第31話
地面に体を横たえながら寝ているらしいロックリザードを横目に、私たちは緊急で集まって、ヒソヒソと相談している。
一体ならまだしも、二体というのが厄介だよね……。
「タツさん、迂回ルートは?」
とりあえず、別ルートはないのかと確認したんだけど、タツさんは力なく首を横に振る。
「あのロックリザードの奥にある道が最短なんや。あそこを通らんで、フォーザインを目指すとなると時間もかかるし、リスクも格段に跳ね上がる」
確かに、土の柱が林のように密集してるのは、ロックリザードの後ろだけだ。
あそこを通れないとなると、モンスターに発見される確率は跳ね上がるだろうし、戦闘音に気付いて、際限なくモンスターが集まってきそうな感じがする……。
こちらの目的はエリアボスへの挑戦だから、こんなところで無駄にリソースを消費したくないんだよねー。
そう考えると、ロックリザードを瞬殺して通るのが一番良さそうなんだけど……。
「問題は、ロックリザードが二体ってことや。一体はワイが全力で倒すにしても、もう一体を……ブレ、やれるか?」
「分からないですけど、やるっていうならミサキちゃんと全力でやります」
「えぇ覚悟や」
「…………」
キリッとした腐りかけの顔を見せるブレくんだけど、相方に指定したはずのミサキちゃんはじーっとこちらを見ている。
え、何?
「どうかした? ミサキちゃん?」
「【
「あー、アレかぁ……」
確かに、【魔力浸透激圧掌(カッコだけwww)】なら当たりどころが良ければ、一撃で倒せるかもしれない。しかも、私のスキルには都合が良いことに、【隠形】があるんだよね。
だから、寝ているところにひっそりと近付いて手を当てて発動することは可能だと思う。
けど、少し気になっているのが、【まねっこ動物】のフレーバーなんだよね。
【まねっこ動物】は、元にした技の半分の効果しか出ないわけなんだけど、もし、元の技が即死攻撃だとしたら、【魔力浸透激圧掌(カッコだけwww)】は相手のHPを五割しか減らせないってことになる。
それを考えたら、【マッディ・グラウンド】からの【ファイアーピラー】の方が確殺を取れて良い感じだと思うんだけど、それをやるとヒーラーがなんで妨害系の【土魔術】と攻撃系の【火魔術】を持っているんだと、後々がうるさそうになる予感。
うーん。
でも、色々と面倒くさくなることを恐れて、ゴブ蔵さんとイコさんを危険な目には合わせたくはないしなぁ……。
よし、わかった!
「わかった。私とタツさんでやるよ。けど、ブレくんだけは目をつぶってることが条件ね」
「なんで、僕だけ!?」
タツさんは義理人情には厚いタイプだし、ミサキちゃんは口が堅いタイプだから信用できる。
けど、ブレくんだけはポロっと何かの拍子で言っちゃいそうなウッカリ具合が見え隠れしてるからね。
だから、魔術でさくっと倒そうと決意した私には、ブレくんには目をつぶっていて欲しいんだけど……。
「日頃の行い」
「ミサキちゃんまで! 酷い!」
いや、でも、本当に日頃の行いなんで、なんとも言えないよ……。
■□■
というわけで、ブレくんには目をつぶってもらいながら、私とタツさんはロックリザードに近付いていくよ。
結構、大胆に近付いていくんだけど、全然起きる気配がないね。そのまま魔術の射程範囲に入ったので、私はタツさんと視線を交わす。
うん、タツさんの方も攻撃準備は整っているみたい。
私はタツさんの前で指を三本立てると、それをひとつずつ折っていく。即席のカウントだ。
……2、1、ファイア!
