第33話

 さて、現状はブレくんだけが万全な状態で、タツさんはMPが五割以下、ミサキちゃんに至ってはMPが枯渇状態。


 そして、肝心の私はといえば、


 ほぼ、MPが空!


 ちょっと回復も補助も、魔術によるダメージソースになるのも難しいような状態だ。


「ちょっと、MP関連は私もカツカツだね」

「そうかぁ……」


 でも、まぁ、私の武器は魔術だけじゃないし。やろうと思えば、エリアボスだって全然イケるんじゃないかなーとは思う。


 何せ、私にはガガさん特製の魔剣があるからね! あれがあれば、エリアボスでも余裕でしょ? とか思ってます!


 私のガガさんへの信頼は厚いよ!


「で、この状況なんやけど、どないする?」


 ん? その『どないする』は撤退も視野に入れての発言?


 あー。


 そういえば、タツさんの前では魔術でモンスターを倒すところしか見せてない気がする。


 それだと、MP切れの私が戦力外に見えちゃうのかー。


 いや、普通に物理もいけますって発言しといた方がいいのかな?


 いや、ここで撤退は流石にないでしょ?


 というか、もう一度EODと追いかけっこして戻るとか、絶対に無理だからね?


「お、なんだぁ? 雑魚パーティーが撤退の相談かぁ?」


 私が何とかするから、挑戦してみない? って提案しようとしたら、何か知らない人が話しかけてきたよ。


 私たちに近付いてきたのは、身長が三メートルくらいの横にも縦にも大きい緑色の男の人。


 巨体は巨体なんだけど、ただの太った人ってわけじゃなくて、全身が筋肉質なのかな? 弛んでるって感じはしない。プロレスラーみたいな感じだ。


 ただ、ファッションセンスは蛮族丸出しで、上半身裸に革の胸当てってどうなんだろう? という疑問は残るよ。


 そんな男の人が意地の悪い笑みを浮かべながら、こっちにやってくる。


「なんや、お前?」

「なんだとはご挨拶だな。俺は困っているなら、助けてやろうかと思って声をかけたんだぜ?」

「なんやと?」

「払うもん払うって言うなら、俺たちのパーティーに寄生させて、エリアボスをクリアさせてやってもいいってことさ」

「ほーん。ちなみになんぼや?」


 タツさんも本気で言ったわけじゃないだろうけど、聞くだけ聞いてみるんだね。


 まぁ、こういう時の相場を知るには、丁度良いかも?


「一人百万褒賞石。あと、ボス戦で出たドロップは全てこちらのものだ」

「話にならんな」


 いやー、ブレくんにミサキちゃんは、普通に百万褒賞石も持ってないでしょ。


 私だって、キャンプ道具揃えるのに色々使っちゃって、素寒貧すかんぴん状態だもん。


 生産職がこれなんだから、ブレくんたちだって……。


 いや、無駄遣いしてる分、私の方が少なかったりする!?


「タツさん、なんかヤマさんが雷に打たれてるんですけど……」

「放っといてえぇで」


 タツさんの私に対する扱いが雑過ぎる!


「おいおいおい、状況分かってんのか? 死んだら終わりのデスゲームで、命よりも金が大事かよ? そんな事も分かんねぇリーダーなのか?」

「リーダー?」


 いや、そんなの決めてたっけ?


 そんな視線がお互いの顔を行き来する。


「おいおいおい、リーダーも決めねぇでやってきてるのかよ! よく、ここまで命があったもんだな!」

「余計なお世話や。ワイらにはワイらのやり方がある。余計な口出しはせんといてもらおうか」

「はっ! こっちは親切心で言ってやってんだぜ? そんなに死にたいなら勝手にしやがれ」


 そう言って、男の人は去っていった。


 去り際が鮮やかな感じから、もしかしたら、本当に親切なだけの人だったのかもしれないね……。


 いや、あんな切り出し方じゃ、誰も信用しないとは思うけど!


