第30話
【魔力浸透激圧掌】――。
見てた感じだと、多分、力は要らない技だ。
必要なのは魔力。
イコさんを真似て、ポンっと木の幹に片手を当てながら、取得した【魔力操作】を使って木に魔力を流し込む。
一瞬、抵抗を感じるが魔力のパラメーターの高さで押し切る感じで……こうっ!
ボンッ!
と派手な破裂音が辺りに響く。
けど、葉っぱが上から落ちてこない。
あれ?
おかしいなぁ、音はしたんだけど?
木の幹をぺちぺちと叩きながら、後ろに回ってみると拳大の穴が木の幹の裏に空いている。
さっきの爆発音はこれかな……?
「力まかせに過ぎるねぇ。それじゃあ、合格点はあげられないよ」
▶【ヤマモト流】【猿真似】に【魔力浸透激圧掌(カッコだけwww)】が追加されました。
システムにすっごい煽られてる件www
思わず草に草返しちゃうね!
いや、確かに効果を見たら格好だけだもん!
というか、【猿真似】ってどんなスキルなのさ?
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【ヤマモト流】
既存の体系のいずれにも属さない自由な攻撃流派。攻撃アシスト系のスキルを持たない場合にのみ、この流派を会得出来る。
※あなたが宗主です。スキル取得者が会得できる技をあなたは任意で登録できます。
Lv1 【轢き逃げアタック】
Lv2 【採掘王に私はなる】
Lv3 【大★切★斬】
Lv4 【猿真似】
Lv5 登録なし
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スキルの名前が【猿真似】というのも格好が悪いから、違うのに変えようかな……。
うーん。
よし、こうだ!
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【まねっこ動物】
見た感じのなんとなくで技を再現する。
だが、技の根本を理解していないため、覚えた技は本来の力の半分程度しか出せない。
①【魔力浸透激圧掌(カッコだけwww)】
② 登録なし
③ 登録なし
④ 登録なし
⑤ 登録なし
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【ヤマモト流】って、何気にぶっ壊れスキルなのでは?
そして、肝心の【まねっこ動物】(改名しました)が、ラーニングスキルな件。
本来の二分の一の威力しかスキル効果はないみたいだけど、それでも相手の特殊なスキルを見さえすれば覚えられるというのは強いんじゃないかな?
うんうん、吸収系のスキルを持ってる人が弱いなんて聞いたことがないからね!
これは、色々とアタリなのでは?
私が心の中でひっそりと喜んでいると、イコさんがどこか残念そうな顔で近付いてくる。
イコさんとしては、私に奥義を伝授したかったのかな?
だとしたら、申し訳ないね。
「【魔力浸透激圧掌】は一撃必殺の技なんだ。触れた瞬間に相手の魔力回路に魔力を流すことで、相手の核の居所を確認して、そこに向けて圧縮した魔力を流して解き放つ。核が砕けたモンスターは大概死んでしまう――そういう技なんだ」
とんでもない技を教えられようとしていた!?
その技は防御貫通攻撃とかいうジャンルじゃないよ! 明らかに即死攻撃だよ!
私が顔面蒼白になっている間にも、イコさんは残念そうに続ける。
「ヤマさんの【魔力浸透激圧掌】は、相手の魔力回路を探らずに無理矢理押し通したから、そのまま魔力が真っ直ぐ進んで、木の幹を貫通して後ろに突き抜けちゃったんだねぇ……」
「それじゃあ、イコさんがやったのは木の核を砕いたってこと?」
「そんなことしたら、木が死んじゃって可哀想だろう。だから、魔力回路に強い魔力を流すに留めたよ。葉っぱが全部なくなったのは計算外だったけどね」
イコさん。少ししょんぼりしてるけど、ゴメンね。
私、多分、【ヤマモト流】を取得している関係で、普通の攻撃系スキルって取得できないと思うんだ。
一応、ラーニングスキルで【魔力浸透激圧掌(カッコだけwww)】は取得できたから、それだけでもイコさんには大感謝だよ。
「不完全でも【魔力浸透激圧掌】が打てるようになったのは大きいよ。イコさん、ありがと」
「そう言ってもらえると、教えたかいがあるねぇ。それじゃあ、次はミサキさんにも教えようかね」
教え魔と化したイコさん。
もしかして、酔ってたりするんだろうか?
