鱗を獲得。
▶岩劣竜の牙を獲得。
▶岩劣竜の翼膜を獲得。
▶ヤマモトはレベルが上がりました。
▶【バランス】が発動しました。
取得物のバランスを調整します。
▶褒賞石346を追加獲得。
▶岩劣竜の尾を追加獲得。
あれ、これだけ?
もっと経験値が入るかと思っていたら、全然だったね。
あー。
パーティー戦闘だから、もしかして四分割?
四倍すると、クリスタルスライムと同じくらいだから、そこそこもらえてる感じかな?
そして、素材の種類がクリスタルドラゴンさんよりも少なく感じる。
岩劣竜とか書かれているくらいだから、本当のドラゴンではないのかも? それで、素材が限定されてるとか?
でも、パーティーメンバーは沢山の素材と経験値が入って嬉しそうだ。ブレくんとミサキちゃんなんか、ハイタッチを交わしてるよ。まぁ、喜んでくれているのなら、私も戦ったかいがあるかな?
「あー、ゴブ蔵さん、イコさん、ここからフォーザインまで少し歩くことになるんですが大丈夫ですかね?」
「構わんよ」
「フォーザインはもう目の前ですしねぇ」
あれ?
もしかして、二人共、一度フォーザインに来たことがある感じ?
「しかし、これなら……のう?」
「うふふ、お爺さんったら……」
何か楽しんでらっしゃる?
よくわからないけど、楽しんでもらえたなら良かったよね!
「よっしゃ! それじゃ、ようやくフォーザインや! みんな行くでぇ!」
というわけで、タツさんの号令一下、私たちは大移動だ。
歩きにくい岩場の道を抜けて、縦に長い岩穴を抜けると、そこは地下都市フォーザイン!
カッパドキアにも負けるとも劣らない――、
…………。
岩場を抜けた私たちの目に、まず入ってきたのは太陽の光だった。
あれ? 地下都市じゃないんだっけ……?
と思って上を見上げたら、確かに大地がある。
その大地の底が抜けたかのように巨大な穴が開いており、そこから太陽の光が差し込んでいる?
そんな太陽の光を跳ね返して、白い石造りの建物が数多く軒を並べる姿――。
あれ? あれ?
更に、鼻をくすぐるのは……潮の香り?
前方を見やれば、真っ白な砂浜と、海と繋がった浸食された大地の壁……。
これ、カッパドキアちゃう!
プラヤ・エスコンディーダやん!
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