 それにしても、あんなに威圧感ある人と普通に話せちゃうタツさんは凄いね!


 私は相手がプッツンして、いつタツさんがプチってされるか気が気じゃなかったよ。


「断って良かったんですか?」


 男の人が去っていった後で、ブレくんが聞く。


 ブレくん的には、今の話は有りだったのかな?


「そもそも払えるんか? あんなふっかけられて?」

「いや、それは難しいですけど。でも、このままじゃ、エリアボスと戦うのは無理があるんじゃ……」

「なぁ、ブレ。お前、何を見てきたんや?」


 タツさんが真面目な顔をして、ブレくんを睨みつける。


 小さくてもドラゴンの顔だからね。なかなか迫力があるよ。


 ブレくんも思わず、言葉を飲み込んじゃったみたい。


「ここにいるどのパーティーやろうと、あの状況を生き残れへんわ。けど、ワイらはそれをやってのけた。ちゅーか、ヤマちゃんがそれをやってのけた」

「まぁ、そうですかね……」

「そんなヤマちゃんがおるんや。万全でなかろうと何だろうと、エリアボスくらいチョチョイのチョイや」

「そうなんですか?」

「まぁ、そうだね」


 否定もせずに、私は首肯する。


 いや、あのEODよりエリアボスが強いとかはないでしょ?


 だったら、そんなに苦戦することもないんじゃないかな?


「ホンマはワイらだけでやりたかったんやで? せやけど、今回ばかりは不測の事態やからな。ヤマちゃんの力を借りるしかないやろ」

「まぁ、私もヒーラーだけやるつもりでいたけど、流石にこの事態になっちゃったら攻撃参加するよ。あー、パーティーでの動きとかはできないから、ブレくんとミサキちゃんには下がってもらって、ゴブ蔵さんたちの護衛に専念してもらいたいんだけどいい?」

「え? 俺も戦いますよ」

「それは、別に構わないんだけど……」


 ブレくんは色々とダメージが完全に抜けているのか、元気なんだよねー。死にかけたっていうのにね。


 けど、私の方は精神的な疲労から、そうじゃないんだよ……。


「私が疲れてるから、ミスってブレくんに攻撃がいったらマズイかなぁってね……」

「大人しく下がる」

「せやぞ、ブレ。わざわざ自殺する必要はないで」


 二人の野次が酷い!


 でも、その野次が利いたのか、ブレくんは考えを改めたみたい。顔色が蒼いのはちょっと気になるけども。


「わかりました……。でも、無理そうなら言って下さいよ? 俺だって戦えるんですから!」

「男の子だねー。まぁ、無理そうなら手伝ってもらうことにするよ」


 というわけで、話はまとまった。


 後は、エリアボス攻略の順番がくることをただひたすらに待つだけだ。


 エリアボスの出現する部屋は、大きな鉄の扉で塞がれていて、待っているパーティーはそこに一組ずつ入っていく。


 そして、他のパーティーの戦闘時間中は普通に待ち状態。ひたすら、自分たちで暇を潰すしかない。


 どうやら、別のインスタンス空間で、同時並行にボス戦が行われるといったことはないみたいだよ?


 LIAは初期VRMMORPG時代に流行ったボスのリポップシステムを採用しているらしいね。


 それがどういうのかって言ったら、ボスを倒したら部屋を出てー、次のパーティーが部屋に入ったら、またボスが現れるーって仕組みのことね。


「最近のVRMMOでは珍しい形式だよね、タツさん?」


 ハーブティーを淹れながら、お茶請けにクッキーとか出しちゃう私。


 それに口をつけて、思わず目を丸くするタツさんとブレくん。


 うん、だから言ってるじゃない。食事はフレーバーだからっておざなりにしてると後で後悔しちゃうってさー。


「マジかぁ。ヤマちゃんの手作りっちゅーから覚悟しとったのに、それなりに美味しい物が出てくるとは思わんかったわ……」


 驚くトコ、そこかい!