「喰らえや! 【ファイアーミサイル】!」
「【マッディ・グラウンド】! 【ファイアーピラー】!」
タツさんが放ったのは、【火魔術】Lv5の【ファイアーミサイル】だ。ミサイルの形をした炎が多少の追尾性を持ちながら、着弾と同時に爆発する派手な魔術だ。
威力的には、【ファイアーピラー】の全段ヒットと同程度だから、魔術のチョイスとしては間違ってないと思う。
ただ、エリアボス攻略前に放つには、MPが少し重いけど、それだけここで消費をケチって足止めを喰らいたくないということなんだろう。
私の方は前にも使った瞬殺コンボ。
ただし、前の時よりもステータスが二倍近くに増えているので、威力は格段に増している。
【ファイアーピラー】なんか、ちょっとした活火山の噴火のような火柱になっちゃってるし、色々と威力がおかしい。
「ヤマちゃんの魔術、ちょっと威力おかしない!?」
本職、攻撃魔術師のタツさんも目を剥くほどの威力。
これで、一瞬で全てが終わると思った、その時だ――。
▶【バランス】が発動しました。
モンスターの出現バランスを調整します。
これは……。
突如として、地面がグラグラと揺れ始め、私は集中を途切れさせて思わず魔術を解除してしまう。
ロックリザードは半焼の状態の中、それでも生きていて、私に向かって甲高い声で威嚇を行うんだけど、そんなものは関係ないとばかりに大地の揺れはますます酷くなっていく。
「なんや!? 何が起こっとる!?」
「タツさん! 馬車に飛び乗って! 早く! みんなも馬車の屋根でも何でもいいから、馬車に乗って! お願い!」
あのバランスさんの表示は一度見たことがある!
あの時は何で発動したのか分からなかったけど、【バランス】さんに慣れてきた今の私なら理解できる。
恐らく、私が強過ぎるから、私の強さとダンジョンモンスターとの強さの【バランス】を取るために、より強力なモンスターを【バランス】さんが引き寄せているに違いない……!
クリスタルドラゴンの時は地底湖からやってきたけど、今度はどこから来る……?
私が緊張する中、揺れはどんどんと酷くなってきて、立っているのも辛い状態になる。
だけど、私には【バランス】があるから、普通なら動けない揺れの中でも問題なく動くことができるようだ。周囲を見回して警戒を強める。
「ヤマちゃん、下や!」
馬車に避難したことで全体を見渡すことができたからだろう。
タツさんの叫び声と同時に、私は思い切りその場を後退する。
そして、刹那――。
唸り声をあげるロックリザード二体が、土の中から出てきた巨大な
何、あれ!? デカっ!?
それはまるで巨大な円柱――。
それがダンジョンの天井にぶち当たり、そのままダンジョンの天井が破壊されて、多くの砂埃が降ってくる。
だけど、それだけじゃなくて、天井にはモコモコとした土の塊がせり上がる跡が線状についていく。
地下迷宮の天井の中を何かが這いずってるってこと……?
やがてその天井をぶち破って、巨大な長い体躯が、暗い空間の中に姿を見せていた。
虫……?
いや、虫というよりは
頭の部分には顔は無く、幾重にもなった鋭い牙と巨大な口だけがあるようなバケモノだ。それが龍もかくやと思わせるような長い胴をくねらせている。
「【
その正体はゴブ蔵さんが教えてくれたわけだけど、これどう見てもEODでしょ!?
クリスタルドラゴンとの一件で、こっちは一歩間違えれば、死にそうな目にあったんだからね!
わざわざ予定にない相手を、相手なんてしてられないよ!
「みんな、逃げよう!」
「分かっとるわ! こんなバケモンとやっとられんからな!」
「馬車を出すよ! しっかり掴まって!」
「「「おう(はい)!」」」
私の声に応じて、馬車が急発進する。
ロックリザードが大礫蟲に食い殺されたおかげで、逆に道が開けている。
大礫蟲のくねる胴体の横を駆け抜ける形で馬車が走り出し、土の柱の林へと進路をとる。
それと同時に私も馬車と並走して、逃げの一手だ!