私はとりあえず水を汲んでから、イコさんを追いかけるのであった。
■□■
明けて翌日――。
いやぁ、昨日は飲んだねぇ!
【酩酊】とかいう状態異常になった見張りの人たちがゴロゴロとその辺りに転がっては、ゴブ蔵さんが高笑いするとかいう地獄絵図が繰り広げられていたけど、昨日の内に片付けが済む程度の惨状で良かったよ。
私も三回くらい【酩酊】の状態になったんだけど、アレになると呂律が強制的に回らなくなって、目が回ってまともに立っていられなくなるからねー。なかなか知らないと危険な状態異常だったよ。
けど、三回も【酩酊】になったせいで、【酩酊耐性】とかいうスキルを得てからは、酔わなくなっちゃったね。いつも通り、いきなりスキルレベルが5から始まったってのもあるんだけど。
まぁ、ちょっと予想外な感じだったけど、なかなか面白いキャンプ飯(?)になったので満足!
それと、あの夜を過ごしたことで面白い変化もあった。
「あ、女王、ちーっす!」
「女王、今度、美味いドロップ肉探してくるんで、一番美味い焼き方教えて下さいよ!」
「くるしゅうない」
一部のプレイヤーが食事の美味しさに目覚め、肉の焼き方にやたらとこだわりをみせるミサキちゃんを肉の女王として崇め始めたのだ。
そして、それは一晩が過ぎた今も変わっていないらしい。
いや、リアルでは焼肉の一番美味しい食べ方にこだわっていた人もいたけど、まさかミサキちゃんがその手の人だったとは予想外だよ。
そして、また、ミサキちゃんの教えてくれる方法で肉を焼くとやたらと美味いのよ!
信者が増えていくのも分かる気がするね。
「あ、ゴッドもおはようございます。もう出るんですか?」
「私たちは、エリアボス挑戦が目的だから、早目に行かないと周回してる人とかいたら、待たされたりするんでしょ?」
「そうですね。半端な腕の奴らが回してたら、結構待たされますね。まぁ、ゴッドなら瞬でしょうけど」
そう。あの飲み会に参加した人たちから、私はいつの間にか、
なんで、こんなことになっているかというと、まずは飲み放題のドリンクボックスを作った造り手であるということがひとつ。
ドリンクボックスは、酒飲みにとっては夢の機械らしく、ゴッドと呼ぶことに差し支えがないくらいのアイテムらしいよ?
そして、もうひとつはイコさんから奥義スキルを直接教わったのが、私一人だけということだ。
あの後、酔っ払って教え魔になったイコさんは、その場にいた冒険者たちで希望するもの全員に、魔力の感知と【魔甲】を教えて回っていたんだけど、【魔甲】をその場で習得できたものは、私以外にいない。
そんな状態だったから、【魔力浸透激圧掌】を教えてもらえる人も誰も出なくて、結果、
あの人スゲー!
あの人、神なんじゃない?
ってことでゴッドってあだ名が付いちゃったみたい。
いや、一晩寝て起きたら、みんな忘れてるだろうと思って、あだ名を放置していた私も悪いんだけどね……。
「なぁ、ヤマちゃん、昨日の晩、何かあったん? やけに他のパーティーメンバーが話しかけてこんか?」
「あー。何か、あぁいうセーフティエリアは各パーティーで何人か見張りを出し合って、不測の事態に備える必要があるんだって。私とミサキちゃんはそれに付き合う形で、見張りの人たちとちょっと交流してたから仲良くなったんだよ。ね、ミサキちゃん?」
「楽しかった」
「せやったんか。それやったら、先に寝てもうて悪かったな。ワイも野営込みの依頼は初めてやったから、そんなルールがあるとは知らんかったわ。次ある時は、ワイも見張りに参加するで」
「うん。そうした方がいいと思うよ」
なんといってもキャンプ飯は楽しいしね!