 そういえば、タツさんはテストプレイで色々と食に関してはトラウマも抱えてる人だったっけ。それで、あまり食に拘ってこなかったのかな?


「え、これ、ヤマさんの手作りなんですか?」

「そーだよー」


 このゲーム、割と食材自体は色々と揃ってたりするんだよねー。


 なので、それなりに【料理】ができれば、色々と作れて楽しいのである!


 まぁ、リアルの私のレパートリーはそこまで多くないので、料理好きたちが集まる掲示板を有効活用させてもらってるんだけど……。


「美味いです。ミサキちゃんもこれぐらい作れればなぁ……」

「オイ」


 ミサキちゃんの目が笑ってない。


 痴話喧嘩はヨソでやってねー。


「で、どうなのよ?」

「ボスがリポップ式って話か? 理由なんて、そんなの運営に聞いてみんと分からへんなぁ。けど――」

「けど?」

「なんか、こだわりはありそうな気がするわ」

「あー、分かるかも」


 多分、システム的だったり、ユーザーのこと考えてとかじゃなく、運営の趣味全開って感じでこうなってるような気はするねー。


 あれでしょ?


 どうせ、某夢の国みたいに世界中でこのエリアボスと戦っているのは、君たちだけだ! みたいな煽り文句を言いたかったんでしょ?


 それは、それで嬉しいかもしれないけど、待たされる身にもなって欲しいというのが正直なところ。


 何でゲーム世界にまでやってきて、アトラクションの行列待ちみたいなことをしなくちゃなんないのさ、とボヤきたくはなる。


 それでも、のんびりとお茶をしてたら、ちまちまと順番は進んでいくんだけどね。


 そして、一度クリアしたであろうパーティーのメンバーさんたちが、私たちの後ろに並ぶ。


 まだ余裕があるから、もう一回やろうって感じかな?


 本格的にアトラクション扱いだね!


 そして、そんな空気にあてられたのか、みんなもすっかりリラックスムードになってしまっている。


 というか、さっきまでと落差が激し過ぎて緊張感が持てないっていうね……。


「そういえば、ゴブ蔵さんって若い頃、イケメンだったんですねー」

「ビックリ」

「今はツルツルじゃがのう! わははは!」


 ツルツルの頭を叩くゴブ蔵さん。


 しかし、あのイケメンのゴブ蔵さんはヤバかった。


 場面が場面なだけに、ちょっとだけ惚れそうになっちゃったよ。


 吊り橋効果って奴?


 まぁ、すぐにシワシワになっちゃったから、冷静にもなれたけどね。


「お爺さんの若い頃はモテたんですよ」

「いやいや、それは違うぞ。婆さんの方がモテモテじゃった」


 へー、ゴブ蔵さんとイコさんって美男美女カップルだったんだ。


 私が感心していると、どっちがモテていたかで口論を始める二人。


 いや、疲れてるんで、そんなどうでも良いことで揉めないで欲しいんですけど……。


「…………」


 そして、何か言いたげなタツさんの視線が私に突き刺さる。


 私の顔を知ってるのは、タツさんだけだからね。何が言いたいのかは分かるよ?


 でも、ここで「私も結構イケてます!」って出ていったらイタイだけでしょ?


 私は避けれる事故は避けるタイプなのだ!


「そういえば、ブレくんとミサキさんの関係も聞きたいわねぇ」

「そうじゃな、二人はもう付き合っておるんか?」

「えぇ? いや、僕たちはただの幼なじみというか……」

「今はまだ」

「ミサキちゃん!?」


 今度はゴブ蔵さんたちの矛先が、ミサキちゃんたちに向かったよ。


 そうかー。あの二人、リアル幼なじみだったかー。


 というか、NPCがプレイヤーの恋愛事情を弄ってくるって、ちょっと凄過ぎないLIA?

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