私の敏捷のステータスなら、爆走する馬車にも平気で追いつける。
「ヤマちゃん、追ってきたで!」
「放っといてくれたら良いのに!」
地下迷宮の空中でゆらゆらと揺れていた頭が、逃げる私たちを見つけたのか、一声吼えると、もの凄い勢いで地面に下りてくる。
どしんっと、地面に叩きつけられるように頭から落下した大礫蟲だけど、特に何事もなかったのか、地面を削り喰いながら鰻か何かのように体をグネグネと動かして追ってくるんですけど!
「タツさん! どうしよう! キショ過ぎて泣きそう!」
「問題はそうじゃないやろ!? くそ、喰らっとけや! 【ファイアーミサイル】!」
タツさんが出し惜しみなしの一撃を放つが、大礫蟲の巨体には針で刺された程度にも効かないのか、全く追ってくる勢いが衰えない。
大礫蟲が私たちが逃げる土の柱で囲まれた道に近付く――。
そして、そのまま土の柱のオブジェクトを壊しながら突き進んでくる!?
えぇっ!? あの土の柱って、破壊不能オブジェクトじゃないの!?
「ヤマさん! 向こうの方が移動速度が早いです! このままでは追いつかれます!」
ブレくんが泣きそうな顔で叫んでいるけど、もしかしたら本当に泣いてるのかもしれない。
いや、気持ちは分かるよ!
こっちだって、超高速で動く巨大な掘削機に追っかけられてる気分だもん!
泣きたいのはみんな一緒だよ、ひーん!
「もう、これならどう! 【アースウォール】!」
私の魔力を多く込めた、巨大で厚い壁が背後に出来上がる。
いつもよりも、魔術の威力が強い気がするけど、これってステータスもそうだけど、【魔力操作】も関係してる?
威力倍増しでお送りするよ!
「なんちゅー厚い壁や!」
「ヤマさんって【土魔術】もできたんですか!?」
「さすゴッド」
なんか色々と言われてるけど、そんなの気にしてる余裕がない!
やがて、ゴンッという鈍い音。
大礫蟲が私の作り出した【アースウォール】に衝突したみたい。
けど、勢いが止まったのは一瞬。
大礫蟲は私が作った【アースウォール】を即座に噛み砕くと、すぐに勢いを増して追っかけてくる。
足止めにもならないんかーい!
「ヤマちゃん、諦めんなや! 塵も積もれば山となる! 少しでも相手の足を止めさせれば、その分差は開くんや! ワイだって、こんなところで死ぬ気はあらへんからな! 諦めへんで! 【ダークミスト】! 【ファイアーミサイル】!」
相手の魔防を下げる【ダークミスト】からの【ファイアーミサイル】のコンボ。
多分、タツさんの必殺コンビネーションの内のひとつだ。
だけど、そんな大技も何の痛痒も感じないというのか、大礫蟲は全く気に止めずに追っかけてくる!
「あぁ、もう! 私だってこんなところで死にたくないし! 諦めないよ! 【アースウォール】!」
クールタイムが空けた【アースウォール】をもう一丁!
再度、ごんっと音がするが、さほど時間をかけずに私の作った土壁が大礫蟲に破壊される。
破壊された【アースウォール】の欠片がこっちにも飛んでくるし! 危なっ!?
「三叉路!」
ミサキちゃんの鋭い声。
目の前の土の柱の林の道が二本に別れている。
私は思わずタツさんに指示を仰ぐ。
打ち合わせの内容なんて、いちいち覚えてないからね! それにこっちの方が確実だ!
「タツさん! どっち!」
「右や!」
タツさんの叫び声に私は馬車の進行方向を大きく右に――。
その際に馬車が小石でも踏んだのか、大きく跳ね上がる。
「あ」
馬車の方は何とか地面に着地したけど、着地の衝撃に堪えられなかったのか、ブレくんの体が馬車から放り出される。
「ブレっ!?」
ミサキちゃんの叫びが響く中、大礫蟲の姿がすぐそこまで迫ってくるのであった――。
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