■□■
というわけで、私たちは朝も早い時間帯から地下迷宮に向けて出発した。
昨日の夜に寝具として出した馬車の御者台にゴブ蔵さんとイコさんを乗せて、ガラガラと巨大な石造りの入口を通っていく。
▶フォーザイン地下迷宮
ダンジョンに入った途端に、目の前に表示されるダンジョン名の表記。うん、身も心も引き締まる思いだね。
まぁ、入口が馬車一台が余裕をもって通れるサイズだから、そんなに気にしてなかったけど、やっぱり中は広い。
ひんやりとした空気に背を震わせながら周囲を見渡すけど、一面が茶色の土に覆われた、だだっ広い空間だ。
時折、天井とくっついているように見える巨大な土の柱が所々にあるだけで、とにかく見通しがよいのが特徴のダンジョン。
一寸先は闇というけど、夜目が利くはずの魔物種(妖精種?)の私でさえも十数メートル先しか見渡せないぐらいの暗さだ。
とにかく闇が奥の方まで広がっており、何がいるか分からない不気味さを醸し出すダンジョンのようだね。
【水晶の洞窟】とはえらい違いだよ。
ダンジョンの構造的には、モンスターの接近にも気付きやすいけど、モンスターにも気付かれやすいといった、初心者用のダンジョンという感じがする。
一応、土の柱が密集している部分もあるので、タツさんたちはその柱を遮蔽物に、モンスターたちの目から隠れながら、フォーザインまでの最短ルートを通っていくつもりのようだ。
私はそれに付き従って、適度に歩くのみ。
目立った活躍はしないのかって?
もう、ゴッド呼ばわりで十分目立ってるし、これ以上はいいんじゃないかな?
そもそも、私が動くとロクなことが起こらない気がする。だから、こう、いざという時まではじっとしている所存だよ。
「とりあえず、見える範囲にモンスターはいないみたいですね」
「せやったら、進行はルート通りに行くで。ブレ、索敵はこまめにな」
「分かってます」
というわけで、テコテコ進んでいく私たち。
タツさんが指示するルートがいいんだか、先頭を歩くブレくんの勘が鋭いんだが、特にモンスターとの戦闘も起こらずに、普通にダンジョンの中を進んでいける。
というか、道が悪くて馬車の揺れが酷い以外は、あまりに何も起きない。
いや、そういう意図でルートを決めてるんだから、それで正解なんだけど、あまりに上手く行き過ぎてる時ってなんか意味もないのに不安になるよね。
「アカンな、上手く行き過ぎてる」
「ダメなんですか?」
どうやら、タツさんも私と同じタイプみたい。こういう時ってなんか落とし穴がありそうで怖いんだよねー。
「ダメやないけど、どこかで揺り戻しがきそうで嫌な感じや」
「そうですか? 良い時って何やっても良くなることってありません?」
「ワイはそうは考えられんなぁ」
ブレくんの考え方は欧米人の考え方に近いかな。良い時はとにかく良いことが起こるって考えて行動するんだとかって、何かのメディアで聞いた気がする。
良いことが起こり過ぎると、逆に悪いことが起こるんじゃないかって不安になるのは日本人に多いらしいよ?
で、今回はタツさんの考え方の方が当たったみたい。
「ストップ。進行方向に敵なんだけど……」
ブレくんが立ち止まり、私たちは土の柱の影に隠れながら、こっそりと先を覗き込む。
「ロックリザードが二体。最悪や……」
そこには、ロックリザードが二体、道を塞ぐようにして地面に寝転んでいるみたいだ。
うーん、どうしようか……?
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